自家製ビール醸造:基本

アメリカのビールの復興は、自家醸造をする人たちが一因です。あなたも、家でビールを作ることができます。

一杯の冷たいビールには、働きづめの一日を終わりに向かわせる、何かがあります。ここ40年、アメリカのビールは大きな発展を遂げました。私が若者だった1970年代、店の棚に置いてあるビールを眺めていたのを覚えています。当時のビールは日用品で、淡い色をした炭酸飲料でしかなく、似たようなものを見分けるにはラベルを見るしかありませんでした。

 

最近のビール売り場は、ブリティッシュ・エール、ジャーマン・ラガー、アルコール度数の高いベルギー・ビール、他にも様々な伝統的な醸造法で作られたビールで溢れかえっています。アメリカのビール醸造業者は、世界中の伝統的なビールに、自国のスタイルを加えながら生産しています。例えば、アメリカン・スタイルのインディア・ペールエール(IPA)(現在、大流行)はイギリスのインディア・ペールエールが由来です。この、ビールの復興は、自家醸造する人たちが一因になっています。そしてあなたも、自分の望む品質のビールを自宅で作ることができるのです。

 

スターター・キットを組み上げる

 自家製ビール作りをする人の場合、最も一般的な、1回に作る量は、5ガロン(18.9L)です。12-オンス(360ml)の瓶、48本を超えるくらい作れます。最小の機器を使って、このくらいの規模で家で簡単に作ることができるのです。ホームブルーイングショップ(homebrew shop)では、大きな鍋や、空のビール用ボトル以外の、ビール作りが始められる全てのものが入ったキットを販売しています。スターター・キットの価格は、一般的に70$〜200$くらいで、何がキットに含まれているかによります。樽詰め用の機器が含まれると、通常もっと高くなります。

 ビール醸造のスターターキットの中身で主なものは、食品グレードのプラスチック製のバケツか、ビールを発酵させるガラス製のカーボイ、ボトル詰めする前のビールを入れておく2つ目のバケツ、容器から容器へ、液体を移動させるためのチューブ、そして打栓器があります。

 ビール醸造の初心者には、5ガロン(18.9L)のステンレスの鍋を、醸造用の湯沸かし器として使うと良いでしょう。最低でも、3ガロン(11.4L)の熱い液体と、1ガロン(3.8L)の泡だちを収められる鍋が必要になります。

 

たった4成分

 ビールは4つの基本的な成分からなっています。麦芽、ホップ、酵母、水です。

 麦芽(モルト)は穀物が発芽の過程をへたもので、これについては後述します。麦芽に最もよく使われる穀物は大麦で、次が小麦になります。アメリカン・スタイルのピルスナーなど、いくつかのビールでは、発芽処理されていない穀物(トウモロコシや米)が大麦の麦芽と一緒に使われることがあるかもしれません。麦芽は、酵母が発酵するために必要な糖類を提供し、麦芽っぽい、パンのような香りをビールに付けます。特別な麦芽には、濃い色のビールに加えられる、カラメルやビスケットやローストの香りを添加したものがあるかもしれません。5 ガロン (18.9L) の平均的なビールは、アルコール度数 (ABV: エタノールの体積濃度) が約 5% で、8〜10 ポンド (3.6〜4.5kg) の麦芽が必要になります。

 ホップは、ホップのつる(巻きひげのあるつるでなく、らせん状に巻きつくつる)の、雌の毬花のことです。ホップ毬花は、α酸と言われる化合物を含んでいる、ルプリン腺毛を持っています。この化合物はビールに苦味を与え、麦芽の甘さとバランスを保つのに役立ちます。ホップのルプリン腺毛はオイル成分も含んでいて、ビールに爽快なアロマを添えます。5ガロン(18.9L)のビールを作るのに必要なホップの量は、わずか数オンス(1オンス=28.4g)です。

 ビール酵母は、麦芽の中の糖類を発酵させ、発酵が終わるとビールから取り除かれる、生物(菌類)です。ビールの原料ではありますが、ドイツのヘーフェヴァイツェンの様に瓶の底に酵母の層があるような、いくつかの特別なビールを除き、出来上がったビールには存在しません。たった5ガロン(18.9L)のビールを発酵させるのに、数千億個の酵母が必要になります。と言っても酵母は小さいので、粘り気のある酵母がたった2カップあれば、それだけの数になります。

