小麦の種類: どの種類をどうやって育てるか

今日、私たちが目にする多種多様な小麦は、何百万年もの進化の結果であり、人類による何世紀にもわたる品種改良の集大成である。その歴史の至るところに起源をもつ多様な品種、つまり近代種をはじめ、数十年または数百年前からある在来種、さらに紀元前9000年にまで遡る小麦種でさえ、今も変わらず手に入る。小麦や小麦粉を分類し、最も栄養価が高いものや味のよいもの、または特定の目的で使うのに最適なものを見つけるには、深い遺伝子プールに飛び込む必要がある。とはいえ、そうすることで、よりおいしいパン、ふわふわのケーキやビスケット【アメリカのビスケットは、英国のスコーンに近いもの】、コシの効いたパスタに出会えるのだろう。

 

小麦に“標準”タイプはない。“小麦”という言葉には、果てしなく広がる種の系図と、それらの種に含まれる多種多様な品種が網羅されており(本記事に後述する“小麦の系図”を参照)、完全に同じ穀物を実らせる品種は二つとない。 

 

 

どの小麦がどの目的に合うか? 

普通コムギ(学名:Triticum aestivum)は、“パンコムギ”とよく言われ、最も広く栽培されている品種で、袋買いする小麦粉になる。この小麦は、ローフパンや発酵パン、トルティーヤ、ドーナツ、ケーキ、東アジアの麺類のような市販食品の主要穀物である。 

デュラムコムギ(学名:Triticum turgidum ssp. Durum)は、ほとんどの乾燥パスタやクスクスに使われており、ヨーロッパの一部や中東では平たい発酵パン用として、頻度は低いが、アメリカでは発酵パンに用いられる。同様に、パスタも普通コムギから作られることがあるが、デュラムパスタが主流で、大抵は高品質とみなされる。

古代小麦種は現在、普通コムギやデュラムコムギにくらべて、アメリカの狭い土地で栽培されている。後者二つの穀粒は脱穀で外皮がはがされるのに対し、古代小麦の穀粒は脱穀後も食べられない殻で包み込まれたままだ。各古代種は、小麦の系図の異なる分枝に属している。スペルト(学名:Triticum. aestivum var. spelta)は普通コムギの旧型種、エンマー(ファッロ)(学名:T. turgidum ssp. dicoccoides)はデュラムコムギの直接の祖先、ヒトツブコムギ(学名:Triticum monococcum)は野生のイネ科植物の近縁種で、あらゆる小麦の祖先としての役割を果たしている(小麦の系図を参照)。これらの原始小麦種は現在、機械で脱皮し、さまざまな製品に役立てられている。ヒトツブコムギの中には、発酵パンやパスタが作れる品種もある。スペルトでも良質のパンを作れる。

 

どの小麦が最も栄養価が高い? 

全粒粉製品は、精白小麦粉で作った製品よりも、食物繊維、ミネラル、ビタミンB、抗酸化物質が豊富だ。精白小麦粉は、栄養と食物繊維の豊富な胚芽とふすまをはぎとられ、ほぼカロリーのみの食品として提供されている(全粒粉と栄養価の落ちた精白小麦粉の比較表を参照)。特別に栄養価の高い小麦でも、精白小麦粉に加工処理されると、ごく普通の品種で作った全粒粉のどれと比べても栄養価は落ちるだろう。マサチューセッツでの長期にわたるフラミンガム心臓研究は1948年に始まりいまだに続いているが、その研究によると、主に全粒粉製品とあわせて、少なくとも1日に5品目の穀物を食べた人は、5品目未満の人に比べて腹部の脂肪がより多く減った。

それでは、もし全粒を食べれば、いい栄養が得られる等級とそうでない等級があるのだろうか。可能性はある。それぞれの小麦の品種には異なる特徴があり、栄養価が高いものもあれば、低いものもある。

