家庭菜園の最適な水やりとは

水を無駄なく使って、乾燥期・高温期に野菜を栽培しよう。夏場の水道代を抑えられる浸透ホース、点滴 (ドリップ) 灌漑、雨水貯水槽など、効率良く菜園に水を撒く方法をご紹介。

  点滴灌漑システムが一番向いているのは、長い畝に作付している作物で、栽培期間中の節水効果はかなり期待できる。作物と畝の間のスペースを雑草を取り除いた状態に保つのがコツ。これを忘れると、雑草に貴重な水を横取りされてしまう。

  今期のガーデニングシーズンは、気候変動の影響で、高温や干ばつの被害が各地で予想される。数週間、場所によっては数か月間にわたって、降水量が強い日射しによる水分蒸発に追い付かない事態に見舞われる方も多いことだろう。作物が常に水分を摂れるよう、水を効果的に利用する菜園管理術の中から、お馴染みの浸透タイプの点滴ホースから、やや耳慣れない「根元給水制限」まで、いくつかご紹介しよう。

  作物の栽培スタイルと品種によって、最適な水やり法は若干異なる。葉物、玉ねぎなどの浅根タイプを、畝ではなく面で栽培している場合、じょうろを使って手で撒くのが何より簡単でよい。作付面積が広く、手入れに時間のかかる、マメ類、トウガラシ、スイートコーン、トマトなどの場合、浸透ホース、点滴灌漑、あるいは溝を上手に管理する手法の方がお勧めだ。普段雨が降っても、水を多めにやらないと繁殖できないマメ類やスイートコーンには、ほぼ日常的に水分補給が必要。

 

除草とマルチングで水やり効率アップ

  水を無駄なく利用できている菜園では雑草が生えない。ミシガン州立大学の研究によれば、雑草対策とマルチングが適切なら、かんかん照りの夏に、1週間で最大2.5センチ×作付面積分の水を節約できる。問題は雑草。クラブグラスやシロザなどは、その植物組織をわずか450グラム造るのに、300リットル以上もの水を摂取するのだ。

  基本的に、有機栽培で土質改善・雑草対策を施していれば、水効率のよい菜園管理が可能になる。作付のたびに堆肥や有機分解肥料を土に混ぜ、有機分解するマルチをかければ、土の保水力が維持できる。一般に、刈り取った芝生、葉、コーヒーの出がらしなどの有機物質を撒けば撒くほど、栽培する作物が水分切れを起こしにくくなる。私がマルチを絶大に支持する理由はまだある。有機物質に分解する前でも、マルチをしっかり敷いておけば、土の温度上昇を抑えて、土を日射しから守れるので、水やりや雨のあとで土が急速に乾くのを防ぐことができる。

 

浸透ホースと点滴灌漑システム

  私が長年愛用する7.5メートルほどのホースは、端から端まで、均一に汗のように水が染みだす優れものだ。浸透ホースは、密集型の作物や、コンテナで各種まとめて栽培している場合に特に有効だ。手作りするなら、使い古した、水漏れするホースを誰かに譲ってもらって、数インチごとに小さな穴を開けるだけ。排水側の口をふさげば出来上がりだ。

  点滴灌漑システムとは、ホースやスリットの入ったテープ、細かい穴、エミッタやドリップチューブなどを張り巡らせて一定時間ごとに水を撒くというものだ。株どうしの間隔がいろいろある作物に向いており(株と株が離れている場合は、エミッタの間隔を広げればよい)、地面に起伏があるとホース内の水圧が不均等になり、水が均一に出てこなくなるため、なるべく平坦なほうがよい。広い菜園の場合は、ドリップテープは安価でよい(Aqua/Traxx、Chapin、T-Tapeなどがお勧め)。エミッタやドリップチューブに開けた小さな穴は土の粒子で目詰まりを起こしやすいので、点滴灌漑システムと蛇口の間にはフィルターを最低1つは取り付けよう。