 最後に水です。ほとんどのビールは94%が水です。ビールの醸造に使う水は、飲料用で、塩素化合物を含まない水でなくてはいけません。活性炭濾過された都市の水道水なら使うことができます。完成炭濾過でクロラミン(都市の水源の消毒のために添加される塩素化合物)を除去できます。自治体の基準に合致していて、鉄分が含まれていなければ、井戸水も使えます。もし浄水器がなければ、ピロ亜硫酸カリウムの錠剤を使うこともできます。これは自家用ワインを作る人たちが発酵前のワインを殺菌する時に使うものです。1錠で20ガロン(75.7L)の水道水を消毒します。

 もちろん他の材料(果物、スパイス、コーヒー、チョコレートを含む)も、ビールに使われるでしょう。でも、基本は変わりません。

 

たった4つの段階

 次に続く4つの段階がビールを作るためには必要ですが、ビールの自家醸造の場合は、最後から2つか3つを行うだけでよいでしょう。

1. 麦芽製造。大麦の種を水に漬け、発芽させます。発芽を止め、殻を軽くあぶるために焙燥します(熱を加える)。この過程で、普通の大麦が大麦麦芽になりますが、これは麦芽製造業者によって行われます。ビールの自家醸造をする人や、圧倒的多数のビール製造メーカーは、麦芽の自家製造はせず、購入しています。

2. 粉砕。大麦の麦芽を粉砕し、熱湯に浸けます。そしてこの混ぜ物から出た液体、麦汁と言いますが、それを容器から取り出します。自家醸造をする人の中には、この段階を自宅で行う人もいます。それ以外の人たちは麦芽エキスという、麦芽製造業者が麦汁を濃縮して作ったものを購入します。その麦芽エキスに水を加えて麦汁に戻します。麦汁の一部は麦芽した穀物から作り、残りは麦芽エキスを使うという人もいます。このやり方を、これから説明します。

3.煮る。麦汁を殺菌し、ビールを濁らせるタンパク質を凝固するために煮ます。α酸を抽出し、ほろ苦さを醸し出す麦汁に変化させるため、ホップを加えます。初期の段階でホップを加え、時間をかけて苦味をビールに加えていきますが、それはα酸が抽出されるのに、しばらく時間がかかるからです。ビールに花の香りを加えるためには、ホップは最後の段階で加えます。ホップに含まれる揮発性オイルは、すぐに広がりますが、同時にすぐに消えてしまうからです。

4.発酵。麦汁を煮た後、それを冷まし酵母を加えます。ビール酵母は麦汁の中の糖類を消費し、アルコールと二酸化炭素に変えます。実際のところ、ホップ入りの麦汁が、発酵してビールになるのです。

 

自家醸造の過程

 初めてビールを醸造するのであれば、きっと、よく知られたレシピが必要だと思うでしょう。以下の私のレシピを使ってください(「カスケーディング・ペールエールのレシピ」までスクロールしてください)。またはネットで素早く検索し、別のレシピを探してください。

 材料を買いに行く時、もし製粉機を持っていないなら、ホームブルーイングショップで、買った穀物の粉砕を頼んでください。粉砕した穀物は、涼しく、乾燥した場所で醸造を始めるまで保管してください。同様にホップは冷凍庫で、ビール酵母は冷蔵庫で保管しておいてください。そしてレシピに基づいて醸造するためには、大きな水切り用のザルも必要です。

 最初のステップは、そして一番重要なことは、使う器具を全て洗い、殺菌することです。洗剤は粉末状のビール専用の洗剤 (PBW:Powdered Brewery Wash) を使ってください。そしてゆすいでください。ビール用の洗剤はスターターキットに含まれている場合もあります。もし含まれていなかったら、それだけ別にホームブルーイングショップで買ってください。

 次に、冷やした麦汁を扱う全ての器具を殺菌します。発酵に使う容器や、液体を移す時に使うチューブ、エアロック (airlock) といったものも含みます。もし全ての器具を洗って消毒しなかったら、ビールの品質が落ち、おかしな臭いや味になるかもしれません。よく知られた殺菌剤には、iodophor と Star San があります。

 発酵させる容器に、殺菌剤の溶液を満たし、ゆすぐ前に5分ほど置いてください。もし発酵用のバケツを使うなら、バケツと一緒に、消毒が必要な他の器具もバケツに沈めて消毒してください。もしカーボイを使うなら、カーボイで使った殺菌溶液を、清潔なシンクに流し、そこで他の器具を5分間殺菌してください。

 醸造用の鍋に、最初に1.5ガロン(5.7L)の水を71℃まで温めます。粉砕した穀物を入れたナイロン製の袋を鍋の中に沈めます。スプーンを使って穀物の塊を崩しながら、1時間ほど浸しておきます。穀物を入れると、温度が下がりますから、レシピに書かれた温度(普通64℃〜72℃の間)にできる限り保ち続けます。時間が経つごとに鍋の温度は少しずつ下がります。必要な温度になるまで短期間、10〜20秒くらい火にかけます。火にかける時間を短くした方が、温度を上げすぎずに定めた温度に持っていくことが簡単にできます。穀物を抽出している間、水を3クオート(2.84L)、大きな別の鍋に入れ、77℃に温めておいてください。

