オフグリッド暮らしでは温かな湯船を楽しめないと思ってませんか。この薪焚きの美をご覧あれ。
文と写真:ジェスとアリッサ (Jesse and Alyssa)
翻訳:市岡 秀俊
2015年の9月に私たち夫婦がこの土地に移り住んだときには、すぐにでも自分たちで家を建てたいと意気込んでいました。当初は、数か月で建物の基本構造くらいは組み上がるものと考えていましたが、ほどなくして準備が足りていないことを痛感することになりました。そんな状態だったので、これから何年も取り組むことになるかもしれない家づくりの期間中、英気を養うためには何が必要か考えてみることにしました。そして思いついたのが、敷地内に置かれた薪で沸かす露天風呂。悪くないアイデアでしょ?
私たちは敷地内に停めた5.8mのトレイラーハウスでオフグリッド生活を送っていました。当時、何の設備もなかったので、生活空間を屋外にも広げたいと思っていました。そして何かすぐに楽しめて、人里離れた土地に移り住んできたことの意味を再認識させてくれるものを作りたいと考えました。露天風呂というアイデアはまさにぴったりでした。野良仕事を終えた一日の終わりにくつろぎを与えてくれるでしょうし、特に寒い夜など、トレイラーハウス生活で不安や倦怠感に苛まれそうな時にこれほど温かく包んでくれるものは他にないように思えました。
自力で自宅を建てるとなるとかなりの肉体労働になるので、体調を良い状態にキープしておくことがなにより大事です。トレーラーの中ではゆっくり熱いシャワーを浴びることもできないし、体を伸ばせる平らな場所もないので、湯船につかることができれば疲労回復に効果絶大でしょう。
大事なところから始めましょう。まずは湯船を据えるデッキから。後で撤去しなくて済むように、邪魔にならない斜面に作ることにしました。初めての大きなプロジェクトとしてはハードルが高かったでしょうって?えぇ、確かに。手に負えなかったのではないかって?いいえ、まったく。私たちは所有している土地に自生している木を使った、木造骨組みの家を建てるつもりでしたし、アラスカンチェーンソーミル [チェーンソーに取り付けて丸太を製材する工具] を持っていたので、実践的な練習の場にしようと考えました。実際、何本か木を伐採して製材してみました。そのまま何か月か時間を置いて(冬になり、他のプロジェクトがすぐ始まったために作業が止まっていたのです)、想像した以上の絶景を望める美しいデッキが完成しました。しかもデッキの材料の9割は自前のものです。
次に、湯船の設計に取り組みました。購入するとなると、薪を焚いて温めるタイプのヒマラヤスギの浴槽で3,000ドルから7,000ドルはします。このコストを払いたくなかったことは否定しませんが、なにより自作することの喜びと満足感を得たいと思っていました。工具類は一式揃っていたので、創造性を発揮すれば、見た目だけでなく丈夫で実用的なものを作れるはずだ、と自信はありました。プロが製作したヒマラヤスギの浴槽や他のDIYの達人たちが公開しているウェブ上のチュートリアルの研究も怠りませんでした。
今回の製作全体を通して、各工程の記録を残し、YouTubeビデオ ( 13-part YouTube video series on building a wood-fired cedar hot tub) として公開することにしました。どのように全体が組み上がっているかは、下記の分解図を参照してください。ここでは簡単に構造の説明をします。
側板:表面がきれいできめの細かい木は湯船の材料として理想的ですが、そういうものは大体高価です。私たちは、地元で手に入る手頃な値段のNo.2ランクのヒマラヤスギを使いました。ただし、節目を避け、きれいな木材に仕上げるために少々手間がかかりました。今回の側板のサイズは厚さ4㎝で高さ90㎝×幅10㎝です。接合部は湯船の側板の もっとも重要な部分なので、カヌージョイントまたは「ビーズアンドコーヴ (bead and cove) [半円状の凸と凹の形]」と呼ばれる加工を施しました。このジョイントでは接合面がちょうつがいのような働きをするため、湯船を丸くしやすく水漏れもしにくくなります。加工には2種類のルータービットを使いました。私の計算では64枚の側板が必要だったので、余裕を持って66枚作りました。実際に使ったのは64枚と半分でした。さらに側板の下部に17mmの深さの大入れつぎ (dado joints) の溝を掘り、床板の周囲の木口をはめ込めるようにしました。
床板:床板には、さねはぎ (tongue-and-groove) で継ぎ合わせた1×6のスギ材を使いました。今回はそれが手に入りやすかったからですが、これから作る方には2×6材をお勧めします。節目がないことだけはしっかり確認してください。この板を並べてラチェット機構付きベルトで固定して直径150cmの円を描き、ジグソーで丸く切り取ります。床面を4×4材の根太で浮かせて、湯船の底面とデッキとの間に排水管を通せるようにしました。床板どうしは木工用接着剤でしっかり接着しました。
