ベイルコブで建築する

コブハウス マザーアースニューズ

粘土コブと麦藁ブロックを組み合わせたベイルコブは、思いのままに壁を造れるユニークな自然建築の工法だ。

 

ベイルコブは仲間と家造りをするのに適した建材だ。

 文:カイル・チャンドラー=アイザックセン (Kyle Chandler-Isacksen)

 

 今、自然建築(natural building)がおもしろい時代を迎えています。【自然建築は、自然環境の持続可能性を損なわないように、その土地で採れる天然資源を再生可能な方法で利用する建築】 土で家を造るのは古代には世界中で行われていたことですが、欧米ではほんの30年から40年前から盛り返して来たところです。当時は条例や法令によって自然素材を用いた建築は規制される方向にありました。しかし、今や、自宅やコミュニティで地に足を付けて暮らしたいという意識が高まりつつあり、これまでとは異なる持続可能な建築方法や本質的な生き方を探る人々が増えていることを受けて、この分野は画期的な発展を見せています。工法の進歩とともに、自然建築を志向する人々は、建物の美しさと耐久性を両立するという難題に挑むなかで、革新的な技術や独創的な手法を次々と生み出しています。ベイルコブ工法は、そんな技術革新のひとつです。

 ベイルコブはストローベイル【圧縮した麦藁のブロック】とコブ(粘土と砂と麦藁に水を加えて練ったもの)を使って効率的に壁を造る充填工法です。ふたつを組み合わせることで高い断熱性と屋根を支える耐荷重性のある壁を造ることができ、構造を支える木材の骨組みは必要ありません。ストローベイルをレンガのように積み、その継ぎ目をコブで塞ぎます。コブとストローベイルの双方の長所が生かされるので、美しくナチュラルでありながら機能的な建物を造ることができます。

 ベイルコブを開発したのは、イアントウ・エヴァンズ(Ianto Evans)氏とオレゴン州のコブ・コテージ・カンパニー(Cob Cottage Company)です。【コブ・コテージ・カンパニーは自然建築の研究開発や実地指導等をするチーム。エヴァンズ氏は同チームの共同設立者のひとり】 筆者(カイル・チャンドラ=アイザックセン)は自然建築のワークショップを行うハウス・アライヴ(House Alive)代表のコンラッド・ロウグ氏【当記事の執筆にも参加】から若干異なる手法を学びました。【チャンドラ=アイザックセン氏はハウス・アライヴ所属のビルダー】 ベイルコブについて学ぶ方たちが、この手法がいかに理に適っているかを知って自分たちが家造りをする際に採用する気になってくれたらうれしく思います。

  

壁の工法と建材は適材適所で

 一般的に住宅様式は壁の工法で決まります。例としては、木造軸組構法、木造枠組壁構法(ツーバイフォー構法等)、コンクリートブロック工法などがあります。自然建築においても、ストローベイル、コブ、アースバッグ【砂や土を詰めた土嚢袋。積み上げて壁を造る】などの壁材によって家の様式が決まります。壁の工法を一種類に絞ると建物の特徴を制限してしまうことになります。家造りには、できるだけ適材適所で異なる建材を組み合わせて使うのが望ましいでしょう。南側の壁にたくさんの窓やドアを取り付けたいのですか?コブ工法か、木造軸組構法がお薦めです。北側の壁の幅が広いから冷えそう?ベイルコブかストローベイルで壁を造りましょう。間仕切り壁を木造枠組壁構法で設置するつもりでしたら、粘土に藁を混ぜたものが軽量なので、ぜひ充填剤にすることを検討してみてください。

 柔軟に構法や工法を組み合わせることによって、住む人の望みと必要に応じる家が造りやすくなります。また、適切に設計し、自然素材を活用すれば、生態系への負荷を抑えることができるのです。

 

組み合わせれば、さらに良し

 コブとストローベイルで作る壁

 