 1時間経ったら、穀物の入った袋を鍋から持ち上げ、水切り用のザルの上に載せて、ザルごと鍋の上に置きます。用意していた77℃に温めておいた鍋のお湯を、ザルの上の穀物にかけ、その液体を鍋に流します。終わったら、穀物とザルは鍋から外します。冷やした穀物はコンポストにできますし、家畜の餌にすることもできます。

 鍋に、麦汁が3.5ガロン(13.2L)になるまで水を追加します。麦汁エキスを半分か、それより若干少なめの量を鍋に入れて軽くかき混ぜ、火にかけます。

 鍋を火にかけた後、数分そのままにして、それから最初のホップを入れていきます。終わったらタイマーをセットし、60分間煮ます。レシピに書かれている時間に従い、ホップを追加していきます。鍋の麦汁を3ガロン(11.4L)より少なくならないようにしてください。必要なら水を追加してください。最後の10分間の間に残りの麦芽エキスを入れてかき混ぜてください。簡単に混ぜられるよう、麦汁を少し別の鍋に取り出して、そこに麦芽シロップを溶かしても構いません。

 煮終わったら、麦汁を20℃まで冷やします。冷たい水で満たしたシンクの中に鍋を入れ、水が温まったら水を入れ替えるという作業を2、3回行います。麦汁が32℃まで下がったら、シンクの水に氷を入れて冷やします。

 次に冷めた麦汁を、発酵させる容器に移します。ラッキング・ケーンを使って麦汁を吸い上げ、消毒した発酵用の容器に移します。トリューブと呼ばれる、かなり厚い沈殿物が鍋の底に溜まっているでしょう。それはできるだけ吸い上げないようにしましょう。発酵用の容器に少し入るくらいが良いです。酵母の餌になるでしょうから。

 5ガロン(18.9L)になるまで水を加えます。そして容器に十分な空気を入れます。通気することで酵母に酸素を与えます。容器を密封して力一杯、数分間ゆすります。もしくは殺菌した泡立て器を使って同じ時間、泡立てます。ホームブルーイングショップでは、除菌した空気、それどころか酸素さえ送ることができるエアレーション器具を売っています。

 麦汁が冷えて、空気も入ったら、酵母を加えます。そしてビールを20℃、もしくはレシピに書かれている温度で発酵させます。発酵容器は密封し、エアロックに水を満たしてを取り付けます。このエアロックは発酵が進むと泡を出します。2、3日、勢いよく泡が出た後、徐々に勢いが落ちていくでしょう。最も標準的なアルコール度数のエールだと、発酵期間は4日から6日です。ビールの発酵が止まったら、ボトル詰めする前に2、3日寝かせます。

 ビールをボトルに詰めるため、バケツ、チューブ、大きなスプーンを殺菌します。12-オンス(360ml)のボトル52本を洗い、殺菌します。12-オンス(360ml)の代わりに、22-オンス(660ml)のボトル、28本に詰めることもできます。

 5オンス(150ml)のコーンシュガーを水に入れ、火にかけます。砂糖を溶かすのに十分な量の水にしてください。少し冷やして、殺菌したバケツに入れます。発酵させたビールもそのバケツに移し、殺菌したスプーンでやさしくかき混ぜます。発酵容器の底にたまった酵母の層は入れないでください。コーンシュガーによって、酵母が再発酵を始めます。数日後、ビールを入れたボトルに炭酸が加わるでしょう。

 ビールをバケツに全部移した後、バケツに蓋を軽くして、ビールをボトルに詰めていきます。どのボトルにも少しだけスペースを取ってください。市販のビールを参考に、それと同じくらいのスペースを取ります。そして打栓器で蓋をします。ボトル詰めしたものから蓋をします。全部のボトルにビールを入れてから蓋をしていくのではありません。ビールは空気に触れれば触れるほど、鮮度が落ちていきます。無理せずできるだけ早く作業を行ってください。新しいボトルと蓋は、開封されておらず、清潔であれば、殺菌する必要はありません。

 ビールをボトル詰めし、蓋をしたら、少なくとも一週間は常温で保管してください。ボトル一本を一晩冷やした後、開栓してください。炭酸が発生していたら、残りのボトルも冷やして消費してください。たまに出来立ての冷やされたビールが、初めのうち少し濁っていることがあります。もし透明なビールが欲しいなら、開栓まで少なくとも3日は冷やしてください。

