シンプルな群れ放牧

 

牛の群れ、囲い地のシステム、高張力ワイヤーと電気柵。これで干草の費用を節約し、土と牧草の質を向上させ、牛の活動を最大限に引き上げることができる。

 

列をなした牛があなたの牧草の一番の手入れになる。

太陽光発電の電気柵本機と耐候性容器で、遠隔地の日の当たる牧草地に柔軟に対応。

 文:Greg Judy

翻訳:浅野 綾子

 

 

 グリーン・パスチャーズ・ファーム (Green Pastures Farm) で私たちは10年近く、ホリステッィク放牧計画の1つとして集中管理放牧 (Management-intensive Grazing : 高密度もしくは「群れ (mob) 」放牧とも言われる) を営んでいる。この間、嬉しいことに単位面積あたりの家畜数は2倍になり、干草の使用は70パーセントも減っている。大きな経済的負担の軽減だ。牧草地への資材投入も減らしている。肥料、種、石灰も入れない。ただ牛の群れが規則的に回るだけだ。高密度放牧を牧草地や家畜動物管理における「新たな試み」と考える仲間たちもいるが、「群れ」放牧を行う放牧業者たちは昔々にあったことを甦らせることを目指しているのだ。バイソン、鹿、ヘラジカや他の反すう動物である家畜動物が、本来の姿を保っていた頃のプレーリーや牧草地における行動様式のことで、私たちが主に度外視してきた外敵と火事への対応だ。

 日々少々時間をとって観察しているおかげで、私たちは牧草地と群れの健康状態のどこに意識を振り向ければ良いかがわかった。複数の囲い地巡回を通じ、全ての家畜動物が栄養のある飼料で毎日の餌をまかなわれること、また、牧草が食べつくされることがないことを私たちは確かめている。また、継続的に草の先端が落とされるおかげで、炭素を土中に隔離することにより、高密度放牧は気候変動と闘っているのだ。疑いをはさむ余地なく、集中管理放牧は、とても劇的な、良い影響を牧草地に与えているのだ。もしあなたが集中管理放牧に取り組むなら、同じことがあなたの牧草地にも起こるだろう。

 

牧草地の健康のための「群れ」放牧

 「群れ」放牧は、家畜動物と牧草地を管理するために一番シンプルで、効率的な技術だ。一時的に電気柵を使って牧草地を一連の小さな囲い地、もしくは小屋に分けて、群れを1つの囲い地から次の囲い地へ毎日移動させる。込み入った数の家畜動物をかなり小さなスペースに入れてしまうことになるが、一連の囲い地を群れが回っていくことで、牧草は群れに食い尽くされる前に再成長するので大丈夫だ。

 家畜動物は、飼料と土に多くの面で良い影響を強く与える。まず、単位面積あたりの家畜頭数が増えること、つまり土地面積あたりの群れの総重量が増えることは、より多くの牧草が地面に踏みつけられ、つぶれた草の山積みを成すことを意味する。つぶれた草の山積み、もしくは何らかの有機物が地面に踏みつけられると、土壌を日光から保護し、湿気を保ち、さらに多くの飼料が育つための雨水を確保することになる。私はつぶれた草の山積みを、土壌微生物が食べるバイキングの一皿として考えたい。微生物がこぞってむしゃむしゃと食べることで活性化されて、さらに多くの飼料が育つ。このことは、より早く牧草地が回復することを、私の群れにとって意味しうるのだ。

 囲い地の家畜動物をより高密度にすると、肥やしや尿も、もっと良い具合に撒かれる。それによって、肥料を買わずに、もっと多くの飼料を育てることができるようになる。家畜動物があなたのために全ての作業をやってくれるだろう。最後に、集中管理放牧は、牧草地に今よりもずっと多様性に富む植物が育つことを促す。単位面積あたりの家畜頭数を増やし始めると、家畜動物は食む草を選り好みしなくなるだろう。一箇所で飼料の需給を均衡させる放牧 (set-stock) で家畜密度が低い場合に普通は食べないような植物が、家畜動物の食べ物になるだろう。早い者勝ちの競争になるのだ!

