ご近所を農業する

芝生を菜園に変えるということは「たくさんの」食料とコロラドの町のコミュニティー感覚を意味する。

 

 

 文:Kristi Quillen and K.C. Compton

翻訳:浅野 綾子

 

 サラ・セイラー (Sarah Sailer) は、自分の人生がこのようになるとは考えもしなかった。「近所の人たちは面白いものを見てるわ。」とサラ。ハチ防護服に全身を包み、ハチの巣を確認するため屋根に上る。それから、ハチ防護ヘルメットと手袋をつけたまま自転車で通りを下るサラ。その後を、20人の大学生が追う。そんな光景だ。キャベツを両腕に抱え、アヒルを移動させながら通りを渡るサラの姿がよく見られる。 サラと夫のジェレミア (Jeremiah) 、2人の4人の娘は、芝生を菜園に作り変えて自分たちの食べ物を育て始めた。家族の健康への懸念と、オーガニック野菜にかかる費用を解決するためだ。そして、コロラド州ラブランドにある5分の1エーカーの裏庭自営農園で多くを成し遂げた。事実、セイラー家はマザーが選ぶ2014年の自給自足大賞に選ばれたうちの1家庭だ。場所が徐々に手狭になり拡張を夢見たが、まとまった大きな土地を買うことができなかった。

 「農場を見て憧れたわ。大きくていいなあと。でも、ダウンタウンにとても近い今の地域に住むのが私たちは大好きなの。」とサラは言う。

 そして、彼女は思いついた。ご近所を耕すのはどうかしら?

 隣人のリン・ピーターソン (Lynn Peterson) は、セイラー家の実り豊かな菜園に気がついて、自分の郊外菜園の計画が失敗に終わった後、サラに話かけてきた。サラは、ご近所菜園のビジョンを打ち明け、ピーターソン家族が芝生を菜園に変える手伝いと、収穫を山分けすることを提案した。2、3週間後、セイラー家、リンの友人、地域の若者グループが、雑草を抜き、堆肥を運び入れ、芝生をウッドチップのマルチで覆った。 「ピーターソン家の2分の1エーカーの角地は、日当たりの良い場所が十分ある。縁まで野菜でいっぱいにしたわ。」とサラは言う。

 2015年の終わりには、裏庭自営農園は4区画にまで広がり、2016年も後半の今、近隣の庭に6区画ある。家主は場所と水道代を提供してくれる。サラは、種と苗を買い、自作のパンと交換して農家の友人からもらった堆肥、地元の林業団から調達したウッドチップマルチを用意する。

 「私の自給自足の夢は変わった。自分たちだけではできないわ。」とサラはブログに書いている。彼女の食料自給への追求は、食料の相互依存の追求へと変わったと言う。

 

豊かさの分かち合い

 2015年、セイラー家が葉物の初物を初めて収穫した時、収穫が食べられる量をかなり上回っていることに気づいた。そこで、彼らは地域支援型農業 (CSA) プログラムを始めた。9人が、250ドルの寄付金と2時間の作業(菜園維持作業に当てられる)が目安とされる、このCSAプログラムに払い込んでいる。サラは、プログラムのメンバーが作業に来て、郊外での栽培について学ぶことを好んでいる。プログラムにお金を払うより、むしろメンバー自身が自分の住まいの近くで裏庭自営農園を始めることが良いと思っていて、メンバーはそれぞれの知識を教え合っている。

