遺伝子組換え作物は有害なのか? 遺伝子エンジニアThierry Vrain へのインタビュー

遺伝子組換え作物 (GMO) が食物連鎖へ取り入れられていく中、ラウンドアップ耐性の作物であるラウンドアップ・レディについて、また、ラウンドアップ・レディに散布されたグリホサートが私たちの健康をいかに害する可能性があるかについても、消費者は知っておくことが大切だ。

 

 

車高の高いハイクリアランス農薬散布車が、ミシシッピの不耕起の綿花農場で、グリホサートに耐性のあるスギナモに農薬を散布する。散布は失敗に終わり、スギナモは残った。

写真:アグストック・イメジズ (AgStock Images)

 

 

 

 モンサントのラウンドアップ・レディは、除草剤に耐性を持つように遺伝子を操作されている。特に、ラウンドアップを散布された場合の耐性だ。WHOのがん調査部門が、ラウンドアップの活性成分であるグリホサートを「おそらく発がん性がある」としている現在、この化学薬品がどのように植物に作用するのか、結果としてどのように人体に影響するのかを消費者は十分理解する必要がある。グリホサートの毒性などの詳細について、分子生物学者であり元遺伝子工学技術者であるティエリ・ブレイン (Thierry Vrain) に説明を求めた。

 

いつ、どうして、グリホサートについて調べ始めたのですか。

 

私は1970年代、ノースカロライナ州の大学院に通い、土壌生物学者としての訓練を受けた。正確に言えば、センチュウ学者だ。センチュウは顕微鏡でしか見えない小さな虫で、土の中にいて植物の根を食べる。多くの作物にとって相当な収量減の原因だ。大学院では、農業と、センチュウ、昆虫、菌類病のようなあらゆる種類の害虫や病原体によって生じる損害について学んだ。害虫には、土壌消毒や殺虫剤を撒くことで対処することを学んだ。職歴を積む中で、作物を自然に害虫に対抗できるようにするために、もしかしたら分子のレベルで介入し得るかもしれないということが明らかになってきた。そこで、分子生物学を学び、遺伝子工学者になったわけだ。後に分子生物学部門のトップになったとき、私は一般の人たちを教育し、遺伝子工学についての不安を和らげることを自分の任務とすることに決めた。

 

12年前に引退して、ガーデニングの趣味に本気で取り組み始めた。実地の経験を得てわかったことは、殺虫剤がどれ程のダメージを土壌の住環境に与えているかということだ。私は大学院で教えられなかったあらゆることについて学んだ。例えば、殺虫剤だけでなく、定期的な肥料の使用が土中の微生物の集まりに害を及ぼすことについてもだ。私は言わば「オーガニック」になった。

この時点で、私は遺伝子工学の問題を指摘する科学調査資料を読み始めた。遺伝子操作されたラウンドアップ・レディの穀物を与えられたドブネズミやそれより小さなハツカネズミなどが病気になっていった。初めはわけがわからなかったが、遺伝子工学技術の知識で自分としては、ラウンドアップ・レディが安全なものだと明確になった。TEDxトーク「遺伝子革命 農業の未来」で私が説明しているように、ある種の遺伝子を他の種に組み込むことで毒性を持ち得るということが理解できなかった。というのも、遺伝子の技術は世界中の研究所で使われているんだ。遺伝子組換え動物や植物を作るため、生物学の研究のため、そしてあらゆる学問の分野の進歩のためだ。たった2年前、問題は遺伝子工学の技術そのものではなく、全てのラウンドアップレデイ作物にかけられた除草剤であることに気がついたんだ。再び、私は一般の人たちに伝えることを自分の任務と決めた。

この除草剤はいつ、何のために開発されたのでしょうか。

 

ラウンドアップは問題のある除草剤で、活性成分はグリホサートだ。グリホサートはとても小さな分子で、全ての生きもののたんぱく質を作り上げる20種類のアミノ酸のうちの1つ、グリシンの類似物だ。この分子は1950年代に発明され、1964年にアメリカのスタウファー・ケミカル・カンパニー (Stauffer Chemical Co) によって特許登録された。スタウファー・ケミカルは、産業用パイプやボイラーに付着するミネラル沈着物を除去する製品を販売するビジネスを展開していた。家にある電気湯沸かし器を考えてみよう。2、3ヶ月の間繰り返し使用した後、湯沸かし器の内壁に白っぽいミネラル成分の沈着が見られる。常に沸騰させた湯を使う産業では、頻繁にこの沈着物を化学薬品を使って落とさなくてはいけないんだ。沈着物は「スケール 」と呼ばれ、これを落とす薬剤は「スケール除去剤 」と呼ばれる。グリホサートはスケール除去剤として発明された。というのも、これはあらゆるミネラル成分を固め、パイプから落として不活性化するからだ。生物学、化学の分野では、このタイプの薬剤を「キレート剤」と呼び、ミネラル成分を固めることを「キレート化」という。

