裏庭から薬用樹を収穫

マザーアースニューズ 薬用樹

表皮から地衣類、剥がれかけた皮、残骸をきれいにこすり取る。梢を剪定ばさみで取り除き、葉も剥がし取る。

 

文:ジュリエット・ブランクスプア (Juliet Blankespoor)

翻訳:山下 香子  

 

子どものころ、午後にはよく裏庭のストローブマツに登っていました。何本もあったストローブマツはどれも、父が植えたものでした。それから何十年か経って初めて家を買ったときに、父がさっそく苗木を数株抱えてやって来て、前庭を流れる小川のほとりにシダレヤナギを植えてくれました。蛙の子は蛙とはよくいったもので、幼かった私の娘は人生の最初の数年間を若いヤナギのまだ低い枝によじ登る練習に費やしていました。あの何本かの私のストローブマツも娘の遊び場だったヤナギも今では大樹となってそびえ立っています。ちび助の若木が圧倒的な存在感を放つ巨木に成長するのを見てきました。そう思うと心が深く満たされます。

 癒しの効果のある植物というと、私たちは足元に目をやって探そうとしがちです。庭で育てて いるハーブ、その辺に生えている草、日の差し込まない森の地面に植わっている植物などです。ですが、薬の宝庫があるのは頭の上のずっと高いところです。人間は何千年もの間、木から薬を集めて利用してきました。薬功のある木、大きなものも小さなものも、おそらく、読者のみなさんの住んでいるところのすぐ近くにすでにあるでしょう。また、いつも目にしている木々が何の木なのか、知っていたりもするでしょう。それならば、後はその木にどんな薬功があって、どんなふうに採取したらよいのかを学ぶだけです。

 

木の薬を採集する

 木から薬を集めるときに倫理的に行動すると良いことがいろいろあります。相手の木が大きければ大きいほど、その木を弱めてしまうことなく、楽にまとまった量の薬効成分を採集できる。必ず許可をとってから採集するように。もしくは、確実に法的権利を得ておくように。道路や鉄道や送電線の近くと除草剤がまかれた可能性のある場所は避けること。それから、その土地に豊富に生えていて、かつ、広い範囲に分布している種類の木だけから採集すること。摘み取ったり切り取ったりする前にその木が何の木なのか百パーセント確信が持てることも重要。有毒な木とまちがえないように注意してください。例としては、イチイ(学名: Taxus spp.)やキョウチクトウ(学名: Nerium oleander)が毒性を持ちます。木の名前を扱うときは通称は誤解を招くことがあるので避けて、学名を使いましょう。たとえば、デザートウィロー(学名: Chilopsis spp.)は、本当のウィロー、つまり、ヤナギ(学名: Salix spp.)ではありません。このふたつは種が異なるから、薬としての使い道も違ってきます。

 木の中で薬効のある部分は樹皮だと思っている人が多いですが、花、内皮、実、葉、根、樹脂、根皮など様々な部分に薬効が含まれていることがあります。どんな種類の木を取り扱うことになったとしても、どの部分が食用でどの部分が薬用になるのかわかるようになることが大切です。樹脂を集める場合には樹脂が出ている木をさがして、幹から小さめの広口瓶に直接入るように樹脂をこすり落とすと良いです。樹脂は固まり始めた後の方が格段に楽に採集できます。木から花や葉や果実を摘み取るときは特に難しく考えることはありません。ただし、薬になる部分は木に半分以上残して、その木が繁殖したり、光合成を行えたりできるように配慮してください。そうすれば、野生生物たちもその木の恵みに与れるでしょう。

  葉や実や樹脂とは違って、樹皮を剥がし取る作業はなじみのないものかもしれません。樹皮を採取するときに知っておくべきことを三つほど紹介しましょう。 

 まず、樹皮採取に最適な時期は春から初夏にかけてだということ。この時期には木質部から剥がしやすくなります。二つめは、木本植物の樹皮は表皮と内皮の二層になっていて、薬にするのは内皮だということ。

