ちょっとした病気をハーブの治癒薬で癒すのは、それに見合う植物を見つける程度の容易さかもしれない。
オオバコ(Plantago major)は、けがをした皮膚に応急手当てとして使える。Photo by Adobe Stock/Viesturs Kalvans
文:リコ・チェック (Richo Cech)
翻訳:山下 香子
ある男性が他国からボツワナに旅行に来ていたときのことです。男性は直射日光に当たり過ぎて、顔、胸、手足に猛烈なほてりと痛みが生じ、水ぶくれができてしまいました。宿泊していたホテルの近くには巨大なケープ・アロエ(学名:Aloe ferox)が何株か生えていていたのですが、男性はそのうちの1株から1メートル近い長さの多肉質の葉を2つ切り取り、それを持って自分の部屋に戻りました。葉を裂き、その断面を体に直接、押し当てて、冷却効果てきめんのゼリー状の中身を塗りつけたところ…なんと、ほっとしたことでしょう!アロエで水ぶくれの痛みがやわらいだのです。
このエピソードから、湿布を使った手当てには注目すべき特徴がいくつかあることがわかります。まず、湿布は材料となるハーブの葉や根や種をそのまま丸ごと使うか、つぶして作るということ。抽出したり、込み入った準備をする必要はなく、単に皮膚に重ねて乗せたり、塗ったりするだけだということ。そして、身近に生えている植物を材料とし、即効性があり、費用はほとんど掛からないか、まったく掛からないかのどちらかだということです。
植物の葉の香り、形や色、味、そして、感触に魅了されて、私は湿布で手当てをする方法を研究するようになりました。湿布を当てることを私は「葉っぱに当てがう」<<葉の上に置くと解釈しました。>>と言っています。湿布は温めて使用することもあれば、冷やして使用することもあります。40℃くらいに温めて当てると血行を促しますし、冷たくして当てると特にやけどの患部を冷やすのに効果的です。植物から抽出できる成分には殺菌効果のある精油や細胞組織を収斂させて痛みをやわらげるタンニンなどがありますが、そのような成分を含む湿布は細菌感染を防いだり、けがをした部分にしみ込んだりして傷を治します。また、傷口から有毒物質や感染した部分を吸引する働きもあります。嚢胞【のうほう:体内や皮膚の下に病的に形成される袋状の組織】や膿疱【のうほう:膿のたまった水疱ができる皮膚疾患】やささくれに適切に湿布を当てれば、随伴する炎症を軽減させることによって、それらの症状を解消する助けとなります。
湿布をするときは、材料となる植物がたいてい皮膚に直接当てられるので、とげのあるものや一般的にアレルギー源となるものは避けましょう。これまでの経験から湿布を作るのに適しているとわかったのは、アロエ、ゴボウ、トウゴマ、ハコベ、コンフリー、タンポポ、ホウセンカ、ウスベニタチアオイ、ビロードモウズイカ、オオバコです。私にハーブについて教えてくれた師は「湿布として役立つには吸いつく性質がなくてはならない」といつも言っていました。つまり、健康に良い調合物が細胞組織に浸透し、水分が異物や感染部分を吸い取ることができるように材料のハーブは皮膚に貼り付けられるものでなくてはならないということです。
慢性的な症状や緊急事態に手当てするために湿布が使われるのを私は幾度となく見てきましたし、自分自身でも湿布を使ってきましたが、そういった数々の体験を振り返ってみて気づくのは、共通しているものがひとつあるということです。それは、効き目があったということ。毎回です!植物療法について知っていれば、役に立つ植物の調合物をすぐにその場で用意して直に施すことができます。加工したり保存したりという手間は不要ですし、植物の成分を希釈するためにアルコールのような中間処理剤を加える作業もないので、即座に対応できます。湿布とは、植物と患う人が交し合う、純粋で親密な交流なのです。だからこそ、湿布がこんなにも良く効くのだと思えてなりません。
オオバコを使った基本の湿布
