小と大を有益な資材に変える仕組みを作って維持する方法を学ぼう。
文:アンとゴード・ベアード (Ann and Gord Baird)
翻訳:山下 香子
コンポストトイレなどというものは存在しない — コンポストトイレの記事の冒頭にこう書いてあったら「おや?」と思いますよね。でも、存在しないのです。コンポストすること、つまり、堆肥化は特定の変化の過程を意味します。すなわち、特定の条件下で起きる特定の過程のことですが、そのような条件を備えたトイレというものはありません。コンポストトイレはトイレというよりは、本質的には、人の排泄物の無害な堆肥化を目的として排泄物を集め、処理する段階的な方式のことなのです。
コンポストトイレの基本的な仕組みは単純です。1. 人がトイレで用を足す。2. 容器に排泄物が集積する。3. 集積したものを土に埋められる程度に熟成させる最低限の処理をする。または、熟成をさらに進めて病原菌を死滅させ、有益な栄養資源として使えるほど無害な状態にする。
堆肥化したり病原菌を滅した排泄物を環境に負荷を与えることなく環境の中に戻し入れたら、実質的に廃棄物を出さないことになります。コンポストトイレは、排泄物が廃棄物とならないように集積し、処理する装置なのです。
堆肥化のシステムが適切に働くためのコツをいくつか、私たちの新刊書から紹介します。排泄物を扱うことに怖じ気づく気持ちの克服法から、堆肥化設備の周囲に緩衝区域を設ける方法まで、環境への負荷が少なく、しかも、質の良い「クソつまらない物」をつくる方式について見ていきましょう。
屎尿一括処理型
排泄物全部(尿と大便)を集積することには堆肥化の過程においての利点があります。尿には主にふたつの機能があります。ひとつは生体内作用を起こすのに必要な水分を供給すること、もうひとつは窒素源を供給して好熱菌(高温環境で生息する菌)を増殖させ、炭素源の分解速度を上げることです。尿がなかったら、炭素量と窒素量の比率(C/N比)が微生物の増殖にとって理想的なものになりません。
炭素はエネルギー源であり、細胞組織の構成要素となります。窒素は酵素の反応過程に関わり、核酸(DNA と RNA)や、細胞が増殖する時に使われるアミノ酸(たんぱく質)の成分となります。炭素量と窒素量の理想的な比率である 30 対 1 の比が崩れると堆肥中の生物の生命力が弱まります。
コンパクト一括集積方式では、集積物を空けたり処理したりする手入れを、必要に応じて頻繁に行ったり、たまにしか行わなくても良かったりするので、屎尿を分けずにためるのに向いています。過剰な水分を吸収するかさ増し材を用いるため、水分の多さは問題ではありません。また、かさ増し材を入れることで炭素量が増え、理想的な C/N 比に近づけます。尿と大便が、堆肥化の進む集積物に加えられると自然な高熱プロセスが迅速に進み始めるのに必要な材料がそろいます。
他のタイプの方式(水分の蒸発で「朽ちさせる」堆肥化室方式や連続処理方式)には、液体をすべて溜める場合、耐久性のある排水設備が必要となります。水分が過剰に溜まることがないように滲出水分の排水システムを付け加えなくてはなりません(下記の「集積方式の用語」を参照)。もし、排水設備の一部に破損、詰まり、停電などの問題が起きたら、装置全体が機能しなくなります。
「ウゲッ」となる要因
正直な話、扱うものが気持ち悪そうであればあるほど、扱いたくなくなるものです。しかし、定期的なメインテナンスを怠れば、装置に不具合が起きるリスクが高まりますし、健康問題のリスクも高まります。そして、「ウゲッ」となる要因も大きくなります。最良の装置とは維持管理されている装置であり、簡素なものほど維持管理が楽というのが普通です。結局、どんな方式を用いるのであっても、なんらかの時点で、未処理の排泄物を目にすることになります。
どのタイプのコンポストトイレに決めるにしても、土に戻し入れるのに最も無害なレベルまで資源を処理し尽くすことを目的としているのであれば、各処理の理想的な最終段階は(好熱性菌が活発になる)高温の状態を経て材料を一括堆肥化するものとなります。次善の方式は、中等温度を好む菌が活発になる中温の堆肥化設備で材料を一括処理するものであり、これにはより長い期間が必要となります。つまり、病原菌を滅した無害な堆肥をつくるためには、なんらかの方法によって一旦、堆肥材料を取り出して、なんらかの処置をしなくてはならないということです。この作業をするのに最も便宜の良い場所は堆肥を積む所です。
