エコロジー農業:福岡・ジャクソン・モリソン対談

マザーアースニューズがエコロジー農業についてインタビュー ~ 未来という種をまく3人の実践・研究者たち。

 

ビル・モリソン (Bill Mollison)、ウェス・ジャクソン (Wes Jackson)、福岡正信、エコロジー農業の「三位一体」と呼ばれる 3 人だ。

 

以下の編集対談では、地球の未来を決める重要な役割を担っている男たちが実際に顔をあわせて意見交換をしている。

 

マザーアースニューズ1987年3月4月号の記事の抜粋。

 

文:マザーアースニューズ 編集部

翻訳:浅野 綾子

 

昨年 8 月、自然のあり方にならう農業、永続的農業(パーマカルチャーともいわれる)の世界的運動におけるリーダー 3 人が、第 2 回国際パーマカルチャー会議に出席するため、ワシントン州オリンピアにあるザ・エバーグリーン州大学に集った。本誌も赴き、この男たち 3 人だけでの対談を取材した。本誌「シーズン・オブ・ザ・ガーデン(Seasons of the Garden:四季の菜園)」コラムニストが冗談半分でエコロジー農業の「三位一体」と呼ぶ 3 人だ。以下の編集対談では、地球の未来を決める重要な役割を担っている男たちが実際に顔をあわせて意見交換をしている。対談記事に入る前に、取材を実施したアシスタント編集者のパット・ストーン (Pat Stone) からこの 3 人の人物のバックグラウンドについてご紹介させていただきたい。

 

 オーストラリア人のビル・モリソンは、エコロジー農業であるパーマカルチャーのコンセプトを生み出した。しわがれ声の賢人ビルは、皮肉交じりのユーモアと反骨精神の持ち主で、自身の大志の実現にむけて全身全霊をささげる。会議の基調講演で「何千人という人々を行動へと突き動かした未来を語る偉大な語り部」と紹介されたモリソンは、船員やタンザニアでの灌木研究者、さらには環境心理学における上級講師とあらゆる仕事を経験してきた。パーマカルチャーの道を切り開くために、定年退職まであと 2 年というところで大学での安定した職を、辞職している。

 

 モリソンにとってパーマカルチャーとは、植物と動物の多様性と構成、その相互作用が中心要素となる、綿密に設計された持続可能な仕組みだ。パーマカルチャーの多品種の土地では、多年生植物、特に樹木作物が大きな役割を演じる。パーマカルチャーのシステムを始動するには多くの計画と長時間の労働が必要だが、その後はほぼその仕組みがそれ自体を動かすことになるはずだ。

 

 ウェス・ジャクソン (Wes Jackson) はカンザス州サライナで多年生作物の交配について研究している。米国中西部出身の大男、大きな手と人なつこい笑顔のジャクソンは、温かい人柄と気取らないユーモア、そして非の打ちどころのない科学的学識(遺伝学で博士号)をあわせもつ。たとえば、ジャクソン氏のお気に入りの講演タイトルは「Herbaceous Perennial Seed-Producing Polycultures: Their Contribution to the Solution of All Marital Problems and the End of the Possibility of Nuclear Holocaust(仮題 多年生草本が種子生産するポリカルチャー:すべての夫婦問題の解決と核ホロコーストの可能性消滅への貢献)」だ。

 

 自身の研究所である 200 エーカーのランド・インスティテュート (The Land Institute) で、ウェスと彼の研究スタッフは、多年生のひまわりとライ麦とその他の植物の性質が合わさった種を交配する作業をしている。この交配種は中西部プレーリーにおいて毎年継続した種子の収穫を可能とする種だ。この高収量を上げる仕組みを使うと、土地自体が肥沃になる助けとなり、害虫や雑草の問題を最小化し、土壌を浸食する毎年の耕起が一切不要になるといわれる。人の助けなく回る食料生産システムは人間によって設計されるだろうが、自然原則に従うことになるのではないか。ジャクソン氏は「人類は自然よりも早く学習できないのではありません」という。「ただ、自然の方が人類よりもはるかに長い学習経験があるということなのです」

 

 そして福岡正信だ。この非常に面白い男を完全に理解するのは難しいだろう。この背の低い、着物をまとった東洋人は農業の道を選んだが、本質的には仏教僧と言える。英語は全く話さないが、そのやさしさは一目見ればわかる(そのきらめく目を見れば、この控えめな哲学者の中に、遊び好きないたずらっ子が住んでいることもわかる)。

 

