合衆国内のミツバチの状況 

マザーアースニューズ ミツバチ 養蜂

ミツバチの個体数減少の真の原因は土壌の中に隠されていて、私たち全員に委ねられているのは行動を起こすこと。

 

文:ジョン・ラングレン (Jon Lundgren)

翻訳:浅野 綾子

 

 2014 年、テキサス州サン・アントニオで行われる米国蜂蜜生産者協会の会議の場で、発表してほしいと頼まれました。私は養蜂家の人たちにこう言いました。農薬について自分が明らかにした科学研究を会議の場で発表すれば、アメリカ合衆国農務省での私のキャリアは終わってしまうと。養蜂家の人たちは応えました。「ジョン、真実を話してほしい。あなたのことは養蜂家が守る」6 年経って、互いにかわした言葉にそれぞれ間違いがなかったことが証明されました。

 当時はほぼ全ての人がミツバチのことを気にしていました。アメリカにおけるミツバチの個体数が年々急速に減少していたため、ミツバチの蜂群崩壊は国際的な注目を浴びていました。合衆国内における 1 年あたりのミツバチの巣の減少は、歴史に残る平均 11  % から 50  % 以上へと上昇し、女王バチの寿命は 3 年から 6 ヶ月へと落ち込みました。

 ミツバチの減少に影響を受ける様々な人たちのワーキンググループがいたるところで発足され、それぞれにミツバチを救う解決策がありました。公有地などの供与を得て設立された大学はほぼ全て、急に活気づいた研究助成金プログラムをうまく利用できるミツバチの専門家に資金提供をしていました。養蜂家は首都ワシントンに出てきて、アメリカ合衆国農務長官の執務室で即席会議をしたり、アメリカ合衆国環境保護庁の行政官とアポイントなしで面会したりすることができました。

 12 年たつと、ミツバチが死んでしまう理由についての統一的見解がまとまりました。ミツバチが減少する主な 4 つの理由は、花がないこと、ミツバチヘギイタダニ(ミツバチの脂肪組織を食べる寄生虫)、ウイルスおよびその他の病気、ケースによっては農薬、であるとされました。その時私はこれらは問題の症状に過ぎないと主張したのです(今でも主張しています)。

 話を今に戻しましょう。ミツバチのことは時々ニュースになり、世間一般ではミツバチが死んでいっていることが知られています。ですが、ミツバチを救おうという勢いはほとんどなくなってしまいました。研究やアウトリーチプロジェクトによって、少しずつ蜂群崩壊についての理解が進んでいます。そうではあっても、ミツバチの巣が今までになく減少している、何も変わらなければ養蜂産業は時間をおかずになくなる可能性が高いという反論しがたい主張も成り立ちます。

 私たちが今崖っぷちに立たされている理由は、ミツバチの蜂群崩壊が真に示しているのはこの地球の状態であるという、その深刻さが一般に理解されていなかったからなのです。これはミツバチだけの問題では決してありませんでしたが、あたかもミツバチだけの問題であるかのように扱われました。これは農業の問題だった。生物多様性の問題だった。そしてもっと重要なことは、ミツバチの蜂群崩壊は土の問題であったということです。

 

百聞は一見にしかず

 再び 2014 年のことを話します。私は大豆へのネオニコチノイド種子処理、またはネオニコチノイド散布は農作業従事者の健康を害していることを示す科学研究を発表しました(ネオニコチノイドは神経活性農薬の種類です)。その後で、トウモロコシとひまわりについての追加研究を行い、この研究も同じ結果を示しました。ネオニコチノイドは肝心要の害虫には効きませんでした。つまり、何の理由もないのに環境中にこうした農薬を散布していたということです。その代わりに、ネオニコチノイドは大豆の害虫(ダイズアブラムシのような)を食べる天敵を減らしていました。そして、少なくともひまわりについては、ネオニコチノイドは授粉昆虫を減らしていたのです。