 

囲い地システムの計画立て

 初めて「群れ」放牧の方法を取り入れる時は、たくさんの囲い地を設置しすぎてはいけない。牧草地をどうしたら最も上手い具合に家畜に食べさせることができるかを試行錯誤する間は、固定的な囲い地はただ邪魔になるだけだろう。放牧場を区切らずにより開けた状態にしておくほど、一時的な囲い地を設置することが楽になるだろう。また、開け閉めする出入り口はほとんどつけないようにしよう。そうすることで、群れがもっと効率的に移動していくようになるだろう。

 その代わり、私は、通電させる高張力の給電線を周囲につけることから始める。というのも、一時的な電気柵を作るため、どこでも望む場所でポリワイヤーのリールの電源を入れることができるからだ。これはまた、柵用の電源を買う費用の節約にもなる。私たちは、大抵、一番目の囲い地を水場の所に設けて、囲い地を仕切るワイヤーを毎日水場から遠ざけていく。

 牛の群れを毎日移動させる計画である限り、牛が戻らないようにする後部柵は全く必要ないだろう。私たちの牛の群れの大半は、手前に戻って草を食むことはない。草を食むための新しい囲い地が毎日用意されているという簡単な理由からだ。さらには、囲い地を展開していく初めの段階では、水を飲むために前に草を食んだ囲い地を横切って行く方が、牛にとっては簡単だ。どのような囲い地であっても、牛は4日間以上その上を歩くべきではない。さもなければ再び成長し始めた牧草を食べ始めてしまうだろう。

 予算と簡素な間取りの面で、始めは後部柵を省くことができるものの、将来的には後部柵の設置を目指すべきだ。後部柵を設けることは、「群れ」放牧の十分な経験と、それに伴う利点の全てを私の牧草地に確約してくれる。私たちが後部柵を取り付けた時は、もっとがっしりとした草の山積みが各囲い地にでき、より高濃度な肥えがもたらされ、囲い地をより十分に休ませることができた。簡単に説明すれば、後部柵を設置するには、水場を群れの所まで持っていく資材、もしくは、群れを水場の所へ移動させる檻が必要になる。経験に基づく知恵の一言:水インフラで経営破たんするな。水場への通り道を作って家畜動物を歩かせよう!

 

持ち運びできる電気柵必需品

 牛の群れを毎日移動させることでワイヤーを毎日張ることになるのだから、ギア比3:1のリールを使おう。これは何かと言えば、ハンドルでクランクを回す度にリールが3回転するということだ。次に、簡単に差し込み、取り外しできる持ち運び可能な杭をいくつか買う必要があるだろう。私は、高さを上げる毎に杭を打つ本数を増やしながら、1.8から3メートル毎に1本の杭をうつことにしている。杭は、軽さと電気を通さないという理由でポリエチレンのものを好んで使う。誤って杭を通電している電線に接触させてしまったとき、ポリエチレン性の杭にあなたは感謝するだろう!囲い地の角を作るためには、何と言っても鉄の柄のついたピッグテールの杭だ。これで私は角の杭を動かす際に、ものすごい時間の節約ができている。

 一時的な電気柵を作るために、ポリワイヤー(普通6本もしくは9本のワイヤーで編まれている)か、ポリテープを選ぶことができる。ポリワイヤーは、ポリテープよりも安上がりで、修理もしやすく、電圧降下がなくポリテープよりも長い距離に張ることができる。ポリテープは見やすさの点でポリワイヤーよりも優れている。牛にとっても、人間にとってもだ!

