今年の3月、ある学会に出席しました。学会のテーマは、土壌の健康状態が植物の健康や栄養濃度にどのように影響するかというもの。植物の健康状態と栄養濃度は、人間やその他の動物たちの腸内微生物叢に全体的に影響し、その結果、宿主動物の健康状態にも影響します。この学会は私が生きてきた中で最も意義深いものでした。まぁ、少なくとも、学会への出席という意味では。
この学会で知ったことのひとつに羊の食の習性があります。羊は午前に好みの餌を食べた後にのみ、それほど好きではなくても栄養が豊富な餌を午後に盛んに食べるそうです。これを科学的に説明すると、「朝に食べた餌に副次的に含まれていた化合物が午後に食べる餌の副次的な化合物の好ましくない作用を打ち消す」ということになります。
羊には、どうして、分かるのか。羊の腸にいる微生物叢は、羊が「適切な」ものを「適切な」順序で食べると「幸せホルモン」の放出を促し、自分の行為が望ましいものだと感じ取ります。腸内微生物叢は巧みにこの仕組みを操作するのです。ある個体がこの行動パターンに気づくと記憶に刷り込まれます。学習し、母系で伝承されていきます。子羊は母羊の行動から学習し、成長後に自分の子羊たちに習得させます。羊がダチュラなどの有毒植物を大量に食べるという話を聞いたことはないでしょうか。うちの農場では羊たちがこの植物を食べているのを見掛けることがあります。羊たちがアルカロイドを多く含む植物を漁って歩くのを見ると、翌朝には羊たちが皆、具合が悪くなっているのではないかとよく心配しますが、実際にそうなったことは一度もありません。ジグソーパズルのピースの置き場所が思いつかないときのような不可解な思いをし、農場で働く私たちにとっては良い意味での謎でした。それが今回、まだ仮説ではあるものの、羊の腸内微生物叢がこのジグソーパズルの組み立てをコントロールしているのかもしれないということを知ったわけです。
学会で学んだもうひとつのことは、人間の腸内微生物叢が脳や他の多くの神経中枢、内臓、そして、体内の細胞と絶え間なく情報のやり取りをしているということです。なんらかの栄養分が不足している場合、もしも、その人間が訓練を積み、十分に明晰な判断ができる状態であれば、足ない栄養分を与えてくれる食べものが食べたくなるということです。人間の臓器系と微生物叢との間の伝達は双方向で行われます。私の中の科学者は、この知見を受け入れるのに時間がかかっていますが、妻には明白なことのようです。妻には、生まれてからこの方ずっと、特定の状況で特定の食べものが食べたくなる感覚があり、その感覚を否定することなく、食べたいと感じるものを食べるようにしています。そんな妻が、つい最近、健康診断を受けたところ、医師が驚くほど健康であることが分かりました。確かに、相関関係があるからと言って因果関係があるとは限りませんし、たった1人のデータでは仮説を十分に検証したことにはならないでしょう。それでも、なお問いたいのは、なぜ羊は農場に生えている多様な植物のうち、自分の必要とする植物が分かるのか、それなのに、なぜ人間は自分が必要とする食べものがわからないのか、ということです。
学会ではほかにも多くの情報資料が発表されていたので、それらについて延々と語ることもできますが、ここでお伝えしたいのはただ1点、先入観を持たないことがいかに大切かということです。私たちは羊がダチュラを食べることを気にしなくなっていましたが、なぜ羊の体には良いことなのかもしれないのか、そのヒントを得て心弾む思いです。私たちは、専門家の唱える規定に沿って作られた既成概念の枠にとらわれがちです。しかし、真相は枠の外に存在していることもあるのです。このような考えを受け入れられたら、どんなに奇抜な物事でも先入観なく探究できることでしょう。当然、今後常にうまくいくとは限りません。しかし、驚くべき発見をする可能性もあるのです。私が枠から出て生きるのが心地よいと感じるのはこのためです。
もし、読者の皆さんで、調べてみたら「従来の教育内容とは相容れないような新事実を発見した」ということがあれば、ぜひ、メールでお知らせください。送信先はこちら HWill@MotherEarthNews.com 小誌に「アウトサイド・ザ・ボックス(常識のメガネをはずして新発見)」という新コーナーを設けることも検討してみましょう。
また8月にお会いしましょう。
— ハンク
翻訳:山下 香子
Life Outside the Box
By Oscar H. Will III| June/July 2019
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