ローンのいらない 自然派の小さな家

女性のための大工仕事の講座は、ミワ・オーセキ・ロビンズ (Miwa Oseki Robbins) を、車輪付きの小さな自分の家を作ろうという気持ちにさせた。

文:Chris McClellan

翻訳:浅野 綾子

 

 長女が9才の時、私のエアーコンプレッサーを林の中へ引きずっていく彼女をつかまえた。林の中に、始めてのツリーハウスを作るため、たくさんの私の建築資材を隠していたのだ。10年早送りしよう。長女は、地元のコミュニティー・カレッジに通い始め、彼女が学費の手頃な学校を選んだと私たちは喜び、私たちの傍にもう少しいてくれるのだろうと嬉しくなった。が、長女は引っ越すつもりだと宣言。それも、学費以上の費用がかかる家やアパートではなく、自分で作るツリーハウスに引越すのだと。

 森の中の自分の小さな家に住んで、家賃やローンの自転車操業から逃れることを夢見るのは子供だけではない。けれども、私たちは大人になるにつれ、仕事や責任などに押さえつけられるようになり、人生のワナにはまるという考えを受け入れる。プロだけが家を建てることができるという固定観念。小さな家は数十万ドルかかるという固定観念。用途地域や建築基準がある以上、ローン無しという夢を叶えることはできないという固定観念。斧や鋸を手にしてただ森へ行き、住まいとなるものを作ることはできないのだという固定観念も。幸運にも、娘はそうした申し送りをもらわなかった。その代わり、まさに斧や鋸を手に森に入って小屋を作った経験のある仲間たちと成長期を過ごし、自分にもできるのだという確信を持つようになったのだ。

 

場所決め

 自分で作る、不必要な装飾のない小さな家を、人生のワナからの脱出方法として考えることがお気に入りだ。私たちの住まいの地域で、長女が自分のアパートへ引越したなら、少なくとも月600ドルはかかっただろう。その代わり、長女の支出総額は2,000ドルを少し下回った。そこに4年間住み、差額をポケットに入れたなら、2万6千ドル以上を手にして、長女はツリーハウスを後にするだろう。

 まさに夢を見始めた人、もしくは現状維持だけで手一杯の人にとっては、このタイプの住まい方は不可能に見えるかもしれない。でも、ローンのいらない小さな家に関するあらゆる障害は、私たちの周りの至る所で静かにその力を失ってきている。こうしたことをやり遂げた知り合いのほとんどは、小さな家を建てる土地を持っていなかった。私たちの多くが、始めは現金どころかクレジットカードさえ持っていなかったが、チャンスに賭けてみようという気構えは胸にあったのだ。

 土地を所有していないのなら、こうした気構えには、住みたい土地の所有者への提案も入るかもしれない。「5年間、土地を無償で貸してくれることを条件に、あなたの土地に小さな家を建てさせて下さい。5年が過ぎる時、私を気に入ったなら、安い地代で住まわせて下さい。小さな家を気に入ったなら、同じような条件でもう1つあなた用に建てさせて下さい。私が気に入らない、もしくは(土地を)他のことに使いたいというなら、高い地代を請求して下さい。」

 初め、引越すかもしれない小さな家を建てるのは馬鹿げて見えることもあるだろうが、このタイプの約束は土地所有者に有効だ。というのも、決められた期限があり、交換条件で有益なものの提供があるからだ。私は娘を愛しているが、特売でツリーハウスが手に入るとわかっていれば、私の熱意ももう少し押し上げられたかもしれない。心をもっと広くして、宝の山から貴重な建築資材を彼女にあげたかもしれない。そう、自分の(彼女の建てる)ツリーハウスが良いものであって欲しいから。

 小さな家から退去することもあり得るとわかっていることは、基本に注意を集中することに役立つだろう。快適さに何が本当に必要か?買うよりも探し出すことができるか?完璧であることが必要か? 娘は退去しなければならなくなるものを建てたいとは思わなかったが、望んでいた車付きの小さな家用トレーラーハウスの骨組みだけでも、予算総額の2倍以上だった。また、住みたい場所の隣に、小さな家を駐車できる安全な場所があるだろうかも、長女にはわからなかった。それは、小さな家を夢というより重荷にさせた。一時住まいの小さな家を建てることは、このように現実的で経済的であり、最終的に長女に多くの自由を残したのだ。

 

