過剰摂取で栄養不良: 現代の食事は栄養素欠乏

  現代文明は矛盾している。アメリカ国民の3分の1は太りすぎか肥満の部類に入り、毎日だれでも3,700kcal以上の食べ物を入手できるというのに、私たちの多くは依然としてカリウム、カルシウム、ビタミンDなど、一部の重要な栄養素を十分に摂取していない。食べ過ぎなのに栄養が足りないというこの矛盾のことを、時には栄養素欠乏と呼ぶ。

  「Dietary Guidelines for Americans」(2010年)の最新情報によると、アメリカ合衆国農務省(USDA)は、これら「重要な栄養素」のうち、いくつかの平均摂取量があまりに低く、公の健康問題にまで発展していると発表した。食べる量はそこまで多いのに、主要な栄養素が不足しているとはどういうことなのか。

  その疑問に対する答えは複雑で、食品流通から工業化された農業の弱点に至るまで、あらゆることを含んでいる。明らかなことが一つある。今の私たちは、間違った種類の食べ物をたくさん食べ過ぎている。甘いソフトドリンクや、脂肪たっぷりのデザートを過剰消費して、栄養価の高い果物や野菜、豆、全粒穀物を十分に摂らない。ウエスト周りが膨れ上がるように、食生活に関連する病気やそれに伴う経費も増大する。

  科学的にも、栄養不足は様々な病気や不健康状態と関連付けられる。たとえば、オーストラリアの最近の研究で5つのタイプの食事を比較したところ、栄養価の低い食べ物を好む女性と、骨粗しょう症や骨折の増加は、直接関係していることがわかった。つまりカルシウム不足なのだ。低血圧に効く栄養素としてカリウムがあるが、その1日当たりの推奨量を摂取している人は少なく、私たちの3人に1人は高血圧に悩まされている。  実証例が増えていて明らかになってきたが、脂肪や砂糖、ふわふわの白い食べ物を食べると、がん、認知低下、心疾患、脳卒中のような加齢による退行性病変の発病が促される。科学栄誉賞をはじめとする多数の権威ある賞を受賞した生化学者のBruce Amesは、現代食におけるビタミンとミネラルの慢性的な不足が染色体損傷を招き、その結果がんや老化の加速をもたらしていると論じている。

  栄養不足の食事からくる害の中には、人の発達の初期段階に生じるものもある。Journal of the AmericanMedical Associationに掲載された重要な新しい研究によると、葉酸のサプリメント(サプリメント型の葉酸塩ならより安定する)を摂った母親は、のちにその子どもが自閉症と診断される可能性が40%低かった。85,000人以上の母親から得たこの研究が示す要点は、葉酸サプリは妊娠初期以前に摂取する必要があるということだ。葉酸塩は出生前の脳や脊髄の発達に寄与しており、その発達のほとんどは妊娠初日から28日間、つまり多くの女性が妊娠に気づく前に現れる。こうしたことから、女性は妊娠する前でも葉酸塩を摂り始めるべきだと研究者は結論づけた。
  不健康な食品選びへの転換  もっと果物や野菜を食べればいいのだから、この問題の解決方法は明らかだと思える。  ならばなぜ、それを成し遂げるのが難しいのだろうか。小児科医でもある元FDA長官 David Kessler は、「TheEnd of Overeating【過食の終焉】」という自著の中でこう記している。私たちは糖分と脂質が高い食べ物を好むよう慣らされてきた。食事と食欲によって、「報酬」感情に結びつく脳内化学物質ドーパミンが放出されるのだ。彼が引用しているある研究では、人々が自分の摂取した食べ物を記録し、喜びの度合いを点数付けした。最高の格付けは脂質と糖分の高い食べ物だ。当然、それらをより多く食べることにもなり、喜びをもたらす食べ物のうちの44%以上を占めた。私たちは高脂質・高糖分の食べ物を好むので、加工食品やスイーツにかける出費は倍増した。食費の11.6%だった1982年から、2012年には22.9%になった  多くの進化の過程とは異なり、このように嗜好が圧倒的に砂糖と脂肪を好む方向に移行することは、何百年、千年ものあいだ起こらなかった。私たちは、肉、卵、乳製品、果物や野菜のような食品に頼ることから、いわゆる“インスタント”食品と呼ばれる加工食品依存へと変貌した。わずか数十年のあいだに。第二次世界大戦後、食産業はフル回転し、高い利益幅と(保存可能期間を含めた)利便性が、栄養素や味わいを上回った。この産業は衰えを知らなかった。スーパーマーケットの出現とパッケージの進歩に伴い、広告宣伝やマスコミの力で、古めかしい食習慣はインスタント食品に打ち負かされた。今日では、標準的な人たちでも「チーズを33ポンド、つまり1970年に食べていた量の3倍食べ、70ポンドの砂糖(1日にスプーン約22杯分)を摂取する」と、New York Times誌のリポーターMichael Mossが「SaltSugar Fat: How the Food GiantsHooked Us【塩分、糖分、脂肪分:食の怪物はいかに我らを仕留めたか】」にて記している。「私たちは、1日に8,500mgの塩を摂取するが、これは推奨量の2倍にあたり、そのほとんどはテーブル上の塩入れから摂るのではない。インスタント食品から摂るのだ。」塩はしばしば風味を覆い隠し、防腐剤として働く。我が国の農業指針は、私たちが依存症になるよう食産業を手助けしてきた。「農業助成金の支援で、ブドウ糖果糖液糖や工場式農業、インスタント食品、1日に2杯炭酸飲料を飲む習慣、それに付随した肥満、家族農場の瀕死、単一栽培やその他諸々の災難が私たちにもたらされた。」とNew York TimesのコラムニストMark Bittmanは記している。

