病んだ木材を生かしてカスタム家具を作る

マザーアースニューズ自給
病気になった樹を伝承の手工芸品に。

 

ボールドウィン・カスタム・ウッドワーキングのチーム。左から、コルトン・クルック (Colton Krook) 、カーラ・イーストウッド・ボールドウィ ン (Cara Eastwood Baldwin) 、ケビン・ウッドワード (Kevin Woodward) 、ライアン・ボールドウィン (Ryan Baldwin) 、ジョエル・ペグラム (Joel Peggram) Photo by Cara Baldwin. 

起業ビジネスのボールドウィン・カスタム・ウッドワーキングは、病気にかかった木を家伝の手作り木工品に生まれ変わらせる。

 

文:ケイル・ロバーツ (Kale Roberts)

写真:カラ・ボールドウィン (Cara Baldwin)

翻訳:浅野 綾子

 

 アメリカ西部一帯の何百万という木の皮を剥ぐと、害虫が蔓延する動かぬ証拠が見つかるでしょう。本来滑らかなはずが、縦横に張り巡らされる虫の細い通り道。1990年代の後半から、西部の6千万エーカー(2,428万ヘクタール)以上の森林で、前代未聞のアメリカマツノキクイムシの大繁殖によって、木が次々に枯れているのです。アメリカマツノキクイムシは、その地域に元々いる虫ですが、温暖化と旱魃の20年が木を弱らせ、害虫の足がかりになっています。

 山腹全体が、緑からくすんだ赤、その後に灰色へと変わる一方(キクイムシによる森林衰退の独特な色彩の進行)、デンバー、ボルダーやフォート・コリンズのような地域で、ニレやセイヨウトネリコ、クルミもまた病害虫に侵されて取り除かれることが増えています。そのコロラドに住む、1人の木工職人が、コロラド北部の都会の森から伐採されて運ばれた、害虫にあばた状にされた木に、新しい命を与えるべく汗を流しています。

 ライアン・ボールドウィン (Ryan Baldwin) は、ボールドウィン・カスタム・ウッドワーキング (Baldwin Custom Woodworking) のオーナーであり経営者。ボールドウィン・カスタム・ウッドワーキングは、フォート・コリンズの裾野にある、小さな製材所であり木工品店です。2008年から、ライアンと彼の妻のカーラ (Cara) は、地域の害虫被害を受けた木を回収し、建築プロジェクト、洗練されたオーダーメードの家具や高級家具、その他の製品用に製材することにより、オーダーメード家具の会社を築いてきました。

 「十中八九、木は病気にやられたか枯れかかっているため、私たちのところに運ばれて来るんだ」とライアン。地元の生態系には甚大な被害ですが、木の内部の色と質感はほとんど無傷のこともあると言います。人間による被害の方が多く目を引きます。ライアンの店に運ばれて来る90パーセントの木は、フォート・コリンズ隣接地域のもの(ほとんどが市内)のため、面白いものが(くぎや有刺鉄線、銃弾でさえも)中から見つかることがあるのです。育成された木材と違い、ボールドウィンと彼の4人の仲間が扱う粗削りの平板は、一定方向の木目で平らになることはほとんどありません。

 「地元の生徒のグループが来るんだけど(見学に)、木がどこから来ると思うか聞くと、生徒たちは『ホーム・デポ[Home Depot:アメリカの住宅リフォーム小売チェーン] 』、『ロウズ[Lowe’s:アメリカのホームセンターチェーン] 』と答えるよ」とライアンは言います。「僕たちがやっていることは、ほとんど全ての地域社会に小さな製材所があった半世紀前への逆戻りのようなもの。過去50年間、製材所が失われ、地域の木材、地域の木とのつながりを、住民に失わせてしまうことを目にして来たんだ」

 

環境にやさしい建物をリードする

 このつながりの喪失はいくらか和らげられるかもしれません。ここ数年、一部はLEEDの建築基準に合わせようという建築分野コミュニティで高まる強い要望のおかげで、ライアンは、地元産資材の需要復興を目にしています。

