安価な油脂や家畜飼料を供給するために大規模農業による大豆生産に依存した結果、消費者がリノール酸を過剰摂取するようになったことが近年の研究で明らかに。リノール酸は、肥満と関係があるオメガ6系脂肪酸の一つだ。
リノール酸の大半は、大豆やトウモロコシで育った工業型畜産動物の肉や乳製品で摂っている。
事実というものが、折れ線グラフ1枚でこれほど露骨に、くっきりと浮かび上がるのも珍しい。注目は1960年代半ば。アメリカが現在抱える、肥満の流行など数多くの健康問題は、この時期の社会的連携によって始まった。嵐が吹き荒れたのが読み取れるだろう。
データの出典は2011年の意欲的な研究報告「(仮訳) 20世紀の米国におけるオメガ3系・6系脂肪酸の摂取量の推移 (Changes in consumption of omega-3 and omega-6 fatty acids in the United States during the 20th century)」で、「アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリッション (American Journal of Clinical Nutrition)」誌に発表された。「現代の食事と100年前に一般的だった食事の違いは何だろうか?」糖尿病、心臓病、肥満、精神疾患など、様々な現代病の根本が問われた。研究では、食材373品目の消費動向を調査したのち、1906年から1999年までの食品成分の変遷についてさらに考察を深めた。現代の鶏胸肉と1909年当時の鶏胸肉の違い、などもそのひとつで、これが決定的に重要であることが判明。分析したのは脂肪の摂取状況だが、漠然と脂肪全般ということではなく、特定の脂肪の摂取量に注目したのだ。
安価な植物性油脂の時代
意外に思うかもしれないが、アメリカの1人当たりの脂肪摂取量は、この100年で目立って増えたわけではない。一方、炭水化物摂取量は増えており、低炭水化物食を提唱するグループは、これを肥満の流行の唯一の原因と主張してきた。上記の脂肪分析結果は、この低炭素食仮説と矛盾はしないものの、少なくとも大豆油摂取量の爆発的増加も肥満流行の原因だとすることができたのは確かだ。大豆一つに工業型農業を集中させた結果といえる。
脂肪分を含む食品は無数にある。データが始まる20世紀初頭のエドワード7世時代には、脂肪と言えばラードとバターだったが、今ではマーガリン、キャノーラ油、アマニ油やオリーブ油もある。1960年代半ばからは、一人当たりの大豆油摂取量は突出して上昇、1,000倍に膨れ上がったのが目立つ (グラフをご参照)。同研究の対象となった食品で、これほどの爆発的変化を見せたものは他にない。
大豆が主原料の、どこにでもある植物油、今はスーパーで普通に並んでいて、加工食品によく使われるのも原因ではある。ただ、家畜の飼育法も関係している。現在、工業型畜産で飼育される動物や鳥、養殖魚の飼料は、ほとんど例外なく大豆由来の飼料や油脂だ。飼料の成分組成は、私たち消費者が購入する肉類、牛乳、卵の成分組成となる。本研究も他の同様の研究も、はっきりと指摘しているのは、「工業型農業で生産された肉、卵、乳製品、さらには養殖魚を介して間接的に食べている大豆が、私たち消費者が食べる大豆のかなりの割合を占めている」ということだ。
リノール酸でオメガ6系脂肪酸過多に
それがなぜ問題なのだろう。大豆油はリノール酸含有率が非常に高い。このリノール酸は必須脂肪酸であるオメガ6系脂肪酸のひとつで、肥満に関係している。数十年前の1,000倍の大豆を消費しているのだから、リノール酸もはるかに大量に摂取していることになる。オメガ6系脂肪酸、オメガ3系脂肪酸を多く含む食事は炎症と関連性があるのだが、肥満についてはリノール酸が関わっていることが明らかだ。
リノール酸自体が問題なのではない。必須脂肪酸 (体内で生成できないので摂取する必要がある脂肪酸) であることに変わりはない。怖いのは過剰摂取で、「 Obesity 」誌 【0besity=肥満】 に発表された2012年の研究報告にその証拠が示されている。実験用動物にカロリー比でリノール酸含有率8%のエサ (現代アメリカ人の典型的な食事) を与えたところ、体重が増加した。リノール酸含有率を1%に減らし (人類の祖先の食事に準じる)、減った分のカロリーを別の脂肪で代用したところ、スイッチを切り替えたように体型が元に戻った。同じカロリー量の高脂肪食でも、脂肪の種類を変えたら肥満の進行は止まった。
ただし上記の研究も、長期的な健康被害については重く捉えていない可能性がある。2010年に発表されたフランスの論文では、ある世代の習慣が次の世代に受け継がれることで起きる諸問題を研究するエピジェネティクスを取り上げていた。リノール酸が肥満に関わっていることを確認した上で、太ったマウスを数世代に渡って飼育し続けた結果、同じエサでも後継世代のほうが皆よく太った。影響は世代間で蓄積されていたのだ。。。
翻訳全文は今月末発行予定。
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Linoleic Acid in Soy Strongly Linked to Obesity Epidemic
By Richard Manning
August/September 2015
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