牛の胴体の肉を注文する方法

牛肉の注文方法。マザーアースニューズ日本版。

 牛の枝肉 [屠殺後、頭部、尾、四肢端などを切取り,皮や内臓を取除いた肉] の購入法について考える時、決まってある出来事を思い出します。テキサスで開催されたマザーアースニューズフェアでプレゼンテーションを終え、ナイフを片付けていた時、初老の男性がステージに近づいて来ました。彼は私に微笑みかけながら「誰もあなたが話していたことはしないよ。少しでも手のかかることは面倒くさがるんだ。」私は聴衆の中にいた彼を覚えていました。私が鼻から尾に沿って半分に切断された肉を解体しながら、筋肉の働きや色んな脂肪や骨の種類、四肢、臓器の説明をしていた時、微笑みながら頷いていました。

 

文:メレディス・リー (Meredith Leigh)

翻訳:大本清子

 

 彼は話を続け「私が若い頃はミート・クラブに入っていたよ。毎月1回、誰かが牛を屠殺するんだ。それを解体したら、ミート・クラブの全員は1、2片の肉をもらう。年度末までに、みんなが全ての部位を得られるよう、毎月、誰が何をもらったかが記録されていたんだ。皆で分け合い、皆で処理をし、全てを食べきったよ。でももう、こんな風に考える人はいないね。」

 私は彼に、それは素晴らしい考えだと思うと言い、私がそれを思い出せる人に話をしているから、その方法を今に残せるかもしれない、と話しました。それに対して彼は「健闘を祈るよ、お嬢さん。」と言うと、群衆の中に消えていきました。

 彼の言う通りかもしれません。でも私には面倒くさがっている場合ではない様に見えます。必要なのは、私たちの食肉(になる家畜)の幸せな生活、安楽な死、熟練した食肉解体職人、腕の良い料理人です。経済的に見合った、環境に優しい、家畜にストレスを与えない飼育や処理に立ちはだかる問題を考えると、とても難しいことですし、価格の手頃さや料理の才能といった問題がそれに加わります。農家からグリル料理を楽しむ人まで、全ての人の積極的な参加が必要です。どうすれば良いのでしょうか。

 一頭の肉をできるだけ全て、もしくは、塊り肉を買うことは、正しい方向へ進めるドミノの最初の一押しになります。塊り肉で買うことは生産物のコストを大幅に下げ、そうなると農家が付けなくてはいけない出荷時の価格が変わります。また肉を無駄にせず、創造性や芸術性や肉の品質を供給プロセスに取り戻そうと目指している食肉解体職人(ブッチャー)の人々にも報酬を与えます。

 実用的で持続可能な食料経済を支援することに加え、できるだけ丸ごと買うことで、お金の節約となり、新しい知識や技術が学べ、キッチンでもっと多くを楽しむことになるでしょう。私は皆、やり方を知りたくてたまらないはずだと思います。私たちはそんなに面倒くさがりで、学ぶことに意欲がないわけではないと、自信を持って言えます。

 

その1 農家を探す

 牛肉を塊り肉で買う最初のステップは、自分が欲しいものは何か、そしてそれはどこで売られているかを知ることです。選択肢は、グラス・フェッド(完全に牧草と枯れ草だけで育てられ、穀物を与えられていない)、パスチャー・レイズド(一般的に、牧草と穀物の割合は特に定められておらず、定期的に放牧はされるが、穀物も食べ、または最後の数ヶ月は穀物で育てられる)、グレイン・フェッド(ほぼトウモロコシ、大豆、他の穀物で育てられている)、それに加えて、家畜の成長を促進したり病気の予防のために加えられる、ホルモン剤や抗生物質の量についても知っておきましょう。

 興味のある家畜のタイプを選んだ後は、単純にあなたの住む町についてネット検索してみたり、ファーマーズ・マーケットを見つけたり、地域のコープや自然食品店を訪れたりして、あなたに適した地域の酪農家に詳しくなるための行動を起こしてください。SNSに投稿してみるだけでも、口コミによるお勧め情報が手に入ることがよくあります。酪農家を幾人か見つけたら、直接訪ねたり(必ず先に電話してください。彼らはいつも非常に忙しいですから)、ファーマーズ・マーケットで本人を探したり、または試食用に肉を買って食べたりして、自分でどう思うか考えてください。生産者と直接関係を結ぶことが、自分の食べ物を信頼する一番の方法です。素敵なシールが貼り付けられたどんな商品よりも勝ります。