 「Leadership in Energy and Environmental Design」、それぞれの頭文字をとってLEEDは、米国グリーンビルディング協会によって立ち上げられた評価システムで、建築プロジェクトが、水回りの効率やエネルギー性能、その他の基準に関する必要条件の厳格なリストに添っていることを保証するものです。

 地元資材の再利用は加点されます。ここが、ライアンと彼の仲間の出番です。フォート・コリンズや、隣接するラブランドの町、コロラド州立大学、その他の地元企業は皆、都会の木材を自分たちの建築デザインに取り入れるために、ライアンの門を叩きます。「請負業者は、資材の再利用でLEEDに向けての確実性を得、居住者は、自分たちの階段や目を引く建物の他の部分に、驚きの物語を手に入れるの」とカーラは言います。

 家主たちが、完成品を依頼する客先の残りを占めます。多くの家主は、往々にして、何を作ってもらうのかという製作前の検討に、ボールドウィンの職人が一般的に製作にかける3~5週間よりも長い時間をかけることがあります。工房を訪れた人たちは、テーブルや椅子、調理台に腰掛け、もしくは端が未塗装のバーカウンターの板(よく受けるオーダーです)ができることをつぶさに見て、創造性をかき立てられることが多いのです。「木材置き場を歩く人たちは、完成品がどうなるのか想像するのが難しいのかもしれないわ」とカーラは言います。「でも、工房を歩いて他の完成品を見ると、クリエイティブになる。こうやって、工房は、木材置き場を補完するものであり、逆もまたしかりなのよ。」

 

時間をかけてビジネスを築く

 ボールドウィン夫妻は、オーダーメードで家具を作るのはお楽しみの部分で、一方、ビジネスを回していくのは大変な部分だと力説します。経験豊富な企業家なら知っての通り、起業家は何足もの草鞋を履きます。ライアンは、機械工であり、管理人、屋根修繕工、販売員、営業マネージャーでもあります。クイックブック[QuickBooks:アメリカの会計ソフト]や送り状の書き方、給与、税金についても独学しました。「彼は、自分が家具のデザインと製作をする人間であるのみならず、ビジネスパーソンでもあることに全く疑いを持っていないわ」とカーラは言います。

 カーラの専門は、ジャーナリズムとマーケティング。夫同様、カーラも自分のスキルをこのビジネスの継続を支えるために使ってきました。会社の広告資料を作ったり、eメール配信のニュースレターを書いたり、ウェブサイト用に商品の写真を撮影したり。「会社が始まった頃、ライアンの作業をスタジオ写真に撮影しようと、スタジオライトを引きずってガレージに行き、黒い背景スタンドを立てたこともあった」と、カーラは言います。「今は、もっと素朴な感じを採用しているの」

 「彼女は本当にすごいまな板を作るんだよ」とライアンが続けます。

 カーラのプロボノ的な貢献は、初期のビジネス継続を支えました。「舞台裏で支えていたように、私は従業員ではなく、このビジネスとは関係の無いところでフルタイムの仕事をし続けているの。外部からの収入無しにやっていくことは困難だったでしょう」とカーラ。「それがあったから、ライアンがこの仕事に専念できたんだわ」

 

仕事道具

 ライアンは6才の時から日曜大工をしています。6才の時、チェーンソーのチェーンを直したり、芝刈り機の修理をし始めました。学校でデザインについていくらか学んだことがあり、それが比率配分と寸法を理解する助けになりました。家具作りに重要な技術です。ライアンは、雑誌「Fine Woodworking(仮題:素敵な木工)」や「Fine Homebuilding(仮題;素敵な家作り)」の出版社であるタウントン・プレス (Taunton Press) のアイデア、道具の使い方、製品紹介の情報を買っています。家のリノベーション番組もライアンの学びに役立ちました。「『This Old House』や『New Yankee Workshop』、この手の番組の完全なオタクなんだ」とライアンは言います。

