ノルウェーのユーレウル(Juleøl)の深い伝統

マザーアースニューズ 自然 自給 DIY

ノルウェーではかつて、クリスマスにビールを飲むことが義務づけられていたが、ユーレウルは今でもクリスマスの食事に欠かせない伝統的な要素。

文:クリス・コルビー(Chris Colby)

翻訳:沓名 輝政

 

 もしあなたがバイキング時代のノルウェー南部中央の農家だとしたら、この季節になるとその年のユーレウル[クリスマス・エール]を振る舞うことになります。数ヶ月前には、新鮮なジュニパーの枝を大量に倉庫に持ち込む。大麦の麦芽(発芽したもの)と燕麦(オーツ麦)の麦芽の入った樽、南部にある農場であれば小麦の麦芽の入った樽もある。クリスマスが近づくと、クリスマスビールを醸造する時期になっていたことでしょう。

義務付けられた醸造

 ノルウェーでは、クリスマスビールの醸造を義務付ける法律が900年代初頭に存在し、1267年に終了しました。これらの法律は、スカンジナビアをキリスト教化しようとする試みの一環で、クリスマスをごちそうや祝い事と結びつけることを目的としていました。各農家では、毎年クリスマス用のビールを製造し、キリストの名のもとに祝福することが義務付けられていました。11月1日の諸聖人の日もビールの醸造期限であり、また、結婚式や洗礼、葬式などでは、新鮮なビールが必要とされました。イベントで提供されるビールの量や強さは、社会的地位の指標となりました。結婚式用のエールやクリスマス用のエールは、その年に作られたビールの中で最も強く、最高の材料を使って作られる傾向がありました。

 12月21日までに、自分や妻、使用人、労働者、奴隷など、農場全体の人数分のビールを醸造しなければ、罰金が科せられることもありました。3年間ビールを造らずにいると、農場や財産、お金を剥奪されてしまうのです。

 クリスマスビールは、大麦が最高のビールを生み出すという理由から、複数の穀物を混ぜるのではなく、大麦だけで作られていました。ジュニパーの枝は、麦芽を湯通しする容器であるマッシュタン(麦芽の糖化槽)の底に敷き詰められており、そこから出る甘い麦汁を、使用済みの麦芽を残したまま排出できます。また、枝はジンのような特徴を持つ飲み物にします。ビールは濃くてボリュームのあるエールで、ジュニパーやヤチヤナギ(学名 Myrica gale)などのスパイスを使って甘く仕上げます。ビールのレシピには、まだホップが加えられていませんでした。

 ビール作りは、単にビールを作るための手順ではなく、非常に敬虔な儀式でもありました。ビールを造る前に、燃やした枝を酒器に振りかざしたり、木の酒器に十字架を彫って神聖化したりします。醸造する人は、農場の他の人々が眠っている間、夜に一人で作業しました。醸造酒が混ざったら、木製のマッシュタンにナイフを突き刺し、醸造酒を台無しにしようとする邪悪な生き物を殺す象徴とすることもありました(地域や時代によって、酒造りの迷信は異なります)。

 そうしないと、フルドラ(huldra)などの神話上のキャラクター[スカンジナビア半島の伝承に登場する女性の姿をした空想生物]を怒らせてしまうかもしれません。フルドラは、アイスランド人が信じているフルドゥフォルク(Huldufólk)または「エルフ」に似た森の人でした。本来は悪意のある存在ではないのですが、ノル ウェー人は彼らを怒らせないようにしていました。ノルウェーの様々な場所や時代の醸造家は、ニッセ[北欧の幸せを運ぶ妖精]、ブラウニー[スコットランドの妖精]、コボルト[ドイツの妖精]、ピクシー[イングランドのいたずら好きな妖精]と呼ばれるノーム[欧州の大地を司どる妖精]のような生き物を追い払おうとしていたようです。これらの生き物は、いたずらや悪意によって醸造物を台無しにしようとするだろうと。

 醸造家は、醸造中は静かにしていますが、酵母を投入するときには騒いでいました。これは、これから始まる発酵の活発さを象徴しています。発酵中のビールを樽に詰めた後、使用済みの穀物は馬や牛、豚などの農場の家畜に与えられました。また、新鮮な穀物と混ぜてパンを焼くこともありました。。。

 

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