 福岡は農学者だった。大病を患った後、自然は完全であり、人間の知識は役に立たないという直感的なひらめきを得た。農業を通してこのひらめきを確かめることに着手。第二次世界大戦の頃から小さな商業農園で米や大麦、柑橘を栽培している。福岡は、自身が「何もしない」栽培と呼ぶ栽培方法を提唱している。40 年の間、耕さず、肥料を使わず、除草せず、農薬も使わずに栽培し続け、にもかかわらず日本の慣行農家と同じ穀物の収量を得る。福岡の栽培技術の一部はこうだ。大麦とクローバーを小さな粘土団子で包み、実った稲のなかにまく。そして、芽の出た大麦の中に稲わらをまく。稲わらのマルチと常緑のクローバーの地被植物が雑草を抑え、土壌の肥沃度を上げる。

 

 現在、福岡さん(「さん」は、日本語で古くから使われる敬称)は、栽培方法と同様に本質をつきつめた生活をしている。所有物のほとんどを家族に譲って小屋に独り住まいし、衣服は 3 そろい所有するのみだ。

 

 オーストラリア人とカンザス州人と日本人。この 3 人が、真に自然のあり方にならった農業が、どのように土と地球を救う助けとなるのかについて、大局的な見解を披露する。

 

まずはみなさんのライフワークの目的について、お 1 人ずつお話をお伺いするのが一番良いかもしれませんね。

 

モリソン:私は非常に単純な人間です。地球を元の状態に戻したい。やりたいことはそれだけです。休みなく活動しているのはそれが理由ですね。

 

ジャクソン:私にとってライフワークの目的は土を守ること、化石燃料のグリースニップル [注油器の部品] が不要になるようにすること、それから人間の細胞組織は事実上進化していないのであって、今使われているような化学物質を自然環境中に投入することをやめること、そして太陽の光の力で農業をすることです。

 

福岡:目的の一つは、だれも何もしなくてよい社会をつくりだすことです。

何とおっしゃいましたか。

 

福岡:(木の下で眠っている人の絵を描く)これは自然農法の百姓で、陽だまりで寝ています。この百姓は肥料もやらなければ、耕しもせず、草引きもしない。ほとんど何もしません。私について、40 年間ずっと寝ていたとご紹介くださっても良いかもしれませんね。でも、収穫量は年がら年中働いている農家のそれと同じです。

 

フクオカさん、ご自身の自然農法の手法と慣行農業の違いを簡単にご説明いただけませんか。

 

福岡:自然農法と科学的農法は正反対です。自然農法は自然に近づこうとし、科学的農法は遠ざかろうとします。科学的研究では、分別し、分解し、分析しますから、当然のこととして科学的知識は断片的であり不完全です。

 でも、自然は分けることのできない統一体です。はじまりもなければ目的地もない、ただ終わりのない流転があるだけです。自然から学ぶには、自分の思い込み、分析、理性的な分別を振り払う必要があります。頭の中を真っ白にしてください。何も考えてはいけません。馬鹿になるのです。すべてを同時に、そして全体を見る赤子のようになってください。そうすれば自然を理解し、その流れと調和して作業するには何をすれば良いのか、何をしてはいけないのかも直感的にわかります。

 でも、1 つ問題があります。自然農法をするには、人は不変の自然とは何かを知らなければならないのです。人は、人間が作り出したイミテーションの自然を見て、自然を誤解している。自然が変えられてしまった後で、自然を放任しても自然農法の百姓にはなれません。そうではなくて、注意深く種を選び、いつ、どこで、どうやって育てるかを決めなければならない。でもそれは、その土地と地域の本当の自然の姿について注意深く見た後ですることです。

 

ビル、フクオカ氏の自然農法はパーマカルチャーに含まれますか。

 

モリソン:含まれるどころか、歓迎です。実際のところ、福岡氏が「自然農法 わら一本の革命」を書くまでは、穀物農業の一切について否定するという固定観念が自分にはありました。ですから、私の初めての著書「Permaculture One(仮題:パーマカルチャー1)」では福岡氏の農業について何も触れなかったのです。今、このお二人の取り組みがパーマカルチャーの構想にそのまま当てはまることがわかりました。間違いなく、フクオカさんと私は基本的に同じ考えを持っていますね。

 

3 人の方々は、互いに調和し一体として作用する植物と、完全不耕起を活用するという、環境的に理にかなった農業についての信念をお持ちです。でも、3 人の方々には本質的な違いもあるように思われます。

 

モリソン:私たちは、1 つのシンプルな独特の試みを 3 方向から行っているのだと思いますね。フクオカさんは不耕起穀物栽培をする。ウェスはプレーリーの再生に関わり、高収穫の多年生穀物を開発している。私と、それから自分と一緒に汗水を流す多くの仲間は、食べられる食物を栽培し、環境的に健全な事業を支援したいという思いで、健康、土地、金融統合についても取り組んでいます。

