ポリフェースファームで春にむけての牧場&菜園準備

サラティンの自営農園の春は早い。新しい季節の新たな成長に向けて冬は予定がぎっしりだ。

  

春、牛が外へ放牧に出されると、寝わらを堆肥に仕込む「ブタ通気装置」のお出ましだ。Photo by Flickr/Brian Johnson and Dane Kantner

文:ジョエル・サラティン

翻訳:浅野 綾子

 

 毎年の春、寒さが緩むにつれて、私たちの農園は春の準備に上へ下への大騒ぎ。ここはヴァージニア州スゥープ、シェナンドー・バレー (Shenandoah Valley) のまさに中心。終霜の日は5月15日、初霜は9月15日とされています[アメリカ各地の天気観測所から霜日のデータを収集して平均されたもの]。でも、菜園や牧場で見られる植物の多くは、この公式的な季節の区切りから大きく前後して成長していますよ。

 何年か前、私たちの農場では学外研修に来た地域の大学生を受け入れました。この学生が研修後に1番の収穫は何かについて書いた正式なレポート、そして彼女の反応は衝撃的でしたね。彼女の家族が運営する慣行酪農の牧場では、冬はいつも休みの時期とされているというのです。春にむけての準備は何もしないと。彼女の家族にとって、「酪農仕事」とは気候の変化を待って一息入れることにすぎないのです。これとは対照的に、ポリフェースファームでは、冬の季節全体が春につながる準備段階とみなされます。すべてのプロジェクトでは、春に効果が出せるように、先手を打って冬独特の作業を最大限に活用しているのです。

 春にむけて農場と菜園の準備をはじめるのは、前年の秋。春の農場始まりの2週間に放牧地がどのような状態になるかは、前年最後の放牧のあとに放牧地をどのような状態にしておくのかが大きく影響するんです。牧草が地面に押しつぶされて弱ったままにされていれば、農場始まりの2~3週間ほど牧草の生育が妨げられ、初め1ヶ月間の成長が大幅に減少してしまいます。

 草花の成長が休眠する季節に入ってから、放牧地を日々ローテーションしてまわり、北と南の様子や肥沃度や湿り具合の傾向を目に焼き付けておきます。ある時点で、すべての放牧地で季節最後の放牧受け入れとなります。休眠期に入ってから牧草を食ませすぎると、冬の間放牧地が牧草でカバーされないことになります。あまりに早い時期に牧草を食ませることをやめると、だんだんと寒さが厳しくなる秋に牧草が再び大きくなり、再び大きくなるのに根が消費したエネルギーを補充する前に霜でやられてしまうことに。これは、牧草を弱体化させ、冬の間のエネルギー不足を悪化させてしまうんです。

 放牧計画は、春の健やかな成長に不可欠。計画がなければ健やかな成長は望めません。低い土地の計画立ては早く済ませてしまうのが普通ですね。というのも、冬の大雨や雪はどんな場合であっても低い放牧地をぬかるませるので、家畜の扱いが大変になる場所だとわかっているからです。北の斜面は早くに牧草の成長が止まる一方、南の斜面は1番最後。毎年放牧の仕方を変えるのは、こうしたことを考慮するだけではありません。毎年、同じパドックを同じ季節の同じ時期に食ませることがないようにできるのです。放牧地の管理を小刻みに変化させることで、放牧地の多様性を促し、ある年ある場所に無理をさせてしまっても次の年には同じことを繰り返さないよう確実にできます。完璧な放牧などないんですよ。毎年変わることが、2年立て続けに同じ場所で同じ不完全さが起こることを防ぐのです。

 備蓄した牧草を使い終えたら(2月の初めになることが多い)、小屋にある干し草を与えはじめます。小屋は、厚い寝わらプロジェクト(名づけて「炭素オムツ」)の場所。これは春の肥料になります。放牧計画を立てることで、草の成長がとまる休眠期に牧草のダメージを最低限に抑えるんですね。その仕組みを説明しましょう。小屋の中での干し草給餌計画がありますが、えさやり自体は堆肥作りにも利用されます。この堆肥は、春に新芽が出たら使うことになります。冬の終わりは、雪解けで土がぬかるみますよね。120cmまでに積みあがった厚い寝わらがある小屋の中に家畜を連れてくることで、放牧地をひづめで痛めることから保護するわけです。

 放牧地の保護と堆肥作りへの利用という、干し草給餌計画からあずかる二重の恩恵。それは地域の慣行酪農の人たちよりも大体1ヶ月早く放牧をはじめることができるということにつながるのです。1年中家畜が牧草を食むところで干し草を給餌すると、放牧地は片時も休みをとることができませんよね。たえず踏まれてエネルギーが不足することで、牧草は弱り、気温が上がっても活発に成長しなくなってしまうんです。

 私たちの計画や基本的設備や堆肥作りはすべて、干し草でのえさやりが減るように調整されています。地元の地域では備蓄飼料による平均給餌期間はひと冬で120日間ですが、ポリフェースでは40日間です。でも、私たちのエーカー当たりの家畜重量数は平均の3倍。何も自慢しているわけではないんですよ。自然の与える限界とチャンス。その両方をありのまま受け入れるシステムに敬意を表したい、ただそれだけなんです。