  一般的に、給水ホースの場合は最低でも蛇口の水圧が必要だが、点滴エミッタシステムの中には、高い場所にある貯水槽や高所設置型雨水タンクから水をあげたい作物へ、重力だけでじわじわ給水できるものがある。ニューメキシコ大学では、約190リットルの貯水槽を人の頭の高さの支柱や台に設置し、そこから複数の点滴ラインを引いて、広い菜園に水を撒くことに成功している。

  給水ホースや点滴システムで土の深部にまで水を届けるには、水を数時間流しっぱなしにしてから、1時間ほど止めて浸透させた後、追加でさらにもう少し撒く。粘土質の場合は特に、給水ホースや点滴灌漑システムで撒いた水は底土にゆっくり届くので、土が乾燥しない程度にこの方法をまめに利用するとかなり効果がある。給水ホースのスイッチ切替を忘れないように、タイマーを使うとよい。あるいは、手首にゴムバンドをしておいて、就寝の身支度をするころに、まだそのゴムバンドが手首についたままだったら、水の止め忘れ、と気付けるようにするのもい良いだろう。

 

水差し容器を埋め込む

  すじ蒔きの作物に効果的な点滴システムだが、畝幅を広くとって育てる作物の場合は、水の容器を埋め込んで、それを囲むように作付しておくと、根域の深さ10~20センチまで給水できる。重力の作用で水を土中に浸透させる埋め込み型の水差しなら、水の止め忘れもない。古代から、多孔質のollasと呼ばれる素焼き(テラコッタ)の水差しを、注ぎ口部分だけを地表にのぞかせて地中に埋め込む手法は存在していた。満たした水が、素焼きの容器からゆっくりと染み出て作物の根元に届く。手作りのollasはあまり市販されていないが、専門の通信ネット販売Dripping Springs Ollas や Growing Awareness Urban Farmで手に入る。                   

  外皮の堅いウリ類が、我が家の堆肥の中で1年以上保存可能なことが分かったので、今夏は、これを生分解のある「ollas」として使ってみようと思っている。小さな穴をいくつか開けて、くびれた部分でカットし、種を取り出せば、ウリ版 ollas の出来上がり!

  普通サイズのプラスチック製のミルクポットや、1リットル容器でも、そのまま ollas として使える。まず3分の2ほど水を注いで冷凍する。しっかり凍ったところで取り出し、ドリルや釘で小さな穴をたくさん開ける。穴は容器の肩の高さまで全面に(最初に冷凍するのは、その方が穴開けしやすいから)。土に埋め込むのは春先の作付前に。マメ類が伸びそうな場所か、トウガラシ3株の中央にそれを埋めて、必要に応じて水を満たす。。

  苗床用の黒いプラスチック鉢があれば、これも水差し容器に転用できる。鉢底に新聞紙を二重に敷き、小石を敷き詰め、縁の高さまで地中に埋めて、適量の水を注ごう。

 

簡単な給水溝

  真夏の夕方、乾いた風が吹くと、作物たちは「水!水!」と声を上げる。よくよく観察してみると、昔ながらの給水溝はとてもよくできている。溝が効果を発揮するには、平らな菜園で畝が並んでいる必要がある。まだ苗が幼く、鍬を入れて雑草を抑えている間は、畝の少なくとも一方(もしくは両方)に浅い溝を掘る。作物にちょっと水をやりたい時、水路の一方の端にホースを置いて水を出し、雑用の1つでも片付けている間に水路に水が溜まったところで、水を止めてホースをしまうだけ。

  マザーアースニューズ誌のシェリル・ロング編集長は、自身の菜園にこの灌漑溝を愛用している。「イチゴやアスパラガスなどの多年生植物には浸透ホースを利用しますが、一年草には、作付直後に鍬で灌漑溝を掘るほうが簡単です」何の装置も要らず、直接根元に水を送れるので、通路や関係ない場所に無駄に水を撒いてしまう心配がない。

 

スプリンクラーの是非について

  比較的安価で人気のスプリンクラーは、種まき直後に水を欠かしたくない時に手早く水撒きできる。スプリンクラーを定期的に使用すると、地域によっては、地表に蓄積した塩分を溶かす効果もある。頭上からの給水は、根が広範囲に広がる大型作物、例えば、播種からたった11週間で根が直径6、7メートルにも成長する冬カボチャなどに効果的だ。

