オフグリッドのバッテリーで充電

あなたの土地に最良なバッテリーバンクを選ぶのに、専門家のこの助言が役立つ。

文:ポール・シュッケル (Paul Scheckel)

翻訳:広松 佳苗

 

私は最初のソーラーパネルを 1989 年に購入し、50W のソラレックス (Solarex) 社製でした。古いバイクのバッテリーと車用 DC ライト、小さなラジオを使い、借りていた家にオフグリッドの部屋を作りました。停電時やそうでない時でさえ、私には蓄えられた太陽エネルギーによって稼働する照明と音楽がありました。

 1990 年代に私が家を建てた時、商用電源から遠く、自分で作業ができたということもありオフグリッドシステムは経済的な理にかなっていました。当時ソーラーパネルはより高額で、とっつきやすく手の届く価格で手に入るバッテリー技術は鉛蓄電池のみでした。ブランド、サイズ、構造に関わらずそれから 7 年ごとに蓄電池を交換しなければなりませんでした。同時に、充電器やインバーター、太陽光パネルの改良によって鉛蓄電池技術はより時代遅れなものに感じられるようになりました。

 この記事ではオフグリッドを適用するための鉛蓄電池とリチウムイオンバッテリー技術の質の比較をします。

 

蓄電池の構造

 鉛蓄電池は 100 年間それほど変化せず、信頼性と値ごろ感の長い歴史を持ちます。それらは通常電極に用いられている物質に応じた名前がつけられており、さらに使用される電解液によって特徴付けられます。例えば「電解液浸水型」は液体電解液を意味し、定期的に蒸留水を補充する必要があります。メンテナンスのいらないもの、密閉されたもの、制御弁式など様々な種類の鉛蓄電池が存在します。

 バッテリーは特定の目的のために設計されています。車に使われる始動用鉛蓄電池(SLI バッテリー)は短い間に多くのエネルギーを放出し、素早く再充電がされるように設計されています。ディープサイクルバッテリーはプレートがより分厚いために蓄電容量がより大きく、より長く放電ができます。この記事ではオフグリッド構成において使われることが多い鉛蓄電池である、ディープサイクルの電解液浸水型鉛蓄電池に焦点を当てます。

 比較的新しい技術であるリチウム系バッテリーは性能志向の設計で、先端的な蓄電の典型です。いくつかの構成で現在使われて おり、それぞれ電極と電解質、充放電の特色、比エネルギー、費用、安全率が異なります。このディープサイクルの電解液浸水型鉛蓄電池の比較では、リン酸鉄リチウムイオン (LFP) バッテリーに焦点を当てます。リン酸鉄リチウムイオン (LiFePO4) 技術は「リチウムフェロフォスフェート (lithium ferro phosphate)」とも呼ばれ、カソードの物質にちなんで名前がつけられています。LFP バッテリーは鉛蓄電池の直接の代替として自動車用、海洋プラント用、オフグリッド用に人気が高まっています。

 リチウムバッテリーの安全性に対する懸念は広く知られています。リチウムイオンバッテリーは内部圧力がかかっていて可燃性の電解液を含むため、耐久性のある梱包をし、取り扱いと充電には十分な注意を払う必要があります。リチウムイオンは この記事で言及したリン酸鉄リチウム、LFP バッテリーとは異なります。LFP は異なる電極の合金と電解液に基づいた本質的により安全で安定した設計を用いています。

 寿命。バッテリーの寿命は一定割合の容量が失われるまでにバッテリーが行うことのできる充放電サイクル数で表されます。より深い放電が行われると合計のサイクル数はより少なくなり、全体の寿命が短くなります。ディープサイクルバッテリーは全容量の 80 パーセントの放電の繰り返し、または 80 パーセントの「放電深度」(DOD) に十分耐えうる丈夫さを持つと考えられています。

 オフグリッド構成に用いられるバッテリーではしばしば部分充電状態下での激しい充放電が繰り返され、これは電力が 1 日以上かけて引き出されることを意味しますが、その後は再充電となり、完全に再充電されるまでには数日間か数週間かかることさえあるかもしれません。これは特に鉛蓄電池において激しく、また寿命を予測するために製造者のバッテリーサイクル寿命チャートを解釈することを難しくしています。私のバッテリーの平均 7 年間という期待寿命(2,555 サイクル)が平均 35 から 40 パーセントの DOD であると予測することは魅力的かもしれませんが、多くの要因が影響を及ぼします。最終的に、リード線は電極から落ち、高い放電率となり、部分充電され、高熱となる間に早く消耗します。

