賢明な森林管理から得られること

森林を合理的に間伐し、確かな情報に基づいて管理していれば、火災が起きても鎮圧しやすいばかりでなく、農場や市場向け菜園用の堆肥を何エーカー分も確保することができる。

ジョエル・サラティン (Joel Salatin)  


バージニアマツの枯れ木1エーカー分を家畜用の敷き藁に使って、広さ50エーカーの農場で十分使える量の堆肥ができた。

農家も菜園家も、木を間引くなどの戦略的な植林管理行為は神聖な森を汚すと思っているのか、森林には手を加えずに放置していることがあまりにも多い。管理が必要なのは、菜園の裏手にある植林地も、農場のあらゆる場所とまったく同じ。その資源的価値は単なるストーブの薪に留まらない。

 

森林管理の歴史

 「600年前の北アメリカでは、木が密集する森林はあまり見られなかった」初めて聞く人もいるだろう。一部の先住民族は、牧草など動物の食料を育てるため、定期的に一帯を焼き払い、低層の草木の密集度を下げていた。広い空間で生育する木々は強く、枝を大きく広げて多くの養分を蓄積できた。(アメリカ先住民の森林管理法については、「アメリカの火災―原野および農村の火災における文化的歴史」/ステファン・J・パイン著/Fire in America: A Cultural History of Wildland and Rural Fire by Stephen J. Pyne をご参照)

 植民地時代以前の地勢に関する新たな発見により、森林の生態系は細心の注意を払って意図的に手を加えられ、植栽と動物の群集が入れ変わってきた歴史が明らかになった。低木の雑木林が定期的に焼かれるので、落雷などによって火災が発生したとしても、燃料不足のため燃えさかるような山火事には発展しなかった。現代の森林業者の間でも、これは「制御可能な火災 (cool fire)」と呼ばれている。このような比較的穏やかな火災は、木のてっぺんに到達するのではなく地面を這うように広がり、低木、イバラ、若木などを焼き払っていく。

制御可能な火災で焼かれるのは、主に弱い木だ。強い木は生き残り、競争相手がいなくなった環境でさらに力強く生育する。菜園の野菜も、空間が十分にあり雑草などの敵がいなければよく育つのと同じだ。

 目を閉じて想像してみよう。意図的に焼かれた西暦1,500年頃の森には、木々が広い空間にゆったりと生えていることだろう。ねじれ、病気、発育不足といった生育不良の木はほとんど見られない。北アメリカの森林は、ヨーロッパ人が上陸するまで何百年にもわたって、このような管理のもとで繁殖してきた。弱い木を排除し、優性の木を残す、これが重要だ。当時は入念な森林管理によって、種の進化が促され、初期の入植者たちが「壮大な大聖堂級」と書き残したような巨木が育った。

 アメリカ先住民時代の林業では、その賢明な管理法の自然な結果として、大きく、枝を豊かに広げた樹木が育っていた。また、主に低木や柱材を使って住居などの構造物を建てたり、料理の燃料にしていた。のこぎりを道具として使っていなかったため、先住民は大きな木を効率よく切り出すことができなかった。こうして、先住民が使わない木は巨木に成長することができた。

 

管理の失敗

 上陸した植民者は、森で最も価値が高いのはその巨木だと考えた。彼らには斧やのこぎりといった鋼製の道具があったので、巨木を切り出し、さらに製材もできた。

 何百年、いや何百万年とアメリカ先住民たちが受け継いできた林業が覆されてしまったのだ。巨木を偏重した結果、背の高い優性の木々から伐採されてしまった。現在私たちが見ている森は、数百年かけて最も優性の木が切り倒され、劣性の木ばかりが残された状態だ。さらに、あらゆる手段を講じて火災を封じ込めるという誤った予防対策を何十年も続けた結果、森では植物が過剰に繁殖。限られた水、太陽光、生育するための空間を求めて、ストレスで痩せ細った木々がこうした植物と競争することになった。

 劣性の貧弱な動物をわざわざ家畜として育てる畜産農家はいない。翌年蒔くために、わざわざ弱い品種のタネを選んで残すタネ生産者もいないだろう。生態系と農業の歴史というのは、優性種が繁殖可能状態になると、劣性種は死滅するか天敵に駆逐されるという、遺伝子選択が順に繰り返されているようなものだ。

 最近の森林管理のコンセプトは真逆で、最優性の木を切り出し、劣性のものを残している。森林業者の間では「高度」とされるこの手法は、私たち(木に抱きつく連中 【tree-hugger】 と呼ばれているそうだが、光栄な名前だ)にとっては大問題。 劣性種から順に切り出し、優性種を残して大きく育てるのを奨励する、木をベースにした経済が私たちの考え方だ。

 

個人の農場にある植林地

 植林地をより良くするには、真っ直ぐで高さのある堅牢な木ばかり切り出し続けていては駄目で、むしろ病気にかかった木、無気力の木、ねじれた木、弱い木などを取り除くことを考えねばならない。こうした不完全な木が残っていると、遺伝的に優れた木が繁殖できるはずの貴重な空間が奪われてしまう。思い起こせば、役目を終えた牛も優秀な牛と同じだけ食べる。酪農家が役目を終えた牛に替えて優秀な品種の雌子牛を育て始めても、反対する人はいないはずだし、最良とは言い難い野菜の種を排除するという考え方が否定されたりしないはずだ。

