熊手の教え:家畜から学べること

マザーアースニューズ ジョエル・サラティン 農

家畜を育てることは、ジョエルにとって、自身の振る舞いや触れ合い方の学びになっている。

翻訳:津田 嘉江

 

動物と一緒に働くと、他の人たちとの関わり方にもっと注意を向けさせられると私は確信している。菜園家の皆さん、このコラムは私たちが植物から学べることに対する軽視ではない。私たちは植物からも同様にたくさんのことを学べる。しかしここでは家畜を育てる間に学んできたことに絞ってみたい。

 1️⃣  早期に慎重に訓練する。悪い習慣が長く続くほど、また生活訓練の開始が遅くなるほど、あなたの動物を管理することがより難しくなる。最も賢い家畜は豚だ。私の経験では、豚ほど電気柵で訓練するのにうってつけの家畜はなく、豚と同じくらい何度も電気柵を試す動物もいない。

 私たちは約 40 ポンド (18kg) の離乳子豚を買ってきた時、 子豚を丈夫な四角い小屋に入れ、彼らの新しい文字通り 「digs(語意は、下宿、小突き)」になじみ始める数日以内に電気柵で訓練する。豚小屋の端から短いワイヤーで 3 フィート (91cm) 離して接続した携帯型電源で 10,000V の学習をさせている。

 この界隈でみんなが言っているように、「電気柵の訓練をしている時、彼らの最初の経験が記憶に残ってほしいわけだ」中途半端な電圧でぐずぐず迷ってはいけない。電圧をあげよう。私たちは訓練期間中にそのことを一貫して行うために、ワイヤーの真ん中に豚がそこを走り抜ける時に壊さぬよう守るバネをつける。バネがなければ、豚がワイヤーの上下を通るたびに壊し続け、一貫した訓練というより余興になってしまうだろう。

 制限と期待へ早期に積極的にさらしておくことで、一生物の恩恵を受けられる。もしあなたが明日の朝動物たちがいるべき場所にいると分からないまま夜ベッドに行けないとすると、ぐっすり眠れるわけがない。効果を発揮するように、電気柵には十分に電圧をかけ、ぴんと張り、目に見えるようにし、十分な高さにすべきだ。これらのうちのひとつでも誤れば、あなたは問題を抱えるだろう。

 期待を早く設定することは、人々にも明らかによく働く。子供たちは明快で一貫したしつけに反応する。教師は授業の最初の日にわかりやすい期待を設けなければならない、さもないとその年の残りを手に負えない生徒に対処することになるだろう。新しい従業員は明快で端的な規則に早期に対応する。決まり事を伝えるのに失敗すれば、噛み砕いて伝えるべきことが残りすぎて追いつかなくなり、悪い習慣がはびこり、不適切な行動を促し、一般的に組織を機能不全に導く。

 私は、初めて動物を手に入れた人々がストローベイルを縛る紐、ガムテープ、腐りかけた荷積みパレットで作った無計画な囲いに入れ、その囲いにいない「愚かな動物」に文句を言うのをいやというほど見てきた。みなさん、これらの動物は、日に 24 時間、週に 7 日かけてその状況を調べ上げて、弱みを見つけ、概してあなたの計画に大打撃を与えて、あなたは平静でいられなくなるのだ。

 彼らは医者を訪ねたり、学校へ行ったり、資格を取ったり、住宅ローンの書類を埋める必要はない。彼らは、彼らがそうするよう、そうなるように創造され設計されたことをそのまましているにすぎない。豚を責めてはいけない。

 私は子供たちを豚だと言おうとはしていない。しかし子供たちは、動物のように、私たちの計画の穴を見つける時間がたっぷりある。早期に一貫して彼らに指示すれば、通常は後々あなたを悲しませることは減るだろう。

 2️⃣  どんな動物も独自の才能がある。彼らは全く異なる。例えば、私たちは堆肥を掘り返して混ぜるのに豚を使う。大きい豚は深さ 3 フィート (91cm) まで掘る。それは堆肥の山に酸素を供給する重要な豚の能力だ。

 鶏も物をひっくり返すのが好きだが、豚ほどの力強さはない。雌鶏のひっかきはとても弱い。私は豚を果樹園に入れて走り回らせたりはしない。たとえ豚が落ちたリンゴをつまむのが好きだとしてもだ。豚は地面を深く掘り、傷つきやすい細い根を露出してしまう。鶏は果樹園にはより良い。なぜなら身が軽いし落ちた果物や虫を食べるからだ。まあ、アヒルが、目下、果樹栽培者の最良の友だ。各種アヒルの中だけ見ても、インディアンランナー種は虫への飽くなき食欲と地面をひっかけないことで有名だ。あなたがアヒルに堆肥を作るよう頼むことは決してないだろうが、アヒルは菜園と果樹園では完璧だ。

 しかしたくさんのアヒルがいなくては、草に追いつかない。乳牛はほとんどの草を食べるが、彼らは地面に対して重いのでしばしば地下 50mm ほどにある若木の細い根っこを傷つけてしまう。牛はまた木をひどくひっかいてしまい、重大なダメージの原因になる。歴史的に果樹園とぶどう畑の草を食べる動物として用いられてきた羊は、体重が軽く葉っぱや果実をかじれるほどの体高がない。

