植物はどうやって自分を守っているのか

Illustration By Brad Anderson
Illustration By Brad Anderson

もしかしたら、植物に対しての考えを見直しても良いかも?植物は、聞いて、触れて、見て、しかも、話して、生き延びようとしてるんです。

 私が豚肉を食べるのをやめたのは8年ほど前、ちょうど ある科学者が人間の歯と最も似た歯を持つ動物が豚 であると発表した後だった。無邪気な子豚がキラーンと George Clooney 【ジョージ・クルーニー:アメリカの俳優 】ばりの 笑顔を向けてくるイメージを頭から追い払うことができず、 クリスマスのハムをあきらめるほうが簡単だと決めた。そ して何年か後、私は全ての哺乳類の肉を食べるのをや めたのだった。それでもまだ魚と鶏肉は食べるし、コーヒー にはエッグノッグを入れる。私の食事に関するルールは 気まぐれで一貫性がなく、友人になぜ鴨は食べるけど ラムは食べないのかと質問されても、うまく答えることが できない。食の選択とはたいていそういうもので、言葉 ではっきり伝えるのは難しいが心では強く誓っているもの だ。そして最近、食の選択に関する論争がものすごい 激しさで広がっている。

 小説家 Jonathan Safran Foer は「Eating Animals」という 彼の新しい本の中で、『あれこれといろんな食事法を試し ていた』雑食で無頓着な怠け者から、『熱心なベジタリア ン(菜食主義者)』への彼自身の変貌を語っている。先月 の「New York Times」の寄稿論文では、Bucknell University の Gary Steiner という哲学者が、人々が彼自 身のような『厳格で道徳的なヴィーガン(純菜食主義者)』 になり、羊毛や絹に至るまで全ての動物性のものを避け るよう努力すべきだと論じた。人間の食べ物や装飾品の ために動物を殺すことは、『無差別殺人』となんら変わり はないと、彼は言っている。

 だが、モラルのてっぺんまで『熱心なベジタリアン』や 『猛烈に道徳的なヴィーガン』に全部明け渡してしまう前に、 考えてもいいかもしれない。クリスマスの陶器の鍋の中で ブラックペッパーにまぶされたがっている豚よりも、野菜の ほうが熱烈に野菜炒めにされたがっているわけではない。 これは陳腐な例え話や笑いのための余談ではない。植物は活き活きとしていて、またそうあり続けようとするものだ。 科学者が植物の複雑さについて学べば学ぶほど、植物 がいかに環境に対して鋭く敏感で、変化に速く反応する かを知る。そして攻撃者を撃退し遠くからの助けを求める 為の途方も無い数のトリックに感銘をうけ、植物を単なる 繊維の塊や太陽光を収集するだけのものとしたり、鹿やレイヨウやヴィーガンが都合よく食べてもいいものだと片付け たりすることができなくなる。今はまさに緑の革命の時で、 私たちの古臭い動物的思想から種をまきなおす時なのだ。

 植物生理学者たちはアクティブな動詞や活き活きとし たイメージを使って植物について語る。植物は光や土壌 の養分を『探し回り』、危険に出会うチャンスやでこぼこの 土地を『回避する』。例えば植物は、葉に降り注ぐ赤色光 と遠赤色光(スペクトルの端にある最も波長が長い光)を 分析することで近くにいる他の葉緑素競合体の存在を感 知することができ、違う方向へと葉を伸ばす。また植物の 根は地下の根圏【植物の根から影響を受ける領域 】を進み、異種間での微生物取引に携わる。

「植物は動かないわけでも、馬鹿なわけでもない」と Institute of Biology 【英国の生物学学会】の Monika Hilker はベルリン自由大学で話した。「植物は触れられると反応 し、光の波長の違いを認識し、化学的信号に耳を傾け、 さらに化学的信号を介して話すことさえできる」。触覚、 視覚、聴覚、言語能力:「これらは私たちが通常、動物に しかないと考えている感覚や能力だ」と Dr. Hilker は言っ た。

 植物は脅威から走って逃げることはできないが、しっかり と自分の足場を守ることができる。「植物は食べられない ようにするのが非常に得意なのだ」とリバーサイドにある カリフォルニア大学の Linda Walling は言う。「昆虫が植物の防御を打破できるの は非常にまれなことだ」。葉っぱのほんの小さな範囲 でさえ、表面にある特別な細胞から、捕食者の嫌う 化学物質やわなに掛けるためのべたべたしたものを 放出する。植物の DNA 中の遺伝子は全身でこの化 学戦争を戦うために活性化される。いわば植物の免 疫反応である。私たちも(植物のように)テルペンやア ルカロイドやフェノールが必要だ――先へ進もう。

