小規模な 群れ放牧

 これはもうありすぎる話。2、3頭の家畜動物しかいない小さな土地の自営農園主は、集約放牧、もしくは「群れ放牧」についての議論から取り残されたように感じている。商業的農牧業を営んでいる人たちが複雑な牧区に200頭の牛をローテーションさせるという話を聞くことは刺激的かもしれないが、1、2エーカーの土地しかない人にとって、そんなやり方が役に立つのだろうか?

 

 小規模自営農園主の皆も安心していい。群れ放牧で唯一大変なことは、1エーカーあたりにかかるインフラ設備向上のコストが高くなることだ。こうしたコストは避けようがない。フェンスを固定したり水路を設置したりすることは費用がかかる(絶縁材、充電器、水道用バルブ、パイプ用クランプなどもある)。けれども、小規模も、大規模も、群れ放牧の基本原則はほとんど変わらない。

 基本から始めよう。私の牛や、ブタ、家禽類が私に求めることは3つ。水、小屋、身近な世話だ。隣近所の人たちは、私たちの家畜動物に彼らの土地のあちこちを歩き回って欲しくない。私たちの菜園でも、羊やヤギに、植えているビートの葉をむしゃむしゃすっかり食べられたら困る。家畜動物を、本来いるべき場所にいさせる(そして、食べるべきものを食べさせる)ようにすることは、管理放牧レシピの1番目の材料なのかもしれない。

 

移動管理:電気柵 vs. 移動可能な囲い

 家畜動物は移動するものであり、移動は適切な衛生管理、牧草の生育、刈り込み、糞便の分散のためにも必要だ。家畜動物の移動管理の方法は、家畜動物の種類、土地の広さ、頭数によって様々なやり方があり得る。

 私よりも電気柵のファンだという人はほとんどいない。けれども、小さな家畜動物や家禽類がいる場合、全てを移動可能な家畜舎タイプにしてしまう方が、電気柵よりも作業しやすいことが多い。家禽類の管理と保護に必要なことは、牛の場合とかなり違う。移動可能な小屋は、家禽放牧のいろはのいだ。家禽類の小規模管理放牧は、多くの場合、電気ネットが張られたチキントラクター(床のない移動鶏舎)のような、移動可能な万能小屋タイプを中心に営まれる。1羽あたりにたっぷり0.45㎡強となる、1日あたり約3m四方の区画であっても産卵鶏20羽に十分だ。

 私たちの農園を知っている人なら誰でも、食肉用鶏の生産のために移動できる鶏舎を私たちが利用していること、利用をおすすめしていることを知っている。家禽類の場合、鳥を管理するだけでは足りない。外敵を近づけないことも必要だ。このことが、家禽放牧の重要事項を牛の場合とは異なるものにし、移動可能設備を電気柵に対抗できるものにしているのだ。

 大きな家畜動物が2、3頭だけなら、完全に囲われた移動可能な囲いは、電気柵よりもお値打ちだ。孫の羊は、ゴムタイヤの付いた約3m四方の軽量な囲いの中で快適に過ごしている。この囲いを私たちは「お散歩やさん (The Rambler) 」と呼んでいる。10才の子供でも押すことが出来、充電器も接地棒も、別建ての小屋もいらない。お散歩屋さんは、電気柵を張らないでも、孫が羊を生きた草刈機のように使うことができるようにしてくれる。囲いの中、園舎の周り、農場内の草刈だ。

 牛の場合、一組の肉牛の雄の子牛であっても、あるいは乳牛であっても、物理的に移動可能な囲いシステムが、電気柵に勝ることはまずないだろう。というのも、牛は身体が大きく、力もあるからだ。大きな家畜動物は、薄板の移動可能な囲いを破ってしまうことができる。かなり大きな家畜動物を囲える程の強度がある移動可能な囲いは、重すぎて動かせなくなってしまうのではないだろうか。

 電気柵の種類についてこだわりたくはない。ここでの目的は、家畜動物の移動を促すことだからだ。というのも、それが家畜動物の健康の鍵だからだ。これは経験に基づく知恵。牛は、大抵電線1本でも大丈夫。羊とヤギは3本いる。豚は、小さいうちは2本必要で、約70キロに達したら1本でも大丈夫だ。

 

放牧地の広さを見積もる

 全ての管理放牧の基本は、1日ごとの放牧区画だ。1日にどれ位を与えるかを知るためには、どの位の牧草が使えるかを知る必要がある。この感覚を磨くことを「放牧者の目 (grazier’s eye) 」と呼ぶ。(牛は放牧される側で、あなたが放牧者だ)。家畜動物を毎日移動させ、与えた面積を記録すれば、1日に必要な面積がわかる感覚を早期につかむことができるだろう。鍵は、どの位の広さを家畜動物が草食したかを把握すること。そうすれば、賢い調整をすることができる。

 例えば、もし私が牛に200平方ヤード(170㎡弱)を与えて、24時間後もたくさんの牧草が残っているなら、次の日にはヤード面積を減らすだろう。200平方ヤードのうち10パーセントを調整すると決めたなら、次の日には牛に180平方ヤード(150㎡強)を与えるだろう。20パーセントを調整するなら160平方ヤード(130㎡強)といった具合だ。ただ、その場をよく見て、推測する、もしくは意外と良かったなんて喜んでフェンスを張るだけでは放牧者の目を磨くことはできない。ここは、アラン・ネイション ( Allan Nation)、グレッグ・ジュディ (Greg Judy) 、ジム・ゲリッシュ (Jim Gerrish) 、サラ・フラック (Sarah Flack) 、が専門とする技術的な部分だ。(80ページの彼らの本をご参照)。