 電気柵に通電するために、質の良い電気柵本機を使おう。電気柵システムの中で一番重要な部分だ。私が電気柵を始めたころ、節約しようといくつかの安い充電器を買った。お金、労力、時間の点で、それはまあ高くついて終わった。昨今の電気柵本機のモデルは、容量もアップし、とても完璧とはいえない接地でも電圧をかけることができる。人間と家畜により安全な仕様だ。取り付けと持ち運びが簡単にできる電気柵本機を選ぶ必要があるだろう。必ず、電気柵システムに、サージ防護と避雷器を、電気柵本機から柵につながる電線が出ているところに設置しておこう。乾燥した季節や、下のワイヤーにかかる草に対応できるよう、できるだけ上手く充電器を接地しよう。私たちは先回りして、遠隔操作機器を追加して少し余分にお金を使った。これは、電気柵のショートを見つけなければならない時に大きな時間の節約になる漏電発見器の2倍の費用だ。

 

群れの行動をチェックする

 経営者として、私は牛の活動に100パーセント集中する必要がある。一日一日を生き抜くために、まして活き活きと活動するためにはなおさら、反すう動物はエネルギーの高い飼料を安定して食べなければならない。牛に囲い地を回らせる時にこの必要を満たすため、私たちは牛に草の上部の3分の1だけを食べさせるよう集中する。上の3分の1は高エネルギーの部分だ。3分の1よりも下を食べさせずに牧草から引き離すことは、牧草をずっと早く再成長させることでもあり、より迅速な牧草地のローテーションを意味する。

 群れの栄養摂取状況をチェックする一番良いタイミングは、次の囲い地に動かす時になるだろう。家畜動物の腰骨の前あたりを観察できる所に陣取ろう。反すう胃はこの場所の辺りにあり、牛を動かす時はいつでも、表面が平らになっているか、少し丸みを帯びていなければならない。この辺りが落ちくぼんでいるなら、反すう胃は満たんではなく、あなたの囲い地システムは家畜動物の食べる量を制限してしまっている。

 パニックになってはいけない。次の日、もっと広い場所であなたの群れに草を食ませてあげれば良いだけだ。あなたの群れの反すう胃をチェックすることに加えて、新しい囲い地に入る時の行動にも目を光らせよう。通常の群れの行動は、もしかしたら歩きながら2、3回草を食んだりしながら、新しい囲い地の後方部に歩いていくことだ。というのも、家畜動物は草を食むのに集中する前に、囲い地がどれ位広がっているかを見たいからだ。先導する家畜動物が後方部についた後、群れはゆっくり草を食みながらあなたの方に戻ってくるはずだ。食べている間、群れが皆じっと立っているかのようにさえ見えるかもしれない。これは良い傾向だ。

 もし家畜動物が新しい囲い地に興味を示さないようなら、前の囲い地で給餌しすぎてしまった印だ。もし、この様子が次の2、3の移動でも続くようなら、囲い地のサイズを小さくすることを考えよう。逆に、牛がいつものように新しい囲い地にいっぱいに入り、3時間後にあなたが囲い地に行ってもまだせっせと草を食んでいるのなら、前の囲い地で若干食べることを制限してしまったのかもしれない。牛がまだ食べている理由は、移動させた時に、牛の胃がほとんど空だったからだ。私の囲い地の設計では、囲い地を変わって3時間経ち、牛が反すうしながら身を横たえる時に、反すう胃はいっぱいになっているはずだ。

 

牧草地の仕事ぶり

 群れが次の囲い地に出発したらすぐに牧草地を観察する必要があるだろう。適度に食まれた牧草はより早く再生する。この意味は、栄養に富んだ牧草地をさらに群れに提供できることであり、全ての生きものたち、究極には土にとって、草の山積みの管理がより改善されるということだ。私は、家畜動物が次の囲い地へ移動してからも、もう一日食べさせるだけの十分な飼料を囲い地に残すように努めている。牧草は、家畜動物が移動するまで、刈り取られたように見えてはいけない。取るものより多くのものを残すことを確実にしよう。そうすれば、土のいのちは溢れる草の再成長で応えてくれる。もし囲い地の半分以上の草を群れに食ませるなら、成長期が進むにつれて飼料に事欠くことになるだろう。

