在来種鶏の繁殖 - なぜ孵化場に頼ってはいけないのか

鶏の商用孵化場では、現代の自家農園とは異なる目標設定で交配が繰り返されてきた。在来種の繁殖法を知れば、鶏の耐性と生産性を高める方法が見えてくる。(右)筆者が裏庭で繁殖させた色とりどりのアイスランディック種、繁殖条件と管理法は自身で設定した。

文:Hardy Usser

翻訳:西本 祥子)

 裏庭などの自宅敷地内で養鶏している人の多くは、商用孵化場が出荷した量産鶏からは、人の手を借りずに成長できる個体を育てるのは難しいことを知っている。たくましい在来種で、平飼いで、エサのほとんどを自由に食べ回っている鶏を選びたい。病害や天候などのストレスに対する自然な抵抗力も繁殖の条件だ。私たち養鶏家「ニワトリーダー」は、肉も卵も同じ鶏から取れるほうが良いので、驚異的な産卵率や成長率を誇る大量生産ハイブリッド種よりも卵肉兼用種のほうに興味がある。

 以上を目標に、我が家では在来種を選択。昔から自家農園の養鶏では主流だった在来種ならではの寿命の長さ、餌を探す習性、正常な免疫システム、そしてもちろん良質の肉・卵、などの優位性を持つ鶏が育つと期待している。

 ところが、在来種の繁殖法で挫折してきた商業用孵化ビジネスの大部分は、大量生産鶏のおかげで成り立っている。多くの在来種は、元来もっていた大切な価値を失ってしまったのだ。

私たち自家農園や小規模の農業従事者が、自ら在来種の繁殖に乗り出し、農園単位の孵化場でできる改良繁殖 (improvement-breeding) を支援するよう提案したい。

 養鶏業界では、優れた特質を選択的に伸ばす繁殖がかなり可能になってきている。最大の変化は1948年に全米で開催された「Chicken of Tomorrow Contest」に端を発する。コンテストでは、生産者ができるだけ短期間で鶏をいかに大きく育てるかを競った。在来鶏が14週以上で流通サイズに育ったのに対して、選択集中型繁殖法では、最新の商用ブロイラーはわずか5~6週で流通サイズに達した。確かに驚異的ではあるが、これは全天候型施設に閉じ込められ、高度処理を施した特殊な飼料を与えられた結果だ。これほど生産性の高い鶏があれば、食肉と卵の価格を下げることはできるが、一方で代償もある。複数の研究の結果、急激に成長させた商用ブロイラーは、その免疫システムに影響が出る。遺伝子レベルで栄養が成長のほうに振り分けられ、免疫反応力へあまり充てられないことが判明しているのだ。繁殖過程で耐性は重視されないため、交配を繰り返すほど、このブロイラーの免疫システムは衰える。そのかわり、成長を促進し病気を予防するための抗生物質を日常的に投与される。

 養鶏業界が栄養過多のハイブリッド種数種を偏重することで、他の種は厳密に排除され質も低下していった。残念なことだが、昔ながらの丸々とした鶏を育てようと思っていても、ワインドット (Wyandottes)、プリマスロック (Plymouth Rocks) などの在来種を注文しようものなら、おそらくショックを受けることになるだろう。この種のヒナを育てても、アメリカ家禽協会(仮訳:American Poultry Association)が公表している「家禽標準」(仮訳:Standards of Perfection)規格に達しないことがあまりにも多いのだ。私自身、デラウェア種 (Delawares) でそういう経験をした。事前調査では、デラウェア種は冬期でも卵をよく産み、オスもメスも時間をかけずに十分な大きさに成長し、食肉の品質も間違いないはずだった。しかし実際には、ヒナの成長速度は標準的、大きさは小ぶり、メスの卵の産み方もごく普通、私はどれほどがっかりしたことだろう。デラウェア種とは別の種も試したが、食用にはなるにはなるが、それでも上記の「家禽標準」は下回っていた。

 在来種の孵化用鶏は、なぜこのように中途半端な品質なのだろう。Sustainable Poultry Network(米国)創設者のジム・アドキンズ (Jim Adkins) は長年養鶏産業に従事していたが、大量繁殖用にはハイブリッド種しか使われていないことを知って失望したという。大規模孵化場では「交配」が日常的に行われているが、機械的に必要な数だけ、行き当たりばったりで交配させているとアドキンズ氏は言う。鶏の品質は、孵化を繰り返す過程で低下する。あとに生まれる鶏の外見は先祖の姿をとどめてはいるものの、中身はどんどん「一般種」に近くなり、元来もっていた実利的な特性は失われていく。

 

