風味豊かで引っ張りだこなグズベリーで小規模なベーリー市場を始めよう。
香り豊かで人気のあるセイヨウスグリであなた流の小さなベリー販売を始めませんか。
翻訳:藤井 さわ
昨年、ニュージャージー州の私の農場から40分ほどのところに住む、ロシアから移住してきたご夫妻から電話がありました。すぐりはまだ残っていないかと夫人が訊いてきたのです。時季が過ぎていることを伝え、来年の顧客リストに載せることを夫妻に提案しました。「本当にもう残っていないのですか」と何度も尋ねるので、わが家に来ればわずかに残っている実をただで差し上げますと言いました。夫妻は1時間もしない内にわが家に来られたのです。
見るからに妊娠しているとわかるその夫人とご主人は、すぐりの木の下にしゃがみ込み、残りの実をほとんど食べ尽くされました。家に持ち帰る分もわずかながら確保されていました。摘んでは食べをしながら、ご夫人は子どもの頃にすぐりの実をおいしく食べたことがないことや、ご主人が米国中を探し回っていたことを大声で話しました。帰り際に夫人の見せた満面の笑みが私の脳裏に焼き付いています。
うちのすぐりを買われる顧客が、みなこの若い女性のようにすぐりに夢中になると言いたいわけではありませんが、かなり多くの方が夢中になることを見てきました。海棠やエルダーベリーといった栄養価が評判で売られているベリーと違い、すぐりはその味と郷愁が売り上げにつながっているようです。顧客は田舎でおじいちゃんやおばあちゃんとすぐりの実を摘んだことや、美味しかったお母さんのすぐりのジャムを思い出すのかも知れません。思い出は何であれ、通常他のところでは見つからないので、私の畑のすぐりを見つけられるとみなさんは喜ばれます。
すぐりの実の大きさ、色、酸味は驚くほどさまざまです。低木もまた、強さ、耐病性、棘の多さ、生育パターンがさまざまです。出荷用の畑ですぐりに挑戦してみたければ、さまざまな品種を試し、最もしっくりくるものを探し出すといいと思います。
マーケットを把握する
私の農園はフィラデルフィアからもニューヨークからも1時間ほどのところにあり、すぐりの販売には恵まれた環境にあります。文化的背景の多様な人達の住む多くの街や郊外が近くにあります。幅広い潜在顧客が確保されているので、すぐりを商売するには最適な場所です。しかし、あなたの農園はすぐりの商売に最適の場所ではないかも知れません。以下、農園にすぐりの低木を何百と植える前に注意するとよい点を記します。
地域人口動態。私の地域では、すぐりに詳しいのは、北欧と中欧の主としてイギリス人、または、ロシア人の子孫です。私はこういった人たちに直接、あるいは地元の自然食品店を通して売っています。その他にも、ファーマーズマーケットに出店することや、地域支援型農業(CSA)プログラムの提供者になることもできます。
ベリー好き。ベリーはいま流行っています。ベリー好きに、何か新しいことに挑戦して視野を広げるきっかけを提供しましょう。ベリーの使い道のアイデアを共有する準備をし、更には、ベリーの購入者にいくつかのレシピを提供することも考えられます。
地ビールや手作り蒸留酒の生産者。本格的な飲料製造施設があちこちに見られるようになりました。そのうちのいくつかは、ホップ豊かで強い蒸留酒を製造するために、新鮮で興味を引く材料を探しています。
ジャムづくりをされる方。私の農園にすぐりを直接買いに来られる顧客の多くは、ジャムを作って年間を通して欲しい時に食べられるように保存することを考えておられます。すぐりジャムは味が素晴らしいだけでなく、すぐりにはビタミンCやビタミンAをはじめ、多くのビタミンが含まれています。
レストラン。シェフたちは独創的なメニューを試してみるのが好きです。シェフの中には熟す前のすぐりを漬け物にしたり、お酒に入れたり、ソースを作ったりと、いろいろな人がいます。私としては、地元産の農作物の使用を心掛けているシェフ中心のレストランを狙って顧客にすることをお勧めします。
種を蒔き、上手に育てる