平均的なショッピング・カートの中身 に関する USDA の最新分析から分かることは、ほとんどの米国民は、精製パンやパスタ、シリア ル、クッキー、冷凍のデザートやピザにかける出費と比べ て、フルーツや野菜にかける出費がはるかに少ない。同様 に、国民健康栄養調査【National Health and Nutrition Survey】によると、濃い緑色の野菜と全粒穀物の平均消 費量が推奨レベルを大きく下回った。今のところ、いずれも 推奨された合計量の 10%以下だ。一方、ポテトチップス は食べ物に含まれる油分の最上位であり、炭酸飲料は添 加砂糖の1/3以上を占めている。(食生活におけるカロリー 源の上位については、「平均的な米国の食生活における カロリー源トップ 20」を参照のこと。)


支出額の割に低い価値

 皮肉なことに、食糧供給を産業化した結果、健康にいい 方を選ぶ人たちでさえ、食にかける金額の割りに、先祖の 代よりも少ない栄養量を摂取している。現代の食料品の多 くは、1 世紀前と比べ、明らかに含まれる栄養が少ない。テ キサス大学を退官した化学者 Donald Davis によると、多く の研究で分かったのは、(高収量を追求して採用した)化 学肥料や灌漑、その他の投入により、結果として多くの穀 物に含まれるタンパク質やビタミン、ミネラルが薄まってし まったことだ。

 また Davis はこうも指摘する。植物育種家は収穫高を増 やすことに徹底的に注力するので、実際のところ、より高い 収穫量で栄養密度の低い食材を私たちに提供してきた。 彼が行った 2004 年の研究「Changes in USDA Food Composition Data for 43 Garden Crops, 1950 to 1999【1950~1999 年における 43 種の菜園作物に関す る USDA 食品組成データの変化】」が示すとおり、果物と 野菜に含まれる栄養素の平均値の低下は約 15%だった。 小麦と大麦に含まれるタンパク質は、1930 年代以来 30 ~50%減少した。

 私たちは、牧草地で育ったメンドリの産んだ卵に含まれる オメガ 3 脂肪酸が増加したことについて、何度も報告して きた。また、多くの研究により、オーガニック食材には高いレ ベルのビタミン C と、抗酸化物質がある程度含まれている ことが分かった。