 次に、囲い地の柵沿いを歩こう。もし、牛が入らないように張られている囲い地仕切りのワイヤーの向こう側に通路を刈ったように見えるなら、赤信号だ。家畜動物はお腹をすかし、何か食べるものを探してワイヤーの下に口を入れ、感電する危険を実際に冒していたのだ。次の囲い地替えの時にもっと広い場所を与えてあげよう。

 最後に、次に草を食まれる囲い地を歩こう。前回の放牧から十分に草が回復しているかどうか観察しよう。草の先端がえんぴつのように尖っているはずだ。植物の多様性についてメモをとろう。放牧シーズンの終わりには、ある草と牧草地の一定の場所、降雨、気温その他多くのことにつながりがあることを気付き始めるだろう。本当だ。必ずあなたは、管理集中放牧と観察で、自分の農場で起こるあらゆる素晴らしい出来事について知ることになる。

 

炭素隔離のための集中牧草地管理

 集中管理放牧は、空気中に浮遊する二酸化炭素(化石燃料の燃焼や、人間による他の活動によって生じる)を土に返すべく、草原地の管理者にとって最適な選択肢だ。草原地は、草自体の性質によって、炭素を隔離することに特に秀でている。全ての植物は、枝、根、葉や茎のような炭素構造を作るために空気中の二酸化炭素から炭素を引き出す。大部分の炭素を地上部に蓄える高低の木々とは違って、木にならない植物は大部分の炭素構造を根の発達に充てる。バイソンや牛のような反すう草食動物が、植物の栄養豊富な上の部分を食べる時、植物はその部分を再生するのに十分なだけ、根の先端をそぎ落とす反応をする。

 土壌微生物や、多くの昆虫、ミミズやセンチュウも含めて、この脱ぎ捨てられた炭素を消化して、もっと小さな炭素化合物を作る。これは、大きな炭素化合物よりも安定しているため、より守られやすく土中に蓄えられやすい。集中管理放牧は土壌微生物を保護して多様性を促すため、大きなものから分解された炭素分子を、長期蓄積のための安定した形になることも助長する。

 「群れ」放牧の業者は、多年草や一年中生える牧草を育成することによっても、牧草地の炭素蓄積量を増やす。冷涼期の草と温暖期の草の元気な草むらがあれば、放牧業者は牧草地での放牧と炭素隔離期間を伸ばすことができる。さらには、アブラナ属や秋まきライ麦のような耐寒性の被覆植物は、春に全力で炭素を隔離するよう頑張ってくれることを確かにしながら、1年で最も過酷な時期に土壌微生物を守ってくれるだろう。

 

黙々と食ませよう!

 牧草を家畜動物に食べさせることができる日々は、あなたが懐を温めておける、さらには計らずも懐を肥やしていく日々になるだろう。私たちは、家畜動物を養うために外から資材を買うというサイクルを見直さなければならない。適切に管理されていれば、あなたの牧草地は一年を通して栄養に富んだ飼料を家畜動物に与えることができるのだ。「群れ」放牧の牛へとシフトすることは、私たちの最も大切な財産である土の健康を代償にする短期的視野から、私たちを引き離すことにもなる。健康な牧草地と群れの活き活きとした様子は単に両立するだけではない。持ちつ持たれつなのだ。

 

電気柵の情報源

Cyclops Fence  

Fence Master America  

Fi-Shock Animal Containment Systems  

Kencove Farm Fence Supplies  

O’Briens

Parmack USA

Powerflex Fence

Premier 1 Supplies

Stafix

Stay-Tuff

Timeless Fence System

Wellscroft Fence Systems 

 

グレッグ・ジュディは、ミズーリ州の中央部で羊、牛、山羊と豚に加えてサウス・ポール (South Poll) 牛を育てている。集中管理放牧の運営について頻繁に講演。「No Risk Ranching」と「Comeback Farms」の著者。

 

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Mob Grazing Cattle Made Simple

By Greg Judy 

August/September 2016