しなやかで弾力性のあるインフラを設置して、あなたの自営農園がどんな嵐や災害も乗り越えられるようにしよう
シンプルなインフラを備え、頑健な家畜を育てることで、災害のダメージを軽くすることができる。
Photo by AdobeStock/Creaturart
翻訳:浅野綾子
5年程前のうだるような7月の夜、ダイニングに座って、テレサと私が話をしたり読み物をしていたところ、突然の一陣の風に家が揺れました。1分も経たない内に、がれきが続けざまに家を叩き、唸るような風がSF映画さながらの音を立てました。
走り回って何がどうなっているのか確認する前に、バタンと閉まった後ろのドア。恐怖におののいた実習生が入ってきました。旋回する木々が宿舎を叩き潰すのではないかと恐れて、丘の上にある自分の小屋から駆け下りて来たのです。少しして、研修生が気の休まる避難所を求めて走り込んで来ました。
後になってわかったことは、私たちは「デレッチョ (derecho) 」と呼ばれる気象現象のど真ん中にいたということ。毎時100マイル(160km)までの速さになる直線的な風です。インディアナで起き、ウエスト・バージニア州を横切って威力を上げ、私たちの住む地域に吹き降ろして直撃。屋根は建物からはがれ、木々は家々や車を潰し、セミトレーラーは州間幹線道路を吹き飛ばされました。今まで全く経験したことのない出来事でした。
丸太とレンガ造りのがっしりとした私たちの家は、1800年に建てられ、時を越えて残ってきたもの。さらには、ダイニングルームとキッチンは、周囲の地盤から3フィート(90cm強)低くなっています。風が吹きつけて数分後、停電になりました。灯油のランタンを灯し、その後嵐が90分に渡り荒れ狂う間、アイスクリームに舌鼓を打つ私たち。この後どれ位停電が続くのかもわかりません。冷凍庫にある一番美味しくて、すぐに溶けてしまうものをさっさと食べないわけにはいかないでしょう?
真夜中までに嵐は過ぎ去り、損害を調べるのは朝まで待とうと決めました。次の日、損害は相当なものだとわかりました。その日の気温は38℃。あの夏、最も暑かった日の1つでした。停電は地域全体に及びました。
家畜への水やりは、最優先事項。私たちは、ホームファームにいる牛の群れ1つに加えて、借りている2つの牧草地にも牛の群れを飼育していました。群れの1つが川に出られるようにフェンスを開放。さらに、送水ポンプを動かせるよう発電機を他の群れの所に急いで持って行き、牛たちが水を飲めるようにしました。
ホームファームでは、パーマカルチャースタイルの高台にある池から引いた一連の水路網をつたって、重力が何事もなかったかのように水の流れを保っていました。嵐をも受けとめる、重力を基礎とした給水システムのスケールの大きさというか弾力性に気づいたとき、その日私たちは皆直感的に理解したのです。昔、全ての給水システムは重力を利用していたのに、安価でなかなか頼りになるエネルギーが私たちを怠け者にしてしまった。思い上がらせてしまったのだと。
自営農園に重力を利用した給水システムを造ることは、自然災害への備えとしてできる最も決定的な投資の1つかもしれません。水は生命線。家畜は、あなたの冷凍庫にある物が全部が解凍されてしまっても気にしないでしょうが、水はすぐに欲しがるのです。電気や石油に頼らない水源は、銀行に預けたお金より役立つのです。
私たちの農場は、充分な高度のある土地に恵まれています。数十年前から掘削し始めた高台にある池から、全ての家畜に給水できるのです。充分な高度がないのなら、「ターキーネストポンド (turkey nest pond:七面鳥の巣池) 」という掘削した貯水槽(ただ大きな穴を掘るだけ)を丘の上につくることも一途。貯水槽よりも低い場所にある水源から、送水ポンプを使って一杯に溜めることができます。これだけでも、充分な高さにあって、重力を利用した給水を少なくとも数日間するのに必要十分な容量が得られるのです。
どこをみても平地のような場所にいるなら、重力の圧力を得るのに貯水槽を木の上の方に持ち上げることもできます。250ガロン(950L弱)のタンク数個はしっかりと水を保障(もちろん、タンクに水を溜める前に木の上に上げますよね!)。水圧は、2.5cm上に行く毎に 0.3㎏ なので、たった 750cm で 90㎏ の水圧が得られます。大きな圧力には思えないかもしれませんが、バケツを運ぶより役立つのは確実です。
確かに、風車や太陽光の送水ポンプも水道網への依存を減らすことができますが、重力ほど頼りになるものはありません。いつもふざけて、重力がなくなったら、僕はここにはいないよ、と言うんですよ。アメリカの家は、送水ポンプと圧力タンクを地下室に設置して建てられます。想像してみて下さい。ポンプとタンクの代わりに、それぞれの家の屋根のすぐ下に1,000ガロン(3785L)のタンクをつけたらどうなるかを。タンクを満タンにするには、1日数分自転車に乗って送水ポンプを動かせばOK。そうすれば屋根裏のタンクが、1日を通して難なく水道管に水を送ることができるのです。リアルタイムの需要に応じた圧力とエネルギー[供給]は、貯水と組み合わせて定期的に供給するよりも、常に遥かに難しいものです。
