草木を、フサフサ、ひょろ長、その中間、いずれにでも導くのに、うまく間引くひとつまみほど、役立つものはなし。
文:リー・ライク (Lee Reich)
翻訳:山下 香子
ほとんどの植物で、1本の若枝が他の若枝より高いところまで成長して優勢を誇るのを不思議に思ったことはありませんか。これはすべて、強烈に作用する植物ホルモンの仕業なのです。樹形や草姿を整えるために剪定をお考えでしたら、このホルモンの仕組みを利用する技がいくつかあるので、ご紹介しましょう。
植物が上に向かって伸びるメカニズムを学術用語では「頂芽優勢」といいます。若い枝の先端や茎の頂点で作られるオーキシンという植物ホルモンが働く結果、頂芽優勢が起こります。オーキシンが枝や茎の中を下って若い側枝の生長をある程度抑制する連鎖反応を発動させるので、枝や茎の上端の生長点(頂点)が優先的に生長することになるのです。
茎の途中から出る芽は、ほとんどが側枝に生長します。枝に育つかどうかはその脇芽とオーキシンが作られる部分との距離によります。作られる部分が近いほど抑制力は強く働きますが、距離と抑制力が厳密にどのような相関関係にあるかは植物ごとに異なります。ひまわりの一品種であるマンモスロシアン (Mammoth Russian) は 1 本の茎だけが育って、その上に大きな円盤状の花序をつけます。脇から茎がまったく出ない、この品種は頂芽優勢の極例と言えます。逆の極例としては、若枝の途中から制限なく側枝が生える低木のヤナギの品種があります。
同じ品種の植物でも種類によって頂芽優勢が発現する傾向は異なります。フクシア属のビーコンデライト (Beacon Delight) やブルーリボン (Blue Ribbon) といった品種は強力に頂芽優勢が働くので、頂芽優勢が弱い匍匐性の品種のバスケットガール (Basket Girl) やブルーサテン (Blue Satin) などに比べて簡単に直立させることができ、小さな木のような姿のスタンダード仕立てにするのに適しています。一方、匍匐性の品種はハンギングバスケットの縁から枝が垂れ下がるように育てるのに向いています。バスケットガールを小さな木の姿に仕立てようとしたら、支柱を立てたり、丹念に側枝を切り落としたりしなくてはなりません。
芽を摘むと得られる効果
頂芽優勢を発動させないようにしたいこともあります。たとえば、茎から側枝が伸びるようにしたい場合です。ひとつのやり方としては、上端の芽を摘むことによって、オーキシンが作られる部分を(一時的にですが)取り除くという方法があります。新たに一番上の位置になった芽がすぐに頂芽優勢を発動させるので、この摘心の効果は一時的なものとなります。
摘心を必要最小限で済ませるために私は若い茎の先端のやわらかな生長点を親指の爪でつまみます。さっと簡単にオーキシンの供給を止めることができますが、こうすることで植物の生育を一旦抑えながら、それまで生長を抑制されていた脇芽を活性化させま す。私はコリウスをこんもりとした形に仕立てるために主茎の芽を摘み取るのですが、偶然にもその時期がバジルを収穫する時と重なります。
私が摘心をするもうひとつの理由は、植物の伸長をゆるやかにすることです。たとえば、夏の終わりには、トマトが盛んに茎を伸ばすのをやめて実の熟成に専念するよう仕向けるために私は摘心をします。(その頃までにはトマトは雑草並みの勢いで伸長するようになっているので、摘心の効果は長く続かず、効果を出すためには何度も摘心をしなくてはなりません。)私の育てている芽キャベツは、直立する茎の頂上部を親指の爪で摘み取ると、茎についている芽球がすぐに反応して結球し始めます。それから、うちにはリンゴの若木があるのですが、一番高く伸びて樹冠の中心軸になるように育てたい若枝を 1 本選んであり、その優勢を脅かす上向きの側枝の芽を見つけると摘むようにしています。
人の手による摘心にしろ、昆虫の食害や病気によるにしろ、芽を失うと植物は比較的素早く反応します。エンドウの苗で行った実験では、頂芽を摘み取った後、たった 4 時間ほどで脇芽が活性化したということです。
先を見越して剪定する
芽を摘み取るだけの摘心と茎をもっと大きく切り落とす剪定では植物の反応の度合いが異なります。切除する茎の部分が大きければ大きいほど活性化する脇芽の数は少なくなるものの、それぞれの脇芽から生長する側枝の勢いが良くなります。この剪定法は「切り戻し」といい、植物の反応は「戻し」の大きさによります。また、若い茎がもともと元気であればあるほど、切り戻しの後、側枝が勢い良く伸びます。そして、茎が若くてまっすぐ直立しているほど、そこに内在する生命力は強いと言えます。
我が家には長いイボタノキの生け垣があり、望ましい形と高さを維持するため、夏の間は数週間ごとに刈り込まなくてはなりません。生け垣の刈り込みというのは、言ってみれば、何百本、いえ、何千本もの枝を細かく切り戻すようなものです。イボタノキはたくさんの短い若枝をぎっしりと茂らせて、私の望む通りの姿になってくれます。
これと対照的なのがブッドレアの剪定です。夏が来るたびに長い茎に花をつけて優雅に揺れる姿を見せてくれるように毎年冬の終わりに根元近くまで刈り込みます。
果樹においては、剪定の徹底度は様々です。目指すのは、古い枝に代わって実をつけることになる若い枝が(多過ぎない程度に)生えてくるようにすることです。どの程度、剪定するかは果樹の種類によって異なります。たとえば、リンゴの木は 10 年経った枝でもよく実が生るので剪定は比較的軽く済ませます。それに対して、モモの木は 2 年めの枝にしか実が生らないので、翌年に豊かな収穫を得るためには、毎年、じゅうぶんに若い枝が伸びるようにしなくてはなりません。ですから、切り戻しはリンゴの木より徹底してやります。プラムの結実習性と切り戻しの頻度はこの両極の間のどこかとなります。
私は、切り戻しをすることで、数個のキャベツの球をひとつの株につけるということをやってきました(切り戻すことがそのまま収穫作業になります)。じつは、キャベツの球は、結球時に伸びなくなる茎「短縮茎」に脇芽と、付随する葉が密に重なり合ったものが付いてできています。収穫時に頂部を刈り取ることが切り戻しとなります。収穫によって脇芽への頂芽優勢の作用がなくなるので、脇芽のうちのいくつかが新たな球を結ぶために生長し始めます。私は収穫後に刈り株をそのまま残し、次に収穫したい球の数と収穫時の球の大きさが適度に釣り合うように余分な脇芽を摘み取り、残した 3 つか 4 つの脇芽が生長するのに任せます。。。
記事全文はバックナンバーにてお楽しみください。
楽しい暮らしをつくる
コメントをお書きください