 この間、過失のある農薬メーカーは、だれも農薬(特にネオニコチノイド)がミツバチの減少の理由だとは思わないように確実にしたいとがむしゃらになっていました。ネオニコチノイドの安全性にまったく問題はないと世間を説得する営業力に望みをかけて、年間にして数十億ドルがつぎ込まれました。そのために農家はネオニコチノイドなしではやっていけなかったのです。2014 年のサン・アントニオにおける私の発表の後に、農薬メーカーと連邦規制機関は、農家に対するネオニコチノイドのメリットについて論拠も乏しいままに説明しました。その時点で、規制機関とメーカーとの切っても切れないつながりが私の頭の中で確固たるものになったのです。

 養蜂家の人たちは自分たちが飼育しているミツバチのことで私に連絡をしてきて、農薬がどのように影響して巣がなくなるのか聞いてきました。巣がなくなる 1 つの要因としてではなく、巣がなくなる原因としてです。私は疑い深い性分ですから、この件に関しての 23 の科学研究を読んだ上で、科学研究では農薬がミツバチを殺すかどうかについて結論がでていないと養蜂家の人たちに説明しました。頭に血が上った 1 人の養蜂家が声を大にして言ってきました。「トウモロコシの植えつけの間に自分の養蜂場にくるんだ。巣の前でミツバチが死んでいくのを見ろ。トウモロコシにかけた農薬がミツバチを殺さないというなら、それを見てからにしてくれ」

 この件においても、6 年経った後、互いにかわした言葉が正しかったことが証明されました。科学研究では結論に達していなかったという私の見解は今でもあてはまり、農薬がミツバチを殺しているという見解もまたその通りだったのです。

 これによって、おそらく確かだろうと思われたこと 2 つの裏付けができました。まず、優れた科学が誤った問題を提起していたということです。農薬と遺伝子組み換え作物のリスクを研究して 20 年経った今、私は農薬が生き物に予測不可能な影響を与えると言うことができます。このように、農薬がミツバチのような防除対象外の生物に対して「安全」であるかどうかを検討する際、科学では問うべき的確な問題をいつもわかっているわけではないのです。1 番の問題は、国の規制体系が透明性と予測可能性に依拠しているということです。それを理由に企業は、自分たちが農薬についての体系化された実験の安全性データを提示すれば、製品が承認されると期待しています。これは裏を返せば、大きなハンマーでミツバチを巣ごと潰してしまうように農薬によってミツバチがバタバタと死ぬ時、国の規制制度をもってすれば、原因がその農薬の副作用であることを予想して見事つきとめることができるということなのです。

 一般に、多くの農薬は使用してもミツバチが死ぬことはないと現在わかっています。農薬の使用はミツバチを殺すのではなく、遺伝子、ホルモン、微生物の共生などのようなことに影響します。さらに農薬は、人がまだ考えつかないようなところでミツバチに影響を与える可能性が高いです。農薬のメカニズムでは、防除対象以外の生き物がただちに死ぬことはありません。そうではなく、防除対象である生き物の学習障害や自己免疫疾患をまねき、生殖能力にも悪影響を与えます。生殖能力への悪影響は容易に計測できません。これもまた重要なことかもしれませんが、こうした影響は確固たる証拠と容易に関連づけることができません。というのは、人は数世代にわたって、農薬の全ての影響に気づくことができないかもしれないからです。

 2 つめは、農薬のリスク評価についての私たちの認識は、測定に使用する道具の範囲でしか測れないということです。ミツバチについての計測をする際にもっとも歯痒いことの 1 つをお話ししましょう。ミツバチのある巣(またはある巣の一連の経過。反復観察は重要)を見ることができるとします。その巣は他の巣よりも強い、またはがっちりしていることがわかります。にもかかわらず、様々な道具を使うと、私の目に疑いようのないことを反映すべき一連の記述数やデータに、その形を必ずしも落とし込めません。ですから、科学では感情に左右されずにデータを解釈することが極めて重要であり、自分が見ていることに、たとえデータの裏付けがなくても、それを否定することが難しいのです。

