手で石を切り出す基本技術

まザーアースニューズ DIY 石工

石造りの景観をつくるのに、作業に適した道具の使い方を学び、観察眼を磨いて思う存分楽しもう。

 

 

文:ブライアン・ポスト (Brian Post)

写真:トム・ハットン (Tom Hutten)

翻訳:長谷川

 

数千年の間、人々は石を加工してきました。石は自然素材なので多様であり、同様に様々な目的のために、様々な方法と道具が用いられています。この記事では、石で景観づくりや構造壁をつくるのに適した基本的な技法に焦点をあてます。これらの技法は、化粧板などの他の石材加工に応用可能なことが多いです。

 石を加工対象として見れば、主たる種類は 2 つです。砂岩やスレートを含む板状のものと、花崗岩や玄武岩を含む平らでないものです。板状の石は容易に割れてより薄い板になりやすいです。堆積岩はまずほとんど全て板状で、多くの変成岩と同様です。火成岩は溶岩が冷却されたもので、自然には板状にはならず平らではありません。とは言え、どのように割れるかを左右する石目があることがあります。

 石は圧縮に強く、引っ張りに弱いという性質があります。また、曲げとねじりにも弱いのです(脆い)。この知識を活かして、石の弱点を利用する方法で確実に力をかけることができます。石の固定方法が、どのように割れるのか、あるいは、いつ割れるのかに大きく影響します。

 

石材加工の共通型

 石を割る (Splitting) にはくさび型のハンマー(コヤスケ)または平タガネて力をかけます。タガネの刃 (tip) にあたっている部分には圧力が、それ以外の部分には張力がかかって、自然に弱くなって割れます。割るには層理面に沿うことあるいは石目に従うことが最適です。「Stone Busters」などのコヤスケ (trimming hammer)、トレース用平タガネ (tracing chisel) を使用して、石を割りましょう。

 こぶ取り (High-spot removal) が重要なのは石積みで石同士をぴったり合わせる時で、こぶに直接当たると非常に強い圧縮状態になるため、難しい場合があります。チスタガネ (point) を使用すると力が集中し、刃が破損します。正しい角度で刃幅の小さい平タガネ (directional point) を使用すると、より大きく除去できます。刃幅の小さい平タガネ、チスタガネ、メイソンチッパー (mason chipper) [後述]、および「Stone Busters」(コヤスケ)を使用して、こぶを取りましょう。

 仕上げ (Dressing) は一般的に最終加工を指しますが、より軽く叩くことで石を四角に整えたり、石の表面に装飾をしたりします。軽く叩くことは、本質的にはよく制御された方法で石の表面を磨り減らしたり、わずかに押し砕いたりすることです。刃幅の小さい平タガネ、チスタガネ、メイソンチッパー、およびトレース用平タガネを使用して、仕上げましょう。

 曲げ (Bending) は、平らな石や長い石を小さくするのに適しています。どちらかの端で支えられて中央で打たれたり、または突き出た端を打たれたりすると、曲げ力を受けて、ほとんどの石が比較的簡単に割れます。曲げは通常、破断線上のいくつかの点を打つことによって達成されます。石を曲げで割るには、「Stone Busters」「Quarry Buster」などのコヤスケを使用します。 

 トリミング (Trimming) は、石の側面または端を加工するプロセスです。これは、石の脆い性質を利用する剪断力で行うことができますが、分割力を用いることもできます。トリミングは通常、層理面または石目に対して直角に行われます。ある種の石については、端から打つほうが平らな側からよりもはるかに効果的です。「Stone Busters」などのコヤスケ、メイソンチッパー、レンガ用ハンマー (brick hammer) を使用してトリミングします。

 割筋のトレース (Tracing a line) は、割筋に沿って石を繰り返し叩くやり方で、複数の面でやることが多いです。これにより、石に多数の微細な亀裂が生じます。亀裂がつながると、石が割れます。軽い打撃から始めて、徐々に強めていきます。割筋トレースすることは正確ですが、時間がかかり、多くの打撃が必要です。この技法は石の種類によっては他の方法よりもうまく機能しますが、労力が必要なため、必要な場合にのみ使用してください。「Stone Busters」「Quarry Buster」などのコヤスケ、トレース用平タガネを使用して、割筋をトレースしましょう。

 

道具の種類

 石を扱う際に高品質の工具を使用すると、より早く加工ができ、特定の加工が可能になり、精度が向上し、メンテナンス時間が短くて済みます。ただし、優れたスキルと経験があれば、初歩的な道具も効果的に使用できます。

