グリーン・ゴーツ (Green Goats) 有機除草サービス

ヤギ 除草 マザーアースニューズ

42年間働いていたニューヨークの広告会社を辞めることを決めたとき、ラリー・サイハネック(Larry Cihanek)が思い描いていたのは田舎でのんびり暮らす引退生活だ。妻のアンと市の北側に広がる田舎のどこかで土地を買ったら、乳用ヤギを何頭か購入して、シェーブルチーズを作って暮らす第二の人生。物件は見つかり、ヤギも買った。だが、目標達成となる前に舞い込んできたある募集によって、シェーブル作りの計画は消えた。その募集とは、同市のスタッテン島にある軍事要塞跡で反芻動物を放牧して草を食べさせてもらいたいというものだった。これを機にふたりの第二の人生は思いがけない方向へ進むこととなった。

42年間働いていたニューヨークの広告会社を辞めることを決めたとき、ラリー・サイハネック(Larry Cihanek)が思い描いていたのは田舎でのんびり暮らす引退生活だ。妻のアンと市の北側に広がる田舎のどこかで土地を買ったら、乳用ヤギを何頭か購入して、シェーブルチーズを作って暮らす第二の人生。物件は見つかり、ヤギも買った。だが、目標達成となる前に舞い込んできたある募集によって、シェーブル作りの計画は消えた。その募集とは、同市のスタッテン島にある軍事要塞跡で反芻動物を放牧して草を食べさせてもらいたいというものだった。これを機にふたりの第二の人生は思いがけない方向へ進むこととなった。

 ワズワース要塞公園はゲートウェイ国立保養地を構成する区画のひとつだ。この要塞は1994年に閉鎖されるまで、国内で最も長い期間、守備隊が駐屯する軍事施設だった。ラリーはこう説明してくれた。「2007年に当局が100マイル(約160キロメートル)までの近隣地に住む400人のヤギ飼育者全員にメールを送ったんです。南北戦争で使われた砲台がやぶに覆われてしまっているので、誰でもいいから、ヤギを放牧してやぶを取り除いてくれないかという内容でした」これに返信したのは8人だけで、その内7人が不可と答えた。しかし、この呼びかけを挑戦と捉えたラリーとアンは受けて立つことにした。愛情をこめて「カレー」と「シチュー」と名付けた2頭のヤギをすでに飼っていたが、さらに5頭を買い足し、グリーンゴーツ(Green Goats)という社名で事業を立ち上げた。こうすることで契約条件を満たし、それ以来毎年、夫妻とヤギたちは要塞公園に通うことになった。

 

除草にヤギが向いている?

 米国内の様々な場所で、ヤギたちはニッチな除草仕事を請け負っている。たとえば、土を掘り起こさないよう配慮しなくてはならない地帯や機械が立ち入ることができない土地で茂り過ぎた草を食べる。ラリーとアンのヤギたちはワズワース要塞公園で成果を挙げたことで、ジャージーシティ・アンド・ハーシマス墓地との契約につながった。ここは米国最古の墓地のひとつであり、独立戦争と南北戦争で戦死した兵士たちの永眠の地となっている。ラリーによると「地面はでこぼこだし、墓石は立っているものもあれば、倒れているものもある」という状態だ。しかし、機械と異なり、ヤギたちは多様な地形の上を巧みに歩き回り、傷つけてはならない史跡を荒らすことなく、草を食べ尽くす。除草するのに注意を要する場所はまだある。ラリーの説明によると、最近、人気が高まっている、自然葬に応じる墓地では、モーター付きの草刈り機の使用が禁じられている。そのため、墓石の周りで人が手で草をむしる状況が何年も続いていたのだが、今ではヤギの草食み隊が配備されるようになった。

 ほかにも、人にとっては危険だが、ヤギなら行くことができるという地帯がある。ウォークウェイ・オーバー・ザ・ハドソンという橋、これはハドソン川に架かる歴史的な鉄道用構脚橋だったもので、現在は世界最長の歩行者専用高架橋となっている。その構脚が地面に接続しているところを柵で囲んだ地帯でツタウルシとイバラが繁茂している。グリーンゴーツが除草を引き受ける前は、茂みを刈ろうとする作業員たちがツタウルシにかぶれ、重篤な状態となって病院に運ばれることが頻繁にあった。「ヤギたちは茂みに入って、ツタウルシをどんどん食べていきますよ」とラリーは言う。「それにあの子たちはストを起こしたりしないですしね」

 ツタに加えて、ヤギが良い具合に除草してくれるのは、野ばら、進入力旺盛なアシ(葦)、イタドリ、野ぶどう、クズ(葛)、秋ぐみ、ツルウメモドキ、ニワウルシなど、言わば、増えて困る草木全部だ。機械で刈った土地と比べると、グリーンゴーツが受け持った場所では、より多様な生物が生息するようになる。グリーンゴーツに研究目的で除草を依頼した、ある大学では、記録によると放牧前には試験用地に3種類の植物があった。ヤギたちはたちまち草木を食べ尽くし、優勢だった植物が取り除かれた跡には、以前あった10種類の植物が再び生えてきた。化石燃料を動力とする機械を使うと野生生物は驚いて逃げ出してしまう。実際のところ、草刈り機をやめてヤギの放牧で除草するようになった地所では、たくさんの鳥が巣作りすることにラリーは気が付いた。