 科学者は、同じ問題を何度も違う方法で検証することはしません。これによって、誤った研究結果が広まってしまうことがあります。農薬はミツバチを害さないというような論旨です。こうなると科学がイノベーションを刺激するかわりにその邪魔をします。研究を生み出すこうした現在のやり方は、少しずつ科学のあり方に浸透していきます。その場限りの研究が生み出すのは、長期の研究プログラムによって創られるパラダイムシフトではなく、小刻みな科学の進展です。研究者は、かつてイノベーションや鋭い仮説の源となっていた、現場に軸をおく観察からどんどん離れていっています。先細りする連邦と州の研究基金により、科学者は自分たちの研究所に資金提供を受け続けるため、産業資金に頼ることを余儀なくされます。研究の資金源は、行われる科学研究のタイプに強い影響を与えます。

 ミツバチヘギイタダニがミツバチの巣の減少の一因であるという証拠がなぜあのようにたくさんあるのか。科学が最高入札者に売られる時、農薬のミツバチへの影響はあやふやにされてしまうからなのです。

 

解決策としての農業

 養蜂家に伝えた農薬の研究だけでは自分の職場を動転させるのに不十分であろうかと考えたので、私は別の研究を並行して行うことを決めていました。工業化は、食料生産の仕組みに問題をつきつけてはいないかと疑問を提示する研究です。とりわけ、トウモロコシを育てすぎではないかという点です。

 単一栽培をベースとした作物栽培により、ミツバチが丈夫に育つのに必要な植物多様性が減少します。単一栽培をベースとした作物栽培では、劣化した耕作地の生産力を維持するために投入する農業薬品(農薬や化成肥料)の使用が必要です。そしてこうした農業薬品はミツバチを殺します。飢えて、汚染されたミツバチは病気になり、寄生虫への抵抗力が減ります。これが問題の中心であり、ミツバチ問題の解決を任されていた人たちが、先述したミツバチが減少する主な 4 つの理由全てを生み出しているのです。

 他に手段はありません。ミツバチ崩壊の解決策は農業の改革です。それがなければ長期的解決にはならなでしょう。

 幸いなことに、農業はいまだかつてない足取りで再生への道にむかって歩きはじめています。再生可能な農業によれば、栄養価に富む作物を栽培して収益をあげながら、土の健康は増進し、生物多様性(微生物、昆虫、植物、菌類、動物など)も促進されます。

 土の健康と生物多様性がミツバチの健康をどのように促進するか。健康な土で健康な植物が育ちます。耕転と単一栽培ベースの農業が支配的になったために、植物の栄養価が低下しました。農薬の使用と大気中の高濃度の二酸化炭素レベルが植物の栄養価の低下を勢いづけると示唆されていますが、農薬の使用も大気中の高濃度の二酸化炭素レベルも土壌劣化と生物多様性の消失により不可避となる症状なのです。

 植物の栄養素密度の減少の理由がどうであれ、解決策ははっきりしています。栽培学的に確かな方法を通して、農家は土の物理的、化学的、生物学的健康をすぐに取り戻すことができます。不耕起(または実質的な減耕起)、輪作の多様化、畜産と作物栽培の一体化などの実践が、土の健康を改善したいと願う農家が採用しうる選択肢の全てです。

 でも、植物の多様性も重要です。農場内や農場まわりの植物多様性を育むことはミツバチの健康をとりもどすために不可欠です。ほぼ全ての生物群の多様性は、その生息環境における植物多様性に比例します。生き物をその生息地に生息させたいなら、植物が必要です。さまざまな植物群の花粉や蜜にはミツバチが繁殖するのに必要な微量栄養素と微生物共同体があります。ですから、巣の近くにできるだけ多くの植物種を生育させることがミツバチを助けるのです。

 

 このようにすれば現在地球が直面している多くの問題が解決できると思いますが、農業は大きな船のようなものです。食料生産 [農業] という船を生物学的に集約された仕組みにつくりかえるまで、自然でお金のかからない解決策を見つけることが、ミツバチの巣の減少を食い止めるのに重要になるでしょう。

 

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