職場から農作業場へ。百姓になる。

マザーアースニューズ 就農

会社勤めを辞めて農家になる方法

 

文と写真:ジョナサン・オリバー (Jonathan Olivier) 

翻訳:山下 香子

 

最近の僕は寝ても覚めても農場のことばかりだ。ここ、ルイジアナ州南西部の気候でよく育つ作物品種を選ばなくてはと、もう何日も種のカタログを読み込んでいる。堆肥をまかなくてはならないし、加工処理小屋も建てなくてはならない。それに雌鶏を実際、何羽買うべきか、まだ決めかねていて頭を悩ませている。

 ルイジアナ州のアーノードヴィル [州南部のアケイディアナ地方の中央にある町] の近くをゆるやかに流れるバイユー・バーボーに沿った 4,000 平米(1,200 坪)あまりの土地に僕の農場「ル・ポタジェ・ダケイディアナ (Le Potager d’Acadiana)」(アケイディアナのキッチン菜園)はある。僕が生まれ育った町から車で約 1 時間の所だ。初めての栽培シーズンを迎える今、2 年計画の準備を経て、ついにこの時が来たなんて、ちょっと信じられないような心地だ。父方と母方のどちらの祖父も農場育ちだったが、僕は大学に行くものとして育てられた。そのため、持続可能な食料生産への関心が高まっていたのにも関わらず、ジャーナリストとしてのキャリアを駆け登っていた僕は、なかなかオフィス勤めから抜けられないでいた。

 いろいろ学んでいる中で読んだ本で米国の食料システムの欠陥について知った。これらの本の著者であるウェンデル・ベリーやマイケル・ポーランやマーク・サンディーンは常識を超えた考えを説いていて、感銘を受けた僕は自分がどんな生き方をしたいのか考えさせられた。志すことにしたことのひとつには「地元産の食べものを重視する、より持続可能な暮らし」というものがあったのだが、仕事と住む場所に縛られて、この志に向かうことができないでいた。当時、テネシー州のナッシュヴィル郊外でアパート暮らしをしていた僕の身では、バルコニーでわずかばかりの植物を育てるのが関の山だった。一日の大半を屋内で過ごし、机の上のコンピュータに張り付いているうちに時間ばかりが過ぎていった。ますます違和感が募っていくシステムを変えられないまま

 

さぁ、行動を起こそう

 ある時、友人にワーカウェイ (www.WorkAway.info) というものを勧められた。これは、寝床と食事を提供してもらう代わりにボランティアで働く意欲のあるゲストと、子どもの世話から農作業に至るまで様々なことで人手を必要とするホストをマッチングする機関だった。ざっとネット検索しただけで、北米各地で畑仕事の手伝いを求めている農家の巨大なネットワークがあることがわかった。つまり、農業を実地体験する機会が僕の目の前に現れたのだ。根本的に生き方を変えたいと願っていた自分にはまさに渡りに船だった。

 というわけで、2017年の12月に仕事を辞めると、真摯に農場を目指してアメリカとカナダを渡り歩くことを胸に誓った。自分の農場を将来持つことを見据えて、持続可能なやり方で作物や家畜を育てることについて、学べることはすべて学ぼうと思った。農業をやりたい気持ちに蓋をしたまま、デスクワークにかまける日々にはもう戻らない。

 2 年弱の間に 5 万キロメートル近く移動しながら 13 の農場で働いた。各農場で貴重な教えを授けてもらった。農場主たちは単に臨時の手伝いを求めていたのではなく、ローカル・フード・ムーブメントを支えるための知識を熱心に伝えてくれた。

 

 

なぜ無償で働くことにしたのか

 農場経営というのはいかにも大変そうだから、なかなか最初の一歩が踏み出せないものだ。でも、農場を持つ前に見習いとしてしばらく働いてみると、農家としてやっていくのに役立つ実地体験と価値ある情報を得るためのすばらしい機会になる。

 就農志望者向けのワークショップや講座は数多くあるが、大半は高額の費用がかかる。僕にはボランティアで働くことが良いアイディアに思えた。理由は、賃金をもらわなくても、ただで実地体験ができ、農業を学べること。有給で農場に臨時雇用してもらうには、たいてい農業経験が必須となるけれど、ボランティアであれば、ほとんどの場合、経験不問だ。そういったわけで、見習いとして様々な農法を体験するために数ヶ所の農場で無償で働こうと考えた。それに、定住する場所をまだ決めていない場合、いくつもの地域に行けば、検討に役立つ。