池が好きな理由の1つは、どれ位の水があるのかいつも確認できることです。井戸は汚染されることがあり、何の前触れもなく干上がることもあります。池や貯水タンクなら、毎日見に行って、どれ位水があるのか測ることができるのです。それは食べ物で一杯の食料庫をのぞくようなもの。差し迫った悪天候を前に、食料品店に駆け込む必要がありません。食料庫にはたくさんの瓶詰め、冷凍庫は満タン、温室には冬を通して食物が育っているのですから。
もちろん、デレッチョの次の朝、水の他にも心配することがありました。1,500羽の鶏が呆然と歩き回っていたのです。20もあった屋外用の移動式鶏小屋はなくなってしまいました。あちらこちらに散らばったという意味ではありません。飛ばされたのです。消えてしまったのです。ギラギラと照りつける太陽は、日よけがなければすぐに鶏を厳しい状況に追い込んでしまいます。木陰のある囲い地に牛を追い立てて、牛用の1,000平方フィート(92㎡強)の移動式日よけを鶏に使いました。
涼しい日陰に惹かれて、鶏はすぐに殺到して群れになったので、養鶏用の電気柵で囲みました。優先順位に沿って作業を進め、次に来たのは1対のひっくり返った「エッグモバイル」(牛の群れについて動く、移動式産卵鶏の小屋)。この2つの12x20フィート(365x600cm強)の構造物は、絡み合って、借地にある農場のうちの片方にありました。上り坂にひっくり返ってしまっていたのです。幸運なことに、他の10数個のエッグモバイルはどれも無事でした。
ショックを受けていたのは元研修生の農園作業請負人。畜産業に携わり、責任をもって鶏や七面鳥、牛たちの世話をする初めての年だったのです。800羽もの産卵鶏がひっくり返ったエッグモバイルの間をふらついていました。発電機とたくさんの工具、板材、チェーンを掴み取った私たち。専門知識と道具を携えて全員のスタッフも到着しました。2時間の内に、全て真っ直ぐに直され、鶏は自分の仕事をしに巣箱へと楽しげに入って行きました。
家畜を飼育していた5つの土地それぞれに異なった修繕が必要でしたが、初日の終わりまでに、全て落ち着きました。この効率性は、弾力性のあるインフラが設備されていることと、迅速に協働作業ができるコミュニティに負うところが大きかったです。問題に備える一番の方法は、結束力の強い頼りになるコミュニティを作り出すことかもしれません。何が起ころうとも、協力があれば困難をくぐり抜けるのは常に容易になるのです。
次の一週間に渡って、フェンスから木を切り離して全てを安全な状態に戻そうと、チェーンソーでタンク丸々30個分のガソリンを使いきっている間、残りのスタッフが新しい20個の鶏小屋を作りました。移動式日よけを牛たちの下に戻し、生き残った鶏を小屋に戻しました。
50,000羽の鶏と壊れた家がある工場式農場と比べてみましょう。おそらく工場式農場の鶏が生き残る可能性は全くないはず。死んでしまうでしょう。小規模ゆえの回復力だけではありません。移動式で軽量、低資本のインフラのしなやかさの証しなのです。壊滅的な損害であっても、大きな経済的打撃ではないのです。
停電のほとんどは12時間の内に元通りになりました。借地上の農場の1つでは、停電は一週間続きましたが。あんな嵐は2度と経験したくありませんが、私たちのシステムの適応力に嵐が太鼓判を押したのです。
「冗長化」は、災害へ備えるのに機能するもの。妻の祖父はいつも、「納屋に干し草があり過ぎるということはないよ」と言っていました。同じように、あなたの食料庫が一杯過ぎることはあり得ないし、薪木の山はいつも備えがあって欲しいもの。備蓄することは、冗長化の一形態なのです。私はベルトとサスペンダーを身に着けています。ベルトは携帯電話と多目的道具を下げるため、サスペンダーはスボンが下がらないように。テレサがビン詰めにしたり冷凍する夏の収穫物が入った数百個のクォート容器は、一種の被害妄想的反応ではありません。防災の備えに余分を準備しているに過ぎないのです。
家畜だって弱々しいというよりも、立ち直る力があり得るもの。数年前、[視界]20インチ(約50cm)のブリザードが農場回りを包囲した時、豚の群れ1つをまだ森の谷間に残したままでした。トラクターを使ってさえも、豚の群れに行き着くことができなかった2日間。たどり着いた時、豚は彼らの作った葉っぱの巣から雪崩を打って飛び出てきました。温かな身体からは蒸気が立ち上り、皆元気で落ち着いていました。私たちは自分たちの品種選択基準のトップに照らして、頑健な遺伝的特徴を持つものを選んでいるので、やって来るどのような異常事態も恐れてはいないのです。
簡素で弾力性のあるインフラ、頑健な家畜、技術力、そしてコミュニティの協力。全てが相まって災害の大変さを和らげます。農業災害は、規模の大小に関わらず常に起こり得るもの。でも、時間をかけて備えれば、確実に損害を小さくすることができるのです。さあ、溜め池を堀りに出かけよう!
たのしい暮らしをつくる
マザーアースニューズ
By Joel Salatin
December 2017/January 2018
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