 LFPバッテリーは電解液浸水型鉛蓄電池よりもはるかに長い寿命を持ち、かなり多く充放電の繰り返しができ、部分充電による劣化も少ないです。

 容量。バッテリー容量は通常ある時間に流れる電流のアンペア数を単位として表されます。例えば、一般的なディープサイクル用鉛蓄電池は 115 分間で 75 アンペアを流すことができます。より意味のある容量表現はアンペア時 (Ah)で、特定の終端電圧に達してバッテリーが上がるまでに何時間エネルギーを送ることができるかを表します。バッテリーの仕様書には時間ごとの異なる放電率における容量を反映する評価が載っています。これらの評価はアルファベットの C が後に続く番号によって表されます。例えば「20C」という評価は 20 時間以上一貫した比率で放電される時、6 ボルトのバッテリーが 225Ah を送ることができることを示します。計算をするとこのバッテリーの 20C という評価は 11.25 アンペアであること(225Ah/20 時間 = 11.25 アンペア)が分かります。同じバッテリーがより深い放電率で使われた際の容量は 146Ah であるかもしれず、より深い放電率では使用できるエネルギーが少ないことを示します。

 Ah はバッテリーが何時間かかけてある特定の比率で流すことのできるアンペア数を表しますが、バッテリーに貯められたエネルギーを完全に数値化するものではありません。エネルギーは時間ごとに送られる電力量(ワット)です。ワットはボルト数とアンペア数を掛け合わせることで求められます。上記 225Ah6 ボルトの例では必要な蓄電池の電圧に達するように直列に接続することができます。Ahには時間の要素がすでに組み込まれているため、6 ボルトと225Ah を掛け合わせるだけで 1,350ワット時 (Wh) が求められます。Wh 1,000 で割るとより馴染みのあるキロワット時 (kWh) で表すことができ、電力会社はこのように私たちの消費した電力に対して請求しています。ちなみに 100 ワットの電球を 10 時間灯すと 1,000Wh (1kWh) を消費します。

 LFP バッテリーは様々な大きさと容量のものが売られています。容器の構造により電解液浸水型鉛蓄電池の直接の代替が可能です。LFP では充放電率をより高くすることが可能なため(0.5C のような)ごく小さな C 値を目にするかもしれませんが、これは充電または放電時間が 1 時間より短いことを示します。

 比エネルギー。比エネルギーは「質量エネルギー密度」とも呼ばれ、単位質量あたりのエネルギーを表します。私たちの例の電解液浸水型鉛蓄電池は 1,350Wh を蓄え、重さは 67 ポンド (30.4kg) になりますから、比エネルギーは 1 ポンド (453.6g) あたり 20.1 Wh になります (1,350 ÷ 67 )。ちなみに 1 ガロン (3.79L) のガソリンは重さ 6.7 ポンド (2.86kg) でおおよそ 36,000Wh を蓄え、比エネルギーは 1 ポンド (453.6g) あたり約 5,714 Wh です。

 LFP バッテリーの比エネルギーは 1 ポンド (453.6g) あたり40Wh 以上で、電解液浸水型鉛蓄電池の 2 倍です。

 充放電動作。電解液浸水型鉛蓄電池の充放電の動作は硫酸と水の電解液に浸された鉛の電極板によってもたらされます。バッテリーが充電されると陽極板に硫酸鉛が付着し、電解質の電解度は大きくなります。放電の間、電解質から硫酸が吸収され両方の電極は硫酸鉛になり、電解液の電解度は下がります。放電の間、電圧は予想通り下がっていきます。電解液浸水型鉛蓄電池の充電状態は静止電位を読むことで確認できます。バッテリーの電圧と、それぞれのセル(単電池)内にある電解液の比重計測定値から電解液浸水型鉛蓄電池の充電状態と総合的な状態について多くを知ることができます。 

 LFP バッテリーの充放電の挙動は電気化学的過程の観点から電解液浸水型鉛蓄電池と異なりますが、似たような方法で説明ができます。放電の間、プラスに帯電したリチウムイオンはリチウム塩電解液中で陰極から陽極に移動します。電子は陰極から流れ、電気回路を通り陽極に戻ります。電解液浸水型鉛蓄電池と LFP バッテリーの反応の大きな違いの 1 つは電解液浸水型鉛蓄電池の化学反応が鉛電極の表面で起こる一方、LFP バッテリーの液体でない(ゲル状)電解質中のイオンは電極の結晶構造に完全に吸収される点です。

 LFP バッテリーの電圧は広い幅の放電深度上でほど良く一定であり続けるためその充電状態を電圧計から割り出すことは簡単ではありません。電解液浸水型鉛蓄電池から LFP に替えた人は、私と同じようにこれが少しわかりづらく感じるかもしれません。最終的に電圧が下がった時、バッテリーの再充電が必要であることを意味します。充電サイクルを理解し管理するための最良の方法は適切に調整されたモニターを使用し蓄電池のエネルギーの入出力を確認することです。LFP における化学反応の繊細な特質と充電と再充電のパラメーターの厳しい制限のために、製造者は充放電によるバッテリーの損傷を防ぐために役立つバッテリーマネージメントシステム (BMS) を提供しています。BMS は容量モニターも含むことがあります。

 充電。充電は適切な「充電特性」を用いて行わなければならず、この特性とはバッテリーの化学反応を活性化させ、最大寿命を確保し、起こりうる深刻な故障を防ぐための規定時間にわたる適切な電圧と電流を意味します。電圧と電流の必要条件は充電サイクルの過程で変化します。バッテリーが充電されるにつれ過熱を防ぐために充電電流を少なくする必要があります。電流が多すぎるとバッテリーは熱くなります。バッテリーが熱くなると充電速度はより早くなり、より一層熱くなります。すぐに、バッテリーは「熱暴走」に陥り短期間のうちに寿命が著しく減少します。