建築基準の考慮

 妻と私は大学の時、住宅費用が高額な町で結婚した。私の叔母は、ガレージの上に屋根裏部屋を持ち、従兄弟のための遊び部屋に改装したいと思っていた。でも、時間とお金がなく、何もできなかった。そこで、私たちは、お金を1ヶ月の家賃に使う代わりに、壁板と断熱材を購入し、2~3週間作業をした。そうして、私たちは1年間の住まいを手に入れ、叔母は新しい娯楽部屋を手に入れた。もちろん欠点もあった。トイレに行くために(私たちはまだコンポストトイレを発見していなかった)、ガレージを通って家の反対側の端まで行くことや、ホットプレートと電子レンジで料理をすること、ため水での皿洗い、土曜の朝6時に頭の下でガレージのドアが開く音で目が覚めることなどだ。でも、借金なしで大学を卒業することに成功したのだ。

 ある意味、屋根裏部屋は、完璧な一時住まいの小さな家だった。夢見たヒッピー風スクールバスでも、奥地の丸太小屋でもなかったが、大学に近く、バスよりも大分価格は安くて、暖房を効かせやすかった。また、既存の建物の中の使用されていない場所だったから、当然、ご近所や取り締まりから望まぬ注意を引きにくかった。

 明記しておきたいのは、アメリカの多くの地域には、ローンのいらない小さな家に対する手強い障害となる規則があるということだ。規則は、搾取的なスラム住宅や、標準に満たない危険な建築物を撲滅するよう考案された。この規則は用途地域と相まって、経済拡大(大きな家、高額なローン)や、社会的期待(「うちの界隈ではこんな風に暮らせないよ。決まりがあるんだから!」)を促して、小さな、セルフビルドの、現金で建てる家作りの思いをくじく。シアトルでは、例えば、「住宅付属ユニット (accessory dwelling unit) 」(「法律上の1戸住宅 (in-law suite) 」や「隙間住宅 (infill house) 」とも呼ばれる)を建てることができるが、規則があまりにも厳格すぎて、ほとんど誰も適法にこのような建築物を建てることができないのだ。

 抜け道はある。用途地域が何もなく、建築基準の実効的な強制が何もない地域(ほとんどが田舎)がある。多くの州では、農場内の建物は、用途地域の例外で、管理人の小屋や作業者の小さな家は法的に全く問題がない。多くの地方公共団体は、滑車の付いた「一時的」な建築物や、200平方フィート(約19㎡)以下の「作業場」の建築に許可を不要としている。ツリーハウスは、大きくないなら、大体許可されるだろう。なぜなら、それがツリーハウスで、みんなツリーハウスが大好きだから(大好きではないという場合は除く)だ。大きさに関わらず、あなたの建築物に、独自の配管・調理・入浴設備と同様に、独立した玄関がついているなら、おそらく住宅付属ユニットと判断されるだろう。抜け道に当てはまるかどうか調べてみよう。

 特に規則違反を覚悟なら、規則がどのようなものであり、捕まった時とその処遇について知っておくべきだ。取り締まりの担当官は、違反を見つけに外回りをすることはほとんどない。あなたの庭に踏み込んで、作業場に誰か住んでいるかを見たり、ガレージが法律上の1戸住宅に改造されているか、窓を覗き込んだりすることはほとんどない。取り締まりの大多数は苦情が発端だ。だから、ご近所との良好関係は、密告されるリスクを最小限にすることに大いに役立つ。しかし、リスクがなくなることはないだろう。規則の内容を知っていれば、リスクコントロールができるのだ。

 

車輪付きの小さな家

 小さな家の最近の流行の1つは、車輪付きの小さな家 (THOW) だ。これは魅力的なアイデアで、夢の家を車庫までの通路に駐車することができ、ホースと延長コードでつないで「大きな家」として貸し出すこともできる。引越し先の地域コミュニティーが、あなたのTHOW(もしくは、同じ用途のどんなタイプのRV車も)の参入を受け入れないだろうことがわかった時(不動産の支払いをした後で)の悔しさを想像してみよう。仮に計画の経済的成功が引越しにかかっていたなら、人生のワナからの「脱出」計画は、実はあなたを更にはめたのだと思うかもしれない。

 ニューヨークにいる友人のミワは、大きな家も、不動産すらも持っていなかったが、刺激されて自分のTHOWを建てる気持ちになった。ミワは定住しておらず、彼女の住んでいた場所では土地も賃料も高額だった。そんな折、彼女が手伝っていた女性のための大工仕事講座ではTHOWを作っていた。ミワが、自分のTHOWを作ることは自然な成り行きだった。彼女は、地域の用途地域がTHOWに居住することを許可しないだろう(見つかればの話だが)ことを知っていた。借地に住むことは不安定にもなり得る。だから、必要とあれば、THOWを動かして回る覚悟をした。ミワは言う。「動かす必要があったのは2回だけ。それも建物の都合だったの! ラッキーだったし、自分のいる場所に、望むだけいられるだろう自信はかなりあるわ」 彼女の居場所はかなり町に近いが、星空は美しい。その上、住居費用は低いから、自分のやりたいことに時間を使うことができる。