 Journal of Animal Science に掲載された Clemson University の調査員らによる最近の研究によると、牧草地 で屠された去勢雄牛の肉は、飽和脂肪が標準より少なく、 ビタミン B とベータカロチンが 54%多く、共役リノール酸、 必須脂肪酸、免疫機能の改善に関連のある抗酸化物質 がなんと 117%も多く含まれていることが分かった。

 私たちに供給される食料の栄養価が下がっている理由 は複雑だが、解決策は単純だ。オーガニック食材を食べ ること。つまり、自然のままの緑黄色野菜を食べ、加工食 品を減らすのだ。そして、産業化されたものでなく、牧草地 育ちの系列の食肉、卵、乳製品を食べること。在来作物 の類もまた、最新の交配種よりも栄養価が高い。食べ物が 自分の身になるなら、なぜ安くて速くて価値のない身にな ろうとするのか?


7 つの基本栄養素を十分採ってますか?

アメリカ人の食事指針による と、私たちの多くは日常食とし て以下の必須栄養素を十分 に採っていない。


カルシウム

 なぜ必要か: カルシウムは強 い骨を作り、骨粗しょう症を防 ぐ。神経伝達や心血管の健康 において重要な役割を果たし、 ビタミン D と共に働いて各栄 養素の吸収を最大化する。 19~50 歳は 1 日に 1,000mg、50 歳を越えると 1,200mg 必要。

 含まれる場所: カルシウムの 第一の摂取源はミルクと乳製 品。ミルクには 1 カップあたり 300mg 含まれ、ヨーグルトに は 3/4 カップあたり 332mg。 植物では緑黄色野菜があり― コラードは 1/2 カップあたり 133mg のカルシウムを含む。栄養強化シリアルや大豆製品も、イワシなどの缶詰の魚と同様にカルシウムを含む。


繊維

 なぜ必要か: 繊維が豊富な 食品は、心疾患、肥満、2 型 糖尿病のリスクを減らす。繊 維は満腹に感じさせ満足感を 与える。胃腸の健康にとって 重要。19~50 歳の男性は 1 日に 38g 必要。50 歳を越え る男性は 30g 必要。19~50 歳の女性は 1 日に 25g 必要。 50 歳を越える女性は 21g 必 要。

 含まれる場所: 調理済み、ビ ン詰めの豆は、1 カップあたり 12g 含んでいる。100%のふ すまのシリアル 1/2 カップは 12g 含んでいる。オートミールは 1/2 カップあたり 4g。


葉酸塩

 なぜ必要か: 特に子を産む時期の女性にとって重要で、 葉酸塩(あるいは葉酸:より安 定した形態で栄養強化食品 やサプリメントに見られる)は、 先天性異常を防ぐ。葉酸塩の 1 日の必要量は、300~600 マイクログラム(mcg)の範囲 で変わり、子を産む年齢の女 性は 1 日に 300mcg 必要で、 妊娠している女性は 1 日に 600mcg 必要。 含まれる場所:レンズ豆(1 カップあたり 358mcg)や、調 理したホウレン草(1 カップあ たり 262mcg)や調理したコラー ド(1 カップあたり 177mcg)な どの緑黄色野菜がある。多く のパンが今では、葉酸で栄養強化されている。妊娠を予定 している女性は、サプリメント を採ることについて医者に尋 ねたほうが良い。


鉄分

 なぜ必要か: 世界中で最も 広まっている栄養素欠乏で、 鉄分は(身体中に赤血球中の 酸素を運ぶ)ヘモグロビン形 成の基本要素。エネルギーの 新陳代謝を助ける。19~50 歳の女性は 1 日に 18mg 必 要。閉経後の女性と男性は 1 日に 8mg 必要。

 含まれる場所: 赤身の肉、 鶏、魚介類で、ヘム鉄を採れ る。牛肉 1 人前で 4.5~ 7.0mg 採れるが、ハマグリ 3 オンスでは 7.4mg 以上。植物 から、非ヘム鉄を採れるが、 身体にあまり効率よく吸収されない。豆とレンズ豆(1/2 カッ プあたり 1.8~4.3mg)、ホウ レン草(1/2 カップあたり 4.5 ~7mg)は、栄養強化シリア ル同様、良い栄養源。