  最大の欠点は無駄が多いこと。通路や、何も植わっていない場所にも水を撒くことになり、かなりの量が蒸発したり風に飛ばされたりする。また、湿気の多い日には、スプリンクラーの水がかかった葉は乾きにくく、病害に罹りやすくなる。スイートコーンや支柱につないで支えているトマトなど、背の高い作物にスプリンクラーで水を撒く時は、作物よりも高い位置から撒かなければならないので要注意だ。いずれも、もっと効率のよい方法がありそうだ。

 

雨水タンク

  雨水を利用するなら、屋根の雨どいから集水した雨水を直接菜園に送るのも1つの方法だ。作物が根を張っている土は貯水力が高いので、土の水分量を保つことができる。「作物栽培に雨水を上手に利用する(A Better Rainwater-Harvesting System)」に、これに関する解説を掲載した。屋根の雨水の菜園利用には、雨水タンクを使う人が多い。雨水タンクを菜園より30センチほど高い位置に設置できれば、菜園まで水を引き込むのは簡単。重力、つまりサイフォンの要領で、水は勝手に菜園まで流れて行ってくれる。

  では、家が菜園より低い場所に建っていたら?ちなみに、我が家の菜園は段々畑になっており、最上段は最寄りの雨水タンクより3メートル以上高いところにある。水源が菜園よりも標高が高いのは、よくあることだ。我が家の近くには、公共の電力網を一切使わない有機菜園があって、水源からソーラーポンプで水を汲み上げ、菜園の一番高いところに運び、タンクや地上貯水槽に貯めている。水はそこから重力に従い、灌漑溝を通って下りていく。システムは単純明快で、ご家庭の庭にある人工噴水に水を引くのにも使えるものだ。晴天の日には、この安上がりなソーラーポンプでも、雨水タンクから水撒き用タンクに簡単に水を移動できて実用的だ。

  地上貯水槽として利用するなら、雨水タンクの数を増やす、池を掘ってビニール張りの防水をする、食料用の中容量コンテナ(容量1㎥)の中古品をネットで購入する、などの方法がある。農業用の金属製貯蔵タンクもお手頃で、用途が幅広く、耐久性にも優れている。例えば夏期に、菜園の一番高い場所に置いておけば、貯水タンクとしても、洗い場としても利用できる。春と秋には、シイタケの原木の浸水、犬のお風呂など、水びたしになる仕事に利用できる。

じょうろで運ばないと水やりできない場所もあるが、重くて大変だ。8リットル前後入るものが主流なので、満杯にした場合の重さは約9kg。自力で運ばざるを得ない時、私はじょうろを2つ用意し、それぞれに半分ぐらい入れる。じょうろ1つだと、あふれるほど入れることになってしまうが、2つならこぼさずにすみ、腰を痛めることもない。さらにお勧めなのは肩掛け用のてんびん棒。2つの容器を運ぶ際にいろんな筋力を使うので、上手にバランスをとりやすい。

 

一段低い畝やくぼみを利用した作物栽培 

  アメリカ南西部や西アフリカのように、一年を通じて乾燥気候で、土地がやせている場合、畝を一段下げて、貴重な雨が集まるようにしてやると、作物は驚くほど成長する。ニューメキシコのズニ・プエブロ族(Zuni Pueblo)は代々、畑を60~90cm四方に区画分けし、各々の境目を畝のように掘り起こして、畑をワッフル模様にしていた。雨水は畝を伝って畑にいきわたり、作物にはちょっとした日陰や風よけにもなる。

  アフリカの小国ブルキナファソでは、複数の穴 (幅約20cm) を掘って、満タンではなく少し余裕を持たせて堆肥や肥料を入れておく、Zaiという穴方式がよく見られる。掘り出した土の小山は、二列の常設の植床穴(中の堆肥や肥料は毎年新しいものと交換)の日よけとなり、穴に水を流れ込ませる。「ケンブリッジ大学出版局」刊行の2011年報告書によると、Zaiの手法により、乾燥した砂漠気候でのキビの収穫量が少なくとも3倍になったほか、エチオピアの荒れた土地ではじゃがいもの収穫量は5倍、マメ類の生産効率は3倍になり、水の利用効率が平均で500%アップするなどの奇跡的効果を上げているとのことだ。