 牧草に初春の新芽が出れば、当然、名づけて「春に引越しどんちゃん騒ぎの2週間」を開始します。まずはフェンスの整備から。家畜を上手く管理できないのに、放牧地に放すことはできません。冬の間、木の枝は落ち、フェンスの支柱は壊れ、何かに驚いた鹿が時々フェンスワイヤーを破ってしまいます。春の整備リスト第1弾をやりとげることほど楽しいことはなかなかないかもしれませんね。

 目覚めゆく農場を見つめることは、春の深遠な心と体の儀式。でも、みんな朝起きた時にそうなように、どこか関節がこわばったり、水を飲みたかったり、着替える必要があったりするわけです。幸運なことに地面はこの時期湿り気があって、フェンスの支柱を効率よく打ち込むことができます。冬の間に割って、とがらせ、蓄えておいたものです。

 フェンス張りが春支度に大事なこととすると、水回りは最重要課題。農場一帯にある高所のパーマカルチャー式溜め池から水をひき、重力で流れる13kmの送水管を設けています。ほとんどが土中に埋められていますが、そうでないものも。据え付け作業の一環として一列に並んだたくさんのバルブを使って、1回につき1区間に水を流し、漏れや故障しているバルブを見つけることができます。

 冬中、たくさんの溜め池がだんだん水でいっぱいになるのを見守ります。春には、小川や湧き水が勢い良く流れ、溜め池は水が満ちて溢れ出ます。この豊富な水は、水流系を稼動させるのにまさにもってこい。ひどく水漏れして水が流失しても、貯水量が減ることはないんですよ。夏の終わりのひどい水漏れは打撃になりますね。というのも、溜め池の水かさは低く、水が入ってこないからです。でも、春は水が豊富。水が貴重になるその先2、3ヶ月後とは違います。

 フェンスや水回りとならんで、移動式設備も季節にあわせて準備が必要です。この冬から春への大規模な引越し作業の間、おびただしい数の産卵鶏が、アーチ屋根の保護ハウスから移動式放牧小屋へと移動しなければなりません。この組み立て式設備は徹底的な整備が必要なんです。パタパタしているかもしれない前方一角の屋根に、後方部の壊れているかもしれない留め金。巣箱は高圧洗浄してきれいにし、部品の取替えもします。設備に家畜が入ったら、整備はずっと大変。まだ中が空のうちに作業してしまいたいんですよね。

 それぞれの設備の整備を終えたら、屋内から屋外へと家畜の移動をはじめます。目を見張る数の生きものが移動し、たった2、3日の間にすべてが劇的に変化する農場。牛は草を再び食みはじめ、牛のいた場所には豚を迎え入れるため新たな部品を取付けます。牛が外へ出て行ったと同じ日に、「ブタ通気装置」を厚い寝わらに投入するよう試みます。それができれば、この好気性で栄養たっぷりの積み肥を見事な堆肥にするのに1分1秒も無駄にせずにすむんです。

 鶏や豚やうさぎがアーチ小屋から出るくると、巣箱やえさ箱や給水器を取り外し、厚い寝わらは取りのぞいて養分に飢える放牧地にまきます。1番先に堆肥をまく場所は、理想的には前年の秋に放牧が最も不十分だった放牧地。1日、2日で、家畜がいたアーチ小屋は野菜や早春の緑でいっぱいになります。堆肥化した寝わらの山の数々は放牧地へまかれ、そこにはお腹をすかした土中バクテリアや菌が待ち構えているわけです。バクテリアや菌が新しい季節に目覚めて大騒ぎしていることがわかりますね。

 この堆肥、もちろん春の菜園支度に植床にまかれる分もあります。ルバーブとアスパラガスの新芽を今か今かと見守る私たち。こうした多年草の菜園野菜であるルバーブとアスパラガスの収穫は、2、3ヶ月もして春から夏へと季節が変わり、干し草刈りがはじまれば終わってしまうとわかっているからです。季節のリズムは、自営農園に響く美しき心臓の鼓動。すべての労働を控える安息日も、猛烈に駆け抜けるように働く日もない工場式農場をするなんて、私には想像できないですね。

 この春へ引越しどんちゃん騒ぎの最中に農場に来る人たちは、どうやって私たちが全てを滞りなく行っているかわからない人が多いようです。重要なことは2つ。1つは冬に行う計画作り。冬の間、農場メンバー全員が、日々スケジュールを決めたり、放牧区画のローテーションの順番を決めたり、どこで飼料作りをするかを決めたりして過ごします。春の芽吹きが大騒ぎの時を告げる前に、すべてが準備万端になっているのです。

 2つ目は、多くのことがただ当たり前になっていること。エッグモービル[移動式鶏小屋]が牛の群れに続く。若鶏は高台へ。低い場所では十分乾燥している時だけ放牧する。牛が外へ出てから豚を干し草小屋へ入れる。放牧を知らない方にとってはひどく目の回るような様子に見えるかもしれませんが、実際は念には念を入れた采配なんですよ。

 

たのしい暮らしをつくる

マザーアースニューズ

購読登録はこちらからどうぞ

 

Preparing the Farm and Garden for Spring at Polyface Farm

February/March 2018

 

バックナンバーの購入はこちらからどうぞ