 

「適正リスク」を計算する

 ローンのいらない小さな家作りを考える時、「適正リスク」の計算は高度な技術になる。小さな家作りはギャンブル。だから、確率を知ることが必要で、それに応じて賭けることが必要になるだろう。叔母の家を出ていかなければならない確率と、不動産への投資はどちらも小さかったから、私たちの適正リスクは理想的だった。叔母のリスクも低かった。叔母は、私たちがもう少しで卒業することを知っており、私たちと一緒にいようとは思っておらず、ガレージの改装部分を元に戻すように言われるおそれもほとんどなかった。

 友人のスターダスト (Stardust) は、「小さな家」をデトロイト郊外の遺棄された家に見つけた。家を合法に賃貸するには、所有者に手間がかかりすぎた。でも、その地域の空家は大抵何者かの破壊行為を受けることが多く、近隣の住民は、スターダストに積極的に声をかけて、無断でそこに居座るように勧めるという、普通とらない手段をとった。スターダストが快適に過ごすことができるように、水道や電気まで使わせた程だ。住むことができるよう、スターダストは家の修復に取り掛かった。クレイグリストの無料塗装の情報に目を配り、床は白いのりと茶色の紙バッグの上にポリウレタンで仕上げた。彼女は2年以上そこに住み、追い出されることはなく、家が破壊行為を受けることもなかったから、皆が得をしたのだ。

 スターダストがかけた時間と金銭という投資は、いつでも追い出される可能性があることに照らしてリスク計算がされなければならなかった。借地上の小さな家、あるいは建築基準上の許可のない建築は、そのことをリスク計算に反映する必要がある。月額600ドルの賃借料が負担なら、長女は現金をポケットに残して4ヶ月でツリーハウスを退去することもできただろう(そして私にはツリーハウスが残っただろう)。長女が6,000ドルを費やしたとしても、1年後、黒字で退去することができた。けれども、住み始めたまさにその1日目からギャンブルなのだ。だから、小さな家への投資(時間、お金、そして心)は、上手くいかないなら立ち退ける程度でなければならない。世間では、銀行は大きすぎて潰れることがないと言うが、これは小さすぎて失敗がありえないという話しだ。自分の所有地に許可の不要な大きさの小さな家を立てるなら、仮にそこに住むことがきなくても、小屋は残るのだ。大きな家を建てれば、投資は増え、取り壊さなければならないリスクも増える。小さな家作りのゲームでは、博打を打つことは目的ではない。

 全てを合法的に行うとしても、ローンを組み、家を購入あるいは許可を得て建築することは、ギャンブル、しかも結構大きなギャンブルだ。あなたの賭け。それは、値崩れするよりも早く家の価値が上がること、全てのローンの支払いを滞ることなく払い終えるまで仕事が安定していること、地域経済が順調に成長して、負債を上回る額で家を売却でき、他の場所に移り住むことができることだ。

 

1度に1か所

 友人のデイブは、同じことを始めから繰り返すことに疲れていた。借家から借家へ移らなければならない度に、前の場所の敷金が戻ってくることを願いながら、数ヶ月分の家賃と新しい場所の敷金を用意しなければならなかった。全ては、他人の家に1ヶ月1000ドル以上支払うという特権を確保するために。デイブは、心底自分の家を欲しがっていたが、大人になってからの全人生を通して自分のボスであり続けているため、結構な稼ぎがあるにもかかわらず、家を買うローンを組むことはできなかった。敷金をまたもやトイレに流すより、家を借りるお金を懐に入れて、とりあえず私たちの事務所の倉庫に1年間移り住んだ。

 一方、彼の母親の家の通りを挟んで向かいにある家は、持ち主が亡くなった時、大規模な改装工事中だった。親族は、ローンの再交渉を銀行に応じてもらえず、家を失った。家は内装も外装も未完成だったから、デイブのように、ローンを組むことができなかったのだ。2~3年の後、むき出しの外壁下地のハウスラップは剥がれ始め、パーティクル・ボードは露出して崩れた。土壇場になって、銀行はその家をデイブに1万5000ドルで売却した。デイブが移り住み、改装はかなり初期の段階だったが、給料日毎に新しいプロジェクトを進めることができた。始めは外装の羽目板、次に断熱材、それから壁板。先月、彼は私に新しい板張りの床を見せてくれた。「1度に1か所ずつ」、ジョニー・キャッシュの歌のごとくだ。デイブは、彼オリジナルの「過渡的な住宅 (transitional housing:ホームレスのための支援的な一時住宅) 」を作ったのだ。彼が費やした投資は、ほとんどのローンのいらない小さな家を上回るものだったが、見返りもまた大きかった。その上、リスクはとても低かった。というのも、家の価値は上がり続け、彼を追い出す人は誰もいないからだ。近所の人たちは、目障りな家が修繕されてなかなかの喜び様だ。