 

グリホサートが全てのバクテリアと植物を殺す働きがあること、そして、スケール除去剤としてよりも除草剤として使えばもっとたくさんの金が稼げることにすぐに気がついた人がいた。それが、化学薬品会社のモンサントがこの分子の権利を買い、草の種類を選ばない除草剤として1969年に特許登録をした時だ。

 

グリホサートのキレート化作用は、植物にどのように影響するのでしょうか。

 

動物や人間と違い、バクテリアや植物は自分でタンパク質を作る。というのも、バクテリアや植物はタンパク質の基本成分を作る時に必要な20種類のアミノ酸全てを自分で合成することができるからだ。菌と植物は、「シキミ酸経路 (Shikimate Pathway) 」といわれる小さな生化学経路の中で、3つのアミノ酸複合体(私たちはこれを「芳香族アミノ酸」という)を作る。その経路で作られる酵素の1つは、略して「EPSPS」と呼ばれる。EPSPSは、タンパク質が適切に機能するためにそこになければならない、マグネシウムの原子をもったタンパク質だ。

 

スケール除去剤として使われる時、グリホサートはバクテリアや植物の細胞の中に入り、EPSPS酵素からマグネシウムの原子を盗んで、この酵素が芳香族アミノ酸の合成をできなくしてしまう。この基本成分の一部がなくなってしまったら、バクテリアや植物はタンパク質を合成できなくなり、すぐに死んでしまうのだ。

 

アメリカではグリホサートはどのくらい使用されているのでしょうか。

 

1980年代、分子生物学と遺伝子工学技術が主流になった時、農作物の遺伝子をグリホサートに耐性を持つように操作することを考え出した人がいた。グリホサートに耐性を持つように作物の遺伝子を操作すると、農家の人たちはグリホサート除草剤を散布することができる。周囲のいらない植物(雑草)が最終的には消えてしまっても、作物は生き残ることになるんだ。

 

現在、グリホサート耐性がある主要作物は一握りだ。開発者たちはその作物を「ラウンドアップ・レディ」として商標登録している。この技術は工業型農業の世界に雑草管理の革命を巻き起こしている。2013年、アメリカの農家は全ての大豆の作付面積の内の93パーセントにグリホサート耐性の大豆を植えた。トウモロコシについては全ての作付面積の内85パーセント、綿花については全ての作付面積の内82パーセントだ。こうしたグリホサート耐性の作物は通常、栽培の初めに2回、1エーカー当たり340グラムから680グラム(植物の高さによる)のグリホサートが散布される。近年、多くの種類の雑草がグリホサートに適応して耐性を持ってきており、雑草除去のために必要なグリホサート使用量は多くなる一方だ。

 

遺伝子が操作されていない穀類や作物種子の薬剤乾燥 (chemical drying) のためのグリホサートの使用は、過去15年間に急激に増加している。これは一般にはよく知られていないことだ。穀類や作物種子(シリアル、豆、ひまわりや麻のような)を育てている農家の一部の間では、現在、収穫直前に栽培作物を枯らすためにグリホサートを体系的に散布することが一般的に行われている。この体系的な散布は、作物の栽培中に生えた雑草を枯らすことにもなる。このグリホサート散布を「薬剤乾燥」もしくは「乾燥 (dessication) 」と呼ぶ。この散布によって穀類や作物種子の収穫が格段に簡単になる。

 

食べ物や水に含まれるグリホサートの許容値は現在どれくらいでしょうか。この許容値は、科学者たちによって有害な影響を検知されるようなレベルとどのように比較できるでしょうか。

 

食用作物や飼料作物に含まれるグリホサートの残留値についてはほとんどわからない。他の殺虫剤や除草剤の大部分はカナダやアメリカの政府機関により厳重に監視されているが、なぜかグリホサートの残留についてはしっかりとした監視がされないままだ。わかっていることは、アメリカの環境保護局やカナダ保健省による合法的な許容レベルがこの過去数年でかなり引き上げられているということだ。おそらく今の現実にあわせるためだろう。各許容レベルは100万分の1  (ppm) をかなり上回っている。それぞれの作物について許容レベルが決められている。砂糖は10ppm、大豆とセイヨウアブラナは20ppm、シリアルは30ppm、草以外の家畜飼料については400ppmだ。かつて行き過ぎだとされた残留値が今では普通だとされている。

 