 無給の見習いとしての旅をするにあたって、僕は特異な立場にあった。フルタイムの仕事は辞めたものの、農場から農場へと移り住む間にフリージャーナリストとして、いくつかの出版物に寄稿するという働き方が可能だったからだ。農場では通常、週 25 時間だけ働けばよかったので、15 時間以上、遠隔で仕事をする余裕があった。泊まる部屋と食事は提供してもらえたため、出費は最小限で済んだ。だから、あなたもこのような稼ぎ方ができないか探ってみても良いかもしれない。あるいは、前もって計画を立てて、出発するまでに必要資金を貯めておくという方法もある。

 それでも、無給の臨時雇いは無理だという人もいるだろう。もし、あなたがそうであるなら ATTRA [Appropriate Technology Transfer for Rural Areas 農村地域への適正技術の移転プログラム] 持続可能農業  (www.ATTRA.NCAT.org) のサイトで検索することをお勧めしたい。ATTRA は米国国立適正技術センター (National Center for Appropriate Technology) が運営している情報サービスシステム。上記のサイトには北米各地における有償で実習ができる農場のリストがある。ただし、農場によっては経験者優遇となっていたり、多くの場合、作物栽培の全期間を通してフルタイムで働くことを条件としていたりすることに留意してほしい。

 

目的に合う農場を見つける

 無償の働き手と農家の橋渡しをする機関が少数ではあるが存在する。代表的なものを二つ挙げると、 World Wide Opportunities on Organic Farms [WWOOF(ウーフ)ジャパンのウェブサイトは www.wwoofjapan.com] とワーカウェイ (Workaway) だ。両機関とも利用には会費が必要。プロフィールをインターネット上で見ることができるので、受け入れ先の農家を選ぶのに便利だ。

 自分のプロフィールを作成する前に、まず、習得したい農業の技法のリストを書き出してみよう。自分のプロフィール・ページの個人情報欄を埋めるのに使えるということもあるが、おそらく、もっと重要なこととして、自分がどういった農家の人たちと働きたいと思っているのかが明らかになるという利点がある。たとえば、僕の場合、当初はパーマカルチャーに興味を持っていたので、この農法を実践している何件かの農家に連絡を入れてみた。しかし、見習いの旅を続けるうちにパーマカルチャーよりも、バイオインテンシブ農法 [自家製堆肥で土壌改良し、炭素豊富な穀物を多用し、多様性を維持する有機農法] を不耕起で行って市場向けの作物を栽培することの方に心が傾いているのに気づいた。それで、そのような技法を用いている人たちと働くことにした。最初にどんなに意気込んで何か特定の農法を学ぼうとしていたとしても、徐々にリストは進化していくものだと心得ておこう。

 技能の多くは世界のどこでも通用するとは言え、自分の地元の農家に学ぶことはとてもためになる。地域の農家で働けば、害虫に関する情報や気候、それに地元の市場など、その地域特有の事情に詳しくなれる。けれども、もし、最終的にどこに住むのか決めていないのだったら(僕がそうだった)、移転し続けることで米国内の様々な地域の農業に関する情報を得ることができる。僕は当初は西部内陸に住もうかと思っていたのだけれど、旅を始めてすぐにこの地域には灌漑の問題があることがわかって気が変わり、定住の地は自分の出身州であるルイジアナに決めた。

 

短期滞在で成果を上げるには

 希望条件に合う農場のリストができたら、明確かつ詳細に志望動機を伝えるメッセージを各農場に送ろう。そして、労働交換に合意する前に、自分と受け入れ先の農家がお互いに体験から何を得たいと思っているのかを良く理解し合うために電話かテレビ電話で話す段取りをつけよう。

 ひとつの農場にはできれば 1 ヶ月以上、どんなに短くても 3 週間は滞在できるように話をつけると良い。それより短期だと、農場運営の全体像が見えてこない。それに 12 週間しかいない見習いの教育に農家の人はそれほど時間をつぎこんではくれないだろう。

 通常、農場では、天気に関わらず、週 25 時間働くことが求められる。屋外で長時間にわたって重労働をする覚悟が要る。しかも、時には悪条件で。僕が見習いをしていた時には、溝を掘ったり、何千本もの雑草を抜いたり、思い出すだけでもうんざりするほど大量のうんちをスコップですくったりした。こういった作業はどこの農場でもやっていることなので、自分がこの職種に向いているかどうか、すぐにわかることだろう。作業は魅力的ではないけれど、学びが手に入る。草取りでさえ、ためになる。草を取るべき時期ややっかいな草の種類などを知ることができるからだ。どんな作業にも学びの種が隠れていると思えたら、やっている仕事が与えてくれるものを見落としはしない。農家の人と人間関係を築いていくうちに、より重要な作業をやらせてもらえるようになるだろう。

