ためになるパーマカルチャーの基本

ポリフェイスファームズでのパーマカルチャーのデザインの実践は、農場の効率と機能性の向上に役立っている。

 

  

冬のビニールハウスに家畜動物を入れておくことで、給水器を温める必要がなくなり、野菜の植床も肥やしてくれる。

 

 

文:Joel Salatin

翻訳:浅野 綾子

 

「パーマカルチャー」という言葉との出会いをまだ覚えています。マザーアースニューズが、1980年に、「Plowboy(プローボーイ:耕す男)」インタビューを、ビル・モリソン (Bill Mollison)にした時でした。パーマカルチャーという考え方が、どうやって私の中に共感を呼び起こしたか、よく覚えています。その場で即、自分の将来の農場システムの中に、できるだけその多くを取り入れようと決めました。以来、ポリフェイスでは、いくつかのパーマカルチャーの原則を取り入れてきています。

 

高所の水を有効利用する

 農場で活用する第1の原則は、高所の水を有効利用することです。ある地形に、水が高い所にあればある程、重力に引かれて下りてくる水をより多く使うことができます。何年もの間に、12個以上の池を造り、今では農場を横断する7マイル(11km強)の水道管があります。大体100ヤード毎(90m強)にあるバルブは、十分な水場を提供してくれます。池は、絶え間なく流れる複数の小川をせき止めてはいません。池は、谷間にあって、雪解けや大雨で地表を流れる水を溜め込みます。最も乾燥している場所でも、少なくとも年に1度か2度は、川の氾濫という恵みを享受するのです。

 水が地表を横切って流れる時、共有地が豊かであることを意味します。地表を流れる水を家庭内にとどめておくことは、下流の住民を洪水の被害から守ります。乾燥した時期にその水を使えば、川の主流に水を足し、バイオマスを育み続けることができます。

 帯水層や小川の流れから水を吸引すると、共有地を枯渇させる一方、地表を流れる水を溜める池を造ることは、共有地の豊かさを高めていくのです。さらには、池は、両生類や水生生物、野生動物にすみかを与えます。溜め池に水がどれだけあるか目で確かめることもできます。

 重力がもたらす水は、土地の風景に貢献できる、最も価値のある開発かもしれません。

 

空間を最大限に活かす

 もう1つのパーマカルチャーの原則は、空間を縦に使うことです。農場で開発した、注目に値する最初の空間の縦利用モデルは、「Raken House (ラッキン・ハウス:ウサギと鶏の小屋) 」です。ウサギは、床の上方に設けられたゆったりした檻に座り、鶏は床を走り回ります。ウサギの尿は、炭素寝わらに栄養豊富な水分を与えてくれます。鶏が寝わらをひっかくことで通気性が良くなり、それによって、重宝な堆肥寝わらが作られ、悪臭も取り除きます。空間の縦利用システムでは、たくさんの動物が、平面ではなく三次元のスペースに住まうのです。

 この設備は、経済的な面で、さらに一層有望です。1つの設備で1つ以上のやりたいことが担えるのですから。最近になって、このコンセプトを、冬のビニールハウスに適応させています。給水器が凍結するのを防ぎ、春が来て動物たちが屋外へ出るとき、この寝わら堆肥の恩恵で野菜を育てることができるというメリットがあるのです。

 空間の縦利用の考え方を発展させて、ビニールハウスの床に幼いブタを放ち、鶏用に高く上げたテーブルを設置しています。テーブルは隙間なく置くことで、鶏の設備をブタが届かない高さにすることができます(幼いブタは鶏を食べませんが、壊れやすい給水器や巣箱、エサ箱の上によくぶつかります)。鶏はテーブルと床の上の両方を使い、ブタは床の上で生活します。うちのブタは飛ばないのです。まだね。

 この配置は、ビニールハウスの床面積を増やします。通常、1,000羽の鶏を収容するだろう構造で、1羽あたりの面積を犠牲にすることなく、1,500羽を収容することができるのです。これはかなりの収入増につながり、こうした建物を、もっと費用をかけたものにすることができます。家畜動物が春に屋外に出る時には、厚い寝わらを取り除いて、その下の肥沃な土に野菜を植えます。植物と動物の間でローテーションをすることで、病原体を抑えることができます。病原体がまさに繁殖し始める時期に宿主が変わり、屋外に出てしまうからです。

 

家畜動物とチームを組む

 ある仕事をやってのける動物の天賦の才能や素質を活かすことは、お気に入りのパーマカルチャーの原則。ポリフェイスファームズが危険を顧みずに取り入れている原則です。一番有名なものは、「エッグモービル (Eggmobile:移動式鶏小屋) 」かもしれません。エッグモービルは、何百羽の産卵鳥を乗せて、牧草を食む牛についていきます。自然界で、鳥が草食動物の後を追う行動を真似たもので、このモデルは、いくつもの仕事を1つの行動でやってのけます。これは、もう1つのパーマカルチャーの原則です。

 鶏は、牛のフンをひっかき回し、ハエの幼虫を食べます。そうすることで、牛フンを地面にまき、そのほとんどを地面に薄く混ぜ込んでしまいさえするのです。その場を肥沃にすることで、鶏は、牛フンの周りが気持ちの悪い場所になるというひどい状況から土を守ります。