 

ジャクソン:私ならフクオカさんは 1 年生植物を多く手掛けていると言うでしょうか。彼は今ある伝統作物が持つ、自然の完全性を活用しています。モリソン氏は土地のデザイン、食べられる植物を活用した造園術などに重点を置いています。ランド・インスティュートでは、農家のために持続可能な、草本の、多年生生態系を作り出しているところです。

 生物学的原理がどのように作用しているかについても突き止めようと試みています。私たちの活動における最も重要な貢献の 1 つです。つまり生態系農業の原則を明らかにしていくことです。こうした原則は、チャドやソビエト連邦、日本、その他どのような場所でも適用できると思いますよ。

 私たちは、部分的な事柄から真理を導くというデカルトのアプローチではなく、弁証法的なホールシステム・アプローチを使う生態系研究家になろうと努力しています。正直に言わせてもらえば、これは大変です。このような、お互いにかかわり合うやり方を続けられるように、インスティテュートの土壌科学者や植物育種家、生態学者、昆虫学者、植物病理学者との間で、実際に顔を合わせる自然なつながりを作りたいと思っています。皆、同じ研究所の施設を利用し、作成するすべての論文には全員の名前を記載します。こうして同じ環境を共有することで、すべてが何らかの形でつながっているという、生態系的な考え方や行動様式が生まれる助けになればと思っています。

 

福岡:間に合いませんよ。間に合わない。そのように一つずつやるような方法では、結論に行き着くまでに時間切れになってしまいます。それに、ジャクソンさん、あなたは本当にこの研究所のトップになれるんですか。各部門は [原点に戻るよりも] 遠心的に拡大していくのが常です。だから一つになるというのは大変難しいことなのです。

 別の方法があります。研究をする時に、「こうしたらどうなるか」、「ああしたらどうなるか」と考えないようにするのです。その変わり「こうしなかったらどうなるか」「ああしなかったらどうなるか」と逆に考えるのです。こうした努力を 30 年続けた結果、基本的に種を蒔いて藁をばらまくだけに労働を減らすことができました。

 

ジャクソン:これは科学の役割について、意見の健全な違いですね。今の科学の知識は、森林や土や燃料の代償の上に成り立っています。多くの生態学的資本の犠牲が積み重ねられた上にあるという理由だけで、科学的知識を憎むべきとするのは、犠牲となった森林や土を扱ってきたやり方と同じです。今それはできない。私たちは、この知識を地球の再生に向けて使う必要があるのです。どのような小さな土地でも再生できる可能性があるように、地球にもその可能性があります。

 

福岡:ジャクソンさん、あなたは人類が自然についてどこまでよく知っていると思われますか。

 

ジャクソン:ええ、もちろん、人間は自然をよくわかってはいません。でも、農業がはじまった時から、自然とどうしたらできるだけ折り合えるかを人間が理解しなければならない状態が続いています。自然と上手く折り合うには、科学は本来社会において [自然と人間について] 互いを遠ざける力なのかということを、人間は考えなければならないと思うんです。この問いは常に目の前になければなりません。というのも、人間である前に科学者であるなら、この問いを問いかけることは許されません。でも、科学者である前に人間であるなら、この問いを問いかけることができるからです。

 もしかしたら、フクオカさんは現在の科学のあり方についてお考えになっているのかもしれませんね。私は科学が人間を自然から遠ざける必要はないと思っています。未来の科学が、科学自体の不完全さや自然の神秘についてもっと謙虚になるとともに、高度な正確性をもつようになることを願いましょう。

 

福岡:この混乱状態は人間が知恵の樹の実を食べた時からはじまったのです。アダムとイブはエデンの園から放り出された。エデンの園に戻る唯一の道は、この知恵を捨て去ることなのです。鳥や赤子のように、ただ馬鹿になるのです。

 ジャクソンさんの科学的アプローチは理解できます。自分が研究者だった時、同じように考えていましたから。私たち 3 人をドンキホーテの馬に乗る者に例えて考えてもよいでしょう。私たちは違うことを言っているようにも見えますが、実際は同じ馬に乗っているのです。この馬は大規模災害に向かって走っている。ウェス・ジャクソン氏はこの走る馬の脚を止めようとしている。ビル・モリソン氏は馬の頭の向きを変えようとしている。(笑って)私はただ馬のしっぽにしがみついているだけです。。。

 

* 対談の全文は、以下の商品に収録。どうぞお楽しみください。

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