 1家庭による手頃で健康に良い食べ物への追求として始まったことが、驚くべき豊かな経験となり、分かち合わずにはいられないのだとサラは言う。現在プレンティ・エアルーム・ファームズ (Plenty Heirloom Farms) と呼ばれるこのプロジェクトは、オーガニック菜園として成長し続けている。また、「食の豊かさを分かち合い、地方の村に活気を取り戻す」という菜園の使命感は、多くの地域行事にはっきりと見られる。 セイラー家は薪オーブンを作り、月に一度、地域のビール醸造所でパンを売る。プレンティー・ファームズは、資金を集め地域と交流するために、秋には収穫したばかりの野菜で食事会を開催する。サラは、種から育てることや発酵堆肥を含めた郊外菜園と自営農園のあれこれについてのクラスを開催している。堆肥作りや畜産、ビン詰め、パン作りについてのクラスも作る予定だ。料理教室で教え、CSAプログラムにもレシピを提供してくれる友人と組んでいる。

 近隣の2つの学校から子供たちが毎年フィールド・トリップに来る。レモン・バームの香りをかぐ。ハチの巣を見る。屋外のオーブンで焼いたフラットブレッドを味わう。堆肥がどのように作用するのかを学び、ウサギや鶏を見て、こうした動物がどのように食べ物になるのか、卵を産むのか、糞がどのように肥料になるのかについて話し合う。サラは、菜園を見学して、子供たちが刺激をうけ、まさにその地域にある裏庭自営農園を見ることで、私たちの社会のどこでどのように食べ物を育てるのかについて新しい見方を引き出すきっかけになることを願う。

 

共に学ぶ

 サラは、子供のころから自営農園の知識を身に着けていたわけではなかったが、先祖の経験にひきつけられている。どのように種を採り、動物をと畜するのか、次の世代が分からなくなるとは想像していなかっただろうご先祖だ。

 サラは、本を読んだり調べたりして学んでもいるが、ほとんどは誰かと知り合ったり、思い切ってやってみて、多くの試練や失敗に遭遇することで学んでいる。(サラのブログで、こうした挑戦を読んだり、そのうちの1つ「鶏の足の皮をはぐ」の動画を見てみよう)。冬の葉物栽培を失敗してしまった時は、地元で栽培期拡張に成功しているご近所さんの兄弟を見つけた。何の具体的計画もなくウサギを注文した時には、何年もウサギを飼育している女性にたまたまペットフードショップで出会った。ナメクジに悩まされた時は、アヒルやヒキガエルを投入した。

 リン・ピーターソンも、もともとガーデニングの知識はなかった。「今まで1度も園芸をしたことがなかったの。サラの人に移ってしまう分かち合いたいというわくわく感と、良い挑戦はしてみよう、新しいことを学んでみようという自分自身の気持ちに引き入れられたの。」今、ピーターソン家には菜園があり、鶏を飼育している。また、雄鶏をと畜し、養蜂箱も加えている。サラが思いつきで注文し、リンに電話してこう言った養蜂箱だ。「いいわね、ハチは2週間以内に来るわ!」

 リンは言う。大抵徹底的に調べる方だが、飛び込むことを学んだと。「プレンティの皆は、信じて一歩踏み出すことを学んできたわ。たとえ全てについて理解しているわけではなくても。」とサラは言う。さらにサラは続ける。「失敗する度にこう言うの。『よし、二度と繰り返さないぞ』と。」

 プレンティ・ファームズは、似たような考えを持つ人たちを魅了し続けている。そして、そうした人たちと組むことが、1人できること以上のものに到達する助けになっている。サラは、ヘザー・ゴールドスタイン (Heather Goldstein) と出会った。ヘザーは、オーガニック・スキンケア商品を、彼女の会社であるハーバル・ハート・アポセケリー (Herbal Heart Apothecary) を通して販売している。この会社も、家族の健康上の理由をきっかっけに始められたベンチャーだ。サラとヘザーは、互いに似たビジョンを持ち合わせていることにすぐに気がついた。ヘザーの借家に、農業用1輪車200杯分のウッドチップの運び込みを彼女たちが要した、80本の畝を立て、鶏と養蜂を加えた。畝は、ヘザーのハーブとサラの野菜のコンパニオン・プランツ仕立て。完璧な組み合わせだ。