すぐりは半日陰か日当たりのよいところで最も良く成長し、実をつけます。南向きの日当たりのよいところに植える場合は、根が冷えて湿り気が保たれるよう、しっかりマルチで覆いましょう。すぐりは、水はけがよく、湿り気が保たれてさえいれば、幅広い土壌の状態に耐えることができますが、水はけのよい、有機物の豊富な、ph値が5.5から7.0の土で育てると最もよい結果が得られます。すぐりの木は、収穫の時期を迎える頃には週に2.5cmの水を必要とします。栽培品種にもよりますが、すぐりは1.2~1.5m間隔に植えるとよいでしょう。
すぐりは密集して栽培されるのが一般的だからといって、茂みができてから雑草を取り除くのは大変です。棘の多い品種であれば、草取りはさらに大変になります。その上、植物の根が深くないので、根の周りを耕す時は、特に注意が必要です。春先にしっかりとマルチをかけると、草取りが楽になります。すぐりは自家受粉するものと見なされていますが、品種を1つ以上植えるとよりたくさんのより大きな実が成ります。
すぐりは窒素を大量に排出するので、コンポスト肥料のような有機物を追肥するとよく育ちます。葉が黄色くなったり、元気が足りなくなったりしたら、春先に多くて0.2kgほどの10-10-10肥料を与えます。この混合肥料は、すぐりに与える栄養分のうち、窒素、リン、カリウム(N-P-K)をそれぞれ10パーセントずつ増やします。
すぐりに影響を与える病気や害虫はいくつか知られています。うどんこ病は多分、最も頻繁に見られる病気です。最近の大抵の品種はうどんこ病への耐性があります。米国のすぐり栽培品種は概してヨーロッパの栽培品種よりも耐性があります。うどんこ病は、適切な間隔に植え、剪定して、風通しを良くすると、ある程度防ぐことができます。
すぐりにとっての一番の害虫は、輸入されたカラント害虫のネマツス・リベシイ(学名 Nematus ribesi)と各種の鳥です。輸入されたカラント害虫は、カラントハバチの幼虫です。小さくて緑色の幼虫は、見た目がイモムシに似ており、茂みをあっという間に枯らし、すぐりが寒々とした裸の枝にはかなくぶら下がった状態にしてしまいます。
葉がついて数週間したら害虫がついていないか調べ始めます。幼虫は見つけにくい葉の縁や裏側にいることが多いです。
オーガニック防除剤の効果はハバチの幼虫に限定されます。小規模に栽培している場合の最善策は、取り込まれたカラント害虫を早期に発見して木から取り除くことです。
ベリーの栽培にとって、鳥は厄介な敵です。捕食されるかどうかは、地域における鳥類の生息数と代替食料の是非で変わってきます。鳥のために収穫物がなくなってしまうことのないよう、一番高い枝にネットを被せるよう心掛けましょう。
マーケットガーデンに向いたすぐりの栽培品種
栽培品種を選ぶ際には、顧客層を念頭に置きます。一度、カタログの説明に説得されてある栽培品種を試したことがあります。説明の通り、味わい深い実ではありましたが、実が小さく、棘の多い木だったため、実を摘むのに大変苦労しました。以来、その栽培品種はやめて、実のもっと大きい、棘の少ない低木に変えました。
たのしい暮らしをつくるマザーアースニューズ
以下は私がよいと思ったすぐりの栽培品種のサンプリングです。すべて丈夫で耐病性があります。一般に、アメリカスグリ(学名 Ribes hirtellum)はセイヨウスグリ(学名 Ribes uva-crispa)よりも実がやや小さく、味わい深さに劣ります。セイヨウスグリの難点は、うどんこ病菌に感染しやすいことですが、多くの最近のセイヨウスグリには耐性があります。
「ヒノマキレッド(Hinnomaki Red)」(学名 R.uva-crispa)。最も一般的なすぐりの栽培品種の一つで、かなり棘がありますが、耐病性があって実がよくなります。茂みは高さ、幅とも1.2メートルほどに成長し、赤みを帯びた中くらいの実が成ります。複数の茎を茂らせるつもりであれば、間隔を1.2メートルほど空けます。「ヒノマキレッド」の実は、ジャムのように加工するのが最適です。
「ハウトン(Houghton)」(学名 Ribes spp.)。アメリカスグリ(学名 R. hirtellum sp.)とセイヨウスグリ(R. uva-crispa sp。)の最初の交配品種の1つで、丈夫で耐病性に大変優れています。中くらいの赤褐色の実をつけ、良い香りがします。「ホートン」はジャムのように加工するのが最適です。