 ボトル詰めされたビールの自家醸造を注ぐ時は、冷やしたパイント(473ml)・グラスに、酵母の沈殿物を入れないように注いでください。そのため最後に少し残ったビールは、捨てないといけなくなるでしょう。

 私はビールの自家醸造を25年間行ってきました。私ができるアドバイスは、使う器具はよく洗い、よく消毒するということです。醸造し終わったら、すぐに洗うのが非常に楽でいいです。時間が経つと大変です。2つ目に、酵母を常に最適な環境に保つことです。適切な量の酵母を使い、麦汁にはよく空気を入れ、発酵の温度は酵母がよく働ける温度を維持すること。3つ目に、発酵が終わったビールを、できるだけ空気に晒さないようにすること。瓶詰めは早く行い、できるだけ早く容器に封をすることです。

 最後に、練習の積み重ねによって完璧になります。そしてビールは、あっと言う間になくなります。なくなる前に、次のビールを作った方がいいでしょう。ビール作りを楽しんでください。

 

カスケーディング ペールエール レシピ

 このレシピで、アルコール度数5.1%、44国際苦味単位(IBUs - International Bitterness Units)、5ガロン(18.9L)分の、アメリカン・ペールエールを作ります。

 

材料:

・米国産二条大麦ペールモルト 2ポンド5オンス(1049g)

・クリスタル40Lモルト 7オンス(198.5g)

・クリスタル60Lモルト 4オンス(113.4g)

・粉末麦芽エキス ライト 4ポンド2オンス(1868.1g)

・α酸10%の「センテニアル」ホップ 1オンス(28.4g)

・アイリッシュモス 小さじ1杯

・イースト栄養剤 小さじ1/4杯

・α酸5%のカスケードホップ 2オンス(56.7g) 1オンスづつ分けておく

・カスケードドライホップ 1オンス(56.7g)

・11グラム入りファーメンティス US-05 ドライエールイースト

・コーンシュガー 5オンス(141.8g)

 

手順:

1. ビール醸造用の鍋で、1ガロン(3.8L)の水を72℃になるまで温めます。最初の3つの材料(粉砕した穀物です)を抽出用の袋に入れ、鍋に沈めます。大きなスプーンを使って麦芽の塊を全て潰します。温度はだいたい66℃にしておく必要があります。66℃で1時間保ちます。その後、絶えずかき混ぜながら、ゆっくり76℃まで加熱します。

2. 穀物をゆすぐためのお湯、2クオート(1.9L)を、別の鍋で77℃になるまで火にかけます。穀物を煮出した後、取り出して、醸造用の鍋の上に大きなザルを設置します。穀物をその中に置き、スパージング  [麦芽に残っている糖を回収すること] 用のお湯でゆすぎます。

3. 醸造用の鍋に入っている麦汁が3ガロン(11.4L)になるまで水を加えます。1/4の麦汁エキスをさっと混ぜ、煮立たせます。煮立たせている間、3ガロン(11.4L)以下にならないようにします。水を加えることで、3ガロン(11.4L)を維持します。

4. 沸騰させ、最初の「ホットブレイク(麦汁の中の凝固物)」が現れたら、「センテニアル」ホップを加えます。そして1時間煮ます。タイマーが残り15分になったら、アイリッシュモスと、イースト栄養剤を加えてそのまま煮ます。

5. タイマーが残り10分になったら、1オンス(28.4g)のカスケードホップを入れて、煮続けます。タイマーが鳴ったら、残りのカスケードホップと、カスケードドライホップを加えます。残りの麦芽シロップを残り10分の間に混ぜ入れます。溶かしやすくするために、先に少量の麦汁で溶かしておいても構いません。

6. 麦汁を20℃まで冷やし、発酵用の容器に移します。飲料用の浄化された水を加えて5ガロン(18.9L)にします。そして、空気を十分入れます。イーストを入れ、20℃で発酵させます。

7. 発酵が終わったら、ビールをボトル詰め用のバケツに移し、コーンシュガーを加えて、ビールの自家醸造をボトル詰めします。

 

クリス・コルビーは園芸愛好家で、テキサス州のバストロップ在住です。彼は生物学を専攻しましたが、興味を持ったのはビールの醸造です。彼の最新の本、「Methods of Modern Homebrewing: The Comprehensive Guide to Contemporary Craft Beer Brewing(現代のビールの自家醸造の方法: 現代のクラフトビール醸造の総合ガイド」は、12月に出版予定です。

 

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Brewing Beer: The Basics

By Chris Colby |  October/November 2017

 

参照:酒税法と手作りビールキットについて(アウベルクラウト