 さらには、鶏は、出てきたバッタやコオロギを食べて、卵へと変えてしまいます。こうしたタンパク質全てを美味しい卵にしてしまうのに加えて、このプロセスは牧草の清浄にもなります。最も重要なことかもしれませんが、この清浄化は、寄生虫を取り除き、牛にたかるハエを大幅に減らして、牛に健康と快適さを与えてくれます。牛の世話にかかる時間の節約はかなりのものです。牛に水門を通らせ、あるいはウジ駆除剤や寄生虫駆除剤を使わなくてよくなるのです。

 もう1つの家畜動物がになう大切な働きは、堆肥作りです。ポリフェイスファームズでは、干し草を与える時、小屋中、雨のあたらない状況で与えます。1頭1頭の牛から日々出される、50ポンド(22㎏強)の糞尿を吸収する炭素マットを敷きます。この炭素は、木のチップ、おがくず、干し草の切れ端、わら、収穫の残渣、ー  茶色のものなら何でも大丈夫です。数日ごとに、ラザーニャ風に新たな層を追加します。

 体の重い牛は、寝わらを踏みつけて酸素を外に出し、寝わら全体が嫌気性の発酵をします。わらを追加する時に、とうもろこしも加えます。とうもろこしは寝わらの中で発酵するのです。寝わらは、最も寒い日でもかなり暖かく、地面が2フィート(60cm強)の深さまで凍ってしまう時でさえも、凍らないくつろぎの場所を牛に提供してくれます。春が来て、牛が草を食みに屋外へ出ると、この厩肥にブタを投入します。

 ブタは、発酵したとうもろこしを探し、そうすることで、寝わらの通気もしてくれます。次第に、寝わら全体が嫌気性から好気性の堆肥へと変わって行きます。高価で、時間のかかる、ハイテクな堆肥切り返し機器を使うより、ブタを活用するのです。いわば、道具(炭素)を100ドルで買い、1000ドルで売るのと同じこと。これが私のアベコベ減価償却のアイデアです。

 家畜動物が仕事をこなしてくれるので、朽ち果ててサビつき、機能が低下してしまうだろう設備を、買い直して再度資産計上するという規模で、こうした仕事をやらなくて済みます。潜在的利益は、規模によりません。このやり方は、1000頭の牛と数百頭のブタがいる時と同じように、2頭のブタと2、3頭の牛でも、全く同様にできるのです。

 

賢いデザインにする

 パーマカルチャーを研究する度、その原理がいかにデザインに依拠するのかが印象に残ります。私たちの農場では、厚い寝わらを容易にする建物のデザインにはっきりしています。炭素中心の豊饒プログラムは、家畜動物の下に敷く厚い寝わらシステムにかかっています。厚い寝わらは、本質的には積み肥の上に家畜動物を住まわせることなのです。

 硬いコンクリートの床や羽根板の床、もしくは薄い寝わらの床と同じくらい、非衛生で病気の温床になるものはほとんどありません。微生物は、繁殖するのに深さ(量)が必要、ー  丁度積み肥のようなものです。馬屋の仕切り部屋を含め、ほとんどの家畜小屋の構造は、3フィート(90cm強)もしくはそれ以上の寝わらを収容するように設計されていません。

 ですから、建物は厚い寝わらを扱えるように設計されなければなりません。そうすることで、積極的な堆肥作り、糞便の保管、極めつけに通気という全てのメリットが享受可能になります。デザインは、相乗作用と共生のきっかけとなるのです。悪いデザインは機能性を妨げます。

 

森林管理

 パーマカルチャーを実践している友人をいらだたせることを覚悟で、森林農法の時流に飛び乗らない理由を打ち明けなければなりませんね。森林農法では、高低の木々が牧草地のあちらこちらに植えられます。ドローンから美しい写真が撮影できる一方、草地管理には悪夢なのです。牧草地に点在する木々は、干し草作りやフェンス張りの邪魔になります。木々は干し草の安定した乾燥を妨げ、高質な干し草作りにとっては本当に厄介なのです。

 ポリフェイスでは、移動式日よけ車を好んで使います。あたかも木を持ち運ぶように使うことで、日よけ車は、フンが最も良い働きをするまさにその場所に、家畜動物の休憩場所を集中して作ることができるようにしてくれます。さらには、移動式日よけは、家畜動物が牧草地に入る度に、休憩場所を変えることを可能にしてくれるのです。

 材木管理に投資して、森林を空き地に組み入れています。材木管理には、病気にかかったり、曲がったり、生産性の低くなった木をチップにすることも含みます。保護のため、森林はフェンスで囲っています。

 これと同じような具合で、等高線に沿わせて道路をつくるこだわりについても懸念しています。道路を雨水溝として使うことはわかります。でも、農場を移動する度に、5分余計にかかるなら、多くの時間と燃料をすぐに使い果たしてしまい得るのです。

 最小のエネルギーで最大のパフォーマンスをするデザインというパーマカルチャーの考えは、農場の大小に関わらず、追求する価値のある目標です。ここに上げた基本原則を使うことで、作業の利益性を上げ、もっと楽しめるようにでき、経済的・精神的なメリットを生み出すことができるのです。

 

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Profitable Permaculture Principles 

By Joel Salatin