大半の作業をすることになるのが堆肥の堆積設備です。それなのに通常は堆積設備はほとんど注意を払われることもなく、入念に設計されることもありません。本当の意味で堆肥化が起きる場所が堆積設備であり、コンポストトイレのシステムの内で唯一の堆肥化のための構成要素です。化学薬品を使ったり、熱を加えたり、長期間に渡って保持したりするのでなければ、短期間で完全に病原菌を死滅させる唯一の構成要素なのです。
構想の際に心に留め置くべき 7 つのこと
堆肥化のための設備や堆積容器を作る際には「4 つの S」を念頭に置いて設計してください。4 つの S とは「セイフティ(無害)」「サニテイション(衛生)」「サイニージ(標識)」「セキュリティ(安全)」です。2 つの堆積容器を並べた方式を構想する場合は、以下の 7 点を取り入れることをお薦めします。堆積容器は 3 つにすることも可能です。図 1 と図 2 をご参照ください。
堆肥設備を設計する際には留意するべきことが 7 点あります。以下にその 7 つの項目とそれぞれの考慮事項を述べます。
1. 耐久性
- 堆肥がいっぱいになった際に側面の板や囲いが外側まで腐ったり、広がってばらばらに倒れてしまったりしないように組み立てる。
- 適切な資材を使う。例)石炭殻コンクリートブロック、杉の板、12 ゲージ(直径 2.053mm、JIS規格 3.5SQ)以上の太さの亜鉛メッキ針金を使用したフェンス材。
- パレット(荷役台)の囲いに詰め込むのは、極めて頻繁に取り替えなくてはならないので適さない。
2. 緩衝域
- 堆肥設備の周辺は病原菌の発生源となる可能性が最も高いので、むやみに人が近づくことがないように周辺をフェンスで囲む。
- 設備の左右と後ろは 150 cm 以上、前は 180 cm 以上、空ける。
- 水分を蒸発させる堆肥化室方式の容器やコンパクト方式の便槽を堆肥化のために長期間貯蔵する場合はフェンスまでの距離を更に広く取る。
- 人の排泄物が貯蔵されていること、あるいは、堆肥化の処理中であることを知らせる標識を使う。
3. 保守性
- 作業する際に手の届きやすい構造にし、うまく作業するのに十分な空間があるように設計する。
- 高さを調節できる仕組みにし、蓋を設置する。
- 堆肥は高く積まれていくので、堆積の上部への作業ができるように可動式の脚立か踏み台を設計する。
- 堆積の高さが 150 cm 以下になるようにする。
- フェンスの囲いの正面に設ける出入口は以下の動作を考慮した設計にする。熊手を持っての出入り、一輪運搬車を押しての出入り、集積容器の運び入れと運び出し。
- 堆肥化設備の場所は自宅から通いやすく、水の供給源を利用しやすい所にする。
4. 吸水マット
- 堆肥化の初期段階で沁み出る水分に対処するには吸水性の敷物を使う。初期段階とは、堆肥の熟成が進んで水分を自然に保つ状態になるまでの期間。
- 吸水性の敷物は以下のいずれかを使って作ることができる。ストローベイル・木質チップ・泥炭・良く水が沁み透る腐敗分解の進んだ腐植質と土を混ぜたもの
- 堆肥の材料が沁み出ても良いように堆積場所の地面を 40 cm ほど掘る。処理装置から沁み出る水分を初期段階で吸収する吸水性の敷物代わりになる。
- 地面が固い場合は、汚水処理タンク方式か下水道方式に配管する。または、滲出水を吸収する溝を掘って過剰水分を浸透溝や穴に排水する。
5. 堆肥化容器の容積と個数
- 堆肥材を徐々に積んでいくとどのくらいの量になるのかを見越して容器の大きさを決める。人の屎尿、家庭から出る生ゴミ(残飯)、かさ増し材、覆土材を積むのに十分なスペースを確保する。
- 堆肥材が時間をかけて(1 ~ 2 年間)完熟できるように堆肥化容器を少なくとも 2 個、できれば 3 個作る。容器の大きさは、幅180 cm x 奥行き180 cm x 高さ150 cm。
。。。
アンとゴード・ベアード (Ann and Gord Baird) は、ブリティッシュ・コロンビア州ヴィクトリアの国際的に認められている Eco-Sense 住宅の所有者で共同創作者。本稿は、彼らの著書「Essential Composting Toilets: A Guide to Options, Design, Installation, and Use」(New Society Publishers)の抜粋。www.EssentialCompostingToilets.com
Compost Toilets: Don’t Pass Up the Poop
Story and photos by Ann and Gord Baird| June/July 2019
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