カリウム

 なぜ必要か: カリウムは、塩 分の過剰摂取による影響を 緩和する。体液のバランスを 維持し、神経インパルス、心 臓を含む筋肉の収縮を改善す る。カリウムは腎結石や骨喪 失を予防するのを助ける。1 日に 4,700mg 必要。

 含まれる場所: カリウムを最 も採れるのは、加工していな い果物、野菜と乳製品。また、 塩分を減らすと、カリウムが逆作用として機能する。8 オンス のオレンジジュースは約 500mg 含み、バナナは約 450mg 含み、ライマメは 1,000mg 含み、焼きポテトは 600mg 以上含む。その他は、 鮭(3 オンスに 400mg 以上)、 アボカド(1 個に 975mg)、乾 燥アプリコット(1/2 カップに 755mg)。


ビタミン B12

 なぜ必要か: ビタミン B12 は健全な赤血球を作り、神経 伝達を助ける。1 日の推奨摂 取量(RDA)は幅があり、幼児 400 ナノグラムから授乳する 女性 2.8mcg まで。

 含まれる場所: 肉、卵、乳製品などの動物性食品。牧草育 ちがベスト。非常に数値が高 いものが 2 つあり、イワシ (3.2 オンスに 8.11mcg)と鮭 (4 オンスに 6.58mcg)。ベジ タリアンソースは、栄養価の高 いイースト菌、豆乳や豆腐など の栄養強化食品を含む。


ビタミン D

 なぜ必要か: 骨の健康に必 須で、ビタミン D は乳ガンや結 腸ガンを予防できるかもしれ ないと研究者が提言。先進国 ではまれな条件だが、歴史的 には、このビタミンの欠乏で、くる病が引き起こされてきた。 子供は 1 日に 600IU(インター ナショナルユニット)必要。成人は 19~50 歳までが 1 日 に 200IU、50 歳を超えると 800IU 必要。

 含まれる場所: マザーアース ニューズの試験で、平飼いの 鶏の卵は、スーパーマーケット の卵の 4~6 倍の量のビタミ ン D を含むと分かった。ビタミ ン D は、また、鮭、ニシン、サ バなど特定の魚にも見られる。 身体自体が、陽光にあたると 皮膚の中で、ビタミン D を生 成する。しかしながら、身体の 生成容量は、加齢と共に最大 75%減退する。最適な栄養源 は、鮭(4 オンスで 1,059 IU) や栄養強化食(ミルク、オレン ジジュース)。



合衆国の平均的な食事のカロリー源トップ 20

 1 日平均 2,152 カロリーの一番の摂取源は、ケーキやクッキーなどの糖分の多い穀物から出来たデザート。以下の食品 (カッコ内はカロリー)が多くを占めている。リストしたカロリーの合計は 2,152 にならない。なぜなら、果物や野菜など、リ スト化するのに十分なカロリーがない物も食べるから。リストから加工食品に依存していることが分かる。

1. 穀物のケーキ(138) 

2. イースト菌のバン(129) 

3. チキン&チキン料理(121) 

4. ソーダ/エナジー/スポーツ・ドリンク(114) 

5. ピザ(98) 

6. アルコール飲料(82) 

7. パスタ&パスタ料理(81) 

8. トルティーヤ、ブリトス、タコス(80) 

9. 牛肉&牛肉料理(64) 

10. 乳製品のデザート(62) 

11. ポテト/コーン/その他の・チップス(56) 12. ハンバーガー(53)
13. 低脂肪ミルク(51)
14. チーズ(49)

15. インスタント・シリアル(49)
16. ソーセージ、フランクフルト、ベーコン、リブ(49) 

17. フライド・ホワイト・ポテト(48)
18. キャンディー(47)
19. ナッツ/種&ナッツ/種の料理(42)
20. 卵&卵料理(39)

 

Overfed and Undernourished: Nutrient Deficiency in Our Modern Diet
By Lynn Keiley 

June/July 2013


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