 ベイルコブは、コブとストローベイルを組み合わせたものです。自然建築を実践するのであれば、それぞれの利点を知っておきましょう。

 コブは丈夫で耐久性があります。そして、ほぼ自由自在な造形が可能です。コブ自体に断熱効果はたいしてないのですが、熱を蓄える性質にすぐれています。また、柔軟に変形できるため、基礎の立ち上がりの周囲を平らにならすのにも使えます。基礎にアースバッグや再利用のコンクリート [urbanite:アーバナイト:都会で化石のように出土する壊れたコンクリートの塊] などを使う非従来型の工法では、そういった資材と組み合わせて使う補材としても優秀です。通常、コブは施行地の周辺で採取した粘土で作りますが、基礎の溝を作るときに掘り出した土をこねてコブにすることもあります。どんな施行者にとっても、手に入れやすい建材なのです。

 ストローベイルはコブに比べれば耐久性は低いのですが、断熱性ははるかに高く、同じ大きさの直方体を積み上げていくので直線的な壁を作るのに適しています。ベイルの生産者から譲ってもらえば、自作するより労力がかかりません。それが望ましいかそうでないかは建てる人の目的によるでしょう。ベイルを積み上げて作った壁は厚く、主にその厚みによって高い断熱効果が可能になるのですが、厚みがある分、かなりの場所を取ります。 

 つまり、コブは丈夫さ蓄熱量が素晴らしく、丸みのある造形をするのに向いているのに対し、ストローベイルは厚みを出すことができ、断熱性にすぐれています。どちらも費用があまりかからず、耐火性があり、多くの道具や特別な技術を必要としません。共通していることがもうひとつ。仲間と協力して家造りをするプロジェクトにぴったりなのです。

 このふたつの建材の特長を組み合わせたものがベイルコブの利点となります。一方だけを使うより効率的に作業を進められるし、曲面の壁と平面の壁のどちらを造るのにも適しています。できた壁は丈夫で、高い断熱性があります。

 

頑強な基礎を造る

 ベイルコブ壁に関連する構造部

 

粗石を詰めた溝

 溝に浮石、砂利、または粗石を詰めて基礎とする。壁を支え、排水機能も持つ。

 

立ち上がり

 石やアースバッグやコンクリートなどの硬くて水分が浸透しない建材で造る低い壁。粗石を詰めた溝と垂直壁をつなぐ。また、浸水を防ぐ。

 

底部にコブ層

 立ち上がりの上に造られる20~25センチメートル位の厚さのコブの層。立ち上がり上部の面を平らに均して、ストローベイルを積むための基盤にする。

 

コブの柱とベイル

 壁の大部分はストローベイルで占められるが、角と広い壁の要所要所に構造を支えるコブの「柱」を造る。また、壁が崩れないようにするとともにベイルを圧迫するために各ベイル間の隙間をコブで塞ぐ。

 

上部にコブ層

 ベイルの最上段の上部にコブの層を(通常は30センチ以上の厚みで)置き、ベイルをさらに圧迫する。屋根を固定する役目もある。

 

屋根

 垂木を壁の上方のコブ層に括りつける。建物全体がより安定する。

  

 粗石を詰める溝を深く掘ったり、粗石を叩いて均す手間を惜しまないでください。壁が沈下して、後々ひびが入るのを防ぐために基礎はできるだけ安定していなくてはなりません。立ち上がりも注意深く造りましょう。塗り壁材を塗りつけると、立ち上がりと屋根の間にぽってりとした壁ができるのですが、何層も塗りこめる余地を確保するために、立ち上がりは、使う計画のベイルより数センチ、奥行きを広くする必要があります。

 ほぼ水平に立ち上がりができたら、20~25センチ位の厚みのコブの層を造り始めてください。立ち上がりに隙間があったら、コブ層を置くついでに塞ぎます。こうすることで、より平らな基盤にストローベイルを積むことができます。コブの層は立ち上がりの建材同士を接着させる効果があるので、立ち上がりの奥行きをじゅうぶんに覆うようにします。

