自由な農業:ヴァンダナ・シヴァへのインタビュー

国際的な活動家が、遺伝子組替え作物 (GMO) や工業的農業の過ちについて語る。



最近、事ある毎に、遺伝子組み換え生物(GMO)がニュースに取り上げられる。科学者は工学的に作り出された食料の安全性について論争を繰り広げ、消費者保護団体は食品へのGMOラベル表示を強く要求している。また、農業関係者や園芸愛好家たちは、自分たちの畑で育てることができる品種が制限されることになる、企業による種子の独占を強い口調で非難している。これら食料主権に関する論点を念頭に置、長年グローバリゼーションに反対する運動を続けているヴァンダナ・シヴァ (Vandana Shiva)に話を聞いた。

 ヴァンダナ・シヴァは、科学・技術・自然資源政策研究財団(Research Foundation for Science, Technology and Ecology)、およびナヴダーニャ有機種子ネットワーク(Navdanya organic seed network)の創設者である。さらに、食料主権を守り、市民的自由、生物学的多様性を擁護する、優れた論客でもある。30冊ほどの著作を持つ彼女はまた、自ら始めた世界規模のシードフリーダム運動(Seed Freedom movement)を推進し、イベントを主催して種子を守る人々を讃え広く世に知らしめている。(詳しくはSeed Freedomのホームページを参照)。シヴァはインド北部で始まったチプコ(Chipko)運動に参加しオークの森を守る活動の中で自らの使命に目覚めた。チプコとはヒンディー語で「抱きつく」を意味し、1970年代の企業や政府による不法占有、とりわけウッタラーカンド(Uttarakhand)州森林局が承認した森林の乱伐に反対する村民の権利を守る運動である。【チプコ運動は、現地の女性たちが中心となって木に抱きつき、伐採を阻止しようとした非暴力運動である。運動に参加した村民の人権がないがしろにされ、多くの犠牲者を生んだ。】彼女は天から与えられた仕事として、今日に至るまで、天然資源とその土地固有の伝統農法の保護に取り組んでいる。それは実に遠大な取り組みである。

 

マザーアースニューズはシヴァにインタビューし、食料政策の重要性とそれがみなさんの食卓や菜園に与える影響について語り合った。

 

マザー: 遺伝子組み換え(GM)作物は増え続ける人口を支えるために必要不可欠であるとして推進されていますが、あなたはどうお考えですか?

 

ヴァンダナ・シヴァ:バイオテクノロジー企業が言うほど遺伝子工学によって収穫量は増えていません。(憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists)によるレポート『失敗に終わった収量増の取り組み』を参照。)

 

マザー:それにもかかわらず、GM作物は北アメリカの農地面積の80%以上を占めます。どうして農場主たちはこの疑わしい技術を受け入れるのでしょうか?

 

シヴァ:彼らがGM作物を選択しているわけではありません。産業が他の選択を許さないのです。インドにおける綿花栽培の場合、綿花産業自体が公の調査を妨害し、Bt綿花(バチルス・チューリンゲンシス細菌を遺伝子に組み込んだ品種)しか売ることができないライセンス契約で企業を縛っているのです。高騰する種子のコストと不作のため多くの農民は泥沼の借金地獄に陥り、それを苦にした自殺が絶えません。【Bt綿花は殺虫性毒素を持ち、殺虫剤が不要になるという触れ込みであったが、害虫が耐性を持つようになるなど効果は限られ、農民たちは高額の種子代に加えさらに殺虫剤を購入しなければならなくなった。負債を抱えて立ち行かなくなった農民の多くは、借金で購入した殺虫剤を飲んで自ら命を絶った。】米国では、企業に属さない独立した研究者がGM種子を研究することすらできません。バイオテクノロジーと化学製品を扱う企業であるモンサント社が種子を提供しないからです。以前、米国の農業関係者の団体にGM大豆を栽培している理由を尋ねた時、ある農業経営者は「大企業に首根っこを押さえられていて、彼らが売ってくれるものしか育てられないからだ」と答えてくれました。

 

マザー: 持続可能な農業は今後拡大して現在の産業システムを置き換えていくとお考えですか?