 自分に合った酪農家を見つけたら、購入の申し出をするだけです。枝肉の重量(ハンギング・ウェイト)を基準にした一頭買いをしたいと伝えることになります。ハンギング・ウェイトは、全ての血と内臓を取り去った後の重さです。これはライブ・ウェイト、またはフーフ・ウェイトとは異なります。この2つは家畜が屠殺される前の重量です。牛の枝肉1ポンドにつき2ドルから4ドルかかると考えてください。特に小規模の農家ではそうです。これを基準にして自分の予算を見て、どのくらいの肉が購入するか決めてください。ハーフまたはサイド(半丸)という選択肢は、一般的に脊椎に沿って家畜を半分にしたものです。その後、牛肉は4等分にされます。もし一頭全て、もしくはハーフで購入したくない場合、フォー・クオーター(ネックから肋骨の最後から2番目までの全て)か、ハインド・クオーター(肋骨の最後から2番目から後ろ足までの全て)かを選べます。選択の理由はそれぞれ異なり、何を食べたいかによって、ほぼ決まります(サンプルカット・シートを見てください)。もし、もっと部位を小さくしたいなら、おそらく多くの農家は、クオーターの次に大きな切り分けに応じてくれるでしょう。これはプライマルといいます。牛肉の場合、プライマルは次のようになります。チャック(ショルダー)、ブリスケット、リブ、プレート、ロイン、フランク、サーロイン、ラウンド(上のイラストを見てください)。

 あなたが気になる重量に関する専門用語は他に、カットアウト・ウェイトまたは、テイクホーム・ウェイトがあります。これは枝肉やプライマルをさらに切り、料理に適したサイズ(精肉)にしたものです。農家からハンギング・ウェイトを基準に肉を購入した後、あなたの予算に最適なテイクホーム・ウェイトを決めるため、食肉解体職人と取引をすることになります。

 もう一点、頭に入れておくことは、このような重量には家畜の品種によって違いが生まれることです。乳製品用に改良された品種(例えば、ホルスタインやジャージー種)は、肉対骨の割合が低くなり、これは筋肉部分が少なく骨の部分が多いという意味です。ですから、屠殺前の重量がより高く、テイクホーム・ウェイトがより低くなる可能性があります。肉用の品種(アンガスやヘレフォード)は、肉対骨の割合がより高く、テイクホーム・ウェイトがより増えます。小規模の農場で飼われる品種(デクスターやケリー)で牧草で育てられたものは、しばしば最も肉対骨の割合が高く、穀物を与えないために全体の脂肪が低いにも関わらず、肉がよくとれるはずです。

 

その2 食肉解体職人を選ぶ

 家畜を丸ごと販売する多くの農家には、一緒に仕事をする、お気に入りの食肉解体職人がいます。ですから、あなたが食肉解体職人と関係を築くために手を貸してくれるでしょう。もしそれがないなら、家畜の肉について全てを知っている人 - 一頭の牛を解体し、精肉にまで切り分けられる専門家を探しましょう。優秀な職人は喜んで、あなたがどんな風にして食べるのが好きなのか話を聞きながら、あなたに一番合った解体法やプライマルについて提案してくれるでしょう。仕事に対する深い知識を持つ良い職人なら、客の希望に合わせて、いくつかの違った切り分け方に取り組むことができるでしょう。おそらく(農家と)同様、職人も重さ当たりで料金を請求します。基準になるのは大抵、屠殺後の肉から(ハンギング・ウェイト)ですが、テイクホーム・ウェイトで値段を決める職人もいます。あなたの関心を引く切り方のリストを業界用語でカット・シートと言います。あなたが解体を始められるよう、そしてハーフの枝肉を解体していくやり方は1つではないことが分かるよう、2つのカット・シートを載せました。

 食肉解体職人と知り合いになったら、自分の家族はどんな料理が好きか考え、それに沿ってプランを立てましょう。少し冒険ができるように準備しましょう。肉の一頭買いをするとなると、よく知らない調理法や切り方に、詳しくならないといけなくなるものです。このことは素晴らしいことです。正しく調理さえすれば、どの部位も美味しく食べられるということを学ぶことは、あなた自身や農家や地球を、もっとも勇気づけることの1つです。

 もし職人があなたの望む切り方をしてくれないなら、なぜなのか尋ねてください。専門の職人なのですから、枝肉やプライマルを少し違ったやり方で処理する、もっともな理由があるのかもしれません。とは言え、職人の中には、特定の切り方を知らなく、またそれに挑戦しようとしない人がいます。あなたがこだわっていることに職人が応えないのなら、別の職人に頼むか自分で解体することを考えましょう。

その職人には、あなたが切り分け易い様に、プライマルか、サブ・プライマルまでを頼んでください。参考になる本を買い、刃渡り15cmのボーニングナイフ(骨スキ包丁)とホーニングスチール [和包丁よりも硬度の低い洋包丁のたわみを直し脂をそぎ落とす棒状のナイフシャープナー] を買って、練習を始めましょう。