 

ベイルを積む

 ベイルは縦横どちらの置き方で積み上げてもかまいません。縦にして積むと、横にして積むよりもより高い壁をより早く、より少ないベイルで造ることができます。立ち上がりの奥行きはより狭くなり、環境への総合的な影響はより小さくなります。ベイルを横にして積んだ場合のように壁の内外をつなぐ方向に麦藁が並ばないので壁の断熱性が高まる効果もある一方で、麦藁の束が垂直になるという同じ理由で壁の塗装はより難しくなります。ベイルを横にして積むとより多くのベイルが必要になりますが、積む際にベイルを丸く曲げるとゆるやかに湾曲する壁が造れます。しかも、その壁はより厚いのです。縦置きよりは断熱性は若干劣ります(それでも、従来の建築様式に比べれば高い)が、塗装はより楽にできます。どのように積むのであれ、しっかりと圧縮されていて、汚れや傷のないベイルだけを使い、基盤のコブ層の中央に配置してください。 

 牛乳くらいの濃度にした泥漿(でいしょう)【粘土に水を加えた、とろみのある濁水】を各ベイルの全部の面にこすりつけてから、ベイルをコブの層の上に設置します。泥漿の層をベイルに付けるのには二つの目的があります。一つには、積んでいくにしたがって層と層の間に摩擦が生じるので、ベイルがよりしっかりとくっつき合います。もう一つには、下塗り剤となるので良い土壁仕上げの下地を壁に塗りやすくなります。

 壁をできるだけ頑強にするためにレンガ(またはレゴ)を積み上げるときのように上下の列を半ベイル分ずつずらしてベイルを積み上げてください。半ベイル分のスペースに詰めるには、ベイルを切断して括り直します。

 

コブで柱を造り、隙間を塞ぐ

 ベイルを積み上げながら、コブで柱状のものを構築することによって、ベイルの層に水平方向に圧力を加えて沈下を防ぎ、また、ベイル同士を密着させて隙間を作らせないようにし、そして、屋根を構造的に支えます。コブの柱は建物の各角に造ります。角と角の間が3メートル以上ある場合は壁に沿って柱を1つか2つ増やします。たとえば、私たちがサウスダコタ州で9メートルを超える長さの壁のある家を建てた折には2平方フィート(約0.19平米)の太さの柱を各角に造り、角と角の中間にも同サイズの柱を設置しました。一方、ベイルコブで小さな豚舎を造ったときには、角の柱はほんの1平方フィートの太さにしました。 

 また、ベイルを積みながらベイルとベイルの間の隙間や継ぎ目をコブで完全に塞ぐ必要があります。私たちはこの処置を「コブ詰め」と言っています。コブは何十ものくさびに値する働きをし、ベイルをさらに圧迫してベイルが沈み込むのを最小限にするか、完全に防ぎます。ストローベイルの家ではベイルが沈み込むという問題がたびたび発生します。壁が沈下すると隙間ができて、壁の塗装に目立つひびが入ったり、壁がもろくなったり、断熱性が低下したりする原因になります。ベイルコブはこういったトラブルを防ぎます。

 

上部のコブ層

 最後の段のベイルを積んで固定したら、上部のコブ層を乗せる準備が整ったことになります。この層には3つの機能があります。まず、ベイルをさらに圧迫する働き。次に壁の上部を平らにし、もし最後に加えたい造形があるならその造形を施すことができる材質。そして、屋根を壁に固定する用具を付けやすいという機能。もっと大きな建物を造る場合は層の厚さを30センチ以上にしてください。(私たちが手掛けた建物では層の厚さを50センチにしたことがありますが、私の小さな豚舎を造った際には10センチだけでやめておきました。)ベイルの壁に盛り上がっている所やへこんでいる所があったらコブで平らにしておきます。そうすることで、頭つなぎ【垂直に立つ部材の最上部を水平に連結して固定する補助部材】や屋根を支える梁を適切に設置できます。