 

再就職するヤギ

 この11年間で、グリーンゴーツが所有するヤギは180頭に増えた。新しいメンバーはたいてい、譲渡されたり、保護されたヤギだ。酪農場で飼われているヤギは乳が出なくなると食肉用の競りに出す以外、酪農家には選択肢がないに等しいのだが、そういったヤギを夫妻は多数受け入れている。「うちで働くという選択肢ができたわけです」とラリーは語る。「うちのヤギたちは前の仕事を引退した後、別の職に就いたというだけのこと」。それは、スポーツ選手が若くして引退するのによく似ている。

 ヤギにはどんな世話が必要なのかを充分に理解しないまま、仔ヤギを購入してしまった家族から、週に数回はラリーとアンの元に電話がかかってくる。また、サイハネック家のヤギ舎にこっそりとヤギを置いていく人々もいる。グリーンゴーツでは、ヤギの譲渡に際してひとつだけ条件を付けている。人が近づいて首輪を付けることができるくらい人馴れしていること。ワズワース要塞公園などの担当地の多くで、訪れている人たちとヤギたちは交流することになるので、この基準は極めて重要だ。

 「うちのヤギには血統書付きの子たちもいますが、証明書のようなものは私たちは受け取りません。うちのビジネスモデルではヤギの基準がそういうものじゃないんです」とアンは打ち明けてくれた。グリーンゴーツの構想を実践した結果、多様な種類のヤギが集まった。年齢も幅広く、なかには放牧に出られないような、関節炎を患う11歳や12歳のヤギもいる。そのような本当に引退したヤギたちは天寿を全うするまでサイハネック家の農場で過ごす。こういった余生のサポートは、飼育スペースや資金の限られている人たちには実践するのが難しいだろうとアンは理解を示すが、グリーンゴーツのビジネスモデルはヤギの引退生活にも備えたものとなっている。「私たちはうちのヤギを食べたり、食肉用に売ることはありません」とアンは言う。「それが譲渡してくれる人たちとの取引条件なんです。うちに来たヤギは最期の日までうちの農場で過ごさせます」

 

本業を基盤として有機的に成長

 グリーンゴーツのヤギたちはラリーとアンにとって仲間でもあり、ペットでもあるが、何よりも働き手である。家畜関連のイベント、それが子ども向けの催しであれ、動物たちと交流する農場見学会であれ、家畜飼育についての講演会であれ、教育的価値があると思われるものには、夫妻は快くヤギを数頭、派遣する。一方、子どもたちが動物にさわったり餌をやったりするミニ動物園へヤギを連れて行くことはないし、結婚式の演出の一環として登場させる仕事も請けない。儲けは見込めても片手間でやるような仕事はしないと決めている。アンはこんな話もしてくれた。「春にはね、できることなら電話に出たくないと思ってしまうんですよ。プロムに女の子を誘いたい男子高校生たちが『ヤギ借りたいんですけど』って言ってくる電話がめちゃくちゃたくさんかかってくるから」

[プロムは、卒業を前にした高校3年生とそのパートナーが行く、学校主催のフォーマルなダンスパーティー。「いっしょにプロムに行ってくれる?」の “go to” の代わりに “goat(ヤギ) to” と書いた紙を掲げて誘うのが流行っていて、ヤギを同伴することがある。]

 グリーンゴーツは、植物が茂り過ぎて困っている場所なら、基本的にどこでも仕事を請け負う方針だ。ただし、2エーカー(約8094平方メートル/約2448坪)未満の土地での除草は割高になるので勧めていない。ヤギは自分に必要な燃料を現地で自給するから餌代は不要だが、放牧シーズンの初めにヤギを放牧場所へ運ぶ費用と作業日に毎日、ヤギの世話をするための費用、そして、放牧シーズンが終わったらヤギを帰らせる運搬費用を依頼者が負担する。ヤギを放牧できるのは植物の成長期に限られ、ニューヨークでは4月から10月末までの間となる。1エーカー(約4047平方メートル/約1224坪))当たり2頭の計算で放牧頭数が決まる。そして、一シーズン中に複数の放牧場所に移動することはめったにない。

 放牧させない時期には、夫妻は180頭のヤギたちに餌と身を守る場所を与えなくてはならない。栄養バランスを考えて20キログラム余りの干し草のベールを1日25個分とその他の飼料を与える。そして、寒さには強いが雨風には弱いヤギたちを守るために飼育舎を乾燥した状態に保つ。それに加えて、ヤギ舎内には、わらを厚く敷くディープ・リター方式にしている。1年経つ内に46センチメートルほどの厚さになるのだが、敷きわらがその場で厩肥化するので、その過程で発生する発酵熱がヤギたちの体を温めるのに役立つ。グリーンゴーツは、当初、トラック1台と3エーカー(約1万2141平方メートル/約3673坪)につき7頭の放牧という規模で始まった。「初めから、こんなに業務用インフラがそろってたわけじゃないんですよ」とラリーは、今、グリーンゴーツの地所にあるものを指して言った。ヤギ舎、2台のトラック、1台の75馬力の牽引トラックと2台の家畜トレーラー[牽引される荷台車]、干し草やヤギの排泄物を運ぶためのユーティリティ・トレーラー[比較的小さな貨物を運搬するための、屋根のない荷台車]、そして、組み立てると何千メートルもの長さになるフェンスの部品。推計30万ドル分の設備と運搬車両だ。