 最後に、もしも一頭全てか、ハンギング・ウェイトを基準に枝肉を買ったなら、もちろん、肉以外も全て持ち帰りたいでしょう。つまり、自家製のスープ・ストック用の骨、料理用の油や石鹸作りのための脂身、内臓肉(心臓、肝臓など)、ミンチやシャルキュトリにすることができる屑肉。もし手に入れた全てを処理するのが嫌なら、いらないものを売ったり、それが欲しい家族や友人に転売することを考えましょう。

 最初に肉を一頭、または、塊り肉で買う際は、その過程に圧倒されると思います。少しは、計画を立てたり、貯蔵場所を用意したり、新しい農家や職人の友達に働きかける時間が必要だったりするでしょう。でも、もし塊り肉で買うことを常とするようになれたら、割に合うと分かるし、あなたの農家、あなたの舌、あなたの財布、みんながあなたに感謝するでしょう。

 

読者からの、鼻先から尻尾まで注文する時のアドバイス

どうやって食べるのかを考えましょう

 私はカンザス州の田舎に住んでいて、そこで私の家族は牛の飼育をしています。私たちは頻繁に地元産の牛を頼まれます。

以下が私の提案です。

 まず、あなたの家族が何を食べるのが好きかを考えてください。もしあなたが、特定のカットや料理が大好きなら、それを、より多く注文してください。私の夫と私は、あまり牛をオーブンでローストしたいとは思わないので、より多くの肉を職人にハンバーガー用のミンチにしてもらってます。

 2番目に、カットされた肉をどう調理するつもりなのかを考えてください。この1年の間に、私の友達は、たまたま私達のハーフの枝肉を職人を通して購入しました。そして、それを私たちは彼女から買ったのです。私たちはステーキやハンバーガーは大体焼いて食べていて、私の夫はステーキやミンチに、より脂を求めていたのですが、私の友達は焼いて食べることは全くなく、その肉をとても脂っこいと感じたからです。

 どんな家畜であっても、大量の肉を購入するのは投資です。ですから、良い物に投資したいでしょう。私たち生産者は、私たちの最終生産品に満足して欲しいのです。そうすれば、リピーターになってくれるからです。私たちが得る、地元産の牛の販売をする機会は全て、私たち農家の経営の助けになっています。

キャンディ・ドーティット

カンザス州セント・フランシス

 

供給側より

 私は数年に渡り、多くのクオーター、ハーフ、丸ごと一頭の枝肉を販売しています。もし農家を探しているなら、地元の食肉処理業者に問い合わせることをお勧めします。食肉解体職人は、枝肉を販売する地域の生産者を知っていますし、どの農家の牛が一番かも知っています。他の方法では、広告や告知を行う地元のラジオ局の番組を聞くことです。農家は販売中の牛について放送してもらうために電話するからです。

 生産者と話をする頃には、以下の質問に答えられなくてはいけません。どんな種類のステーキで、厚さはどのくらいか。1回の注文につき、何枚のステーキが欲しいか。ロースト用の肉の個数と、どの部位か。質の良くない部分はロースト用にするより、ミンチにした方が良いか。1回の注文につき、ハンバーガー用の肉を何キロ欲しいか。良い職人は、購入者が毎年注文内容を繰り返さずに済むよう、希望の詳細を記録するでしょう。

アラン・ジョンソン

サウスダコタ州

 

友達と分ける

 私は職人に注文をした枝肉を、何度も友達と分け合っています。このことを簡単に行う方法を経験から学びました。

 枝肉を7、8の部位に分けるには、複雑な計算をすることになります。4人かそれ以下の人数で分けるのが一番簡単です。そして友達には、何が欲しいかを聞くのでなく、どの部位を渡すことになるかを伝えた方が良いです。そうしないと、ハンバーガー用の肉しか手元に残らなくなるかもしれません。私は早いうちに友人それぞれに、だいたいどのくらいの金額になるかを伝えるか、1ポンド(約450g)当たりいくらになるかを伝えています。もし1ポンド6ドルは高いと言われたら、その価格は全ての部位の平均的な価格であることを言い聞かせましょう。この値段でハンバーガーだけでなく、高価なステーキやロースト用の肉も手に入れられるのです。

レベッカ・マーティン

マザーアース・ニュース編集者

 

プライマルで練習する

 私たちは、ハーフの豚肉と1/4の牛肉を2つの違う農家に注文しました。夫はマザーアースニューズフェアで、メレディス・リーのワークショップを見た後、肉の解体に挑戦したくなったので、ハーフの豚肉をプライマルまでにしてもらいました。このようにしてくれる農家を探すのには少し時間がかかりましたが、とても安く済みました。バークシャー・ポークが1ポンド2ドル57セントです。私達の希望は、最後までカットしなくて良く、パックも不要だったので、職人の解体料金は通常より安かったです。また送料をなしにするために、私達は農場まで車で行き、お肉を受け取りました。こうすることで、私達は農家の方と話すことができ、動物が牧草を与えられていて、健やかに育っているのを見ることができました。