原始小麦種は通常、普通コムギよりもタンパク質が高い。176種の小麦品種評価によると、食物繊維は普通コムギに最も多く含まれるが、ヒトツブコムギとエンマーは最も少ない。(思い出そう。みな親戚であることを。この調査におけるすべての全粒小麦種は、常に食物繊維の良質な原料となりうる。)さらに、ヒトツブコムギ、エンマー、スペルトは通常、普通コムギよりも鉄、亜鉛、銅やその他の主要なミネラルを多く含むとする研究発表もあれば、違いは見られないとする研究者もいる。

過去1世紀を通して、小麦育種者の努力は農法の変更に向けられた。最も顕著なのは化学的土壌による施肥で、1エーカーあたりの小麦収穫高が増えた。製粉業者、パン職人、栄養学者、小麦育種者たち自身、これらのより大きい収穫高は、栄養価を落とすという犠牲を払って獲得されたものなのかと疑問に思ってきた。この理屈が古代種と在来種(大学の植物育種者が現れる時代以前に農場主によって開発された種)への関心の高まりに火を付けてきた。

近年、ヨーロッパと北米の研究者は、小麦の栄養価が本当に下がったのかを調査してきた。大多数は、同じ環境条件下で栽培された新旧の小麦を観察した。このとき、タンパク質に注目することが多いのは、パンやパスタの質を左右する主要な要因となるからだ。ほとんどの野外試験で、原始小麦種のタンパク質レベルは、平均的に現代の小麦と同等かそれ以上であることが明らかになった。一方、食物繊維と抗酸化物質に関するいくつかの遡及的研究において、大きな違いは見つかっていない。小麦の等級は、タンパク質の含有量が高い方から低い方へ、次ような順序でランク付けされる。硬質赤色春小麦、硬質赤色冬小麦、それから赤白両者の軟質冬小麦(本稿に後述する“小麦専門用語の解説”を参照)。

ノースダコタ州立大学が行った近年の実験によると、硬質赤色春小麦種の‘アルセン’‘エルジン’‘グレン’は、テストした18種の中で最も高いタンパク質含有量を示した。硬質赤色冬小麦の中では、タンパク質含有量が最も高いものの中に、より古い種である‘カール’と‘プレーンズマンV’が残っている。

亜鉛の含有量を、ヨーロッパと北米の小麦種で比べると、50~100年前に開発された小麦種よりも、近代種の方が低い傾向にある。鉄分はわずかに下降ぎみで、少しずつだが確実に減少してきている一方、そのほかの主要なミネラルの大部分は安定を保っている。

白色春小麦は主に太平洋北西部で栽培される等級だが、通常、赤色小麦よりタンパク質の含有量が低い。これらの白色小麦から作られる全粒粉製品は、全粒赤色小麦から作る小麦粉ほど苦くないようだ。販売用の製粉業者が白色春小麦を好むのは、“ほぼふすまの状態で”製粉でき、小麦1トンあたりの小麦粉量をより多く取り出すことができるからだ。西海岸から東アジアに輸出される小麦のほとんどが白色である理由は、赤色小麦製の麺類は灰色になりやすいからだ。

旧型の白色春小麦種は、銅、鉄、マグネシウム、リン、セレン、亜鉛の含有量が近代種よりも明らかに高い。小麦研究者のステファン・ジョーンズ(Stephen Jones)とワシントン州立大学の同僚の推測によると、白色小麦の育種者は、より収穫量が高く、小麦粉の色が明るい種を選んだことで、うかつにもミネラルの含有量を引き下げてしまったのだという。

すべての栄養価を考慮すると、在来種や古代種の小麦は、いくつかの栄養素の摂取量を上げ、その他には影響しない。 しかしながら、タンパク質、抗酸化物質、ミネラルを穀粒の中に詰め込む能力のある個々の小麦の中には、幅広い品種が存在する。さらに、土壌と気候が栄養の質を決める遺伝的影響に勝ることがある。したがって、種や等級に関わらず、最適な生育環境で栽培された品種は、栄養がぎっしり詰まった穂を実らせるのだ。