吸引することで治癒効果の出る、一般的な湿布の作り方を紹介しましょう。まず、オオバコ(セイヨウオオバコ 別名:Plantago major)の若葉を摘み、指でもみます。汁がぽとぽとと滴るくらいによく練りつぶされてやわらかくなったら、その葉を何枚か重ねて、けがをした皮膚に当てて治癒作用を発揮させます。オオバコには、実証報告されているアラントインという細胞増殖作用のある成分が含まれており、すり傷や深い傷、ただれの手当てをするときに使うと健康な皮膚の再生を促進してくれます。治癒効果のあるハーブのなかでも最高級に優れているものには多面性があり、オオバコも例外ではありません。オオバコは傷を癒す粘液と大量のタンニンを含みます。タンニンは体組織を収斂させ、筋緊張を高めて痛みを和らげます。オオバコの葉と、似ている他種の葉を見分ける最もわかりやすいヒントのひとつは、茎の根本から葉の縁まで連なっている強くて弾力のある繊維です。葉を摘むとたいていは折った茎の端から繊維が垂れ下がっているので、しなやかな繊維があることを見て取れます。葉を揉んで汁を出させた後でも葉が散り散りにちぎれてしまわないのは、繊維がつなぎとめているからです。
指でもんだ葉を重ねて傷に当てたら、その湿布がずれないように一番長い葉でくくります。以前、この治療法がたいへん役立ったことがありました。ひとりの子どもが車のドアを閉めたときに親指をはさんでしまい、なだめることができないほど大泣きをしていました。たまたま、その場に居合わせた私はそばに生えていたオオバコの葉を摘んで、その子が涙の止まらない目で見ている前で、葉をもんでやわらかくして、すでに赤く腫れている小さな親指に葉の層を貼りました。オオバコの繊維を撚ったひもで湿布をくくり終わるころには、坊やには葉っぱで痛みが消えたことと同じくらい、葉っぱで手当てされるのが不思議でおもしろかったらしく、すっかり泣きやんでいました。「ピンチになったら、魔法をやってみせよ」です!
コンフリーをつぶして湿布にする
コンフリー(和名:ヒレハリソウ 学名:Symphytum officinaleまたはSymphytum x uplandicum)はおそらく湿布として最も広く使われている植物だと思われます。皮膚を治癒する粘液を含み、死んだ組織を分解し取り除くのを促し、回復を速めるという三つの効果が証明されています。オオバコと同じく、コンフリーも細胞増殖作用のあるアラントインを含みます。コンフリーの湿布は次のような症状の治癒を速めるためによく用いられます。肉離れ、靭帯の損傷、打ち身、骨折(医師による接骨後の手当てとして)、床ずれ、やけど、ただれ、感染症、窓やドアなどに指を挟んでしまったときに負うけがなどの外傷。ただし、コンフリーによる療法は刺し傷の手当てには向いていません。理由は、表面組織の回復を速めすぎるかもしれず、その場合にはより深いところの組織で気づかれずに発症している感染を閉じ込めてしまう可能性があるからです。また、コンフリーは肝臓機能を害するピロリジンアルカロイドを含有しているのでご注意ください。特に肝臓疾患がある人は、傷口の開いた傷の手当てをする際にはコンフリーを使わないことをお勧めします。
コンフリーの湿布を作るには、まず、根を掘り出し、タワシと体力と根性を使って洗います。その根を細かく刻み、同量の摘みたての青々としたコンフリーの葉といっしょにブレンダーに入れます。ねばねばするペーストにするのに必要なだけの精製水を加えてブレンダーで混ぜ合わせます。できたペーストを患部に直接、約2.5センチの厚みに塗ったら、清潔な布で覆います。この処置は就寝前に行い、翌朝、湿布をこすり取って洗い流します。日中に湿布を塗布したいのでしたら、木綿の長いひもで湿布を固定します。症状が解消されるまで、この手順で塗布を続けます。感染症やけがが植物療法によって速やかに治っていく経過が見られない場合は、免許を持つ医療の専門家に相談してください。
ゴボウとビロードモウズイカの蒸し湿布