 「こういった免疫反応があまりに速く起こることに驚い た」と ペンシルベニア州立大学の Consuelo M. De Moraes 博士は言った。 De Moraes 博士と彼の同僚は 植物の全身性反応の時間を測定した実験で、芋虫が葉を食べ始めて 20 分以内に、植物が空気中の炭 素をとりこみゼロから防御物質をつくりあげることを発 見した。

 私たち人間に聞こえないからといって、植物が声を 上げないというわけではない。昆虫の咀嚼に対する植 物の反応(植物からのフィードバックと言ってもいいだ ろうが)として生成される物質の中には、助けを呼ぶ 声として機能する揮発性物質もある。そうした空中警報は、とんぼ(芋虫が大好物)のような大型の捕食者 や、小さな寄生虫(芋虫に寄生して内部から殺す)な どを引き寄せることが証明されている。

 植物の敵のそのまた敵だけが、緊急警報を聴きつけ るわけではない。「これらのシグナルや揮発性物質は、 ある植物が攻撃されると放出され、周囲にある同種 や異種の植物らにも、同様の抵抗力を持たせること になる」とカリフォルニア大学デイヴィス校の Richard Karban は言う。

 

トラブルをつぼみのうちに摘み取る

 Hilker と彼の同僚は(他の研究チームでも同様に)、 植物によっては昆虫の卵が葉に産み付けられるとそ れを感知し、卵が孵る脅威を取り除くために即行動す るということを発見した。腫瘍状の絨毯を発生させて 卵を落としたり、殺卵剤を分泌したり、SOS の音を発し たりする。 

 米国科学アカデミー紀要【米国科学 アカデミー発行の総合学術雑誌】への発 表で Dr. Hilker と彼の同僚は、メス のモンシロチョウが芽キャベツの葉に わずかな接着剤を塗って卵を産みつ ける時、油断の無い芽キャベツは接 着剤中の微量の添加物の存在を感 じ取り、迅速に葉の表面の化学物質 を変化させてメスの寄生蜂を招きよ せる。しっかりと葉に固定されている 報酬を見つけたメスの蜂は、そのお 返しにモンシロチョウの体内に卵を産 み付ける。懐胎した蜂が懐胎した蝶 を餌にし、芽キャベツの問題は解決 というわけだ。

 こちらは身の毛のよだつような Edgar Allan の詩:交配の最中にオ スの蝶からメスの蝶にベンジルシア ン化物が贈られた。「ベンジルシアン 化物は抗催淫性のフェロモンなので メスの蝶はそれ以上交尾をしない」と Dr. Hilker は言う。「オスは自分の父 系を守ろうとしてしたことだが、実際に は自分の子孫を危機にさらしているこ とになる。」 

 植物は悪意があろうとなかろうと互 いをスパイしあっている。Science【米国 の科学誌】や他の雑誌にも記載さてい るが、 Dr. De Moraes と彼女の同僚 は、ネナシカズラの苗(アサガオの親戚で寄生雑草)が、宿主として有望なトマトなどの植物から放出される揮

発性物質を感知できることを発見した。するとネナシカズラの苗は容赦なく宿主に向かって伸び、餌食の茎を取り囲むと生命師部・維管束組織 【栄養素を植物全体に輸送する生体組織】を吸い始める。さらにこの寄生植物は 健全なトマトと弱っているのとを嗅ぎ 分けることもでき、元気のいいほうに 向かっていく。 「もし植物に関して多くの知識をもっ ていたとしても」 Dr. De Moraes は言 う。「植物の高性能ぶりには驚かされ る。」 私たち動物が生きるために殺さなけ ればならないというのは、日々のちょっ とした悲劇だ。植物は太陽から食物 を手に入れる道徳的な独立栄養生 物だ。だがそのことを植物が鼻にかけ ると思ったら大間違いだ、彼らは生き 延びるための戦いで忙しすぎるのだ から。

 

本稿は承認の下再発行された。 (C)2013 The New York Times

 

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How Plants Defend Themselves
By Natalie Angier

April/May 2013