アラバマ州のスマート住宅区

マザーアースニューズ スマートグリッド コミュニティ

アラバマ州の「スマート住宅区」の特徴は、私たちの未来にパワーを与えるマイクログリッドのコミュニティ。

文:ケール・ロバーツ (Kale Roberts)

写真:アラバマ電力 (Alabama Power)

翻訳:山下 香子

 

朝の日課が楽々とこなせる機能を備えた家を想像してみましょう。目覚ましのアラーム音が鳴って、トイレ付きバスルームにはやわらかな光が満ち、キッチンへと続く通路が灯りに照らされています。静かな音楽が流れるキッチンではケトルのお湯が沸いていて、すぐに紅茶やコーヒーを淹れることができます。アプリを立ち上げたスマホの画面をタップするだけで、リビングの曇りガラスの窓が透明に変わり、朝日に輝く景色が現れます。仕事に出掛けるために家を出る際には指令を一言告げるだけで、すべてのドアに鍵が掛かり、防犯装置が始動します。

 このような未来的な機能のある家に住んでいる宇宙家族ジェットソン [30世紀の宇宙を舞台にしたテレビアニメの主役家族] を思い浮かべることのできる人は多くいることでしょうが、住宅所有者であるハンナ・ケネディにとっては、スマートホームでの生活は今現在の現実なのです。

 ケネディはジェットソン一家が住んでいるオービット・シティではなく、レイノルズ・ランディング (Reynolds  Landing) で暮らしています。レイノルズ・ランディングはアラバマ州最大の都市バーミングハムの郊外のフーヴァー市にある住宅街です。立派な新築の家々やきれいに整えられた芝生の庭に感心しながら、この界隈を歩いていると、ここが災害に強く、低炭素エネルギーを利用する実験的な住宅街であり、米国で先駆けとなるコミュニティ・マイクログリッドのひとつにつながっていることに気づかないかもしれません。

 

マイクログリッドとは

 レイノルズ・ランディングには、ハイテク住宅街として開発されたということがよくわかる「アラバマ電力スマート住宅区(Alabama Power Smart Neighborhood)」という別称があります。エネルギー企業のサザン・カンパニー (Southern Company) の公共電気事業部門である子会社、アラバマ電力 (Alabama Power) 2018年にこのスマート住宅区を公表した時、この先進的技術を試験的に運用するひとつの手だてとして、希少な住宅街規模のマイクログリッドを始動させたのです。北米にはコミュニティ・マイクログリッドはまだほんのわずかしかありませんが、世界各地には従来型のマイクログリッドが何十年も稼働しています。

 マイクログリッドは基本的には小規模な送電網のことです。比較的狭い地域に電力を供給するための自給式発電設備を備えた配電網です。従来型のマイクログリッドは、天然ガスや燃料油から太陽光発電や小規模水力発電まで、ほぼすべての種類の燃料を使って発電し、単独の利用者(病院などの独立した建物や大学のキャンパスのような公共施設など)に電力を供給するものです。それとは対照的にコミュニティ・マイクログリッドは、通常は、主要となる送電網から変電所を経て、住宅区の数十世帯なり、市街地の数千の顧客なりに電力を供給するシステムです。

 どのような規模のマイクログリッドにも様々な利点があります。再生可能エネルギーの小規模なシステムは、環境を汚すことなく、低炭素な電力を供給するマイクログリッドに接続するのに適しています。太陽光発電などの持続可能エネルギーの価格がこの 5 年で大きく下がったため、たくさんの顧客にとって化石燃料発電の電力料金に比べ光熱費全般に支払う額が少なくなった上、元の送電網に電力を売り戻すこともできるようになりました。電力会社は費用のかかる送電や発電所の性能向上をしないで済ませられ、マイクログリッドを使えば送電網の運用を安定させることもできます。コミュニティ・マイクログリッドを推進する人々によってよく指摘されることなのですが、地域限定のエネルギー基盤を構築するとなれば雇用が創出され、さらにエネルギー料金として支払われるお金がコミュニティ内に留まることになるので、コミュニティ・マイクログリッドへの投資は地域経済を支えるのに役立つという将来性があります。

 

災害に強いエネルギーシステム 

 自然災害やサイバー攻撃にたびたび見舞われるようになった昨今では、エネルギー基盤がマイクログリッドであれば有事に被害を受けにくいということに強い関心が集まっています。2012年にハリケーン・サンディが米国北東部のいくつもの州に打撃を与えた後や、近年、カリフォルニア州と米国山岳部の広い地域が山火事で壊滅させられた後、多数の個人事業主たちや持ち家に住んでいる人たちが何週間も暗闇の中で過ごさなくてはなりませんでした。2017年にハリケーン・マリアがプエルトリコを襲った後には停電が何ヶ月も続きました。大きな災害の後には、集中型のエネルギーシステムは復旧が難しいということを住宅所有者と電気会社がともに認識するようになり、マイクログリッドがその解決策となるとみなされるようになってきました。特に大災害の際に、より広範囲の公共送電網から孤島のように自立した「アイランド」にできる、つまり、切り離せる機能があることが評価されています。

 クリーン・コアリション (Clean Coalition) 事務局長のクレッグ・ルイスは「送電が長距離に及ぶと、自然災害にしろ、テロ攻撃にしろ、電線は非常に損傷を受けやすいものとなります」と述べています。クリーン・コアリションはエネルギー政策を推進する非営利団体であり、「コミュニティ・マイクログリッド」という用語を造ったのも当団体です。

 

 アイランドモードでは、マイクログリッドに備わった畜電装置が稼働することで、照明を灯したり部屋を暖めたりするほか、携帯電話の充電をし、非常用装置に電力供給をすることも可能となります。対象とする地域に地元用の再生可能エネルギー装置を多数、配備し、これらの装置と畜電装置をともに稼働させることで重要設備が常に稼働し続けられるように全体のシステムが構成されています。個人的に補助発電機を使っている住人にとっても、適切に計画立てていれば、コミュニティ・マイクログリッドはさらに役立つものとなります。ルイスは次のように説明しています。「燃料の供給が制限される状況になったとしても、補助発電機の燃料タンクに蓄えてある燃料がトラックの備えになります。[マイクログリッドから電力が安定的に供給されると、補助発電機の燃料をトラックに回すことができる。] 非常時にトラックで移動や運搬ができたら、かなり助かりますよね」。。。

 

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