牧草地に火を放つなんて荒唐無稽に聞こえるかもしれないが、火を管理して栄養価の高い春の牧草を育て、厄介な雑草を抑制できる。
文:アシュレイ・クリスペンス(Ashleigh Krispense)
翻訳校正:沓名 輝政
真っ青な空に、背の高いメリケンカルカヤ属[学名:Andropogon]がそよ風に揺られるなか、地元カンザス州の牧場主が集まり、その日の所定の火入れを計画するのを眺めています。雲一つない空、埃っぽい砂利道を、水を満たしたスプレータンクを積んだピックアップトラックや全地形対応車がゴトゴトと走っていきます。
これから数時間、仲間意識とチームワークを高めていこうと、笑い声や穏やかな会話が聞こえて来ますが、スケジュールが立てられると、話は一気に真剣なものになります。予定通りなら、近くにいる別の作業員と協力して、1日で広大な草原を焼き尽くすことになります。
背の高い草原に火をつけるのは、まるで山火事のようで常識に反すると思われるかもしれません。しかし、慎重に計画を立てれば、管理下においた火は非常に有益です。
意図的に火をつけることにはリスクを伴いますが、計画的な火入れは、枯れ草やゴミなどの余分な燃料を取り除くことで、山火事の危険性を低減することができます。
火の効用
カンザス州からオクラホマ州中北部にかけて、約82,000エーカーの世界最大級の草原が広がっています。その大部分はカンザス州のフリントヒルズ地方に位置しています。この生態系を維持するためには、自然の山火事、そして現在では計画的な火入れが欠かせません。また、前シーズンの厚い枯れ草を取り除くことで、家畜の飼料として栄養価の高い新芽を育てることができます。
大草原の草の深い根は、炎の熱でもダメージを受けずに残る一方で、枯れ草の中で越冬していた寄生虫は、火によって取り除かれます。また、グレートプレーンズに侵入したエンピツビャクシン[学名:Juniperus virginiana]など、有害な雑草や不要な植物の種子も火によって破壊できます。さらに、背の高い草にひっかかれることで起こる、牛の目の感染症のリスクが下がるというメリットもあります。
安全に牧草を焼く
フリントヒルズの牧場主、トッド・クリスペンス(Todd Krispense)は、牧草地の管理と火入れの方法について極意を教えてくれました。すべての草原を毎年焼く必要はない、と彼は言います。
グレートプレーンズの研究では、最適なサイクルは3年に1度であることが分かっています。大草原をローテーションで焼くことで、在来の昆虫や絶滅危惧種であるソウゲンライチョウ属などの生息地が確保されます。
草の生えた牧草地で所定の火入れを行う場合、まずその牧草地を評価する必要があります。土壌に十分な水分があるかどうかは、考慮すべき要素のひとつです。春の早い時期に火入れを行うと、表面の蒸発が進むことがあります。一般に、所定の火入れを行う際には、土壌の表面が湿っていることが望ましいです。また、表面より下の土壌は、草の根の深さまで湿っている必要があり、これは、一握りの土から余分な水分を絞ることができることを意味します。特に砂地ではそうです。また、空気中の相対湿度も考慮し、30%から55%の間を目安にしてください。
牧草を焼く時期は、牧草の生育に影響を与えますが、フリントヒルズで行われた長期研究では、秋、冬、春に焼いた場合、牧草生産に大きな影響は見られませんでした。
安全な火入れのために最も重要なことは、火入れを予定している日の風を見極めることでしょう。火の方向は常に風に逆らうようにし、最大風速6.7m/sの範囲内で実施する必要があります。十分な人手とスプレータンクの水を用意し、当局から適切な許可を得てください。火入れする土地の近隣住民に連絡し、計画を知ってもらいます。
マッチを擦る前に、燃やす場所の周囲に防火帯を設置します。防火帯とは、自然のもの(川など)、人為的なもの(あらかじめ焼かれた草など)の障害物のことです。
防火帯を作るには、牧草地の風下側(一般的には火入れの燃焼を止めたい場所)に沿ってバックファイヤー[backfire:風上に向かう遅い火]を灯せます。火は柵や境界線を嫌うので、あらかじめ焼き払うこの小さな区画で隣家の敷地を荒らさないようにするのです。。。
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