 表皮には薬効も香りもありません。みっつめは、幹をぐるりと一周して皮を剥ぎ取ってしまわないこと。そんなことをしたら木が枯れてしまいます。 

 やり方を工夫すれば、木や周囲の自然を致命的に傷つけずに樹皮を採取することが可能です。一番簡単な集め方は嵐の後に落ちている大枝を拾いに行くことです。大枝についている葉や小枝をよく見て病気にかかっていないか確かめることを忘れずに。ほかの採集法としては、比較的大きな木から直径が5センチから8センチ弱の大枝を剪定用ののこぎりで切り落として、皮を剥ぎ取るという手もあります。幹から皮を剥ぐよりは細い枝を切って集める方が木に害がありません。切り傷をつけられた木は病気にかかりやすくなるということを心に留め置いてください。

 大枝を手に入れたら、地衣類をきれいにこすり取り、枯れている部分を取り除く。葉も剥がし取る。太さが0.5インチ(1.27センチ)未満の小枝は剪定ばさみで切り落として、集めておきます。残っている側枝はのこぎりで切り落とす。樹皮を剥ぐ前に清潔な毛布か防水シートを作業する場所に敷く。毛布(または防水シート)の上に片手で大枝を立てて支え、もう片方の手によく切れる小型ナイフを持ち、皮を縦長に剥ぐ。このときにナイフを手前から向こう側、自分の体から離れる方向に動かして皮を切り離しましょう。

 剥ぎ取る境目は目で見て確かめられます。表皮や内皮より色が薄く、質感が異なっている層と接しているところです。そこより内側は不活性な木質部。木質部は薬にはなりませんが、剥いだ樹皮に少しばかりついてしまっていても問題はありません。 

 剥いだ樹皮をよく見るとわかりますが、表皮は薄っぺらくて色の濃い皮で、内皮はもっとしっとりして厚みがあり薄い色をしています。このくらいの大枝であれば、表皮はかなり薄いので、表皮と内皮を切り離すまでもありません。削り取った樹皮を剪定ばさみで数センチずつに切ります。そうしたら、目の粗いかごに入れるかネット [網戸のような形態のもの] に乗せて乾燥させても良いし、すぐに薬づくりにとりかかってもOKです。

 取っておいた小枝は、樹皮に比べれば薬効は弱いものの、薬にすることが可能です。小枝から樹皮を剥がすのは手間がかかり過ぎるので、そのままにして剪定ばさみで切り分けます。後は樹皮の場合と同様。乾燥させるなり、すぐに使うなりします。

 大木から樹皮を剥ぐのは、また別の話です。起業家精神旺盛な樹皮集め好きたちが、伐採されて間もない木から樹皮を採集する許可を得たうえで、地元の製材所と協力して樹皮を集める取り組みをしています。材木や薪にするために自分の土地の木を伐採する場合は、ドローナイフを使って樹皮を剥ぎましょう。まず、表皮を取り除いてから、内皮を剥ぎ、内皮だけを薬づくり用にとっておきます。

 では、薬効のある5種類の木について説明しましょう。ほかにも薬用になる木はたくさんありますので、末尾に「景観を美しくする薬用樹木(低木から高木まで)」というリストを添えました。参考にしてみてください。

 

おすすめの薬効のある木5種類

  摂取する前に薬用植物について調べたうえ、医師などの医療提供者・機関にご相談してください。妊娠している方には安全ではない薬効成分が多数あります。また、医薬品と併用すると副作用が出ることもあります。当記事は概要を伝えるものであり、各薬効について認められている安全性情報すべてを記載してはいません。

 

サンザシ(学名:Crataegus spp.、バラ科)

 使う部分: 花、葉、実

 調合: 薬用茶、チンキ剤、単花蜜、コーディアル、ジャム、酢、シロップ

 サンザシはトゲのあるバラ科の低木です。ミニチュアのリンゴのような小さな多肉質の実が房状につきます。実の色は品種によって異なり、黄色、赤、黒のものがあります。いずれも食用にも薬用にもなってきた長い歴史があります。昔から飢饉のときなどに主食として食べられてきました。サンザシの実のおかげで冬を乗り切ることができた人々も多くいました。

