自立の再考

マザーアースニューズ 自然 自給 DIY

創造的な農業の適用で、どんな技能の人でも土地を耕せるようになる。

文:ジェニファー・A・シェフィールド(Jennifer A. Sheffield)

翻訳校正:沓名 輝政

 

 真夏です。それでも、羊たちが冬を過ごす納屋から、寝藁をかき出さねばなりません。子豚が3匹、干し草畑に入る前に使っていたスペースです。ポール(51歳)が片腕で、親指と人差し指でつくるピンホールを覗けば見える程度の視力で行っていることを除けば、このかき出し作業には大して変わったことはありません。

 ポールは脳性まひで、歩行器を使っています。彼は、ヴァージニア州クロゼットの550エーカー(220万平米)の土地にあるイニスフリー・ヴィレッジ(Innisfree Village)というライフシェアリング・コミュニティ(介護支援組織の助けを得て暮らせる施設)に住んでいますが、毎週の作業現場へは肘当てとフルフェイスヘルメットを装着してオフロード専用多目的四輪車(RTV)に乗るしかありません。しかし、牛たちは彼の声を知っています。羊の水をチェックした後、農場長のニッチ・トラバースとティム・ウールはポールに一任します。「こんな感じで干し草を削り、オレンジ色の一輪車に堆肥を詰めているんですよ」とポール。

 障害を持つ人々にとって、自給自足は排除するために作られたもう一つのシステムのように思えるかもしれません。しかし、ポールや他の人々は、農産物の栽培、衣類の製造、家畜の飼育などが可能であり、利点もあることを証明しています。

 イニスフリー(www.InnisfreeVillage.org)では、障がいのある人は選任された作業者として働いています。フェンスの支柱を叩いたり、卵を集めたりするだけでなく、織物、木工、ハーブと菜園、パン屋など、それぞれの作業場で製品の製造を手伝います。

 「生産性が人々の体験にマイナスの影響を与えることを良しとしません」とエグゼクティブディレクターのロリー・ハッターは言います。「私たちは物事に価値があって欲しい。役に立つから、あるいは楽しいからであって、それを維持するために自動化せずに行っているのです。作業場自体が自立のためのルートではなく、それぞれのステップがスキルアップを意味するのです」と。

 オーストラリアのケンプシーにあるセント・ポール・カレッジで農業と第一次産業を教えるグラハム・ブラムリー(www. TopPaddockRural.com.au)は、機能学習を取り入れています。自分の牛の農場と、仲間の農家が経営する4万エーカー(1億6千万平米)の羊の農場では、使用する道具や設備を修理したり改造したりすることを好んでいます。

 15歳のとき、ブラムリーは交通事故に遭い、指を数本切断し、左腕もほぼ全て切断しました。「植物や動物を育てたいと思うのは人の常で、障害者も同じような欲求や関心を持っていて… 体が不自由な人のために、通 路やスロープ、開けられる門、車椅子から手が届く上げ床などを用意して、農場を整備することもできるでしょう」とブラムリーは言います。しかし、これから農業を始めようとする人たちには「待っていてはだめです。自分でできる場を得て、相応しいと思えるやり方で挑戦してください」と強く言います。

 話を子豚に戻します。子豚たちは元々ヴァージニア州のランドン・ファームからイニスフリーに到着しました。ランドン・ファームは、ジェニファー・シスニーと彼女のパートナー、ジョン(53歳)が、鶏、ヤギ、牛たちから卵、肉、乳製品を店に供給するためのインフラを構築しているところです。ジョンは生まれつき目が不自由ですが、屋根に登ったり、険しい山道を切り開いたりと、毎日、障害物を回避するのではなく、受け入れています。「夢を持って、それを目指す過程で方法を考えるんだ」と彼は言います。

リスクの尊厳

 イニスフリー・ビレッジは、1971年、障害を持つ子供たちのために、長寿介護の代替施設として両親のグループが夢として描いたもの。

 当初の400エーカー(160万平米)には、ウォルナット・レベル・ファーム(Walnut Level Farm)といくつかの建屋が含まれていました。

 現在では、400羽以上の放し飼いの鶏、約40頭の羊、70頭の牧草飼育のブラックアンガス牛とレッドデボン牛、そして年間10~20頭の子牛を出産する非繁殖牛が飼育されています。牛と七面鳥は村の消費用に食肉処理されるか、生きたまま販売されます。癒しを与える手法で、資源の投入が少なく再生可能な農業システムを後押しすることが考えられています。

 移動の自由は、家畜だけでなく住民にとっても最も重要であり「リスクの尊厳」というコンセプトを統合する一部となります。つまり、障害とともに生きる人々は、たとえ困難な結果であっても選択し、その結果を経験できるべきであり、このリスクは土地や伝統工芸に関わることの一部である、ということです。

 「この言葉は、私たちの活動をよく表しています」とトラバースは言います。「私たちは、誰にとっても安全であることを望んでいますが、常に物事を簡単にする方法を探しているわけではありません。私たちは、人の能力を最大限に発揮させているのです」 。。。

 

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