移動する虫たち

ビッグ・バグ・ハントに参加して、手ごわい害虫が町にやってくる時の備えをバッチリにしておこう

 

文:ベネディクト・バンヒームズ (Benedict Vanheems)

翻訳:浅野 綾子

 

 庭では、本当に独りぼっちになってしまうことなどありません。大自然は人間だけの場所ではなく、野外を棲みかとする多くの生き物たちの色や音、うごめきに満ちています。こうしたすべての生き物の中で、ガーデニングをする人がとりわけ気にするのが、多くの種類の虫たち。来て嬉しい虫もあれば、そうではない虫もあります。「良い」虫には、群れをなして来るハチやチョウなどの授粉昆虫もあります。こうした虫は、収穫ができるように助けてくれます。害虫を食べる虫も、庭が健やかになるのに役立ちます。「悪い」虫(少なくともガーデニングをする人が来ないでほしいと思う)とは、収穫する前に作物を食べてしまう害虫のことです。

  

 「虫」が何を指すかは、人によって違います。ここでは、「虫」は庭で見つかる無脊椎動物のすべてを含みます。昆虫だろうが、クモだろうが、ミミズだろうが、軟体動物であろうが、背骨がない生き物ならすべてです。よく言われる「悪い虫」は、ガーデニングをする人たちにとって最大の関心事になることが多いもの。というのも、この「悪い虫」がどこにいていつ現れるのか分かるかどうかで、豊かな庭にできるのか、半分虫にやられた植物が生えている小さな区画になってしまうのかの分かれ目になるからです。特定の虫が庭に[シーズン]初めて姿を見せる時期の記録をつけ続ければ、効果的で自然な害虫管理作戦の土台となり、その虫の行動パターンの調査もできます。十分に経験を積めば、害虫がいつ頃現れるのか予想できる可能性もあります。そうなれば対策を準備万端にできることになるでしょう。

 

自然のこよみ

 生物季節学(天候と気候の変化に関連する植物や動物の季節的変化の研究)は、庭にいるお手上げの害虫と、その害虫をコントロール可能なレベルにとどめるのに役立つ益虫に対する理解を同様に深める出発点になります。たとえば、体液の冷たい昆虫は気温に大幅に影響されます。普通、昆虫は気温の上がる春早々に姿をあらわし、増えていきます。寒い季節になれば逆になります。シーズン初めて昆虫を見つけた時期をメモした年間記録をつくり、地域の気象データと組み合わせれば、気温がその昆虫の行動にどのように影響するかが推測できます。この方法のデメリットは、過去の気象データをくまなく探す、または非常に細かなデータを自分で集める時間がかかるという点です。

 虫に対応する植物に変化が起こると同時に出現する虫は多い。植物季節学は、特定の植物と昆虫の間にあるこの関係を利用して、特定の虫がいつ現れるか、または再び姿を消すのはいつか予測する。

 植物季節学では、植物を気象の代弁者とすることで、この長時間かかるプロセスを省きます。この生物季節学における一部門は、つぼみが開くなどの植物に起こる変化を、特定の虫の出現と関連づけます。たとえば、アメリカオビカレハ(学名: Malacosoma americanum)は、レンギョウの開花とまさに同時に卵から幼虫になります。レンギョウがいつ花開くのかがわかれば、気象データに洗いざらい目を通す必要はないのです。

 多くの場合、植物と昆虫に起こる変化のかかわり合いは驚異的に正確です。事実、一連の変化とそのタイミングは非常に正確なので、異なる州で観察しても、または季節をまたいで観察してもずれが生じることはありません。オハイオ州大学のフェノロジー・ガーデン・ネットワーク (Ohio State University’s Phenology Garden Network) などの団体が、この大変興味深い研究分野の先駆けになっています。生物季節学のプロジェクト研究は、オハイオ州内にある31の研究庭園と提携しています。

 ノートとペンを持ち歩くのが、発見や観察をメモするのに1番簡単な方法です。でも、マザーアースニューズの無料オンラインガーデンジャーナル (Garden Journal) なら、さらにわかりやすい形で記録が残せます。自分の携帯電話やタブレットから写真を直接ガーデンジャーナルにアップロードでき、特定の写真と一緒にメモができます。このガーデンジャーナルを使うと地域の気象データが自動的に自分のアカウントに残り、手間をかけずに詳細なイメージをつくり上げるのに役立ちます。使えば使うほど、害虫の大発生を招く、住まいの地域独特の状況がわかるようになるのです。

 

ビッグ・バグ・ハント  (Big Bug Hunt:みんなで虫退治)