配管:床の排水は昔ながらのプッシュボタン式の浴槽の底用のもので、床面を支える根太と根太との間に取り付けました。ボール弁付きのL型の延長パイプを接続し、その先に排水のためのホースをつなぎました。
腰掛け:余ったスギ材と2×4材で、湯船の内側に沿って座ることができる腰掛けを製作しました。腰掛けは六角形の4辺の形で、残りの2辺の分は水中薪ストーブを据え付けるために開けておきます。座板には節のある木材を気にせず使いました。ステンレスネジで組み立て、浮かないように床面にネジ止めしました。
水中薪ストーブ:風呂を沸かすためのストーブを自作するか悩みましたが、地元で運よく中古のスノーケル社の水中薪ストーブを見つけることができました。煙突もついてたったの200ドル!このストーブは幅、高さとも約75cmで、4か所のフランジ [つば] があります。背面の2か所で湯船に固定(8mmのステンレスの根角ボルトを使用)し、前面の2か所でフェンスを支え、ストーブに触れてやけどしないようになっています。さねはぎで余った板を並べ、裏面に筋交いを数本入れてフェンスを作りました。
組み立て:湯船がさかさまになるように形を作り、側板の溝に床板の木口を差し込み木づちを使って注意深く叩きます。その際、接合部を痛めないように気をつけること。側板の周りに4.8mmのビニル被覆の航空機ケーブル3本を張って箍にします。圧着工具でケーブルの両端に輪っかを作り、ステンレスのターンバックルをひっかけて張りを調整してください。
費用:私たちの手作り露天風呂は、中古の水中薪ストーブを含めて、大体700ドルほどで完成しました。
いざ点火
木の湯船は、木が膨れて隙間が密着するまではひどい水漏れがするものです。今回はあまりに水漏れが激しく給水が追い付かなかったので、湯船の内壁をコーキングし、手っ取り早く始められるようにしました。数日後には、防水が効いて水漏れが解消しました。これで出来立ての露天風呂にゆっくり浸かることができるようになりました。
今回使用した水中ストーブは1時間に約11℃のペースでお湯の温度を上げます。熱くなりすぎることもなくはないですが、実際にはなかなかそこまで温度は上がらないでしょう。注意深く温度をチェックし、いい湯加減に近づいたら、ストーブにくべる薪の量を減らしてください。通常、38℃くらいがちょうど良いでしょう。一度、誤って50℃近くになってしまい、さすがにその夜は入浴をあきらめました。
循環ポンプにフィルターシステムを設置しました。このフィルターを通して再び湯船にお湯が回ってきます。現在は発電機でこの濾過装置を動かしていますが、将来的に太陽光で賄う予定です。また、ビグアニド系殺菌システム(塩素系の代替です)を使って水をきれいに保ちつつ、3、4か月に一度、水をそっくり入れ替えています。
この2年間、私たち夫婦は至高のリラックスタイムを楽しんでいます。つくづくあの時、露天風呂を作ろうと決意して良かったと思っています。一度たりとも後悔したことはありません。野良仕事でくたくたになった筋肉の癒しの場を手に入れただけでなく、DIY技術を高め、夫婦で力を合わせて何かを成し遂げられると確信することができました。どちらも家づくりに欠かせないものです。オフグリッド生活をしながら、家づくりに取り組んでいるときに、嫌になったらいつでもこの自前の美しい湯船とデッキに逃げ込むことができます。いつまでも建築中でゴールの見えない作業に思えたとしても、このささやかな楽園で、冷たい缶ビールを開け、美しい自然に浸れば、また活力がよみがえってきます。
お湯を沸かすために電気代を気にしなくて良い点は特に気に入っています。森で枝を拾ったり、自分の土地に転がっている朽木を集めるだけですみます。薪を燃やして風呂を沸かす;放っておけばただのゴミが、自分たちにとって価値あるものになるんです。他の農的暮らしを実践する人々にも、露天風呂が金持ちの道楽品ではなく、低コストで作ることができる生活必需品だと知ってもらいたいと思っています。
手頃な木材探し
きれいなきめの細かい木材は値が張ります。私たちが見つけた中古木材を扱う材木卸売り店では、側板や床板になりそうなきれいな木材を選ぶことができました。こんな風に選り好みできるところばかりではないので、最初に店員に確認してみてくださいね。
ジェスとアリッサ (Jesse and Alyssa) は、ローン無しの木組みの家をアイダホ州の山岳地帯で建てている。彼らの旅路は Pure Living for Life にてフォローを。写真はすべて Pure Living for Life が提供。
たのしい暮らしをつくる
マザーアースニューズ
DIY Wood Burning Hot Tub
February / March 2018
By Jesse and Alyssa, Pure Living for Life
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