 

突然襲った悲劇

 グリーンゴーツは急成長し、2015年2月には100頭のヤギを擁するまでになった。ふたりがすべてを失うことになったのは、そんな時だった。

 ヤギ舎で火事が発生した。設備とヤギたち、すべてが火に呑まれ、生き残ったものはなかった。その中には、生まれてからずっと、アンが哺乳瓶でミルクを飲ませて育てていた仔ヤギ20頭も含まれていた。「火事が収まった後、私たちが地域の人たちとつながっていたんだなぁって実感しました。近くの人たちからずいぶん遠くの人たちまで」アンがそう言うのは、こういうわけだ。火事の翌日、娘のテイラーがゴー・ファンド・ミー(GoFundMe)で募集プロジェクトを始めた。ゴー・ファンド・ミーは、事故や病気を含む生活上の出来事に必要となる資金の調達を叶えるクラウドファンディングのプラットフォームだ。

[クラウドファンディングは、特定のプロジェクトの資金調達をするために主にインターネットやSMSを通じて不特定多数の人々に呼びかけ、賛同者から比較的少額ずつの資金や寄付を集める手法。]

[プラットフォームは、クラウドファンディングのプロジェクトの首唱者と資金提供者を引き合わせる組織。ゴー・ファンド・ミーはインターネット上で運営されている。] 

 「寄付金、手助け、設備、いろんなものをいただきました。ヤギ舎を建ててくれたのは、ほとんどが知らない人たちだったんですよ」とアンは語る。180頭のヤギが入るのにちょうどいい幅約11メートル、奥行き約24メートルのヤギ舎をボランティアたちが3週間で建て直してくれた。また、ヤギや設備、備品などを寄付してくれる人々もいた。最も遠いところではテキサス州からヤギが届けられた。こうした人々の善意のおかげで、火事の3カ月後には、グリーンゴーツは契約を1件も反故にすることなく、ヤギたちを除草業務に戻すことができた。

 

ヤギを飼い始める前に知っておくべきこと

 ラリーは、ヤギの飼育をビジネスにしたいという人には、きっぱりとこう言う。「フルタイムの仕事なんですよ。週末と宵の口だけで済まそうなんて無理ですからね」そして「自分だったらと考えてみてください。クリスマスの日にもこんなことをやる気になるか。気温がマイナス30度の日にもやろうと思えるか。雹(ひょう)が降るような嵐の中へヤギのために出て行けるか」ヤギの除草事業を始めたばかりの人には、夫妻は小規模に始めることを勧める。ヤギの数は7頭以下に抑え、自宅から30分以内の場所での除草のみ請け負う。そうすれば、顧客が何か懸念することが起きて連絡してきても容易に対応できるだろう。

 「一度、フィラデルフィアのクライアントから、心配だから来てくれと言われたことがありました。4時間くらいかかる場所だったのですけど」連絡を受けたアンは車に飛び乗り、現場に駆け付けた。そのヤギは発情期で興奮していただけで、問題はなかった。「そこまでやる覚悟がなかったら、この仕事はやめておいた方がいいでしょうね」なお、現代では、スカイプやフェイスタイムといったビデオ通話アプリがあるおかげで、ヤギの除草事業者はリアルタイムでヤギの様子をチェックできる。

 事業を始めるにあたって、知識や技術を身に着ける必要はあるが、急に習熟度が上がることも確かにある。とは言え、ヤギ除草に携わる者は、農学の専門家、機械や車両の整備士、経営者、アマチュア獣医として、各分野の技量をどれも同じくらい発揮しなくてはならないとラリーとアンは認めている。しかし、これらの役割をしっかりと務めることができれば、やりがいのある生計になり得る。「私は前の職では、『ほかの製品ではなくて、この製品を使ってください』と世間の人たちを説得しようとしていただけだったんですよ。結局、製品の担当責任者以外、だれにも、なににも、影響を及ぼすことなんてありませんでした」ラリーは「でも、」と続けた。「今は、みんなで1エーカーごとに世界を変えていっているんです」

 

グリーンゴーツ(Green Goats)のヤギによる除草事業について詳しく知りたい方は、www.Green-Goats.comでラリーとアン(Larry and Ann Cihanek)に連絡をとることができます。

 

たのしい暮らしをつくるマザーアースニューズ

購読登録はこちら

 

Green Goats Organic Mowing Service

Written by Kale Roberts. Photos by Larry Cihanek.

February/March 2019