家畜の遺伝的多様性の保護

家畜の遺伝的多様性の保護。MENJ。

家畜のなかには、病気の蔓延や劣悪な繁殖方法によって、今後、遺伝的多様性を失う種があるかもしれません。そういった事態に備えて、米国では動物の生殖質を保存する施策が進められています。

翻訳:山下 香子 

ノルウェーにあるスヴァールバル世界種子貯蔵庫では、代替の利かない種子を未来の世代のために保全しようと尽力しています。これと対を成すように、米国のコロラド州フォート・コリンズでは動物遺伝資源生殖質保存プログラム(National Animal Germplasm Program、略称NAGP)が家畜の遺伝的多様性を保全する使命を担っています[生殖質は卵子や精子などの生殖細胞に含まれる遺伝物質]。アメリカ合衆国農務省農業研究事業団(Agricultural Research Service)の一部門であるNAGPは、現在の家畜個体群の多様性を反映する生殖質の資源基盤を作り上げました。150種を超える家畜から採取した100万近くのDNAのサンプルが現在、NAGPに保管されています。これは家畜の遺伝の分類資料としては世界最大の収集数です。対象となっているのは、豚、牛、鶏といったものから、ヘラジカ、ヤク、バイソン(アメリカ野牛)などの言わば「野生」動物まで、広範囲にわたります。

 このような資料収集を行うのは、世界各地の家畜の個体群が病気によって持続的に大量死していくのを防ぐ必要があるからです。2001年にイギリスの広い地域で口蹄疫が集団発生した際には、感染した数百万頭の牛と羊が殺処分され、畜産農家は数十億ポンドもの減収を被りました。そのような大規模な疫病の突発は、家畜が現在持つ多様性を脅かす未曽有の惨事になりかねません。

 しかし、遺伝子情報がNAGPの冷凍庫に保管されていたら、たとえ、疫病によって全個体が滅んでしまった種があったとしても、必ずしも、その種が永遠に蘇らないということにはなりません。また、遺伝的多様性が失われつつある状況を打開するためにNAGPが貯蔵するサンプルを使うことも同事業の視野に入っています。米国では牛のホルスタイン種が遺伝的先細りの一例です。たった2頭の雄牛を祖として繁殖させてきたアメリカ・ホルスタイン種は、19世紀から数十年間にわたって米国で繁殖が繰り返されるうちに種としての遺伝的多様性が著しく制限されてしまい、今や、不妊症やその他の健康問題が生じています。将来、何らかの品種または種に似たような遺伝的制限が発生するのを防ぐためにNAGPは、品種や種が多様性を取り戻す選択肢を必要に応じて提供していきたい考えです。

当事業について詳しくは、アメリカ合衆国農務省のウェブサイト www.USDA.gov にて「natonal animal germplasm program」を検索してお読み下さい。

 

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Preserving Livestock Genetic Diversity

By Lydia Noyes|  October/November 2018