 私達は1/4の牛の枝肉を2度購入し、違う結果を得ました。初回は、どこよりも安い肉を同僚から購入しました。でも、同僚は職人に払うお金を安くするため、そして肉を分け合う仲間同士の争いを避けるために、多くをハンバーガー用のひき肉にしたのです。それでも私達はたくさんのステーキとロースト用の肉を手に入れ、その肉の風味を楽しみましたが、仲介者を通して購入したことは、間違いだったかもしれません。

 私達はこれからも、塊り肉を買おうと思っています。風味はより良いですし、生態学的影響や、工業的生産の動物虐待に苦しむことがありません。私達は肉を食べることを少なくして、あるものを楽しんでいます - 量よりも質です!

リズ・ケリー

イリノイ州 シカゴ

 

顧客からのアドバイス

 グラス・フェッド、グラス・フィニッシュド・ビーフを直接、顧客に販売している農家として、私達の顧客からのアドバイスをいくつかお伝えしたいと思います。

 地域の生産者を選ぶ際は、その農家のウェブサイトかフェイスブックページをチェックしてみてください。その農場が、門戸を広く開放しているかを必ず確認してください。そして、どの様に家畜が扱われ、飼育されているかを見に訪れてください。

 肉はUSDA(米国農務省)の検査済みの施設で処理されているのかを確認しましょう。

 もしハーフの枝肉が、家族にとって多すぎる場合、お友達と牛の共同購入をしてください。ほとんどの小規模の農家は、真空パックで冷凍した牛肉を提供しますので、グループ購入だと、数回のパーティを開くうちに分けてしまえて簡単です。

 もし農家が私達のように、季節限定で牛肉を提供している場合 - 私達は若い雄牛を牧草が育っていく時期にだけ屠殺します - メーリングリストに登録し、できるだけ早くハーフの枝肉の予約をしてください。肉が本当に良い場合、すぐに完売してしまいます。

コンスタンス・オーバとカールトン・ブルックス

バージニア州カンバーランド 

 

計算しましょう

 私達はミネソタ州でパスチャー・レイズドの小さな農場を所有しています。パックした肉を販売するために店舗も持っていますが、より大きな塊り肉を求める多くの人たちにも販売をしています。

 枝肉を買う際、農家が提示する価格に解体・処理費用の両方が含まれているかどうか、そして、その提示された価格が、屠殺前の重量(ライブ・ウェイト)なのか、ハンギング・ウェイトを基準にしたものか、どちらなのかを確認することが大切です。

 例えば、パスチャー・レイズドの牛の枝肉を1/4買うとしましょう。農家がライブ・ウェイトを基準に1ポンドにつき2ドル、そして処理費用としてハンギング・ウェイトを基準に1ポンドにつき75セントを請求すると言ったとします(ハンギング・ウェイトはライブ・ウェイトの約60%で、テイクホーム・ウェイトはハンギング・ウェイトの約60%の重さになると覚えておいてください )。費用は次のようになります。

250ポンド(ライブ・ウェイト) x 2ドル= 500ドル

150ポンド(ハンギング・ウェイト) x 0.75ドル= 112.50ドル

合計 612.50ドル

1ポンド当たりの金額は、6.80ドル(612.50ドルをテイクホーム・ウェイト90ポンドで割り算)です。

他方、農家がハンギング・ウェイトで2ドル、それに処理費用としてハンギングウェイトで75セントと言った場合は、以下になります。

150ポンド(ハンギング・ウェイト) x 2ドル= 300ドル

150ポンド(ハンギング・ウェイト) x 0.75ドル= 112.50ドル

合計 412.50ドル

この場合は、1ポンド当たりの金額は、4.58ドル(412.50ドルをテイクホーム・ウェイト90ポンドで割り算)です。

つまり、牛の価格2ドルが、ライブ・ウェイトなのか、ハンギング・ウェイトなのかで、1ポンド当たり6.80ドルになったり、4.58ドルになったりします。

ベスとブルース・メイヤー

ミネソタ州エリシアン

 

マザーアースニューズでメレディス・リーと友達が、塊り肉の購入について話すポッドキャストのエピソード、「食肉解体職人と友達になろう」を聞こう。

 

ハーフの枝肉を注文する時は、メレディス・リーのサンプルカット・シートで可能性を研究してみよう。このシートは肉の部位を選択する際の参考になる様、切り分け方が2通り示されていて、また、職人と楽に話ができる手助けにもなる。

 

メレディス・リー (Meredith Leigh) は「The Ethical Meat Handbook」の著者で食肉解体職人とシェフとして働いている。

 

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How to Order a Side of Beef