「インビクタ(Invicta)」(学名 R.uva-crispa var. reclinatum)。最近手に入る栽培品種で、大きく淡緑色の実が豊富に成ります。丈夫で耐病性のある木で、横に広がる習性があり、棘は大きいです。これらの木は、高さ1.5メートル、幅1.5メートルほどにまで成長するので場所をとります。完熟した実はデザートベリーに向いています。
「ジーン (Jeanne)」(学名 R.uva-crispa)。数年前にUSDAが発表した栽培品種です。中くらいの赤い実は遅く熟すため、シーズンを長引かせるのにいい選択肢です。木は高さ1.5メートルほどに成長し、1.2メートルほどの間隔が必要です。ジャムのように加工するのが最適です。
「プアマン(Poorman)」(学名 R. hirtellum)。古いアメリカの栽培品種で、丈夫で耐病性のある木です。中くらいの大きさの、非常に味の良い赤い実が成ります。低木は縦横ともに0.9〜1.2メートルほどに成長します。実は、ジャムのように加工するのが最適です。
「ティクシア (Tixia)」(学名 R.uva-crispa var. rafzvicta)。「ヒノマキレッド」ほど一般的な栽培品種ではありませんが、苗木店によっては手に入ることがあります。植物は、他の品種よりも大きめです(高さ1.8メートル、幅1.2メートルほどまで)。実は大きく、完熟したものはデザートベリーに向きます。木はかなり直立しており、棘が少なめであることで知られています。
熟した実の収穫
充分大きくなり、触って少し柔らかいようであれば、すぐりの実は熟しています。すぐりの実には赤、緑、黄とさまざまな色があるため、栽培初心者にとってはいつが完熟なのかを見極めるのに時間がかかることもあるでしょう。すぐりの実の熟す時期は4~6週間で、完全に熟してからも数週間は木から落ちません。ジャムにする場合は、ペクチンの含有量が最も多い完熟前の実を収穫します。収穫したすぐりの実は冷蔵庫で数週間はしっかりとした状態が保たれます。
すぐりの低木は植えた一年後に実を少しつけます。茂みが完全に成長する4年目くらいまでは成る実の量が増えていきます。
増殖して生産量を増やす
すぐりは、秋から早春にかけて取られた、植えてから1年しか経たない古木の接ぎ木か、または真夏に取られた、若苗の接ぎ木(木が硬くなり始める頃)のいずれかで殖やすことができます。 一般的に、アメリカ品種はヨーロッパ品種よりも根付きやすいです。
冬の半ばから終わりにかけて、次の季節に向けて剪定する時に挿し木を計画します。挿し木は長さ20〜30センチが適当です。挿し木を軽い鉢植え用の土の入った小さな植木鉢に挿して湿気が保たれるようにします。品種によって根付く確率は異なりますが、概してよく根付きます。
先取り法も高い確率で成功しますが、大規模に殖やす場合にはあまり向きません。方法をお教えします。早春に長い茎を下に折り曲げて一部を土に埋めます。それを岩や接地ピンでおさえておきます。先を半分埋まった状態にしておくと、新しい根が埋めたところから出てきます。そうしたら、元の長い茎から新しい根を切り離し、(根の近くにある葉は剪定して)しっかり植えます。最終的には、他の栽培者と挿し木を分け合うことにより、お金をかけることなく、複数の品種を試すことができるようになります。
すぐりは市場向け菜園で間違いなく表彰されるに値します。特に作付面積の小さな市場向け菜園ではそうです。実の成るこの低木は容易に育てることができ、お金もそれほどかけずに実がたくさん成るため、渇望されるマーケットが確立されています。すぐりは、通常見つけにくいため、すぐりがなければ小規模生産者からは購入しない顧客層にとって入り口ともなり得るのです。
たのしい暮らしをつくるマザーアースニューズ
Gooseberries in Your Market Garden
By Michael Brown
October/November 2018
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