 私はサンフランシスコ北部のオリーブの果樹園で吸枝を間引くヤギの一群に 1 時間もの間魅了されたことを忘れはしないだろう。彼らは木々の合間を 4m 弱の高さまで登り、内側で育つ吸枝を間引いていたのだ。彼らはまた木の下の草も刈っていた。確かにオリーブの木に 4m 弱登りあなたのために剪定する草食動物は他にいないが、ヤギは決して牛糞をあさったりウジ虫を食べたりしない。私たちにはその素晴らしい才能に感謝すべき鶏がいる。

 私はこのやり方を続けられることだろうが、もう今では私の言い分は明確で、すべての動物には独特の才能があり、(それを活かすのは)その才能を敬い、尊敬し、認めるような生育環境に各動物を置いて育てる世話係としての私たち次第だ。すごいね。もしそれを人が活かせるものだと聞こえないとしたら、私には他に何が活かせるのか見当がつかない。

 どんな人にも独自の能力がある。子どもに始まり、その才能が何なのかを見つけ出し、その天賦の才を養う必要がある。なぜなら人は皆違うのだから。私は魂を救うための青写真を読むことはできない。私は完全に口であれこれ言う人間だ。しかし他の人たちは青写真が大好きだ。彼らは私が移動式の鶏小屋「Eggmobile」について述べることを聞きたがらずに、図面を見たがる。動物も同様で価値のない者はいない。各々の動物は貢献する何かを持っているし、もし動物が役に立たないとしたら、通常それは世話係の私たちがその独自性を敬うのに失敗してきたからだ。人も同じだ。

 私たちの文化は人が肯定する職業、立派な未来像、神聖な使命が欲しくてたまらない。私たちは作家や演説者、建築者や解体者が必要だ。私たちは技術者、預言者、科学者と詩人が必要だ。想像してみよう、社会としての私たちの結婚生活や家族や地域において、私たち農民が動物の特別性を敬うように人々の特別性を敬うことを。私たちは決して豚をトマト畑には入れない。決して鶏を犬小屋には入れない。それなのに、私たちは定期的に人々を成績の枠にはめ、慣習化した悪しきコースに押し込む。その理由は、社会が必要とする、または期待するものだからであり、繁栄を促進する条件だと言う訳ではないのだ。私はひたすら豚から搾乳してみることもできるだろうが、乳牛からもっとたくさんの乳を得ることにするのだ。

 3️⃣  穏やかでいる。おそらく私たちの農場へ都会から来る人たち、特に子どもに与える必要のある最もありふれた注意は、ゆっくり動き優しく話すことだ。突飛な行動は動物を怖がらせる。動物は慎重できっちりとしたふれあいに反応する。多分、私たちが農場ですることの中で最も高度なのは牛を選り分けることだ。どの牛にもフライト・ゾーン (flight zone) があり、牛の視野は約 330 度ある。あなたは決して牛の死角である真後ろに立ちたくないだろう。捕食される動物として攻撃されるのではと考え、牛は逃げるかもしくはあなたをよく見ようと回転し  —  その最中に肝をzつぶすことになる。

 もしあなたが彼らの肩に向かって近づくと、牛は前に動く。もし首に向かって近づけば、後ずさりするだろう。これらの反応は微妙なので、あなたが牧畜のマスターになると、頭を傾け、動作に影響を与えることができる。動物を扱う往年の偉大な第一人者であるバド・ウィリアムズ(Bud Williams)は、うまくいかない時はゆっくりと進めようといつも言っていた。イライラする?ゆっくりと進めよう。牛たちが望むところへ行かない?ゆっくりと進めよう。

 突然の変化は人も驚かせる。怒鳴ったり叫んだりするようなものだ。牛を怒鳴ったり叩いたりすれば、決して牛を落ち着かせられない。でも尾の付け根を引っかいてやり、耳の後ろをこすり、優しくささやけば、牛の震えは止まり、徐々に落ち着くだろう。人々も同じように反応する。楽しく。優しく。脅かしや足の踏みならしはいけない。ささやこう。

 私たち世話人は動物たちより、もちろん賢い。怒鳴り、叩き、脅すことができる。しかし家畜の基本となる傾向を掌握し、ゆっくり、きちんと、丁寧に、落ち着いて、優しく行動すればもっとうまくやれるだろう。経験がない訪問者が学ぶのと同じく、おおげさに動揺するよりも、穏やかにしている方が精神的な強さを要する。

 私たちは家畜を育てて触れ合うことからたくさん学ぶことができる。素晴らしい家畜にはきっと果報がある。彼らが私に教えねばならぬこと全てのおかげで、私は日に日に学んでいる。

 

ジョエル・サラティン (Joel Salatin) の家族は、ヴァージニア州のシェナンドー渓谷にある Polyface Farm を所有し運営し、移動放牧でサラダバーを喰む牛の肉 (Salad Bar Beef)、放牧の家禽、堆肥混ぜ屋の豚の肉 (pigaerator portk)、草を喰むウサギを提供している。同農場は、6000世帯と50のレストランに産物を提供し、こういった牧草ベースの管理システムを学びたい人々に多数の教育の機会を与えている。詳しくは、www.PolyfaceFarms.com をご参照。

 

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