 ライアンは、仕事としての木工を、自宅用レベルの道具を用意して、自宅ガレージで始めました。丸のこ、留め継ぎ用のこぎり、くり抜き器、鉋にジョイナー。こうした道具は、外部からの資金調達の必要を省く一方で、オーダーメード家具の製作にとても役立ちました。「多くの店は、たくさんの高価な道具をそろえて仕事を始める。僕にとっては、道具をそろえるのは自然発生的だった。ある道具が必要な企画を立ち上げたら、それをそろえるというように」とライアンは言います。

 もっとも、道具への2つの大きな投資は、ボールドウィン・カスタム・ウッドワーキングの製材部門を大きく拡大させ、全体の仕事の50パーセントの割合にまで伸ばしました。投資の1つは、ウッドマイザー (Wood-Mizer) ブランドの簡易製材機で、ボールドウィンチームが素早く丸太を材木に製材することができるようになりました。2つ目は、2つの乾燥機を加えたことです。

 製材したばかりの材木は、乾燥に1年程度までかかることがあります。乾燥機で乾燥した加工平板を使えば、3週間ほどの短い時間で材木を乾燥させることができます。乾燥機があることで、建物完成まであと数ヶ月という請負業者や家主の仕事を受けることができるのです。「材木が乾燥するまで1、2年待たなければならなかったら、そのような仕事を請ける機会は全く存在しなかっただろうね。」

 ライアンはもっと道具を足したいのですが(大きな平削盤のような)、収容スペースがありません。この制約をクリアするために、地元の他の製材所や木工職人と協力し合います。例えば、ライアンはドアを製作している会社から平削盤を借りることができます。「他の請負業者に支えてもらうことが鍵。1週間に毎日大道具を使う必要がないのなら、1週間に1回か、月に2、3回使わせてくれる誰かを見つける必要がある」とライアンは言います。

 

未来の木工職人へのアドバイス

 自分で木工ビジネスを始めたいなら、地域の競合相手と思われる人たちと親しくなることを恐れるなんてあり得ないと、ボールドウィン夫妻は釘を刺します。他の複数の製材所がフォート・コリンズにはありますが、それぞれが扱う木に関連するニッチなビジネスを展開しています。ボールドウィン・カスタム・ウッドワーキングの場合、セイヨウトネリコ、3種類のニレ、クルミ、メープル、その他にはキササゲ、エノキ、クワやりんごを含むあまり一般的ではない種類の木も製材しています。一方で、松やモミの多用が潜在的に競合します。「僕たちは皆、結果として叩き合うよりも助け合って来ているんだ」とライアンは言います。

 夫妻はまた、木の取扱いと経営の両方について学ぶのに、見習いに入ったり講座を受けて独学を補うようにとアドバイスします。最後のアドバイスは、十分なスペースを探し出すこと。木材の作業は(比較的小さなものであっても)、製材を待つ20~30本の木を収容する十分な土地、この量を効率的に加工する工房と、木材の保管技能が必要です。

 ライアンのチームの先行きに、資材不足は見当たりません。アメリカマツノキクイムシは、現在、沈静化の兆候を見せていますが、他の害虫(セイヨウトネリコを餌とするアジアからの外来種であるアオナガタマムシ)が取って代わる動きをしています。「これは、この先2~10年、セイヨウトネリコが運ばれて来るようになるだろうということ」とライアンは説明します。

 ボールドウィン夫妻にとって、こうした害虫が運んできたビジネスブームに気分は複雑です。それは、地域の木が駄目になることと裏表だとわかっているからです。「木が本当に大好きで、この仕事をやり始めたんだ」と、ライアン。「木がこんな風に死んでいくのを見るのは悲しい。でも、そうした木に、新しい命を吹き込む何かを自分がしていると感じられることは嬉しいんだ」

 

 

ケール・ロバーツ (Kale Roberts) はマザーアースニューズの元編集者で、ICLEI - Local Governments for Sustainability の現職のプログラムオフィサー。温室効果ガスの排出を管理して環境対策を策定している合衆国中の市を支援している。

 

たのしい暮らしをつくる

マザーアースニューズ

購読登録はこちらからどうぞ

 

Custom Furniture Company Builds with Salvaged Wood

By Kale Roberts

June/July 2017