気候変動と植物の栄養量

野菜を食べていても栄養を充分に摂れていない可能性があることが判明。

 

葉物野菜でさえ、炭水化物を以前より多く蓄えるようになっている。Photo by Getty Images/sanjeri

 

 

翻訳:山下 香子

栄養不良の原因が粗末な食生活ばかりとは限りません。多くの果物や野菜において、1950年代と比較して炭水化物の含有量が増えている一方で、タンパク質、鉄、カルシウム、ビタミンCの量が減っているという研究結果が2004年に発表され、この問題に注目が集まりました。炭水化物と他の栄養素の含有量が相反して変化しているのは、以前より甘みの強い品種が栽培されるようになったためだと考える研究者もいますが、より重大な要因、すなわち、地球の大気の変化によると確信している研究者もいます。

 現在、地球の大気中の二酸化炭素濃度は上がり続けており、この先50年以内に550ppmに達すると予測されています。19世紀中頃以前に計測された値の約2倍です。そうなれば、農業に深刻な影響を及ぼすことは避けられません。調査によると、二酸化炭素濃度が上昇することで全植物種の95%において必須ミネラルが6~8%減少すると予測されています。このような影響を受ける植物には小麦、米、ジャガイモなどの主要作物が含まれます。その程度の減少は取るに足らないと思われるかもしれませんが、ゆくゆくは世界のいたるところで健康被害を及ぼすものとなるのです。

 大気中で炭素濃度が上昇し続けていることの影響が最初に認められたのは、藻類を主食とする海洋微生物である動物プランクトンにおいてでした。海面に差す明るい光が水中の藻類を以前に増して繁殖させていることは調査でわかっており、プランクトンにとっては好ましい食環境になっているはずだと考えられていました。ところが、実際には、動物プランクトンの生命力は弱まっていたのです。分析してみると、藻類は生長が速くなっていたものの、栄養的には質が落ちていることが判明しました。藻類の栄養価が低下したことにより動物プランクトンの繁殖力が弱まったのです。

 これは、科学的には説明のつくことです。食料が増えたからと言って、必ずしも健康が増進されるわけではありませんし、それどころか、この2つの事象は逆に相関することがよくあります。植物が成長するには光と二酸化炭素のどちらも必要となるので、大気中の二酸化炭素濃度が上昇している今、陸上の植物の栄養価にも同様の作用が働いている可能性があります。植物にとって日光を養分に変えるのが容易であるほど、炭水化物はより濃縮されて蓄えられ、その分、タンパク質や亜鉛や鉄、その他の必須栄養素の含有量は減ってしまうのです。

 食事で摂る炭水化物が増え、その結果、他の栄養素の摂取量が減った場合、健康に影響するでしょうか。手始めに集められたデータは「影響する」と示しています。健康に関する問題を解消するために栄養豊富な植物が不可欠というのは世界のどこでも共通です。自然界にある供給源の栄養水準が下がれば、直接に影響を受ける人々 [限定された種類の穀物や野菜が食生活の主となっている地域の人々など] の健康は危険にさらされます。予測される例としては、2050年までに1億5千万人がタンパク質欠乏症に陥る可能性があり、また、同期間内に10億人の妊婦が鉄分不足による健康問題に見舞われるかもしれないということがあります。とりわけ懸念されるのは、このような植物の栄養崩壊の影響が既にはっきりと現れていることです。ある調査によると、アキノキリンソウの花粉に含まれるタンパク質の量が1850年代に比べて3分の1に減っており、そのせいで世界中でミツバチの群れが絶えていっています。大気中の二酸化炭素濃度の上昇が生態系全体に波及的に影響していくことは必至です。しかも、科学者が予測できないような波及のしかたでそれは起こりそうなのです。

 

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Climate Change and Plant Nutrient Levels

By Lydia Noyes | April/May 2018