 超硬切削工具 (Carbide-tipped tools) はよく専門家や愛好家によって使用されています。超硬切削工具は、はるかに長い間刃先を鋭く保ち(多くの場合、研磨は 1 年に 1 回だけで済みます)、非常に硬い石でもうまく作業できます。しかし、はるかに高価であり、不適切な使用によって簡単に台無しになり、研磨するために特別な砥石が必要です。スチール製の工具は安価で研ぎやすいですが、柔らかい石や適度に硬い石でしかうまく機能せず、毎週研磨が必要になることがよくあります。

 コヤスケ (Trimming hammers) にはさまざまな形状とサイズがあります。多くの場合、トリミングのための正方形が一方の端にあり分割のための刃がもう一方の端にあるヘッドを持っています。正方形の端の方が 80 以上使用されるため、一部のコヤスケには刃がまったくありません。2 3 ポンド (0.9 1.4kg) のものが扱い使いやすいでしょう。

 レンガ用ハンマー (Brick hammers) は、コヤスケの一種です。これらの軽量ハンマーは、小さくて柔らかい石に適しています。18 インチ (46cm) 長の柄は軽量ですが、より強い力を生み出します。

 別のハンマーで打つ設計のハンマー (Hammers designed to be struck by another hammer) は、TH 社の「Stone Busters」などがあり、革新的です。TH 社はこれらのハンマーを幅広く製造していますが、他のメーカー製もあります。「Stone Busters」は、平タガネの精度と驚異的な打撃力を備えており、これらのハンマーの中で最も多用途です。片方のハンマーの刃を石に(平タガネとして)置き、もう片方のハンマーで背と背どうしを打つことによって使用します。これにより、単一のハンマーで正確に照準を合わせる必要がなくなります。刃が水平のハンマーと垂直のハンマーがあり、使い分けることができるため、石や自分自身の位置を変えずに済む優れた人間工学となっています。「Quarry Buster」は、2 人が使用することを意図した「Stone Busters」の拡大版です。1 人は石に「Quarry Buster」を当てて持ち、もう 1 人はそれをハンマーで叩きます。

 刃幅の小さい平タガネ (Directional point) は、3/8 インチ (1cm) 幅の刃を使ったタガネです。この工具は、特定の領域に力を集中させるため、こぶの除去に最適です。これを使った加工は、通常のチスタガネよりも迅速で、多くの場合、ディスクグラインダーより速く、粉塵と騒音もより少ないのです。Rebit 社の「PKM 25」とTH 社の「bull point」が入手可能です。チスタガネは刃幅の小さい平タガネよりもさらに力を集中させますが、材料をよりゆっくりと、より少ない制御で加工することになります。

 平タガネ (Chisels) にはさまざまなサイズと形状があります。刃の幅があればあるほど、分割の方向を制御しやすくなりますが、衝撃はより拡散します。1-1/2 インチ (38mm) 幅の刃を持つタガネは、多くの種類の石にとって制御と力のバランスが取れているようです。角度の鋭さはタガネの働きに大きく影響します。90 度の角度のトレース用平タガネは割筋に沿って割るのに最適ですが、刃を70 度程度まで研磨すると、素晴らしい分割ツールになります。ただし、硬い石の石目に対して使用すると損傷する可能性があります。TH 社のメイソンチッパーの刃の形は、鈍角にもかかわらず剥離を引き起こすことなく、より深くトリミングができる理想的なオフセット(刃を片寄らせた)設計になっています。

 誤って手を打ってしまうのを減らすためのさまざまな保護用具 (Hand guards) 持ち手 (Chisel handles) が売られています。「TH チゼルウィザード」は調整可能で安全な握り部分を備えているため特に優れています。加えて、タガネを直接持てない角度でも加工ができます。

 注:質の高い石材加工のための工具は入手が非常に難しい場合があります。この記事のすべての工具は、石積みの芸術・工芸を維持・発展させることを使命とする非営利団体「The Stone Trust」から入手できます。

 

石を読む

 石の層理面を見つけることはかなり容易ですが、細かい石目、隠れた亀裂、および欠陥を見るには多くの経験が必要です。加工する石の細部に注意を払って、加工対象の石の種類を見分けるサインに慣れましょう。多くの石は石目に対して直角に成形することは非常に難しいし、一部の石は硬過ぎたり、脆過ぎたり、割れ方が予測不可能で成形する価値がありません。

