軟体動物のご提案

マザーアースニューズ エスカルゴ レシピ

アメリカの食文化に、でんでん虫の先鞭をつける農家に会う。

 

文:ケール・ロバーツ (Kale Roberts)

翻訳:浅野 綾子

 

のろのろ動いてぬるぬるしていて、自分の家をどこにでもかついでいく。ほとんどすべての地域で、菜園家や果樹栽培者が最もいてほしくないと思う生きものの 1 つといったら何?

 よく庭で見られるカタツムリの、渦を巻いた黄金色の殻模様が頭の中にうかんだら正解です。そんなあなたは、自分の場所から作物に悪影響を与えるこの害虫をどうやって一掃するか毎年考える、多くの農作業者の 1 人ではないでしょうか。庭にいる一般的なカタツムリ(ヒメリンゴマイマイ、学名:Cornu aspersum)は、いろいろな果樹・野菜類・庭の花・バラの木・腐敗した資材など、様々な宿主植物に囲まれている場所では、自分の殻の外に住みかをつくります。

 自分の土地からカタツムリを追い出すのに時間をかけるぐらいならと、1 人のワシントン州の農家が 10 年をかけてヒメリンゴマイマイが繁殖できる環境をつくり上げました。そうすれば食用にヒメリンゴマイマイを飼育できるからです。リック・ブルワー (Ric Brewer) は、「リトルグレイファームズ」のオーナー経営者で、同ファームはアメリカ農務省 (USDA) が認可した数少ないエスカルゴティエ(つまり「エスカルゴ養殖場」)のひとつです。オリンピック山脈近くにある自分の地所で、ブルワーさんはアメリカのカタツムリ養殖の先駆けとして取り組み、国内産エスカルゴの拡大するマーケットに供給しています。エスカルゴのマーケットは、最近までヨーロッパからの輸入に頼るばかりでした。

 

やあ、まいまい

 リトルグレイファームズの名前は、プティ・グリ種(別名「リトル・グレイ」)という庭でよく見られるカタツムリからきています。このカタツムリは、食通の世界で幅をきかせる 4 種類のカタツムリの 1 種です。アメリカやカナダのほとんど全域で野原に生息していることがわかっていますが、リトル・グレイの名を見かけるのはヨーロッパのメニューです。「エスカルゴ」とよく呼ばれる、同属のリンゴマイマイ(学名:Helix pomatia)とならんで書かれています。もう 1 つ、同属のグロ・グリ種は養殖化が進んだカタツムリです。世界中のグルメな食料品店への輸出用に、ヨーロッパにおいて最もよく缶詰にされます。

 大きいカタツムリも、小さいカタツムリも、グレイ・カタツムリも、北アメリカに在来ではありません。残念ながら、カタツムリが新世界に持ち込まれた経緯については十分に記録されていません。よく聞かれる話のひとつからは、フランスまたはベルギーの移民が 200 年以上前にアメリカに来た時、食料源にする意図でカタツムリを持ち込んだことがうかがわれます。

 フランスは腹足類動物の美食にもっともかかわりの深い国ですが、他の多くのヨーロッパ諸国でも一般に料理用カタツムリが食べられています。北アメリカでは、カタツムリ料理の伝統がヨーロッパと同じように大陸レベルにまで波及したことはありませんが、それも変わってきている可能性があります。アメリカにおける料理用エスカルゴの消費マーケットは(年間 30 億ドルと評価される)、急速に拡大しています。その料理用エスカルゴの大部分は、モロッコやイタリアなどの遠隔地から輸入されています。ブルワーさんは思いました。シェフや家で料理する人たちは地元産を支援してくれるだろうかと。

 

養殖のはじまり

 2014 年、ブルワーさんはあるレストランに供給するために、複数の農場の畑でカタツムリ採集をはじめました。ブルワーさんは、ワシントン州は特にカタツムリを採集するのに適していることを発見しました。というのも、ワシントン州における春のひんやりした気温でカタツムリがよく繁殖するだけでなく、ローカルフード派が主流というシアトルのレストラン界にアクセスできたからです。収獲物は 1 ポンド(カタツムリ約 100 個)あたり 50 から 60 ドルの価格に設定。次第に、主として口コミで需要がふくらみ ました。「シェフのコミュニティは小さいんだ。シェフは皆、お互いのメニューをチェックしているよ」とブルワーさんは言います。

 日暮れと週末のカタツムリ採集は、ブルワーさんが地元産食用カタツムリのマーケットを築くのに役立ちました。でも顧客基盤を広げるには、食用カタツムリの数をもっと増やして安定的に供給しなければなりませんでした。それには自分で食用カタツムリを養殖する必要がありました。

 ブルワーさんのカタツムリ飼育の経験は、シアトルの動物園に勤めていた 10 年以上前にさかのぼります。ブルワーさんは動物園の昆虫学者と友だちになりました。その人は当時、木に住む希少品種のカタツムリの世話をしていました。その人がブルワーさんにカタツムリの住みかをつくる手伝いをしてほしいと頼み、ブルワーさんはこれを受け入れたのです。これによって、ブルワーさんはこの希少なカタツムリ品種の北アメリカにおける生存コーディネーター (survival coordinator) への道を進むことになり、アメリカにあるこの動物園以外の 5 つの動物園で人工繁殖プログラムの一翼を担いました。