 温度が入念に制御されていればより高い電流に耐えうるとはいえ、通常電解液浸水型鉛蓄電池の充電流はバッテリー容量の 10 パーセントを超えることはありません。電解液浸水型鉛蓄電池では定期的に、電極のサルフェーション(硫酸鉛の結晶化)の分解を促進する制御された過充電のことである「均等充電」を行わなければなりません。現代のバッテリー充電器のほとんどは複雑な三段階の充電特性を自動で管理するのに十分なほど洗練されています。

 LFP バッテリーでは、イオンと電子の移動に関して言うと充電は放電の反対です。現代のオフグリッド用バッテリー充電器(太陽光発電とインバーターの統合型)のほとんどは特定の LFP 充電特性に適合するように調整が可能です。これは基本的にバルク充電とフロート充電で構成される二段充電です。従来の電解液浸水型鉛蓄電池の仕組みは、LFP には当てはまりません。

 つまり、均等充電は無く、トリクル充電や温度補正が使用されるべきです。LFP バッテリーの内部抵抗はとても小さくかなり大きな電流で充電ができるため、充電時間がより短くなります。LFP バッテリーの BMS は過充電や過熱による損傷を防ぐようにデザインされています。

 温度。温度はバッテリー内の化学反応に影響を及ぼします。温度が高いほどより急速な充放電能力があることを意味します。しかし温度が高すぎるとバッテリーは急速に劣化します。鉛蓄電池は約27で最もよく動作します。21よりもずっと低いと能力は著しく下がり、32よりもずっと高いと寿命に悪影響を及ぼします。

 LFP バッテリーの稼働において温度の一貫性は重要ですが、電解液浸水型鉛蓄電池と同じではありません。充電時の動作温度の幅は 0 から 45 の間ですが、それより低い温度でも放電と蓄電が可能です。

 効率。電解液浸水型鉛蓄電池のエネルギー効率は平均約 75 % で、完全な再充電のためには引き出されたエネルギーよりも 25 % 分多くのエネルギーをバッテリー内に送る必要があることを意味します。

 LFP のエネルギー効率は 95 % から 98 %  の間で、充電時間がより短く、抵抗にはかなり少ない発熱でより高い電流が送られます。充電効率が良いほど太陽電池アレイはより小さく安価に、発電機の稼働時間は短くなり、送電網からバッテリーを充電するのであればエネルギーコストが下がります。

 ガス抜き。ガス抜きは鉛蓄電池が充電と深放電を行う際に陰極板から水素ガスを、陽極板から酸素を放出する際に起こります。これは潜在的に爆発性の組み合わせで、バッテリーの充電中に硫化水素ガスが発生し電解質が吹きこぼれることで悪化する恐れがあります。蓄電池はしばしばオフグリッドの家の地下室やユーティリティルーム(洗濯機や掃除道具を入れておく部屋)の密閉された箱に入れられています。バッテリーボックスを密閉し、屋外へつなげられた送風機を用いてボックス内に新鮮な空気を引き込み換気をすることが重要です。

 LFP バッテリーは密閉されていて電解質の吹きこぼれがないため、ガス抜きはありません。

 メンテナンス。適切な充電と温度の管理に加え、電解液浸水型鉛蓄電池では毎月の電解液の点検と補充が必要です。恐らく端子接続部のサビを落とす必要もあるでしょう。防錆油か防錆スプレーを塗ると良いです。どのくらいの期間であれ、電解液浸水型鉛蓄電池が部分放電状態にある時や電極が空気に触れるほど電解液が少なくなると、急速にサルフェーションが起こり電極が絶縁され必要な化学反応が起こらなくなることに注意してください。バッテリーが適切に管理されていなければサルフェーションを元に戻すことは不可能ではないとしても、困難でしょう。

 LFP バッテリーのメンテナンスは必要な時に接続部を確認し締めることです。点検の必要な電解質はなく、LFP バッテリーでは腐食の問題もありません。

 メンテナンスについて懸念すべきことの 1 つは、鉛蓄電池は長い間存在していて技術者は多くの経験を持ちますが、比較的新しいリチウムバッテリーに関して同じことは言えないということです。

 リサイクル。鉛蓄電池のリサイクルはとても簡単ですし極めて重要です。鉛は有害な物質であり、安全に扱い、ゴミ埋立地に持ち込まれないようにする必要があります。古いバッテリーは自動車部品店や廃品回収場に持っていきましょう。

 LFP バッテリーは無害でゴミ埋立地や焼却炉への害はないと考えられているとはいえ、リサイクルされるべきです。。。(全文はバックナンバーを購入してお楽しみください

 

ポール·シュッケル(Paul Scheckel) はエネルギー効率化と再生可能エネルギーのコンサルタントで、「The Homeowner’s Energy Handbook」の著者。

 

Off-Grid Battery Options

By Paul Scheckel|  June/July 2019