オーブンから焼きたてを

文：クリスティン・ストーナー（Christine Stoner） 

翻訳校正：松並 敦子・沓名 輝政

パティシエと医師という意外な組み合わせから始まったこの全米でベストセラーとなった料理本シリーズは、私のような「そこそこ」のパン作り愛好家でも簡単に作れる、美味しいパンのレシピを紹介してくれます。ジェフ・ハーツバーグ（Jeff Hertzberg）とゾエ・フランソワ（Zoë François）の互いに異なる経歴が、風味、下準備のしやすさ、栄養バランスを調和させて、たった数分で用意できる、毎日焼き立ての本格パンを作り出しているのです。さらに嬉しいことに、この2人の最新作は、美味しいパンは過去のものになったと思っている人たち（グルテンフリーの食生活の人たち）でも、手軽で美味しいと評判のパンが楽しめるアレンジレシピを紹介しています。 

　セリアック病の診断を下された私は、焼き菓子やハンバーガーバンズ、食パン、一般のパン屋さんにある美味しいものはほとんど食べられません。ですから、グルテンフリー食材を使った 90 のレシピを紹介する本書を見つけたときの私の純粋な喜びを想像してみてください。私の毎日の食卓に新たな選択肢が加わったのです。 

　おそらく、皆さんもグルテンフリーの食生活が必要な人を何人かはご存知ではないでしょうか。こうした制限のある 食生活は、様々な病気に関する科学的研究が進むにつれて、珍しいことではなくなってきました。現在ではさまざまな小麦、大麦、ライ麦摂取によって発症する病気として、セリアック病、小麦アレルギー、グルテン過敏症の3種類が知られています。 

セリアック病

　セリアック病として知られる自己免疫疾患は、上部小腸の生検で確定診断できます。アレルギーと間違われることが多いのですが、セリアック病はグルテンタンパク質によって引き起こされる免疫反応が起きる病気です。その結果、 傷ついた腸の栄養吸収低下から始まり、様々な症状が現れてきます。消化器系の多くの不快症状だけでなく、貧血を引き起こす可能性もあります。栄養失調は誤診されることが多い様々な合併症を引き起こす可能性があります。セリアック病は100人に1人の割合で発症すると言われています。ごくわずかな量のグルテン（0.014g）でも自己免疫反応を引き起こすことがありますが、この数値にはばらつきがあります。このように閾値が低いので、この疾患の唯一の治療法は、グルテンの完全除去食事療法となります。 

小麦アレルギー

　グルテンや他の小麦の種子に含まれる成分は、アレルギーを引き起こす原因になる可能性があります。小麦アレルギーの症状にはじんましん、かゆみ、吐き気、嘔吐、唇や顔、舌、喉の腫れ、喘鳴、そして「アナフィラキシーショック」として知られる危険なレベルの血圧低下があります。子どもは成長するにつれて小麦アレルギーが治ることがあるため、小麦アレルギーは青年や成人になると珍しく、セリアック病よりはるかに稀なケースになります。しかし、 この場合も、安全面を考慮してグルテンの完全除去が最善策です。 

グルテン過敏症 

　この新しく出てきた症候群については、解明されていないことがたくさんあります。医学的説明なしに、食事からグルテンを除去すると消化器系の症状が改善する人がいますが、その正確な理由ははっきりしていません。診断は難しいのですが、試しにグルテンを抜くことで結論に達することが多いようです。 

成分について：これは使って、あれは使わない

　セリアック病財団によると「グルテンとは小麦（小麦粒、デュラム、エンマー、セモリナ、スペルト小麦、ファリーナ、ファッロ、グラハム、KAMUT®フタツブ小麦、アインコーン［古代小麦］）、ライ麦、大麦、小麦とライ麦を掛け合わせたライ小麦に含まれるタンパク質の一般名です。グルテンは、食品が形状を維持するのを助け、食品をまとめる糊のような役割を果たす」とあります。あなたが食事からグルテン除去を考えているなら、パン作りの際には次に挙げる食材を識別して避ける必要があります。小麦（中力粉、パン粉、全粒粉、小麦ふすま、小麦胚芽、グラハム粉、クッキー用の小麦粉）、大麦と大麦麦芽、ブルグル、デュラム、アインコーン、エンマー、ファッロ、フリーカ、発芽小麦、KAMUT®フタツブ小麦、ライ小麦、生地強化のための酵素入りイースト、ライ麦、セモリナ、スペルトです。 

　『 Gluten-Free Artisan Bread in Five Minutes a Day （1日5分でできるグルテンフリーの本格パン）』の著者は、従来のグルテン原料をアマランス、豆粉、そば粉、トウモロコシ、コーンミール、コーンスターチ、ガルバンゾ粉、キビ、ナッツ粉、認定グルテンフリーオーツ、ジャガイモ、サイリウム（オオバコの種皮）、キノア、米、ソルガム、大豆、タピオカ、テフ、酵素無添加のグルテンフリー酵母製品といった適切な代用品に置き換えています。 

　伝統的なパンのレシピには、焼き上がりの食感や膨らみ具合を良くするために、グルテンを含む材料が使われています。そのため「昔ながらの」パンを焼こうとすると、多くのボウルや道具が必要になり、片付けにも時間がかかります。ハーツバーグとフランソワが開発したレシピなら、あらかじめ混ぜ合わて発酵させた高加水の冷蔵庫用の生地を使って、毎日新鮮なグルテンフリーのパンが焼けます。この生地は形成するグルテンがないので、こねる必要がありません。あらかじめ出来ている生地の一部を切り離して、形を整え、オーブンにポンと置いて焼くだけです。高加水生地は、冷蔵庫で10日間、冷凍なら長期保存が可能なので、毎日、最初から最後までレシピ通りに作る必要がありません。スポンジやスターター、イースト発酵も必要ありません。。。  

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