 ブルワーさんの職業人生は、希少なカタツムリの保護に貢献するものでしたが、ブルワーさん自身の個人的関心は、その同属の普通にいるカタツムリを食べることにとどまり続けました。カタツムリの養殖に遊び半分で手を出して、リトル・グレイにはグロ・グリ種よりもやわらかい食感となじみやすい香りがあって、リトル・グレイの方が自分の口に合うことを発見します。とはいえ、事業計画をつくって収獲期を拡大するには、米国農務省(同省では、庭にいる一般的なカタツムリの品種を有害外来種と分類している)からの許可の取得を確実にして、認可される設備をつくる必要がありました。

 

畑から食卓へ

 簡易的なヘリカルチャー [エスカルゴカタツムリの養殖]、つまりカタツムリの飼育は、プラスチック瓶程度のものがあればできてしまいます。浅い瓶が最適です。というのも、カタツムリは高いところまでよじ上って落ち、殻をわってしまうことがあるからです。瓶に土を詰めるかはどちらでも構いませんが、土にミバエが湧きやすいので屋内の飼育ではおすすめしません。

 「食用カタツムリの帝王になろうと考える前に、外に出てカタツムリを 10 匹見つけるといいね」とはブルワーさんのアドバイス。「カタツムリを育てながら全部の季節を過ごしてみよう。カタツムリが何を食べるか観察し、どのように動くか見るんだ。それから自分に聞いてみる。この 10 匹を育てるのにかけた手間を考えてみて、苦もなく1000 匹分まで増やせるか?とね」

 リトルグレイファームズでは、食用カタツムリの養殖を「イタリア(またはオーストラリア)式」という屋外養殖の技術をつかって始めました。この方法では、食用カタツムリ(30cm 四方あたり 25 匹以下)を放してお腹いっぱい食べさせられる、完全に 囲われた菜園をつくることが必要です。食用カタツムリは、アブラナ科からヒマワリまで幅広い種類の食用植物をよろこんで食べます。「自分がおいしく食べるものは、カタツムリも多分食べるよ」とブルワーさんは言います。ブルワーさんのような養殖システムを用いれば、早春からはじまって季節ごとに 1 匹当たり 20 から 30 個の卵の産卵を期待できます。食用カタツムリを思い通りの数に増やせるようにするには、凍結のおそれがなくなってから、早春までに食用カタツムリの生息に適した屋外設備をつくりましょう。そして、その囲いの中を 4 に保ちます。傾斜板、またはカエルの飼育コーナー [toad house:日中も湿気と暗やみを保ってカエルが隠れられる覆いのあるスペース] のような飼育小屋も設置しましょう。

 壁は目の詰まった(でもメッシュではない)防草シートでつくりましょう。木材または金属でも十分です。屋根で完全に覆ってしまわなくてもすむように、ブルワーさんは壁材に亜鉛製の屋根材を使い、屋根材の上部には 9 ボルトの電池で電気が流れる電気柵をめぐらせました。「食用カタツムリは電気ショックをうけるけど、致命傷になることは少ないよ」と言います。

 ネズミやヘビに捕食されていなくなってしまわないように、壁材を少なくとも 15 センチメートルは土に埋め込んで、地面にはメタルメッシュを敷き、養殖の前にはメタルメッシュの上に土を入 れるよう、ブルワーさんはアドバイスしています。食用カタツムリの養殖場の設置費用は、建築資材や、養殖場全体でつかう土や種、その他付属品にかかる費用になります。

 本気のカタツムリ農家だけが、リトルグレイファームズが採用するハイテクで、比較的高額な屋内(または囲い込みの)方式を選択するでしょう。この方式はアメリカ農務省の認可を得て事業を拡大するためにリトルグレイファームズが最近つくりあげたものです。この設備の目玉は、明るさ・温度・湿気がコントロールされた 2.5 から 3 の台で、この台にはカタツムリが卵を産む滅菌された土の入った小さな容器が固定されています。水やり装置で 1 日に 2 回水がまかれ、カタツムリに水分を与えます。カタツムリには、植物質と炭水化物とプロテインの入った独自の餌が与えられます。ブルワーさんは、この設備のおかげで収獲量を予想可能かつ最大限にして一年中レストランに供給できるようになり、2 万ドルを超える値札は正当だとしています。

 多くの人たちは、季節のごちそうとして食べるという、個人的な楽しみに食用カタツムリを採集するだけです。地元の有機農場やブドウ園に問い合わせてみましょう。無償の害虫駆除を歓迎してくれるかもしれません。とはいえ、断られることも覚悟しておきましょう。特に自分たちの農場にはカタツムリがいないと宣伝している農家です。リトル・グレイは 30 の州で生息が報告されていますが、アメリカ西部と太平洋岸の北西部でもっともよく見られます。一方で、グロ・グリ種は、中西部と東部で見つかっています。ほとんどの地域で、採集者がうまく採集できるのは 5 月と 6 月の間でしょう。ブルワーさんはカタツムリ採集をマッシュルーム狩りにたとえます。

