ブルーミントン・コミュニティ果樹園。コモンズ(共有地)に繁栄を。

マザーアースニューズ  家

誰もが利用できる果樹園は、コミュニティの資源共 有の基準となっている。

 

文:ケール・ロバーツ(Kale Roberts)

写真提供:Bloomington Community Orchard 

翻訳:沓名 輝政

 

 誰でも入れる牧草地を想像してみてください。羊飼いのグループが、 それぞれ自分の群れから一頭の羊を連れてきて、牧草地を確保します。しばらくして、羊飼いの一人が、自分の羊を 売った後の収入はすべて自分のものになるが、牧草地に損害を与えたときの費用は羊飼い仲間で分担することに気が つきました。そこで、羊飼いたちは、もう 1 頭、もう 1 頭、もう 1 頭と羊を増やしていきます。周りの人たちも当然同 じようにして、牧草地がむしゃむしゃと食べられて、土まみれの荒れ地になってしまうのです。 まるで寓話のように、羊飼いの物語が示すのは、現代経済学の最も定着した信念の一つ、つまり、利己的な所有者 が集団で資源を管理すると、最終的にはその共有資産が破壊されてしまうというもの。この「コモンズの悲劇」と は、1968 年に生態学者のギャレット・ハーディンが提唱した言葉で「コモンズにおける自由は、すべての人に破滅を もたらす」ことを意味します。

 それから 50 年後、インディアナ州の大学都市にある 1 エーカーの土地は、 哲学的というよりも現実的な方法で、共有資源が悲劇を回避できることを実際 に示していますが、羊でなく果樹で実証しています。

 

ブルーミントンでのブルーミング(開花)

 ブルーミントン・コミュニティ果樹園(Bloomington Community Orchard) は、アメリカで最初にできたコミュニティ果樹園のひとつです。この果樹園 は、ダウンタウンの南東 4km に位置する 30 エーカー(120 千平米)の森林公 園の 1 エーカー(4 千平米)分で、ドーナツ型の住宅街の中心にある穴です。 通りから見ると、果樹園にはリンゴ、プラム、チェリー、スグリなどが曲がり くねって並び、12 種類以上のベリーが実っていて、森林の背景に溶け込んでい るように見えます。通りの向こう側にある野球場で試合を観戦しているリトル リーグのファンの歓声や、近くの YMCA で行われているバスケットボールの ピックアップゲーム[集まった人でつくる即席チームの試合]に気を取られてしまうかもしれません。しかし、果樹園に一歩足を踏み入れると、そこには感動が待っ ています。「ホイットニー(Whitney)」や「マンチュリアン(Manchurian)」 と呼ばれるクラブアップル(姫リンゴ)は、季節によって白い花を咲かせた り、赤い実をつけたりします。「レッドヘブン(Redhaven)」と呼ばれる桃の 木は、鮮やかな金色の紅葉を見せてくれたり、赤みがかった黄色の実を重そう にぶら下げていたりします。また、一般のスーパーでは見られないフルーツに 出会えるかもしれません。「チョコレート(Chocolate)」柿、「アロマトナヤ (Aromatnaya)」カリン、ナツメの実、そして北米最大の野生フルーツである ポーポーなどです。果樹園の中心部にたどり着くことができれば、アスパラガ スが芽を出したイチゴ畑があり、その周りを 2 種類のプラムと 6 種類の洋ナシ が取り囲んでいます。

 わずか 1 エーカーの土地がもたらす恵みは、ジョシュ・デイビッド(Josh David)がブルーミントンに根付いていると見ている「豊かさの文化」を示し ています。デイビッドはブルーミントン・コミュニティ果樹園の理事長であ り、同果樹園のガバナンス委員会の委員長でもあります。2010 年の設立から数年後、彼はブルーミントンのローカル フードの遺産を拡大するという果樹園のミッションに惹かれて果樹園にやってきました。人口 8 万 5 千人のブルーミ ントンを、まるで特大のスモールタウンのように語ります。その理由は、インディアナ大学の旗艦校に通う学生が人口 の約半分を占めており、季節によって移り変わる様子が見られるからでしょう。 「外部の人がインディアナ州の小さな町を想像するとき、大豆やトウモロコシ、レースカーなどを思い浮かべるかも しれません」とデイビッドは言います。しかし、より正確なイメージには、活気ある地域の食料システムが含まれるべ きだと彼は主張します。ブルーミントンのコミュニティ・ファーマーズ・マーケットは 46 年前から運営されています。 緑を愛する人々が、数多くの造園サービスや園芸センターを支えています。また、この果樹園の姉妹施設であるウィ リー・ストリーター・コミュニティ菜園(Willie Streeter Community Gardens)は、1984 年以来、同じ森の中の北端で栽 培を続けています。長年にわたり、学生たちは地元の食品に対する熱を高め、労働力と愛情を提供してきました。

 

歴史

 コミュニティ果樹園の比喩的な種は、事実、約 11 年前にインディアナ大学の学生が卒業論文に熱心に取り組む中で 植えたものです。2009 年末、環境科学の学位を取得するためにコミュニティ果樹園について調べていたアミー・カン トリーマン(Amy Countryman)は、経済学者エリノア・オストロムの研究に出会いました。彼女はコミュニティが所 有する資源に関する先駆的なアイデア、特に「コモンズの悲劇」によって地域コミュニティが共同で所有する資源をう まく管理できなくなるという考え方に挑戦し、2009 年のノーベル経済学賞を受賞しましたが、この賞を授与された最 初の女性でもあります。オストロムは、人々が自然資源を共同で管理できるのは、人々の幸福が自然資源と結びつい ていて、お互いに絡み合っているときであると主張しました。 カントリーマンは、ブルーミントンのコミュニティ果樹園の見通しについて、「地元の状況は、そのようなプログラ ムを設立するのに十分である」という最後の言葉を提出して卒業しました。

 

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