 

シヴァ: えぇ、社会が意志と強い関心を持ち続ければ拡大していくでしょう。


マザー: あなたのエッセイ「食の解放に向けて」 の中で、「食はファシズムが活動するた めの場になった」とお書きになっていま すが、どういう意味でしょうか?


シヴァ: 私は、今起こっていることを「食のファ シズム」と表現しましたが、それはこのシステムが全体主義の独裁の上に成り立っ ているからです。種子の特許において は、不条理な法体系が種子の独占を 許しています。種子に関する法律では 画一性が求められ、多様性は罪であり、 自然受粉で得られた種子を使うことは 犯罪なのです。これこそファシストその ものでしょう。カナダ人のパーシー・シュ マイザー(Percy Schmeiser)の一件のよ うに、作物の汚染を理由に、大企業が その農場主を訴えた【GM 作物の花粉 が風に乗り農地に侵入して自家開発の 品種を汚染したにも関わらず、企業は 財産を窃盗されたとして農場主を訴え た】ことにファシズムの別の面を見ること ができます。それぞれの土地で工夫を 凝らして作物を育てることを違法とする 偽りの衛生法は食のファシズムです。ま た、アルパド・プシュタイ(Árpád Pusztai)とギレス=エリック・セラリーニ (Gilles-Eric Séralini)のケースのように、 科学者を攻撃し独立した研究の口封じ をすることは知のファシズムの一例です。 (アルパド・プシュタイは世界的に尊敬 されている生化学者だが、遺伝子組み 換えポテトがラットに有害であることを 示す研究を公表したために難癖をつけ られ 36 年間勤めたローウット研究所を 追われた。ギレス=エリック・セラリーニ はカーン(Caen)大学の分子生物学の 教授で、除草剤のラウンドアップとラウ ンドアップに耐性のあるトウモロコシの毒性に関する発見について発表した 論文が、あろうことか、当の科学誌 Food and Chemical Toxicology によっ て取り下げられた。)


マザー: あなたから見て、より持続可能な食料 システムを構築する上での最大の障害 は何でしょうか?米国において、また地 球規模ではいかがでしょうか?


シヴァ: 最大の障害は工業型農業と GMO に 対する法律面での優遇や直接的な補 助金といった政府による支援です。私 が食の民主主義について語る理由がこ こにあります。よりよい食のシステムを創 ることこそが民主主義社会が目指すべ き基本的な目標です。


マザー: 統治という点で、国際的な取引や投資における政策は、ごく普通の農業関 係者や園芸愛好家にどのような影響を 与えているのでしょうか?


シヴァ: インドの農民の自殺は、後に世界貿 易機関となる自由貿易協定の前ラウン ドがもたらした悲劇の「置き土産」です。 インドはモンサント社のような種子の巨 大企業を市場に受け入れることを余儀 無くされました。輸入制限は強制的に 撤廃させられ、結果として大変な農業 危機がもたらされました。ここでは「自由 貿易」とは、企業が、地球や私たちの経 済と民主主義を破壊する自由を持つという意味なのです。環太平洋経済連携 協定(TPP)は現在、米国の参加を取り 決めているところですが、さらなる悲劇 をもたらすことになるでしょう。なぜなら、 TPP は企業の持つ知的所有権と GMO を強硬に推進しているからです 。モンサント社は知的所有権条項を起案し、巨大多国籍企業であるカーギル社が 農業協定の条文を担当しました。さらに ひどいことに、TPP 合意には投資家対 国家条項が含まれており、企業が国家 を訴えることもできます。(詳しくは環太 平洋経済連携協定の自由貿易交渉 http://goo.gl/QV4Wff を参照。)


シヴァ: こういった企業によるグローバリゼー ションの流れは、草の根組織の協力に よって、変えることができるとお思いで すか?


シヴァ: この手のグローバリゼーションは破綻 しつつあります。取り返しがつかなくな る前に別のやり方を構築することが、私 たちが取り組まなければならないチャレ ンジです。


マザー: 別のやり方として、私たち一人ひとり が食料主権を取り戻し、持続可能な社 会を築くためにできる具体的なことはあ りますか?


シヴァ: 種子を守り、食べられるものを自分の 庭で育てることです。 

 


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Farming Free: An Interview With Food Sovereignty Activist Vandana Shiva

By Thaddeus Christian 

June/July 2014