 ではなぜ、劣化した遺伝的に良くない環境の植林地を、神聖だからチェーンソーで伐採などできない、と思ってしまうのだろう。私たちが所有する植林地の多く(あるいは全部)は、雑草だらけで健康な木よりも傷んだ木のほうがはるかに多い。これらを取り除くのに要する時間と労力を、金銭的に工面する手立てはあるだろうか。

 今日の森林経済においては、材木が森の唯一の価値だと認識されている。材木を切り売りすることで維持される森林経済は、森を本質的に劣化させるだろう。間伐行為を正当に評価し、植林地ですぐれた遺伝子が再び育ち、数百年にわたる種の劣化から立ち直るよう手を打つ必要がある。

 

劣悪な森から堆肥経済へ

 ここで、次の質問から驚くべき波及効果を考えてみよう。「現在米国で化学肥料に費やされているお金を使って、木からできる土壌炭素で土を豊かにできたら、その結果はいかに?」まともに検討すると1冊の本になるので、さわりだけ紹介したい。

 ごみとして埋め立てられる廃棄物の大部分は、堆肥にできる。これは私たちの社会が抱える不都合な事実だ。マザーアースニューズ購読者のみなさんなら、炭素が土壌の形成に不可欠であることはご存じだろう。マザー誌には、堆肥作り、マルチ、集中型放牧法、ミミズの飼育など、大地を豊かにするためのヒントが満載だ。

 あらゆる化学肥料を堆肥に切り替えるとしたら、膨大な量の炭素が必要になる。が、必ずしも遠方まで探し求める必要があるわけではない。最近コロラド州北部を訪れたが、何百万エーカーも枯れ木の森が広がっていて、愕然とした。枯れ木ばかりになった理由を旅の主催者に尋ねたところ、これしかないという感じに即答した。「多様性の欠如、火災予防対策の立案ミス、過密繁殖。この3つが、侵襲性の病気や、木を弱らせる甲虫類や蠕虫類を寄り付かせてしまった」

 今日では、チェーンソー、チッパー(破砕機)から砕木運搬機、トラクタショベルに至るまで様々な機械があるので森林管理が怠慢に行われており、山火事の多くはその結果起きているとトキャラクターのスモーキーベアも大規模な山火事を防ぐことができなかった数十年を、今後も踏襲するのではなく、森を積極的に改善する植林法を再構築してはどうだろうか。弱った木々は全て取り除いて堆肥にし、賢明に、経済を包括的に捉えることも、その気になれば可能だろう。

 昨年冬、我が家では直径48cmの木材を切断できるVermeer製チッパーを1台借りた。2日間かけて、0.4ha余りの古い、枯れかけたバージニアマツをすべて切り出した。トラクター4台分になったこの炭素資源を、冬の間、牛、ニワトリ、ブタたちの敷き藁として使い、春には堆肥として、農場20haの土壌改善肥料として撒いた。

 0.4haの森の枯れ木が農場20ha分の堆肥になるのであれば、これを国策として行えばどれほどの効果を生むだろうか。たとえば衝立で仕切られた狭いオフィスでパソコン上の仮想の数字を追いかける仕事ではなく、土地の整備に数千もの雇用が創出されるだろう。実在する土地で、実在する人々のために、本当に有意義な土地管理という実体のある仕事に関われるのだ。      

 そんな仕組みが実現したら、ミミズは生き生きと土の中を踊り回るだろう。有毒な化学物質から逃げ回るのではなく、堆肥をエサとしながら、土に通気性を与え、ミネラル豊富でふかふかな状態にしてくれることだろう。

 木質ペレット技術は個人で扱えるレベルまで急速に進んでおり、新たな林産物事業となりつつある。木質ガス、ロケットストーブ、木質燃料を燃焼させて蒸気で動かすエンジンなど、木材を動力とする最新式テクノロジーを用いれば、利益を生み出す森林向上プログラムを簡単に作ることができるだろう。軍需と石油で成立している化学肥料ありきの現状に代わる、木を手入れすることで全てが成立する産業が、私には想像できる。

 この発想は、キャップ・アンド・トレード方式 【温室効果ガスの排出権取引制度で一般的に用いられている】でもなければ、ウォールストリートが考案した炭素取引プランでもなく、地球誕生以来続いてきた決まり事だ。何よりも古くから実証されてきた地球管理法、つまり「炭素サイクル」を尊重して従うというもの。誰もが受け入れられることだ。

 

ジョエル・サラティン (Joel Salatin) は自分の植林地を間伐し、バージニア州スウープの彼の農場で堆肥の山を積み上げている。彼の著作は、「Folks, This Ain’t Normal」などその他多数で、持続可能な農場のビジネスと哲学に関するもの。そのいくつかは65ページで利用可。

  

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The Benefits of Smart Forest Management 

By Joel Salatin 

October/November 2015