 

日よけと風よけ

  照りつける太陽と強風という過酷な環境下で乾燥しがちな菜園では、日よけ・風よけを作物に沿って取り付ける、日よけになる作物を栽培する、といった方法で暑さ対策が可能だ。例えば、家の窓辺で使い古した日よけスクリーンや軽い素材の古着を再利用して、トマト株の南側の支柱に取り付けるだけで、この効果が得られる。テキサス州では、風が乾燥しており、1年中菜園の給水が欠かせない地域が多いので、秋植えの穀類(小麦、ライ麦、モロコシ、オート麦など)を育てて冬季栽培のタマネギや春野菜の風よけにしたり、スイッチグラスや背の高いヒマワリやトウモロコシを夏の壁となる作物として役立てている。壁となる作物は、本来のガーデニングシーズンに入る前に、菜園の周囲にすでに繁殖した状態まで育てておくのが理想的だ。

  防雪棚は、金属製の支柱に簡単に取り付けられて、立派な風よけになる。高温・乾燥地域では、トマトやトウガラシの根域をこれで覆い、葉の部分は太陽を当てて栽培している。風よけはごく小さなものでも役に立つ。植え替え後の苗のすぐ隣に屋根板一枚を垂直に立てれば、強い風や日差しから守ることができる。

 

根域給水制限

  「根域給水制限」という、まったく新しい水やり法について、2009年にコペンハーゲン大学で研究結果が報告された。それによると、トマトを栽培する際に、鉢の中を2分割しておき、一回の水やりで根の半分にしか給水されない構造にした。根の半分がカラカラに乾くようにしたところ、トマトは巧みに身を守る手段に出た。葉の気孔は水分の蒸発を防ぐために半分閉じ、根はより効率的に窒素を取り入れようと貪欲になった。一方、成長は続き、果実は実り続けた。トマトは給水された側で水分や栄養分を存分に摂取していたからだ。今日、この「根域給水制限」は、トウモロコシ、ブドウ、トウガラシ、ジャガイモなど、様々な作物栽培に採用されて成果を上げている。

  「根域給水制限」を家庭菜園に導入する方法がある。種を蒔いてから6週間、または十分に生育するまでは通常通り育てる。浸透ホース、点滴ライン、または灌漑溝を使って、一度の水やりで作物の片側にだけ給水する。次に水やりが必要になったら、反対側にだけ水やりする。この「根域給水制限」で収穫量はやや減るが、果実の質に影響はなく、節水によるコスト削減でプラスマイナスゼロだ。「根域給水制限」を浸透ホースや点滴灌漑と組み合わせて導入すれば、水効率がかなり上がるだろう

 

根を深く張らせる

  野菜作物の根は驚くほど深く伸びる。種蒔きから10週間たったホウレンソウと成熟のほぼ終わったトウガラシの根は、ご覧のように深さ1.2メートルに達している。作物の成長の過程でどんな水やり法をとるにせよ、地下深く、頻度を抑えて給水を行っていれば、根は力強く深く成長する。土表面だけ幾度も給水するのは逆効果である。

 

渇水追跡システムを活用する

  渇水期に入ってしまったら、それがいつ終わるのか気になるところだ。いつごろ雨が降るのか予想するのに役立つツールをいくつかご紹介しよう。

  U.S. Drought Portal: 第一級の渇水監視ツール。ZIPコードで検索でき、今後の渇水警報も掲載されている。

  U.S. Drought Monitor: ネブラスカ大学が複数の連邦機関と共同運営している。9つにエリア分けして、要旨とレポートを毎週更新している。

  Climate Prediction Center: ナショナルウェザーサービス(National Weather Service)が運営し、渇水関連の気象データと予報を毎日更新している。

 

渇水に強い作物

  比較的暑さに強い品種の作物がある。菜園家として、渇水に耐える品種を知っておくのも賢明だ。お勧め作物の表をご参照。

 


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Choose the Best Garden Watering Systems

By Barbara Pleasant 

April/May 2015