 ビッグ・バグ・ハントは、ガーデニングをする人の害虫予測ツール。この類の市民科学プロジェクトとしては最大です。2015年に私の勤め先であるグロウ・ベグ (GrowVeg:マザーアースニューズのガーデンプラニングアプリの支援チーム) によって開始されました。プロジェクトの目標は、ガーデニングをする人たちが、他の人たちから寄せられた様々な虫の目撃情報を通して虫の動きを追跡することで、自分で対策をとれるようにすることです。みんなで取り組めば、国レベルの広さ、そして潜在的には国際的なレベルな広さで虫を追跡することができるのです。

 経験することは貴重です。でも、もうすぐ庭が害虫にやられるぞと知らされていたらどうか想像してみてください。先手を打って行動し、情報を利用して被害の少ないようにと知らされていれば、虫除けの被いをするなど、少なくとも害虫の第一陣が押し寄せるのを油断なく警戒することができるはずです。ビッグ・バグ・ハントの成功は、無数の献身的な市民科学者が支えています。今までのところ、約2万人の市民がこのプロジェクトのウェブサイトを見て、自分の庭で発見した虫の報告をしています。どの虫を見たのか、いつ見たのか、どの作物の上にまたは近くにいたのか、プロジェクト参加者の報告には短時間でできます。ビッグ・バグ・ハントのサイトで虫の目撃情報を報告すればプロジェクトに参加できます。お住いの場所を入力(匿名で)し、該当する虫の居場所を郵便番号で示し、どこで虫が出現してどうやって広がるのか、イメージを徐々に作り上げていきます。目撃情報が増えれば情報の正確さが向上し、自分たちで適切な備えができるようになります。

 少し時間をかけるだけで、この害虫予測サービスが小さくとも意味のある一歩をさらに進める手助けができます。このプロジェクトは、マザーアースニューズ・ベジタブルガーデンプランナー (Mother Earth News Vegetable Garden Planner) に欠かすことのできない要素となって、ガーデンプランナーの利用契約者に大きなメリットになると考えています。

 市民科学は結果を出しており、多くの人が関われば楽に結果が出せると証明しています。たとえばプロジェクト・フィーダーウォッチ (Project FeederWatch) では、冬鳥の数をかぞえた報告を、北アメリカ中の鳥の個体数の長期的傾向を科学者が追跡するのに役立てています。これに類似したミネソタ大学のオオカバマダラ・モニタリングプロジェクト (Monarch Larva Monitoring Project) は、オオカバマダラの分布の解明に多大な貢献をしており、オオカバマダラの保護に役立っています。

  

 ビッグ・バグ・ハントは益虫・害虫すべての虫を調査します。これによって2つのメリットが生まれます。1つめはビッグ・バグ・ハントではガーデニングをする人たちが今後目にする虫を推測しているわけではないこと。むしろ、実際に庭にどのような虫が姿を見せるのかを学んでいるのです。2つ目に、すべての虫を調査することで虫同士の関係を調べることができること。異なる虫の出現と広まり方が類似するなら、ある種類の虫の様子を見ることで、もう1つの虫の動きが予想できるのです。こうした関係性は、一層価値の高いデータであり、データが増えれば精度も高まります。

 

ビッグ・バグ・ハントによる興味深い発見

害虫にやられやすいトップ3は、トマトときゅうりとケール。

マメコガネ(学名: Popillia japonica)は最も報告される害虫で、ヘリカメムシが僅差で第2位。

1 番報告数が少ないのはインペリアル・トータス・ビートル(学名: Stolas imperialis)で、現在の報告数は1件のみ。

アメリカとカナダで1番よく報告される虫には、はっきりとした継続性があり、トップ10のうち9の虫が過去3年間トップ10入りを続けている。

 

完璧な予測にむけて

 ビッグ・バグ・ハントのチームが直面する最大の挑戦の1つは、害虫予測が真に役立つよう、十分な信頼性を確保することです。チームの作業の大半は、正確さが許容レベルに至るよう予測の精度を上げることにあります。精度を上げることで、ガーデニングをする人たちが、出現する確率の高い害虫に向けた対策を優先できるのです。

 これが、みなさんに参加をお願いしたい理由です。ビッグ・バグ・ハントを通した1つ1つの目撃情報が、予測の最終的な精度を高めるのです。あらゆる場所の様々な季節を通じた目撃情報が寄せられることで、予測の精度が最大になります。ビッグ・バグ・ハントでは情報数が増えた時に、システムがさらに発展して適応するよう学ぶ最新鋭のコンピューターを使用しています。これによってデータの正確さが高まります。

  

 このように広範な地域に及ぶプロジェクトで最も満足度の高いことの1つは、収集したデータを目に見える形に表現できるチャンスになることです。現在予測研究チームでは、収集したデータを使い、地図を作成しています。アブラムシなどの害虫が南部にどのように出現し、北部へと軽やかに着実に前進するかを週単位で表す地図です。

 

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Bugs on the Move

April/May 2019

By Benedict Vanheems