 「自分が何を探しているのか知る必要がある。だからインターネットで写真を見ておこう」と言います。写真を見たら懐中電灯を持って、夕暮れや夜明けに、庭や外来種の植物が生えている場所などの雑然としている場所をみてみましょう。最初に見つけやすいのは前の年に卵からかえったもの(その時点では幼若期に入っている)で、その後に大人のカタツムリです。(とても小さいカタツムリは卵からかえったばかりのカタツムリです)。どこで採集するかに気をつけましょう。というのも、毒餌に触れたカタツムリは重金属を体内にためていることがあり、毒性が強くて食べられないからです。

 

腹足類の美食

 カタツムリを食べる前には必ず火を通しましょう。というのも、カタツムリには寄生虫がいることがあるからです。アサリの砂ぬきのように、カタツムリも 1 週間ほど水だけを与えて、胃の中のもの全部と便を出させてきれいにする必要があります。

 「バターにひたして食卓に出す以外にも、食用カタツムリをおいしく食べる方法は本当にたくさんあるんだ」とブルワーさんは言います。カタツムリをパスタにからめて、野菜と混ぜ合わせて、ボンマロー(骨髄)と一緒に、また、ベークドポテトやピザのトッピングとして食べてみるのをブルワーさんは勧めます。「カタツムリバーガーや、パン粉をのせたオーブン焼き (snail poppers)  も見たことがあるし、あるレストランではパエリヤもあったね。決めつけなければいろんな食べ方があるよ」

 現在、ブルワーさんは農場外のフルタイムの仕事を続けており、夜と週末だけリトルグレイファームズを運営していますが、自分のカタツムリが主な収入になる日を楽しみにしています。今のところ、殻をとって真空パックしたカタツムリを州外の 23 のレストランや個人宅に翌日配達で出荷することで、地元での売上げ以外の足しにしています。

 自分でヘリカルチャービジネスをはじめたいという熱心な人たちの相談にものっています。ブルワーさんは、小さくはじめて、時間をかけて運営し、地域の中で農家仲間やシェフと関係を築くこと、そこから上を目指せばいいとアドバイスします。「誰でも、どんな農業でも、自分のものにするには利益だけでなく情熱にむかって仕事をする必要があるんだ」

 

 

エスカルゴのマッシュルームとタラゴン添え

 このレシピは、リトルグレイファームズのリック・ブルワーさんの提供です。食用カタツムリのレシピをもっと知りたい方は、www.LittleGrayFarms.Wordpress.com/Recipes へ。  

出来上がり:4 人前。

 

材料:

食用カタツムリ      20 個(約 200g)、洗って水切りしたもの

バター          大さじ 6

にんにく         1 片、みじん切りしたもの
お好みのマッシュルーム  20 個、軸を切り落としたもの

白ワイン         1/3 カップ

乳脂           1/3 カップ

全粒粉          大さじ 1

挽いた黒コショウ     ひとつまみ

乾燥タラゴン       小さじ 1/4

おろしたパルメザンチーズ 1/4 カップ
 

作り方:

 オーブンを 180℃ に予熱します。20 x 20 cm の焼き皿は油を塗っておきます。

 食用カタツムリをボウルに入れ、冷水をかぶるまでいれます。5 分置きます。

 食用カタツムリは水を切り、さらに軽くたたいて水分をとります。大きなフライパンに刻んだにんにくとバターを入れて、中火から強火で溶かします。食用カタツムリと軸を切り落としたマッシュルームを加えます。マッシュルームがやわらかくなるまで、約 5 分軽く炒めます。

 小さなボウルに、白ワイン、乳脂、全粒粉、黒コショウ、乾燥タラゴンを一緒に入れ、なめらかになるまで混ぜ合わせます。混ぜ合わせたものを、食用カタツムリとマッシュルームを炒めているフライパンに加えて、沸騰させます。ソースが濃厚になるまでときどきかき混ぜながら約 10 分加熱します。

 フライパンを火からおろし、油を塗っておいた焼き皿にマッシュルームの頭を下にして置いていきます。スプーンで食用カタツムリをすくって、頭を下にして置いたマッシュルームにのせていきます。フライパンに残ったソースをマッシュルームの頭からかけて、焼き皿に注ぎます。パルメザンチーズを上からふります。

 オーブンで 1015 分焼きます。
 

 

ケール・ロバーツ (Kale Roberts) は、前マザーアースニューズ編集者で「イクレイ 持続可能性をめざす自治体協議会 (ICLEI- Local Governments for Sustainability)」のシニアプログラムオフィサー。同協議会で彼は、合衆国全域の都市を支援して、レジリアンスと気候変動対策を作成している

 

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