栄養価と質が最大限になる際に気がかりなこととして、最終食品となる加工小麦粉の影響を見落としてはいけない。小麦粉は、時間をおくと向上する。焼く前に数日間か数週間、空気にさらすと、小麦粉のグルテンの強度が増し、色が明るくなるのだ。販売用の製粉業者はしばしば、裏技を使って穀粒からパンになるまでの時間を短縮する。酸化剤を加えてこの熟成を促し、製粉後すぐに小麦粉として使えるようにする。臭素酸カリウムは、かつて最も一般的だったこれぞ“漂白”剤で、多くの国で違法とされてきた発がん性物質であり、食品医薬品局(FDA)は使用を抑制している。広く使用されている化学物質であるアゾジカーボンアミドはそれ自体、有害ではないが、体内で分解する副産物のひとつ、セミカルバジドもまた発がん性物質である。漂白されていない小麦粉を買い、このような化学物質を避けるため、製品ラベルを読んでほしい。

 

どのタイプの小麦が美味しい? 

パンや他の製品の食感や風味は、数多くの要因に依存している。単一原料を起源としていることで賞賛される、シングルモルト・ウイスキーと異なり、単一品種の小麦から製粉した小麦粉は、パン焼きにはほとんど適さない。混合粉が優勢なのだ。フランスで行われたある実験を考察してみよう、とウィスコンシン大学の植物科学者、ジュリー・ドーソン(Julie Dawson)はいう。熟練したパネリストが、フランスの在来小麦種から製粉した12種の小麦粉、‘ブレ・ドゥ・ラ・レオール(Blé de la Réole)’ 、‘ブラデッテ・ドゥ・ピュローラン(Bladette de Puylaurens)’ 、‘スーリー(Souris)’などを使い、サワー種で膨らませたパンでテストした。最高の平均点を出したのは、複数の在来種を混合した小麦粉で作ったパンだった。この混合粉は、数年以上、仕事を共にした農場主とパン職人が生み出した調合だ。

 

マドリード技術大学のマリア・ジーザス・カレージョ・ゴンザレス(Maria Jesus Callejo Gonzalez)は近年行った味の研究で、スペルトと普通コムギを比較した。彼女は、“スペルト製のパンのうちの一つが、味の特徴に関してより複雑である”ことを発見した。入手できるスペルト冬小麦種には、‘チャンプ(Champ)’ ‘コメット(Comet)‘ ‘マーベリック(Maverick)’ ‘オーバーカルマー(Oberkulmer)’ ‘サミー(Sammy)’ ‘シンドラー(Sindelar)’ ‘サンゴールド(Sungold)’ ‘テベレ(Tiber)’ ‘トラ(Tora)’が含まれる。スペルト春小麦種の‘バーバリア(Bavaria)’も売られている。特定のスペルト種の味に関する品質管理評価はいまだにない。

ペンシルベニア州の栽培者であるランディ・メッツ(Randy Metz)は、パン焼きに適したスペルトは‘サンゴールド’だが、新品種で値段が高く、探しにくいと言っている。彼いわく、コンバインで約40%きれいにはがせるという脱皮が簡単な‘マーベリック’も好みで、自作農場の栽培者向けに推奨している。ただし、メッツが語るには、皮の取れたスペルトは成長しないので、自分で育てるためには、外皮に傷のない未加工の穀粒を植えなさいと言っている。

他の古代種にも、多数の小麦種の中でひときわ目立つものがある、とドーソンは言う。「ヒトツブコムギとエンマーには独自の風味があり、品種の中でも多様性があることがわかった。」今日、ヒトツブコムギは、その独特な風味から広く好評で、ドーソンは甘くて木の実の風味に似ていると表現している。ヒトツブコムギの粉は、粉になりやすくグルテンの強度を下げるにもかかわらず、依然として優れた風味のパスタを作ることができる。