 石を形作るときに成功するための最良の方法は、練習と経験を積むことです。さまざまな種類の石は、さまざまな工具や方法に対して異なる反応を示します。石を加工する試みの細部と結果に細心の注意を払うことでスキルが身につきます。望んだ結果が得られない場合は、アプローチ、工具、または方法を変更しましょう。3 4 ポンド (1.4 1.8kg) のハンマーで高速で正確な振りを行うのに十分に強靭な体になることが、ほとんどの種類の石で効率的な加工を行うために重要です。石を加工するための手動工具と電動工具、方法、および技法は他にもたくさんありますが、石の形がどのように変わるかについての物理学の法則は不変です。

 石材加工に関する知識を高めるための最良の方法の一つは、実践的な講座を受講することです。The Stone Trust が提供する講座では、さまざまな工具と石の種類を実際に体験できます。それだけでなく、加工した石でどのように築くのかを見せてくれる講座もたくさんあります。

 

 

角度が全て

 使用する工具の刃の角度と石に当たる角度は、石が意図した通りに割れるかどうかに決定的な影響を与えます。ハンマーで石を直接打つとき、振りの角度も割れに影響します。一般に、平タガネまたは Trow & Holden (T&H) 社の「Stone Busters」でトリミングする場合、工具を石の中心に向けて角度を付け、割れを促進し、「剥離」つまり意図しない割れを防止する必要があります。

 こぶ取りをするときはチスタガネや刃幅の小さい平タガネを直角に近づける必要がありますが、60 85 度で十分です。


 

 

 

安全な石材加工

 石をうまく加工することは楽しくて満足できるものですが、他の作業と同様に独特のリスクがあります。以下のリストは完全なものではありませんが、重要なポイントを示します。

  • ハンマーとタガネ類は石工用を使用すること。木工用は、石に対して使うと欠けたり砕けたりして危険です。木工用のノミ、手斧、斧、または大型ハンマーを使用しないでください。
  • ハンマーヘッドの正方形または長方形の端は、石を打つためだけのもの。レンガ用ハンマーは平タガネとして使用しないでください。別のハンマーで打たれることを意図したハンマーは「Stone Busters」のように、頭の丸い面取りされた端によって区別できます。
  • 常に適切な個人用保護具(メガネ、ブーツなど)を使用すること。石の破片はたやすく 9m 以上も飛ぶことがあるので、周囲に注意してください。
  • ハンマーを直接人に向かって振らないこと。ハンマーが手から滑り出たり、頭が外れたりすることがあります。
  • 石の粉塵を吸い込まないでください。細かい石の粉塵、特に電動工具によって生成されるものは、呼吸に有害です。電動工具を使用する場合、また手工具を使用して大量の粉塵が出る場合は、適切なマスクを常に着用してください。

 

 

経験則

  • 石が大きいほどハンマーが大きくなります。小さい石や薄い石の場合、22 オンス (624g) のレンガ用ハンマーが適しています。しかし、大きい石では 16 20 ポンド (7.2 9.1kg) の大型ハンマーが一般的に使用されます。ハンマーが石にぶつかったときに高い音を立てたり、跳ね返っているように感じたりする場合は、おそらくハンマーが軽過ぎます。
  • 振りの速度はハンマーの重さよりも重要です。ハンマーが石に当たるときに力を入れるよりむしろ速く振ってください。
  • 50 回の軽い打撃は、1 回の重く速い打撃とは異なります。軽い打撃の多くは、石を割るよるむしろ、何の効果もないか石を振動させるだけです。
  • 石がどのよう支えられているかは、割れるかどうか、どのように割れるかを決める重要な要因です。
  • ハンマーだけを使用すると、タガネよりもはるかに高速で強力になりますが、ハンマーを正確に使用するには高度な技能が必要です。タガネはより正確ですが時間がかかります。
  • 3 5 回打撃しても目に見える進歩が見られない場合は、停止し、打撃方法、使用している道具、石が正しく支えられているかどうを点検してください。

 

 

ブライアン・ポスト (Brian Post) は、認定名工 (Certified Master Craftsman)、検査官、英国の Dry Stone Walling Association の指導者。また彼は、景観設計士で、The Stone Trust のエグゼクティブ・ダイレクターで、 石工に特化した Standing Stone LLC のオーナー。

 

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コメント: 1
  • #1

    りん (木曜日, 07 12月 2023 14:28)

    すごいですね