 

やっぱり我が家

 ニュー・メキシコ州の非営利団体フォックスホール・ホームズ (Foxhole Homes) のテッド・ブリネガー (Ted Brinegar) は、ローンのいらない家を新たな次元へと導いた。フォックスホール・ホームズは、ニュー・メキシコ州の基準に定められた「実験的建築物 (experimental building) 」の制度(廃材を使ったエコロジー住宅アースシップ:Earthship 創始者のマイケル・レイノルズによって切り開かれた)を用いて、基準上承認された小さなアースシップを、ホームレスの退役軍人の過渡的な住宅として作成している。がらくたや泥を、市場向け建築物では用いない手法で建築資材として使用することが費用を低く抑えている。大量の熱を蓄える壁、豊富な断熱材(防火ホイルで包まれたボール紙)に温室付き。アースシップのデザインは、冷暖房コストも最小限に抑える。建物にはフィルターでろ過して雨水を溜めたり、独自の水道設備、排水を温室の栽培プランターで扱う機能さえある。

 ツリーハウスを建てる娘の最大のリスクは、かなり小さなものだった。学費の支払い額が増えるか、妹と相部屋にしなければならないリスクだった。はるかに大きな賭けになる人もいるだろう。ホームレスの人たちは、小屋がある人たちよりも死亡リスクが3、4倍になるのだ。

 娘の2階建てツリーハウスは素晴らしい仕上がりになった。完全断熱、電気は通り、コンポストトイレ付き。水は出ないが、庭を少し歩いて横切れば私たちの洗濯機やシャワー設備がある。長女のミニ冷蔵庫や電子レンジは夜中の軽食にはいいが、きちんとした食事をとるには、どのみち私たちの家の台所に忍び込むのだ。このツリーハウス、大学に正規の学生として通学し、働きながら、長女が1年がかりで建てたもの。彼女が思っていたよりも大分長くかかったが、少なくとも彼女の人生の半分は夢見ていたものなのだから、それで丁度良いのだ。

 

用途地域に挑戦する

 建築基準は、家屋の安全確保のため、建築資材や組み立て方を指定する。建築基準は、一般的に、モデル建築コード (International Building Code:IBC) の州バージョンのようなものだ。ハリケーンや大雪、野山の不審火、あるいは地震の可能性のような、地域の状況に合わせて改変されている。用途地域の規則は、大概、建築物がどの程度大きくなければならないか、土地の境界線からどの程度離れている必要があるか、建築物の目的、特定の土地に何家族まで住むことができるか、フェンスはどのくらいの高さにできるか、などを指定している。用途地域は、全ての人が共に暮らすことができる、規則という形での地域の最善の見立てなのだ。新しく、かつ、便利な住まいの流行(裏庭の小さな家のような)を考慮して、用途地域は変えること、あるいは改正することができる。もっとも、地域住民が受け入れている場合に限るが。

 監督官は規則を変えることはできないが、あなたは特別許可の申請や、例外に当る事例として提示することはできる。規則は、概ね地域公共団体のウェブサイトで参照できる。許可申請の用紙や、必要事項の正確な手順が記載してある資料も同様だ。監督官に具体的な質問をする準備ができた時、規則に精通しておけば遥かに良い応対をしてもらえるだろう。監督官が相手をする90パーセント以上は、プロの建築請負業者だから、監督官はあなたが手続きの流れを知っていることを前提に応対することが多い。知らなければイラつかれるかもしれない。出来る限り準備をし、手続きを進められるように地域の建築請負業者を雇うことも検討しよう。あなたがナプキンにたれたシミみたいにぼやっと書いた計画を手にして、「この人には手厳しく」と書いてあるTシャツを着て事務所に入るなら、懇切丁寧な応対からは程遠い扱いを受けることを覚悟しておかなければならない。地域に新たに加わる安全で丈夫な美しい建物を建てる人物として現れたなら、あなたを担当する建築課の職員は、協力的で親切に対応してくれるだろう。

 

クリス・マクレラン (Chris McClellan :通称マッドおじさん)は、オハイオ州郊外で、伸び伸びとオーガニックな子育て中。泥とがらくたを使った建築は、自分を信じる力・自分の内なる力を説くときの彼のお題だ。マッドおじさんは、著述、建築、ワークショップを開催。アメリカ中で行われるマザー・アース・ニューズ・フェアーでは、泥んこ体験場や見本展示エリアも主催している。

 

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The No-Mortgage Natural Cottage

By Chris McClellan 

April/May 2017