多くの公表されている科学研究(ほとんどがアメリカ以外の場所で行われている)は、たった1ppmのグリホサートが動物の体内に住むほとんど全てのバクテリア(特に善玉菌)を殺してしまうことを示している。すなわち、ホルモンの乱れは0.5ppmから生じ、数ppmだけで酸化ストレスや慢性的な炎症、DNAダメージの原因となり得、ほ乳類の内臓にある他の細胞や組織の働きを混乱させ得るんだ。昨年、WHOは11カ国出身の17人の上級毒物学者からなる国際チームにグリホサートを含むいくつかの農薬の状況の詳細な調査を依頼した。まとめられた科学文献には、グリホサートが発がん性物質にあたる十分な可能性ありとする説得力ある証拠が含まれており、科学者たちの評価がそこに現れている。

 

グリホサートの特許を取得した会社であるモンサントは、人間は食べ物や水に含まれるグリホサートを消化でき、体内に蓄積しないと主張しています。これは本当ですか。

 

最近の科学研究では、土壌や人間、動物の体内でグリホサートが簡単に分解されないことが明らかになっている。あるドイツの研究は、ラウンドアップ・レディ作物で作られた食品を食べた動物や人間の内臓全て(肝臓、腎臓、腸、心臓、肺、骨など)にグリホサートが蓄積することを示唆している。

 

モンサントと北米の政府取締機関は、40年間、グリホサートを最も安全な除草剤であるとして使用を促進し続けている。特許登録の時点では、動物には影響し得ないと考えられたんだ。というのも、シキミ酸経路(たんぱく質の合成がグリホサートにより弱められる場所)は、植物とバクテリアに存在し、動物にはないからだ。しかし、過去10年に、マイクロバイオーム【人間の腸内に住む微生物群】の目を見張るような素晴らしい役割について、動物生理学の分野における理解が飛躍的に進歩してきている。人間の体内には100兆ものバクテリア細胞(それはもちろんシキミ酸経路を体内に持っている)が住んでおり、ほとんどの内臓を健全に保つために非常に重要な役割を担っていることがわかったんだ。

 

グリホサートが抗生物質としても特許登録されていることを知って驚きました。この点について、人間の健康や土壌の食物連鎖にどのような影響があるでしょうか。

 

グリホサートが強力な抗生物質であることを私たちは数十年前から知っている。でも、抗生物質として特許が取得されたのは2010年になってからだ。私はグリホサートを、除草剤を装った抗生物質と読んでいる。ホルモンかく乱や、記録されている多数の他の非道極まる人体に及ぼす影響に加え、もっとも懸念すべき毒性は人間のマイクロバイオームを損傷することだと思っている。

 

土壌環境へのグリホサートの影響について、業界が資金提供した(そしてお墨付きを与える)よくある研究結果以外は、多くの研究を見た覚えはない。しかし、世に知られていない多くのエビデンスは、土壌の微生物を損傷することが緩やかな砂漠化につながることを示している。

 

この有毒な除草剤によって、これ以上いかなる害も生じさせないために、私たちはどのようにしていけばよいでしょうか。

 

ラウンドアップは、この40年間最も利益を上げている農業用薬品になっている。雑草管理のあらゆる使用の場で、とても便利なものだ。人間や動物にとって当初は無害であると表示されていたために、ラウンドアップは非常に多用されている。今、ラウンドアップの市場における地位を見直す時だ。グリホサートの毒性を考えると、ラウンドアップ除草剤の使用は厳しく規制し、穀物や作物種子の薬剤乾燥は中止し、ラウンドアップ・レディ技術を回収しなければならない。

 

グリホサート摂取を避けるために

 

もしグリホサートの毒性を心配するなら、食べ物を買うときの基本的なガイドラインにならってもよい。加工食品は買わず、「米国農務省有機認証 (USDA Certified Organic) 」の表示がされている食材、もしくは除草剤を使っていない地元の信頼のおける生産者から買おう。有機認証作物は、栽培、収穫もしくは乾燥どの段階においてもグリホサートの散布をすることができない。また、米国有機認証食品の材料はいずれも遺伝子操作をされていないものでなければならない。肉、卵や乳製品についての米国有機認証基準は、家畜に100パーセント有機飼料を与えることを必要としている。

 

もっと詳しく知りたいなら、The Dangers of Glyphosate Herbicide (グリホサート除草剤の危険性)でマザーが集めた情報を見てみよう。

 

 

ティエリ・ブレイン (Thierry Vrain) はオーガニック菜園家で元遺伝子工学技術者。グリホサートの毒性と遺伝子組換え作物への散布についてより詳しく知りたいなら、ブレインのアメリカン・カレッジ・オブ・ニュートリーション (American College of Nutrition) での発表nutritional implications of GMOs(遺伝子組換え作物の栄養上の影響)を見ることがおすすめだ。

 

 

たのしい暮らしをつくる

マザーアースニューズ

購読登録はこちらからどうぞ

 

Understanding Glyphosate Toxicity: An Interview with Genetic Engineer Thierry Vrain

Interview by Hannah Kincaid 

 

June/July 2016