 「これは全部自分だけでやったの。充実してたわ」とヘザー。「でも、他の人たちと一緒なら段違いに充実する。これをコミュニティーですると思うわ。人間関係を築き、お互いから学ぶために。」

 この女性たちは3人とも、仕事の大変さ(特に菜園での作業日)と、CSAプログラムのメンバーが集まる日にもたらされるご褒美について触れている。メンバーはビン詰めもしくはピクルス漬けについて学んだり、レシピをシェアしたり、「育てているこのカボチャ全部、どうするつもり?」とお互いに聞き合うために集まる。リンは、多くの場合、誰も考えたことがないことをやってみようという結論になると言い、それはみんなで考えるのだと言う。

 

コミュニティーを作る

 こうした関係は、メンバーが課題に直面し、大変な決断をしなければならない時に支えになる。「多くの責任があるわ。だけど、私たちには仲間がいる。皆が肩をかしてくれる。」とヘザーは言う。

 その1つとして、郊外での自営農園は趣味ではなく生き方なのだとサラが学んでいることがある。「自営農園は、人生の全ての側面で考え抜かれたペースダウンを要求する。これは、忙しくい続けるように育てられている時代において、時に挑戦となるわ。」とサラは言う。

 サラは続ける。「私は2つの世界に住んでいるの。それぞれの足を、各々の世界に踏み入れている。1つの足は、収穫を計画し、『十分な食料を育てられているかしら』と聞き、動物たちの餌やりを考えている世界に。もう1つの足は、21世紀の世界・・・。忙しく、多くの物事をこなすことを当たり前とする世界に。」

 食べ物がどのように育てられ、本来どのような味がするのかについての理解が、子供たちに育っていることをリンは目にしている。子供たちは、時々農作業に文句を言うかもしれないが、自分の持ち場を持って、立ち止まり菜園について尋ねる人に誇らしげに話しをしている。リンの長女は、ウサギを育てたいと思い、ヤギの飼育許可のために市の条例を変えたいと思っている。校内菜園を始める支援をして欲しいと学校の校長先生に手紙も書いた。

 何よりも、とリンは言う。こうした生活の仕方を優先的に選ぶことは、選ばない方が楽だろう時でさえも価値あることだと。家族の間や、地域の人たちとのつながりを育てるからというのが理由だ。

 忙しい日常以外にも、各家庭は限られた資金という現実に直面する。でも、サラは実際楽しいと言う。栽培に失敗した時、セロリの葉をどのように使うかを考えること。もしくは、豚半頭が手に入らない時、かつて祖父母がそうしたように、持ち合わせのベーコンの脂で作れるおいしいものを考え出すことがだ。リンは、無料のもの、もしくは持っているもの、借りているものをどう使うかを考え出したり、あるいは交換してきたと言う。また、忍耐や粘り強さ、事後に得られる満足感の価値を学んでいると言う。

 全般的に、反応は上々だ。より人通りが多いダウンタウンの通りの角に住んでいるヘザーは、いつも菜園のことを人に話している。通りがかりの人は尋ねる。「芝生を菜園に変えていいといわれているのですか。」、「水やりにいくら位かかりますか。」 もしくはただシンプルに一言。「素敵!」。

 リンは付け加える。プレンティ・ファームズは、「私たちの町に、食べ物と土地とコミュニティーを再びつなげたいという思いを引き起こし、甦らせているの。」と。

 「人は農園を見て思う。『自分にはできない』と。」とリンは言う。「でもやればできる。私はやっているの。そしてサラと交わしたあの会話がなかったら、私もやっていなかったわ。」

 

プレンティ・エアルーム・ファームズ:Plenty Heirloom Farmsをもっと詳しく見てみよう。もしくは、フェイスブックページ:Plenty Heirloom Farms Facebook page.を見てみよう。

 

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Farming the Neighborhood

By Kristi Quillen and K.C. Compton 

December 2016/January 2017