繁殖で失われる要素  

 鶏肉の大量繁殖法に欠けているのは、繁殖に用いる「優秀な個体の厳格な選別」で、これは間違いなく品質低下を招くと思われる。この「交配」法と、全米家畜保護協会(仮訳:The Livestock Conservancy)のドン・シュライダー (Don Schrider) とジャネット・ベランガー (Jeannette Beranger) がバックアイ (Buckeye) 種の在来種「救出」プロジェクトで採用した手法を比べてみよう。バックアイ種は耐性のある卵肉兼用の北米種で1890年代に開発されたが、2006年に孵化プロジェクトが始まるとほぼ絶滅状態になった。シュライダーは、別々の親から生まれた3羽が産んだ卵から、まず24羽のヒナを孵化させた。そしてベランダ―と共同で、個体を追跡して非常に細かく記録をとり、確実に近縁でない雌雄をつがいとした。翌年には250羽のヒナが孵化し、その次の年には300羽が孵った。これをもとに「上位10パーセントルール」に該当する優秀な個体を選別、つまり10羽のうち最も優れた1羽だけを使って次世代を育てた。

 二人はバックアイ種の肉質向上を目指した。8週目、12週目、そして食肉解体の週齢目標とした16週目に体重を測った。体重だけではない。頭周り、胴幅、胸囲など、成長スピード、食肉部分のサイズに関わる体格的特徴を計測した。3世代にわたって慎重に改良繁殖を行った結果、同協会ではバックアイ種の体重が平均450グラム増加、目標体重に達するまでの期間は20週から16週に短縮された。

 

鶏繁殖プロジェクトを発足するには

 多くの熟練養鶏者は驚くかもしれないが、繁殖向上プロジェクトは実は簡単で、自家農園レベルでも行うことが可能だ。それもそのはず。地域のマーケットに出荷している小規模農家なら軽く手が届く個体数で、本格的なプロジェクトが始められるのだ。私自身は、メス36羽にオス6羽での孵化を目指している (オス2羽とメス12羽、という「家族」を3つ作る)。

 全米家畜保護協会プロジェクトが提唱する原則を採用した繁殖業者らは、別の在来種でもこの手法で結果が出せることを証明してきた。(遺伝的多様性の保護についてさらに知りたい方は、「家畜の在来種:なぜ重要なのか (Heritage Livestock Breeds: Why They’re Important) へ)した繁殖業者らは、厳しく選別することが最重要だと認めている。メリーランドの繁殖業者ウィル・モロー (Will Morrow) は、デラウェア種の孵化用卵250個から始めて、規格(メス2.9キログラム、オス3.4キログラム)を約15パーセント下回っていた体重を、2世代目で規格水準まで増やすことができた。卵の生産量も増加した。モローは開始1年目、当初の250羽のうち10パーセントだけを繁殖用とした。それ以降は、オスは上位5パーセント、メスは20パーセントに絞っている。選別ではじかれた鶏は家族の食用か出荷用となっている。

 これほど厳格な選別は行き過ぎだと思われるだろうか。しかし、自然界ではどの野生生物も冷酷な選別にさらされていることを忘れてはいけない。私たちは最善を尽くして鶏を外敵から守っているが、より質の高い繁殖を目指すなら、外敵が果たしてきた「生存に適さない個体を遺伝子プールから排除することで、より優秀な個体のみを繁殖させる」という役割も引き受けるべきなのだ。

環境面の試練も選別に一役買っている。1920年代、耐寒性のニューハンプシャー種の繁殖を独自に行っていたアンドリュー・クリスティ (Andrew Christie) は、ニューイングランドの厳寒期に牧草小屋で飼育し、その中で一番たくましい鶏を繁殖用に選んだ。私が住んでいる中部大西洋沿岸地域の夏は、逆に蒸し暑いことが多いので、この環境に耐える鶏を選別している。選別にもれた鶏は家族の食用とするので、卵用鶏のほかに肉用鶏を飼う必要がない。

 免疫システムが弱いものも必ず除いている。病気の兆候がある鶏は、例外なく直ちに取り除く。残酷だと思われるかもしれないが、将来世代に病気になる可能性を背負わせるほうが、よほど残酷だと言えないだろうか。

 効果的に厳格に選別する目標を掲げたとしても、誰もが毎シーズン、本当に「上位10パーセントルール」で選別できるほどヒナの数を確保できるわけではない。私の場合、繁殖シーズンごとに6ダース以上のヒナを孵化させるのは無理だと思った。オスを10パーセントに絞るのは簡単 (オス1羽いれば複数のメスと交配できる) だが、メスの交代要員を確保するには、傾向として40パーセント必要になる。本当はもっと厳格な選別が理想だが、そうすると改良目標到達までさらに時間がかかってしまうので、これで満足するしかない。

 

優秀な在来種の鳥を選ぶには

 鶏の選別の際には何を目指すべきだろうか。慎重に選別すれば、最も重要な実利的特性を選んで伸ばすことが可能だ。私たちにとって、鶏の繁殖は野菜の種の保存と似ている。繁殖鶏を賢く選別し交配管理すれば、特定の条件、管理法、生産目標に今以上に適した、健康状態、耐寒性、生産力において唯一無二の適応性を備えた鶏を育てることができる。