北米の在来小麦は、風味のよさで高い評価を受けている。北部地域では、赤色春小麦種の‘レッド・ファイフ(Red Fife)’がその筆頭だ。中央大平原諸州の硬質冬小麦の中で、‘ターキー・レッド(Turkey Red)’は、遺伝子型の混合種として始まった正真正銘の在来種である。1870年代、カンザス州に来たメノナイト【質素な生活を送り、平和と非暴力を信条とする再洗礼派の教会員】の移住者によってすぐに採用され、1920年までに‘ターキー・レッド’は、大平原の小麦生産量のなんと99%を占めた。それは、今日の高収穫硬質冬小麦が作られた遺伝的基礎となっている。カンザス州のマリエンサルにあるハートランド・ミル社と仕事をする、パン職人のトム・レオナルド(Thom Leonard)は、他のパン屋や自分が使うために‘ターキー・レッド’の栽培促進支援を行ってきた。彼いわく、旧型品種には複雑さと風味があり、憶測では、様々な遺伝的性質に枝分かれしたのかもしれないとしている。

味はデュラム小麦でも非常に重要だ。ローマのイタリア国立農業研究実験会議(CRA)において、ノルベルト・ポグナ博士(Dr. Norberto Pogna)と彼の同僚は、いつも決まってパスタ試験にデュラム小麦を用いる。スパゲッティは味見専門の委員によって評価されるが、優れた食感と風味がなければ、スパゲティを作る小麦粉はどれも、先がないだろう。ポグナ博士の委員は、これらの試食で、新旧のドラム小麦種にほとんど違いを見出していない。

自宅で製粉やパン焼きをすれば、材料と手順を整えるだけで、さまざま種類の小麦種や混合種から麺類やパン、焼いたご馳走を作ることができる。これによって、古代種や在来種でも近年育種された種でも、小麦を使った実験ができる。化学添加物を加えなくても、ほとんどがうまくいくだろう。。。

 

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Types of Wheat: What to Grow and How to Use It

February/March 2014

By Stan Cox

 

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コメント: 6
  • #1

    ふみえ (金曜日, 07 3月 2014 22:02)

    家庭菜園の片隅で自家用の小麦数種類を育てています。スペルトは皮付きでないと育たないとか、挽いてから熟成期間を置くことでグルテンが形成されるとか、とても勉強になります。ありがとうございます。

  • #2

    沓名 輝政 (土曜日, 08 3月 2014 10:28)

    ふみえさん、コメントありがとうございます。お役に立てて嬉しいです。昔、僕は、欧米人に「(日本人が米に情熱をけてきたように)僕らは小麦に情熱をかけてきた」と言われたことがあります。、小麦について学べることが多いのかもしれませんね。

  • #3

    見目行 (水曜日, 23 12月 2015 17:36)

    1kgの小麦を全粒粉に製粉した時、どの位小麦粉が取れますか?

  • #4

    沓名 輝政 (木曜日, 24 12月 2015 17:08)

    見目行さま


    お問い合わせありがとうございます。

    品種によります。
    ***
     小粒は皮の割合が多いので、粉採取率が悪い。大きさと重さを総合した指標の容積重は、77kg/hl以上であることが良質な小麦粉を高収率で得るために必須である。容積重は高いほど製粉性は良いが、77kg/hl以上では容積重の数値が高くなるほど粉採取率の上昇率は緩慢になる。77kg/hl未満の小麦は製粉性が劣り、特に73kg/hl以下では粉採取率が急激に低下する。
    参考
    http://www.seifun.or.jp/kisochishiki/kagaku.html
    ***

    全粒粉の定義はこちらを採用。
    ***
    小麦を粉砕しただけで、ふるい分けしてないものは「小麦全粒粉」
    参考
    http://www.seifun.or.jp/kisochishiki/syouhinchioshiki.html
    ***

    関東の製粉所での実績。
    ユメカオリ29kg、農林61号15kg、約6割が小麦粉に。

    ありがとうございます。

  • #5

    見目行 (金曜日, 25 12月 2015 17:39)

    具体的なコメント、ありがとうございます。早速、グループの仲間に伝えようと思います。
    様々なキーワードで検索しても見つからなかった答えが、これ程早く得られるネットに、改めて感激しています。感謝しております。

  • #6

    沓名 輝政 (金曜日, 25 12月 2015 18:30)

    見目行さま
    ご返答ありがとうございます。
    お役に立てたようでなによりです。
    ありがとうございます。