 確実に堅牢で丈夫な建物にするために壁そのものに屋根を結合させることがとても重要です。そのために私たちは「デッドマン」と金属製結束バンドを使います。デッドマンはコブの中に埋め固める木片(通常は規格寸法のある製材品)で、壁で支えたい物をなんでも固定する用具として使われます。壁に固定するのは、棚、階段、作業台、屋根などです。

 もし、私たちがコブだけを壁材とする工法で施行するならば、コブ壁の最上部から30センチ以上、下のところに金属製結束バンドを付けたデッドメンを約60センチおきに埋め込むでしょう。壁の端から端までこのように設置すると屋根を取り付けるための適切な固定ポイントがたくさんできます。そうしたら、頭つなぎ、または、垂木を結束バンドで壁に据えます。 

 ベイルコブ工法でも似たような手法を使います。コブの柱全部にデッドマンと金属製結束バンドを埋め込み、また、上部のコブ層の下方で壁伝いに数十センチずつ進んだところにもひとつずつ配置します。デッドマンに付けた結束バンドがベイルの最上段からその上のコブ層を超えて屋根に届く長さになるように切って、このセットをベイルの最上段の上のところに設置します。

 

仕上げ塗装

 壁ができて、コブが乾き、壁が沈み込む場合は沈み込ませ、沈下し切ったら、土壁仕上げの下地を塗る準備完了です。仕上げ塗装は見た目を美しくするためだけにするわけではありません。コブ柱とコブ層がストローベイルを押し固めることがベイルコブの壁を堅牢にしているのと同様に、コブと仕上げ塗材を組み合わせて、ベイルの間と周りに塗りこめることで、この工法の壁は頑強になっているのです。

 まず、ベイルの側面(泥漿を既に塗ってある)を2.5~5センチ位の厚みで仕上げ用壁土の層で覆います。ストローベイル壁を造るときとちょうど同じように、ベイルコブ壁に壁土を何層も重ねて仕上げても良いでしょう。私たちが見たところ、麦藁が豊富に混ざっている壁土はくっつけやすいし、なめらかに塗りやすいので、そのような塗装土から塗り始めるのが最善と思われます。下地ができたら、より粒子の細かい壁土の層を塗りつけても良いでしょう。

 

次の段階

 もちろん、窓やドア、電気系統に配管系統、それらすべてをベイルコブの建物に取り付けることは可能ですが、紙幅が尽きて来たので詳しい説明は別の機会に譲りたいと思います。ぜひ、ご自身で調べてみてください。ベイルコブに特化した書籍やネットの情報源はまだ希少ですが、自然建築の工法についてのものなら最近は何十とあります。ワークショップに参加したり、気軽にいろいろな建材をいじってみたりしてください。自然建築のすぐれているところは実験しやすいことです。家全部や小屋全部を造るよりは小さな規模の様々なプロジェクトがベイルコブを用いれば可能になります。

 小さめのプロジェクトから始めてみたらいかがでしょう。たとえば、ルートセラー【根菜類などの食料を貯蔵する、地下か半地下のスペース】、低温室、サウナ、動物のための小屋、季節限定のワークショップ・スペースなど。私たちもビー・ザ・チェンジ・プロジェクト(Be the Change Project)の自作農場にベイルコブで豚舎を建てたり、ベイルコブとアースバッグでルートセラーを造ったときに試行錯誤しながら学んだのです。

 

カイル・チャンドラー=アイザックセン (Kyle Chandler-Isacksen) は都会の自営農園主でBe the Change Project(ネバダ州リノの学習センター)のディレクター。詳細は www.BeTheChangeReno.org をご参照。彼はまた、House Alive の自然建築家で、マザーアースニューズ のブログコミュニティーのメンバー。

 

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Natural Building with Balecob

Written by Kyle Chandler-Isacksen with Conrad Rogue. Photos by House Alive.

| February/March 2019