 私はアイスランディック種のみを育て、我が家の鶏も全てこの品種で繁殖してきた。通称 ”アイシーズ (Icies)”。厳密に規定された種ではなく在来種の一つで、遺伝子的にも外見的にも多様なので、選別の際はこの多様性の保存を第一に考えている。耐性に優れてたくましく、外的から巧みに逃れ、エサは敷地内でほとんど自分で食べて回るのが得意だ。こうした特徴の全てを伸ばすよう選別する。生みの母鶏だけで、シーズンの初めにいっぺんに孵化させたいので、早い時期に就巣性や子育て行動を見せる鶏を選ぶ。卵の生産力も重要なので、卵用鶏として、特に冬期に産み続けられる鶏を選ぶ。(卵の生産量を上げたい方は、労力はかかるが、トラップネスト【trap nest: 鶏の巣に、産まれた卵を取り出す仕掛けをつけること】を使って鶏1羽ごとに卵のサイズと産卵率を測るとよいだろう。

 

交配システムをつくる

 重要なのは、遺伝子多様性を最大限に維持する交配システムを選ぶことで、これにより、飼育条件や管理法に順応し、生産目標を達成するのに必要な特性を、できるだけ高い確率で次世代にも発現させることが可能となる。あまりにも近い近親関係にある個体どうしを交配しすぎるのは絶対に避けるべきだ。近親関係にある鶏は、十分注意しながら交配すれば問題はないものの、同じ親鶏から生まれた鶏や片親が同じ鶏どうしを何年にも渡って無作為に交配し続けていると、間違いなく近親交配によるうつ病を引き起こし、劣性遺伝の過剰な発現により、活力も生産力も低下する。

 交配システムは、信頼できる外部業者から繁殖シーズンごとに近親関係でない鶏を取り寄せるだけの方法から、一回の交配ごとに各個体について記録を残さなければならない複雑な血統システムまで、複数ある。私は、単独の種を維持したいし、血統書方式の細かい記録義務は負いたくないので、鶏を複数のグループ (clan) に分け、グループ間交配をある一定のパターンで行っている。このシステムに興味のある方は、以下をご参照。「 How to Breed Chickens Using the Clan-Mating System」

 

小規模農家をリーダーに

 先に触れた繁殖プロジェクトに見られるように、平均レベルの家畜はあっという間に改良できる。改善がすぐに起こるのは、優れた能力を発現させる基本の遺伝的特徴は先祖から受け継がれており、すでに備わっているからだ。

 本格的な繁殖改良プロジェクトは、多くの自家農園の養鶏家にとっては無理があるかもしれないが、共同参画プロジェクトなら決して不可能ではない。自宅敷地内で在来種の改良に取り組む養鶏家が何人か集まり、各人の小さな鶏群の集合体をひとつの大きな鶏群としてみんなで管理するというものだ。

 実は、地域のマーケットに卵や食肉を出荷するほとんどの農家には、改良繁殖に必要な厳しい選別を行えるだけの数の鶏がある。小規模農家は、好みの在来種を使って、どこよりも優秀な独自の血統を繁殖する、という選択肢があるのだ。育てたヒナや種卵は、別の農家や同様の自家農家に販売することも可能だ。

 この記事の読者には、「改良繁殖が必要なのは承知しているが、本格的に改良繁殖プロジェクトに参加するのは難しい」という小規模養鶏家の方も多いだろう。であれば、ご自身の繁殖用のヒナや種卵をプロジェクト関係者から購入する形で、改良種の繁殖活動の支援をご検討いただきたい。「Find heritage chicks (在来種のヒナを検索)」では、在来種のヒナ鳥のお勧め調達先を掲載している。

 

Find Heritage Chicks (在来種のヒナを検索)

繁殖用種の調達先を検討している方は、ここぞと思う供給業者に繁殖目標や手法を十分尋ねてみよう。純粋種にこだわりを持ち、その繁殖に精通し改良に力を入れている業者から購入することをお勧めする。

The Livestock Conservancy:「Breeders Dictionary(繁殖業者総覧)」を掲載。連絡先あり。

Society for the Preservation of Poultry Antiquities:ニューズレターを年4回発行。また「Breeders Dictionary」を発売中。年会費は15ドル。ご連絡はチャールズ・エヴェレット (Charles Everett) (1057 Nick Watts Road, Lugoff, SC 29078 電話 803-960-2114) まで。

Sustainable Poultry Network (USA):登録農園リストを掲載 (一部はヒナを販売せず) 

 

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Heritage Chicken Breeding: Why Not to Rely on Chicken Hatcheries

By Harvey Ussery 

April/May 2016