自然のなかで学ぶ森のようちえん 

平均的なアメリカの子どもたちにとっての学校生活というと、普通は室内で過ごすものであり、屋外に出られるのは決められた時間に学校の敷地内に出るのを許される短い休み時間だけです。しかし、「森のようちえん」に通う子どもたちは就学前教育の全部でないとしてもほとんどを森林や公園などの野外で学びます。そこでは、指導者が子どもたちの好奇心を活かして教科課程の学びに導きます。子どもたちは自然とのふれあいの中で発達が促され、自然環境を大切にする感覚が身に付くように見守られています。

翻訳:山下 香子

 

 自然幼児教育同盟 (Natural Start Alliance )[自然環境での幼児教育を推進する北米の個人および組織のネットワーク機関]によると、子どもたちが野外で過ごす時間や学ぶ内容、そして学習到達度の評価の仕方は各「森のようちえん」で異なるものの、すべての「森のようちえん」が自然体験を活動の中心にしているとのこと。園児たちの発達の到達度目標は従来のプリスクール [米国では義務教育である幼稚園の前段階の教育機関] と同じものを「森のようちえん」でも設定しているが、その方法論は自然界を探検し、自然を保護することに基づいています。野外で過ごすことは幼児にとって計り知れないほど有益です。全米野生生物連盟 (National Wildlife Federation) によれば、子どもは自然界とつながることで免疫力が高まり、注意力や奥行きを知覚する能力が向上し、また、合理的思考法が鍛えられるとのこと。さらに、ストレスが低下して良く眠れるようになることも挙げられています。

  「森のようちえん」の利点のひとつは、それぞれの子どもが必要とするものに合わせた対応法が行われることだと、ワシントン州シアトルのタイニー・ツリーズ・プリスクール (Tiny Trees Preschool) の事業提携責任者カービン・デブス (Khavin Debbs) は述べています。活発な生徒が自由に走ったり木登りをしたりする一方で、座り込んで虫めがねでミミズを観察したい内気な生徒はそっとひとりにしてもらえます。このプリスクールでは、子どもたちは画材や本やおもちゃを使って学習することに加えて、ハイキングに出掛けて野生生物を観察したり、植物の種類や動物の足跡を見分けたりするといった、様々な遊びの形で学びを体験できます。カセットコンロを使って料理をすることもあれば、摘んできた木の実でジャムを作ることもあります。季節に合わせた装備を用意してもらって、子どもたちは季節ごとに異なる日常体験をします。雨が降ったら防水ズボンを履いて水たまりでバシャバシャと水を撥ね上げ、雪が降ったら手袋をして雪玉を作るのです。実際に体験しなかったら抽象的にしか捉えられないような科学概念を子どもたちは同プリスクールでの活動を通して理解しています。デブスはこう話してくれました。「生徒たちは 2 年にわたって体験から学ぶので、幼稚園に上がる際に理科の成績が高い傾向にあります。子どもたちは季節の移り変わりを見て育っています。秋に木の葉の色が変わるのを見て、春になるとその木に花が咲くのを見てきました。そういったことがすべて、物事を理解するのに本当に役立つのです。子どもたちだけでなく、私のようなおとなにとっても、そうなのですがね」 

 子どもが学んだり遊んだりするために野外で過ごすという概念は目新しいものではありませんが、国や地域、そして文化によっては当たり前のことではなくなってしまいました。現代の「森のようちえん」の構想は 1950 年代にデンマークで発祥し、ヨーロッパでの普及を経て世界的に広がりました。米国では現在、「森のようちえん」が次々と発足しています。自然体験を基礎とする早期幼児教育の指導者を対象とする 2017 年の全国調査によると、43 の州で 250 の「森のようちえん」が運営されています。前年より 100 増えており、全「森のようちえん」の 80 パーセントで入園を待機している子どもたちがいます。

 

 しかし、人気が高まっているとは言え、今のところ、「森のようちえん」は米国の青少年の多様な文化、言語、認識を反映するには至っていません。「森のようちえん」をあらゆる人たちが利用できるようにしたいのであれば、募集範囲を広げるとともに参加しやすい日程を組むことに意識的に取り組む必要があります。たとえば、タイニー・ツリーズ・プリスクールは、ハイキングや文化祭や図書館での催し物を週末に開催することを始めました。これは、全日保育を必要とする共働き家庭の子どもが、通常の日課が半日である同プリスクールに通えないことから、そのような子どもたちが家族とともに、都合のつく時間と場所に来て「森のようちえん」を体験する機会を提供しようとするものです。また、同プリスクールは地域の先住民族の人々に協力してもらい、子どもたちが親しんでいる土地についての知識が元々だれのものだったのかを知る機会を設けようとしているとデブスは語ります。「誰のおかげであるかを知って、敬うべき人々を敬い、子どもたちの家族にも土地について理解を深めてもらいたいと考えています。そうすれば、環境を大事にする責任感が生まれますから。子どもたちが成長して、見える世界が広がったら、託されたものに責任を持とうとする心掛けを生活の様々な局面でも発揮するようになります。『環境』という言葉が木や水だけに配慮するための流行り言葉ではなくなり、私たちの暮らすこの世界全体を良くするための人気ワードになって欲しいのです」

 

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Natural Learning in Forest Schools

By Amanda Sorell|  October/November 2019