 一番の目的は「学び」だと何度も自分に言い聞かせてほしい。そして、作業の基本的な指示に留まらず、詳しい話をたっぷりしてくれるように農家の人にお願いしよう。質問をリストアップしておいて、作業の合間に尋ねるのがお勧めだ。ニューメキシコ州では農場主さんが週に何回か、僕と膝を交えて話す時間を取ってくれたので、用意しておいた質問やその日に頭に浮かんだ疑問を尋ねることができた。教えてもらったことを書き留めたノートは、見習い時代の思い出の品というばかりでなく、貴重な情報源として今でも参考にするためにページを繰っている。

 特に大事なのは、心をオープンにしていること。前向きな態度でどんな仕事もやってやろうという意気込みを持って、ひとつひとつの状況に向かっていくことで豊富な情報を得られると気づいた。農場で実習すれば、自分が何に向いているのかを探ることになる。だから、日々の雑用は食欲を刺激するオードブルだと考えよう。農場の局面をひとつひとつ味見してみると、全体としてどんなものなのか味わうことができる。

 

根を下ろす

 見習いの旅が終わりに近づいた今年の春、自分の農場の計画を立てることにした。それまでの数ヶ月間、考え続けていた計画を紙に描いてみると具体的な検討が必要となり、細部を詰めることができた。ここに至るのにほぼ 2 年かかった。自分に準備ができたか簡単に見極める方法などないが、僕には「今だ」と思えた。どのような農場をやりたくて、どこに住みたいのか、はっきりしていた。そして、各種の農法の理解は大いに深まっていた。

 次に取り組んだのは、新たに住むことになった地域の人たちと知り合うことだった。それも、できれば、土地の情報や自分の役に立ちそうな講座を紹介してくれるような人たちとつながりを持ちたいと思っていた。そうして見つけたのがアカディアナ食品連盟 (Acadiana Food Alliance) だった。ルイジアナ州南西部の農家を支援することを主眼とする組織だ。僕が確実に食品安全近代化法 (Food Safety Modernization Act) を順守するように、地元のワークショップなど僕が参加できる講座の情報を提供してくれた。

 人脈作りの次に目を向けたのは土地探しの問題だ。全米青年農家連合 (National Young Farmers Coalition) 2017年に行った調査によると、若年層が就農しようとする際に最大のネックになっているのが土地の購入だという。物件探しを始めると、僕はこのことを身をもって知った。比較的低い収入しか見込めなかった僕にはとても手の出ない高値だったので土地の購入は断念した。代わりに別の選択肢を検討することにした。

 最終的に見つけたのは、収穫物と労働を提供する代わりに土地所有者の地所に住まわせてもらう交換条件だ。僕が実習をした農場の人たちは労働交換リースと呼んでいたから、一般的に思われているよりも普及しているもののようだ。あなたも情報のやり取りができる人たちとできるだけ交流してみると良いと思う。そうして土地所有者と知り合ったら労働交換リースを持ちかけてみてほしい。その際には、こういった人間関係はお互いの得になるということをはっきりと伝えよう。

 その時点で土地を買うことが叶わないのであれば、土地の賃借と土地のリース(月払いの法的契約)がより慣習的に行われていることだ。リースの契約期間は数年に及ぶ場合が多く、その期間内に空き時間を利用して地所を探すことができるばかりでなく、最初の数回の栽培シーズン中に実験をする機会も得られる。

 賃借より一般的ではないが、土地信託や土地所有権移転という選択肢もある。土地信託団体は開発の危機に瀕している資源(農地など)を守る非営利組織だ。通常、土地信託団体は農地の地価がその土地の農業的な価値を上回らないようにし、農家志望者の手の届く価格に抑えている。土地所有権移転は既存の農場の経営を新しい所有者に譲渡することを言うが、たいてい時間のかかる、込み入った手続きとなる。農村センター (Center for Rural Affairs) は、土地所有権移転を円滑に進めるのに役立つ、米国各地の講座のリストのほかに詳細な関連情報を公式サイト (www.CFRA.org) で公開している。米国の農業従事者の平均年齢は上がり続けている(最新の国勢調査では 58 歳)ので、今後、土地所有権移転を利用できる機会は増えるだろう。

 このところ、自分の中に不安な気持ちが湧き上がってきている。行く手に立ちはだかる、いくつもの壁の存在に気づいたからだろう。そんな不安を和らげてくれるのは、確信で、あの見習いの日々が僕の農場に頼りになる土台を与えてくれたと信じられることだ。このキツいが、やり甲斐のある生業をやり抜くのに必要な百姓気質を培うことができた。それは見習い期間に得た経験のおかげにほかならない。

 

 

ジョナサン・オリバー (Jonathan Olivier)は、著述家でジャーナリスト。南ルイジアナでアウトドアと環境について執筆している。彼は 2 年間、北米中を旅して、各地の農場で働いた後に、自身の農場 Le Potager d’Acadiana を始めている。

 

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