自分で食べる小麦を栽培し、粉に挽く。最高かもしれない。
文と写真：チャーリー・テネセン （Charlie Tennessen）
翻訳：浅野 綾子
小麦は世界でもっとも広く栽培されている作物です。栽培しやすいこの小麦は、熱帯地方から北極圏にわたって栽培されており、少なくとも 1 万年にわたり人間の重要な食糧源であり続けています。歴史を見ると、小麦畑で複数の品種を育てることがよく行われていました。農家では自家採種して種（「小麦粒」ともいわれる）の交換をしたり、目にとまった株を新たな品種に育つよう願ってそのままにしたりすることがよく行われていました。地域に伝わる伝統的な種採り方法で増やされた小麦の品種の一郡は「在来種 （landrace） 」ともよばれます。今日では、在来種の小麦は事実上絶滅しています。
小麦は 20 世紀に入ってずいぶんと変わりました。小麦は背丈が低くなるように改良され、そうすることで茎が垂れ下がることなく穂が大きく育つことが可能になりました。背丈の低い小麦は相当な量の化学肥料の投入に耐えます。この化学肥料の投入で、アメリカ中西部の冬小麦の収穫量は 1 エーカー（4 千平米）あたり 20 ブッシェル（0.5 トン）から、現在では 90 ブッシェル （2.5 トン）～ 110ブッシェル（3.0 トン）へと急上昇しました。現代の小麦のでんぷん含有量は、エアルーム種の小麦よりも多く、グルテンの強さは 3 倍になりました。こうした改良は、工業製粉やパン製造には極めて大きな利点となっています。現代の小麦は加工に時間がかからず、製パン工場では 1 日に多くのパンを製造できます。
そうとはいえ逸話や科学的エビデンスからうかがえるのは、現代の小麦は畑で収穫が多くても、人間の食べものとしては不健康な作物だということです。セリアック病［グルテンに対する免疫反応が引き金となって起こる自己免疫疾患］の発症はここ 50 年間でかなり増加しました。セリアック病はグルテンによって引き起こされます。グルテンは、小麦やその他の穀物から見つかるタンパク質が成分です。さらに、かつてなくグルテン過敏症にかかる人が増えています。数千年も問題なく食べられてきた小麦が、なぜ急に健康上の問題の原因と疑われるようになったのでしょうか。
研究者たちは小麦の舌を巻くような複雑さに取り組んでいます。小麦には 6 組の染色体があり、95,000 個という途方もない数の遺伝子を持っています。現代の小麦には特定の有害な化合物を含むと示す、決定的証拠はありません。けれども科学的研究から、現代の工業的に生産される小麦のタンパク質含有量は、ほぼ常にエアルーム種の小麦のそれを下回り、その分でんぷんに置き換わっていることがわかっています。
人を被験者としてエアルーム種の小麦を食べることを内容とした臨床研究では、継続的に抗酸化物質が増え、炎症が減るという現象が見られました。
健康面で利益になる可能性についてはさておき、エアルーム種の小麦には素晴らしい風味や、畑での立ち姿の美しさなど、選ぶ理由が多くあります。エアルーム種の小麦の多くは、色は赤や青だけでなく黒色まであり、ほとんどは現代の品種よりも 2 倍の背丈に育ちます。
小麦を家で栽培する
自宅の庭が狭くても、エアルーム種の小麦を裏庭で育てるのは実際に可能です。3 x 1.5 メートルの長い区画には、約 0.9 キログラムの種が必要になり、収穫は脱穀すると 14 キログラムほどになります。すべての行程を通して必要なのはシンプルな農機具いくつかと、ちょっとした労力だけです。はじめに、自分の地域の気候と、栽培する時期に合う小麦を選びます。興味ひかれる小麦をしらべましょう。冬小麦には春化処理が必要です。小麦が発芽して根づいた後、寒い休眠期間が必要です。理想的には、冬小麦は自分の地域の平均的な初霜からさかのぼって ２、３ 週間前に播きます。とはいえ、それより早くても遅くても、たいていは良く育ちます。春小麦には春化処理は不要です。土を耕せるようになる、なるべく早い時期に小麦を播きます。土が湿っていて、シャベルやレーキにこびりつくようなら、土が乾くまで待ちましょう。カンザス州の小麦ベルトに古くから伝わる言い伝えでは、こう言います。「泥に播いたら雀の涙。埃にまけば、穀物倉庫はパンクだね」
多くのエアルーム種の春小麦は、秋に播いても耐えるくらい頑健です。特に温暖な地域では上手く育つでしょう。自分の地域に合うエアルーム種を知るのに良い情報源は、1922 年に発行された米国農務省の 『Classification of American Wheat Varieties（アメリカの小麦品種分類）』 （米国農務省のウェブサイト www.ARS.USDA.gov で検索して 「Bulletin 1074」 を見つけてください）。この発行物には数百品種の小麦が掲載されており、生育習性や製粉に適しているかどうかについても書かれています。この目録には、当時、各州で栽培されていた小麦すべての品種が記録されています。
エアルーム種の小麦の種を購入することができます （後述の「Seed Sources （種の販売店）」をご参照）。また、小麦粒ならどんなものでも種として使えます。小麦は輪作で、どのような作物の後にでも栽培することができますが、特にジャガイモやトマトの後の栽培に有益です。
手播きで、1 平方フィート（0.1 平米）あたり種 40 個ほど播きましょう。小麦を播いたらレーキを使って、できる限り多くの種に土がかぶるようにします。手動の菜園用種まき機を使えば早く種を播くことができます。ビートプレートを使って、小麦を播く条間は 15 センチ、深さは 2.5 センチに設定して、株間 2.5 センチで 1 粒か 2 粒を目安に播きましょう。
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