インターネットで アメリカンドリーム

起業家精神のある男がインターネットで情報と必要なものを探し出し、ヤギ農家になるという大きな夢をかなえた。

文と写真:ステファニー・グェン (Stephanie Nguyen)

翻訳:浅野 綾子

  

「新しく来た子見るかい?」 これは父から2、3年前に届いたメッセージ。思いもよらないメッセージには、おかしな目つきのヤギが我が家のバンの後ろに無邪気に立っている写真がついていました。このメッセージで父がヤギ農家に転身したことがわかりました。私の父、チャイ・グェン (Chay Nguyen) はこうと決めたら引かない、何でも自分で手作りしまう移民。食料品店での30年の勤めを終え、晴れて退職して持ち前の根性と商才でヤギ農家を始めました。

 父にとってアメリカは、いつも希望の光であり、自由の旗印でした。毎朝4時に仕事に出かければ、将来の可能性を感じさせるさわやかな気配が感じられました。食料品店では缶詰が金属棚にガーンガーンと1個ずつ置かれてメトロノームのような音を刻み、生活の糧を得る忙しい1日の幕が開けるカウントダウンのようでした。でも、30年にわたる仕事の日々が終わり、父はベトナムのメコンデルタの田舎で暮らした幼い頃を思い出して、さらなる夢を抱いたのです。そこでは果物を栽培したり、何でも自分で手作りしたりすることが行われており、それは父のルーツとなって30年の間父の中から消えてしまうことはありませんでした。食料品店で得た収入で、父はバージニア州ストラスバーグに土地を1区画購入。それからフルタイムの農家になり、しまいには愛好家や農家に向けてヤギを飼育するようになりました。これは父のアメリカンドリームなのです。

 もちろん、父は自分1人で夢を叶えたのではありません。父には、母に加えて、企業家精神にどっぷり浸って小さな田舎の農場という世界に飛び込むのを助けた、物静かで信頼のできるビジネスパートナーがいました。父のパートナー(時代遅れで頑固、大体いつも新たな時代の流行に乗ることを嫌う)は、無償で父を、近隣に住む他の朴訥な農家の人たちとつないでくれました。そのビジネスバートナーとは、クレイグリストです。Airbnb(エアビーアンドビー)やEtsy(エッツィ)などのデジタル市場における現代的で巧みな経済活動とは著しく対照的に、クレイグリストはHTMLベースの1990年代をしのばせるウェブサイト。見事なユーザー体験ができるデジタル空間が広がる中で、クレイグリストはよく言われる「使えるなら大丈夫。どんなに見た目が悪くても。」を証明しています。これがクレイグリストの魅力でもあるのです。テキストだらけのホームページをクリックすれば、父はいつでもお目当ての手押し車が見つけられます。サイトのつくりを初めから見直す必要はありません。過剰なサービスは一切なし、広告の仕掛けも一切なし、高解像度画像も一切なし。クレイグリストは、父にとってヤギの飼育に必要なすべてをそろえたネットワークで、これ以上の機能は父には必要ありません。現に、父はクレイグリストを使って気になったことがあれば調べるという形で、何十人もの農家の人たちと連絡をとりました。このような独創的な方法で人脈をつくることを通し、父はヤギの飼育や世話の技術的なスキルを得たのです。

 ある日、穀類のえさの入ったプラスチックの樽を2、3個買いませんかという投稿を見つけて、ベリービルまで1時間半、車を運転して買いに行きました。その農家の方は樽を売るだけでなく、ヤギ用フェンス、ヤギとの接し方、病気の臨床サインについての貴重な知識も教えてくれました。間もなくして父は、餌の入ったバケツを大きく振りながら、大声で「おーい、ヤギたち!」と遠くから声をかける業を身につけました。その音を聞き逃さずに、ヤギの群れはわき目も振らず父をめがけて凄い勢いで走ってくるのです。情報を集め、こつをつかみ、試行錯誤をしながら父はヤギ農家の感覚を自分のものにしました。

  父はクレイグリストを通じて技術を得るだけでなく、クレイグリストを介して出会った農家の方たち全員と個人的にお付き合いするようになりました。実際に会って農家の方と話をするたび、それぞれの方々が独自の経験を積んできたことが腑に落ち、友情を深めることにつながりました。「おたくのヤギが柵を越えて、うちの作物をまた食べてるよ!」という、ヤギ農家なら誰もが経験する近隣からの真夜中の電話を、自分のことのように思ってくれた農家の方々もいました。このクラウドソーシングで集めたような知恵と教えてもらった話から、ヤギが越えないフェンスを上手く作れるようになった父。新たに得た知識とわが家流の農家養成カリキュラムによって、父はヤギ農家としての自信を高めていったのです。

 クレイグリストでつかめるチャンスは無限です。目的にぴったり、色形はそれぞれ、そんなアイテムがお手頃価格で見つけられます。バージニア州のクレイグリストで「ヤギ」を検索すると、125ドルの「青い目をしたナイジェリアンドアーフのヤギ」についての売り投稿が見つかります。ヤギ用のカートや干草も買え、ベニヤ板の大量売れ残りを「無料」セクションで探してみれば、ヤギ用の柵づくりに必要な全部のベニヤ板を見つけられます。

 父のどこまでも夢に賭ける姿勢と鋭い商才の源は、アメリカンドリームを実現したいという尽きることのない熱い思いです。クレイグリストは父が信頼するパートナーになりました。クレイグリストのおかげで父の学びはスムーズに運び、地域の他の農家の方たちともつながることができました。ここ2、3年は飛躍的でした。実際に体験して農業を学んだのです。失敗もたくさんありました。一筋縄ではいかないヤギの問題には一風変わった解決策を考案。たくさんのヤギの赤ちゃんが死んでしまったり、野生のヤギを追いかけまわしたり、外敵のキツネが鶏小屋に侵入したりしたこともありました。でも、そのすべてに希望の光がある。アメリカンドリームは今もなお力強く脈打っていると自信をもって言えます。時には、時代遅れのネット上の相棒が夢の実現を助けてくれる。そう、それだけのことなのです。

 

ステファニー・グェン (Stephanie Nguyen) はバージニア州フォールズチャーチ出身のベトナム系アメリカ人の一世。訓練中の若手ヤギ飼育者で、現在ハーバード・ケネディスクールに在学している。

 

楽しい暮らしをつくる

マザーアースニューズ の購読はこちら

 

Networking the American Dream

Written and photographed by Stephanie Nguyen