 現代では、フラボノイドを豊富に含むサンザシの花や実が高血圧、アテローム性動脈硬化、鬱血性心不全、狭心症の治療薬として用いられています。

 花と実は、深い悲しみや喪失感に打ちひしがれている人を癒すためにも使われます。食用にもなる薬用植物なので、様々な媒介物を使って摂取することができる。例としては、薬用茶、チンキ剤、ジャム、シロップ、コーディアル、エリキシル剤、果実酢です。サンザシを漬け込んだはちみつは、見事なバラ色でフルーティーな風味です。心臓病の薬を服用している場合は併用する前にかかりつけの医師等にご相談してください。

 栽培方法: 日当たりの良い場所で良く育ちます。水はけの良い土に植えます。耐寒性と樹高は種によって異なります。種子は層積処理 [乾燥すると発芽しにくくなるので発芽時期まで湿った砂や水ゴケなどを層状にした中に種子を貯蔵する処理] が必要であり、また、発芽するまでの期間が長いので、鉢植えの苗木かむき出しの根の付いた苗木を買って植えれば手軽に栽培を始められます。

 

シナノキ(別名: リンデン バスウッド、ライムウッド)(学名:Tilia spp.、アオイ科)

 使う部分:

 調合: 薬用茶、チンキ剤、単花蜜、シロップ

 米国で広く親しまれているセイヨウシナノキ (European linden) はあまり大きくならないことと香り高い花が咲くことから市街地に植えられることが多いです。シナノキ属には約30の種があり、シナノキ、バスウッド、ライムなどの名前で呼ばれています。アメリカシナノキは大きく生長する落葉樹で、その葉はハート型で縁がのこぎり歯状になっています。

 シナノキのどの種も香りのよい花を咲かせ、ハナバチがよく来る。ハナバチが集めた花の蜜がおいしい単花蜜(単一蜜源はちみつ)になります。

 葉は食べられるし花房には薬効があるシナノキは、さしずめ、オール・スター樹木といったところだろう。

 若くてやわらかい葉は生でも調理しても食べることができ、さわやかな風味とわずかにべとつく食感があります。花は総じて無害なうえにおいしいので子どもたちに与える薬として重宝しています。シナノキ茶は咳、熱、副鼻腔感染症、高血圧、ストレス、不眠症、風邪、インフルエンザに対処するために飲みます。

 シナノキは鎮静作用と抗炎症作用の特性を生かせば天然の鼻炎薬となります。また、子どもも年配者も安心して服用できる、穏やかな睡眠補助薬にもなります。

 栽培方法: 日当たりの良い場所でも半日蔭の場所でも良く育ちます。中性かアルカリ性の土に植えます。耐寒性と樹高は種によって異なります。発芽率が時にゼロになるほど低いことで有名なので、鉢植えの苗か根付きの苗を買って植えれば手軽に栽培を始められます。初夏に梢を切って地面に挿す緑枝挿しで増やすことも可能です。 

 

マツ(学名:Pinus spp.、マツ科)

 使う部分: 春の葉芽、樹脂、樹皮

 調合: 薬用茶、甘露蜜、シロップ、軟膏、オイル

 世界全体には百以上ものマツの種があり、そのほとんどには医学的な利用方法を記録した文献が存在する。地球上の様々な文化圏においてマツの針葉や内皮や樹皮を同じような慢性病に対処するために使ってきました。内服薬としては、咳、風邪、アレルギー、尿路や副鼻腔の感染症を手当てするのに昔から使われてきた実績があります。そして、塗布薬としては、皮膚の感染症に対処するためや関節炎の症状である関節の炎症を緩和するために使われます。

 内服する場合は、最も穏やかに作用する松茶を飲むと良いです。塗布する場合は、樹脂が最適です。溶かして軟膏を作ることもできるし、やわらかくして幅の広い包帯のようにして患部に当て、それを固定するために弾性包帯で巻いて処置することもできます。妊娠中は摂取しないでください。樹皮の長期間使用は避けましょう。

 栽培方法: 日当たり良好な場所で良く育ちます。水はけの良い酸性の土に植えます。耐寒性と樹高は種によって異なります。種子に積層処理をし、翼果 [風に乗って飛ぶために果皮の端が翼状に伸びている種子。翼が2枚あるものと1枚のものがあるが、マツ属は1枚。果皮は堅く、発芽しにくい。] であれば種子の表面を傷つけて発芽を促す。植えたい地域に適している種を選びましょう。。。

 

 

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Story and photos by Juliet Blankespoor |  April/May 2019