クレオールのヒーリングハーブ

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ルイジアナ州南西部のいくつかの郡では、何世代にもわたり、クレオール人が多くの病気の治療にあまりよく知られていない植物を使ってきた。今日、そうした植物が日の目を見るようになってきた。

文:ジョナサン・オリヴィエ(Jonathan Olivier)

翻訳:松並 敦子

 

 ルイジアナ州南部育ちの私にとって、家族の中で年長者がフランス語を話すのを耳にすることなど、珍しくもないことでした。母はよく裏口から私と二人の兄に向って「Viens manger」と大声で叫び、家の中に入ってご飯を食べるように促していたものです。フランス語を母語として育った私の祖父母は、集中訓練クラスでフランス語を学んだ私も含めた若い世代の人たちとの会話に、今でもフランス語を使います。

 この地域では、豊かな言語遺産とからみ合い、他の多くの地域ではほとんど忘れ去られたようなクレオール人の昔からの習慣が根強く残っており、広く受け入れられています。かつて孤立していた田舎のコミュニティでは、今でも「Courir de Mardi Gras[クリール・デ・マルディグラ:受難節前の最後の日を祝う物乞いの儀式。昔のフランスの田舎の祭りに由来する伝統衣装を身にまとい、チキンランというイベントを行う]」のような中世の風習が行われ、ガンボといった地域の主食が食べられていますが、これはまだ合衆国という概念がほとんどない時代にまで遡ります。しかし、製薬会社が医療を支配するようになると、地域にあ る薬草の知識という1つの伝統はほとんど忘れ去られてしまいました。

 「ちょうど失われたところです」と話すのは、ルイジアナ州南西部にあるラファイエット・パリシュ・マスター・ガーデナーズ協会(LPMGA:Lafayette Parish Master Gardeners Association)のメアリー・ペリン(Mary Perrin)です。ペリンによれば、クレオール人はかつて、と言ってもほんの数十年前頃のことですが、彼らを悩ます病気の治療に土地に頼ることが普通だったようです。ルイジアナの植民地にやってきたヨーロッパ人は、アタカパ・イシャク族やチティマシャ族など近隣に住む先住アメリカ部族の慣習を取り入れ、それらがクレオール文化の一部として定着していきました(46ページの「クレオール人と文化」をご参照)。ルイジアナ州以外ではほとんど知られていないこれらの植物は熱を鎮めたり、咳を抑えたり、痛みを和らげたりすると言われていました。たいてい、こうした知識を有する者は「治療者」を意味するトレイターと呼ばれ、コミュニティの中心的存在でした。彼らはローマカトリックの祈りを通してコミュニティの人々を治療し、様々な問題を治すとされる地元の薬草の処方ができたのです。トレイターは足首の捻挫や、インフルエンザなどの病気を治したと言われています。

 伝統的に、治療技術はトレイターから弟子へ受け継がれました。72歳のペリンは20年ほど前に年長者から治療法を学んだトレイターです。「彼は私に祈りや伝統を教えてくれました」と言います。「口頭で伝えられるので、伝統は変化する傾向があります」つまり、あるトレイターは地元のハーブを抽出したお茶を1日に3回服用するように処方するかもしれませんが、別のコミュニティのトレイターは1日に5回の服用を勧めるかもしれないのです。

 多くの場合、トレイターは苦しむ人の患部に手を当てて祈り、おそらく、地元で手に入れた植物で作った湿布を処方していたようです。今ではトレイターは以前のように一般的ではありませんが、ルイジアナ州南部にはペリンのような人があちこちにいます。しかし、ペリンによれば、色々な意味で、薬用植物の知識はトレイター間でも廃れてきたとのこと。今では、トレイターの多くが単に祈祷に集中しているのです。

 しかし、かつてルイジアナの薬用植物のパワーを知っていたのはトレイターだけではなく、その用途は広く理解されていました。こうした事実は、ルイジアナ州立大学の大学院生チャールズ・ビエンヴェヌ(Charles Bienvenu)の1933年の論文で証明されています。ビエンヴェヌはセントマーティン郡で何百人ものクレオール人のルイジアナのクレオール語を調査していました。地元ルイジアナのフランス語方言とは異なるこの言語を研究するために、ビエンヴェヌはルイジアナのクレオールで彼の被験者たちと民間療法について話し合ったことがあったのですが、これが地元の薬用植物に関する知識の宝庫を提供することにつながりました。その結果、今日入手できるものとしては最も包括的な文書によるクレオール民族の植物知識の説明が得られたのです。

 ビエンヴェヌの論文と他の研究者や実践家の研究により、これら地元の植物に関する情報が失われていないことが保証されました。2010年、ルイジアナ大学ラファイエット校(ULL)の人類学の准教授C.レイ・ブラッシア(C. Ray Brassieur)は、こうした植物を特定し、現代の環境下でその可能性を解き明かすために、ビエンヴェヌの論文の研究を始めました。地元の植物には、エルダーベリーやニオイニンドウ(学名 Lonicera periclymenum)のように広く知られているものもあれば、Manglier( ハマベノキ)やハルベ・ア・マロ(アメリカハンゲショウ)のように、ルイジアナ州南部以外ではほとんど知られていないものもあります。

 2011年、LPMGAはブラッシアがこうした植物と、それらに付随する民間療法をそのままの形で展示する役割として、ルイジアナ州ラファイエットの博物館バーミリオンビルにトレイターのモデル庭園を設立するのを支援しました。「この庭がある以上、知識が失われることはありません」とペリンは言います。「私たちは文化的伝統を守り続けていきます。また、そうした植物にはフランスの伝統やクレオール語の名前がついたものもあります」

 2014年、ブラッシアとペニントン生物医学研究センター、ラトガーズ大学、ULLの科学者から成るチームがさらに研究を進め、ビエンヴェヌの論文から強力な薬効があるとされる植物をいくつか選んで調べました。現地での採取を経て、いくつかの植物に際立った抗炎症作用があることが分かり、2型糖尿病治療の可能性が判明し、この研究成果は科学雑誌『Nutrition』の第30巻に掲載されました。

 研究者たちは特に1つの植物、Manglierについて研究を進めました。グループの中でも最も期待が持てることが分かったからです。植物の茎や葉から抽出したエキスを調べた結果、Manglierに高血糖、肥満、高血圧を含むメタボリックシンドロームの治療薬になる可能性があることが突き止められました。Manglierの利点には、脂肪細胞の炎症を抑えながら、肝臓や骨格筋に良いタンパク質を作る能力を高める効果もあります。この研究成果は2018年に国際的な査読付き学術誌『Biology』に掲載されました。。。

 

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