牛の快適さについては2つの重要事項がある。新鮮できれいな水と、陽射しと風からの保護だ。水が流れる限り、パイプの利用は大好きだ。水を運ぶのは時間がかかるし、骨が折れる。水路を走らせ、オンデマンドの水を楽しむのに多くの費用はかからない。こうした小さな囲い地の中の日よけは、上に日よけの保護布を張った、パーツを選べる組み立て式の移動可能な建物でも作れる。たった2㎡(床面積縦約1.2m横約1.5m、高さ約1.5m)で、牛一頭につき十分すぎるほどだ。重宝する農業用一輪車のように、手で押して回れるほど軽いものが簡単に作れる。

 

エーカーごとの放牧日数を増やす

 管理放牧には数学と科学が関わるが、芸術的手腕もまた関係してくる。本質的には、草刈りと生物資源を新しく作りかえるために、あなたは4つ足の草刈機を使っているのだ。電気柵は、草刈機の、ステアリング・ホイール、ブレーキ、アクセルになる。ここでの草刈機は、たまたまとてつもなく知的で愛すべき動物なのだ。

 管理もしくはローテーション放牧は、やり始めれば魔法のようだ。重労働のように見えること(「何だって?牛を毎日移動させなきゃいけないのか?」)が、実際楽しい日課になる。家畜動物たちは新鮮なサラダバーに応えてくれるし、サラダバーだって家畜動物の戦略的な刈り込みに好反応だ。牧草はS字のカーブ(75ページの図をご参照)を描いて成長するから、草の頭が老化する(すなわち、死に始める)前に、管理放牧によってS字のカーブの頂点で刈り込み(放牧)をすることができるのだ。基本的な考え方は、牧草が幼芽期 (juvenile growth period) を謳歌する時間の量を増やすことだ。そうすることで、牧草はより多くの太陽エネルギーを吸収し、生物資源に作り変える。

 実際にはどうするのか。あなたが牛一頭と2エーカーの土地を持っているとしよう。継続的な放牧給餌法によって、牧草地は、1エーカーあたり放牧日数80日(バージニア州の私たちの土地では)、あるいは2エーカーで160放牧日数を生み出してくれるだろう。これは、それぞれ1年の4分の1、もしくは半年分だけだ。一般的に、自営農園主は、1年の残りの期間に牛に与える干草を買うだろう。

 ここで、電気柵を使い、牛がその日に必要な分だけの牧草地を与えると仮定しよう。もし牧草が放牧日数50日分の量なら、牛が必要なのは50分の1エーカー(80㎡強)だ。理想的なのは、約9メートル四方の面積が与えられることだと思う。気づいたのは、家畜動物は、長方形よりも正方形の牧草地の方がより効果的に草を食べるということだ。次の日、牛は次の区画に移される。その次の日は、さらに次の区画だ。

 この給餌法では、2エーカー全体が食べられるまで100日かかるだろう。これが意味することは、最初に食べられた囲い地は、草勢の回復に99日間が与えられたということだ。1年に20インチ(508mm)の降雨がある地域では、草の成長期の間に3ヶ月間休ませれば、草勢が放牧前の量に回復するのに大抵は十分だ。2回目の放牧サイクにさらに100日かかる。さあ、今、200日間の放牧を終えて、3回目のサイクルに入る。なんと、干草を全く買う必要がないじゃないか!

 この実践モデルを自分達の農場で行って、放牧日数が押し上げられている。1エーカーあたり平均して放牧日数80日分から平均して400日分への増加だ。賃貸の牧草地で、継続的放牧から毎日移動するローテーション放牧へ切り替えたことにより、1年あたりの放牧日数は、継続的放牧の時と比べて安定して2倍の状態に到達している。

 多くの人たちは、毎日の移動がどうしてそんなに大切なのか不思議がる。1週間に1回、さもなくば2、3日に1回ではどうか?生涯を通してこのやり方で放牧してきて、毎日の移動は魔法だと言い切れる。第1に、家畜を常に最も上質で安定した栄養のある草地で飼うことができる。第2に、ふん尿の投入を最大にする。第3に、最短期間で放牧地に大きな揺さぶりを与える。これは牧草と土の生態系に良い影響がある。第4に、家畜動物にとって、移動は楽しい。そして、ローテーションのシステムと放牧者であるあなたに対する認識を持つようになるだけでなく、信頼も寄せるようになるのだ。

 毎日の移動は、あなたの学習カーブも押し上げる。1週間に1日なら、牛追いむちの打ち方を学ぶのは1年に52回だけにしかならないだろう。けれども、毎日移動させるなら1年に365回になるのだ。実際には、時々疲れてしまって家畜動物に2、3日もつ大きさのパドックを与えることもあるだろう。よく肥えている場所と、他の場所より肥沃度が劣る場所が出るだろうから、そうした特定の場所の牧草地の茂りと肥え具合に融通を利かせるため、パドックのサイズを調整しなければならないだろう。覚えておいて欲しい。家畜動物の移動を多くすればする程、技術習得も早くなる。

 この複雑な人間と動物の生態学の踊り。この振り付けをすることが、微かに色合いの異なる数々の発見とめぐり合える人生をもたらしてくれる。思い立ったが吉日だ。

 

 ジョエル・サラティンの一家は、1961年からバージニア州のシェナンドー・バレー (Shenandoah Valley) で農牧業に従事。自称、大衆目覚まし屋、また新しい食糧生産方法の応援団。著書多数。ほとんどはマザー・ストアー:Storeで購入できる。

 

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Small-Scale Rotational Grazing

By Joel Salatin