葉っぱの湿布は蒸すことによってやわらかくなり、湿潤になります。深鍋に少量の水を注ぎ入れ、材料の葉が水に浸からないようにスチームバスケット【多数の穴の開いたステンレス製の開閉式蒸し器】か穴あきプレート【多数の穴の開いたステンレス製の平皿】を深鍋の底に置いて、その中に葉を詰め、鍋に蓋をします。強火にかけ、葉が熱くなって簡単に曲げられるくらいにやわらかくなるまで沸騰させ続けます。通常の蒸し時間は3分くらいですが、材料の葉のもろさと葉の量により、かかる時間は変わってきます。葉を惜しむことなく、少なくとも7枚は重ねて厚い層を作り、熱いうちに患部に直接当てます。それをラップフィルムで覆い、上に何枚かのタオルを重ねて断熱します。蒸し湿布は即効性があるのですが、20分から30分ほどでたいていは冷めてしまうので、冷めたら外します。大半の植物療法と同様に湿布の手当ても効果が出るには一日を通して数回行わなくてはなりません。重症の患部には、湿布は毎日5回まで繰り返してかまいません。傷部分の感染予防を強化するためには日に1度か2度当てれば充分でしょう。
ほかの療法で効果が見られなかったブドウ球菌の感染に蒸したゴボウ(学名:Arctium lappa)の葉を使って手当てをしたことがあります。この湿布で痛みが緩和され、病変は縮小し、周囲の組織が正常な血色と色合いに戻り、回復が早まりました。伝統的な本草学では、ゴボウは代謝プロセスで発生する有毒な老廃物を除去するのを促し、皮膚の傷の治癒を速める働きがあることが知られています。植物療法では、使いたいハーブをタンポポ(学名:Taraxacum officinale)と組み合わせることをよくします。タンポポはサラダに混ぜて生で食べたり、新鮮な1株全体の有効成分を集めたチンキにして摂取することもできます。【チンキは植物の有効成分をアルコールに溶出して作る液状の薬剤。ティンクチャーとも呼ばれる。アルコールを用いることにより、湯で抽出できない成分を取り出すことができ、1~2年間、保管が可能。希釈して飲用するほか、化粧水や入浴剤、うがい薬として使える。ヨードチンキや赤チンは植物性のチンキではないので混同しないように注意。】タンポポは利尿作用があることが実証されており、体内の毒素を尿とともに排出させるのに役立ちます。
そして、簡単でよく効く湿布のもうひとつの例として、授乳期の母親の乳腺炎の手当てに使えるビロードモウズイカ(別名:ヴァーバスカム 学名:Verbascum thapsus)の葉の温湿布があります。乳腺炎は出産後ほどなくして発症することが多いのですが、最も原因となりやすいのは(赤ちゃんが飲みきれる以上の量の母乳が母親の体内で作られて乳房の中に溜まったままになるなどして)母乳が乳腺に詰まってしまうことです。また、離乳に関連して発症することもあり、それは【赤ちゃんが飲む量が減っているのに】母乳が変わらず、たくさん作られ続けることによります。圧力がかかり過ぎるのをやわらげるために頻繁に授乳すると不快感を減らしやすくなりますが、それに加えて、ビロードモウズイカの温湿布を施すと乳腺炎のつらい症状が楽になります。ビロードモウズイカの葉に含まれるサポニン類とグリコシド類には、リンパ液の流れをよくして乳管の詰まりを解消する働きがあるので、乳房の赤みと腫れがやわらいで元通りになり、授乳も正常化します。どのような植物療法でもそうであるように症状に気づいて手当てをするのが早ければ早いほど、治療効果は高くなります。
今や、多くの人々がハーブ畑を作っていますし、そうでなくても家庭菜園であったり美しく整えた庭園であったり、植える場所があれば、有用なハーブを何種類か、他の植物に組み入れて育てています。どのハーブにもそれぞれに特徴のある香りと手触りと色彩があり、庭を盛り立て、庭仕事をする人の心を楽しませます。それのみならず、ハーブを使って苦痛をやわらげる助けとなる療法を簡単に施せるとは、さらに心満たされることでしょう。湿布を当てるということ、それはシンプルで効果てきめんで、魔術と言いたくなるほどです。自然療法の可能性を探求し始めたばかりのハーブ愛好家にとって理想的な術法なのです。
リコ・チェック (Richo Cech) は、オレゴン州ウィリアムズ郊外を拠点とする全品医療用の種苗会社 Strictly Medicinal Seeds の創業者。彼はまたハーブに関する本を3冊著している。その内「Making Plant Medicine」は66ページで入手可。
たのしい暮らしをつくる
マザーアースニューズ
この号のバックナンバーは
Healing with Poultices
By Richo Cech
April/May 2018
コメントをお書きください