伝統的で栄養価の高い発酵食のレシピ

マザーアースニューズ 自然 自給 DIY

発酵の伝統を絶やさず、風味豊かな食べ物を作るために、微生物を台所に招き入れよう。

文:サンダー・キャッツ(Sandor Katz)

翻訳校正:沓名 輝政

 

 発酵は世界的な現象であり、世界のどの地域でも人々は同じような方法で発酵を利用しています。発酵は安全のための戦略であり、酸やアルコール、その他の副産物を生成して病原菌の繁殖を防ぎます。チョコレート、バニラ、コーヒー、パン、チーズ、(塩漬けなどの)保存肉、オリーブ、ピクルス、調味料など、多くの食べ物をより風味豊かにしてくれます。発酵は、キャベツなどの野菜(ザワークラウトやピクルス)、牛乳(チーズやヨーグルト)、肉(サラミ)、ブドウ(ワイン)の寿命を延ばします。最も広く行われている発酵の形態は、考え得るあらゆる炭水化物からアルコールを生成する発酵です。発酵はまた、栄養素を強化し、より利用しやすくし、多くの植物性毒素や抗栄養素化合物を分解します。ある種の発酵食品は、発酵後に加熱せずに食べたり飲んだりすることで、潜在的に有益な細菌を非常に高い密度と生物多様性で提供してくれます。

 私たちの食卓を構成するすべての動植物には、精巧な微生物群集が住み着いています。そのため、微生物による形質転換にはある種の必然性があります。この必然性を利用して、世界中の文化は、食べ物だけでなく、農業、繊維芸術、建築などの分野で、微生物による転換を効果的に誘導する技術を開発してきました。

 しかし、発酵は一元的な技術ではなく、さまざまなプロセスを含み、どの食物が豊富なのか、どんな気候なのか、などの要因によって、さまざまな場所でさまざまな形で現れます。熱帯の発酵と北極の発酵はまったく異なります。また、環境の違いがそれほど大きくない場合でも、人々が微生物の活動をどのように利用しているかは、場所によって異なります。牛乳から作られるチーズの多様性を見てもわかるように。人類の移動と文化の交配は常に続いているため、他の人の習慣や技術は世界中の人々に影響を与えています。種子、家畜、料理技術、その他あらゆる文化的手法のように、発酵は広がっていくのです。

 発酵は世界共通かもしれませんが、文化の連続性はそうではありません。世界各地で植民地化が進み、民族全体が絶滅し、他の民族は未知の土地に追いやられてしまったのです。私は、伝承される文化的な伝統が破壊され、崩壊させられ、追放されたため、先祖が行ってきた伝統的な発酵方法についての情報を得ることができない人々と話をしたことがあります。文化の連続性は、都市化、専門化、大量生産された食品など、現代生活の諸相によってしばしば破壊されます。文化的慣習、知恵、言語、信念は毎年失われていて、これらとの関連性を維持し、生き続けるためには、発酵の手法を用いなければなりません。私たちは、世界中の発酵の多様性を大切にし、祝福し、それらを記録し、共有しなければなりません。

 

キジェル(Kisiel)

 穀物を発酵させるための最も基本的な技法はシンプルです。水に浸すことです。乾燥した穀物にはもともと細菌や酵母が存在しますが、水分がないと休眠状態になります。これは穀粒でも割れたものでも、細かく砕いたものでも、生の状態であれば同じことです。穀物を水に浸すと、休眠していた生物が目を覚まし、栄養を代謝し、繁殖します。

 お粥や薄がゆは穀物発酵の最も広く知れわたる応用例で、穀物農業が生まれたすべての文明で見られます。しかし残念ながら、こうした伝統的な穀物発酵食品は、長い間人気が低迷しています。ベビーフードや砂糖入りシリアルなどの加工食品に押され、栄養価は高いのに、子供たちにはあまり好まれないものになっています。

 私はオーツ麦のお粥や薄がゆが好きです。お粥は濃厚でずっしりとしていて、薄がゆは薄味でスープ状です。どちらも健康的で、特に発酵させると深い滋養が感じられます。オーツ麦の栄養価と際立って対照的なのが加工された朝食用シリアルで、栄養不足で糖分が多く、長期的に有害となる可能性があります。

 発酵オーツ麦には、さまざまな地方名があります。エストニアでは、オーツ麦の粉を水で練り、温めて一晩寝かせた「カイル(kile)」という飲み物が作られていました。これをろ過した酸っぱい飲み物を、サワーミルクの代わりに食事の傍らに置いて飲んでいました。濾過液を煮ると、お粥のようなものになり、これもカイルと呼ばれましたが、キイアイゼル(kiisel)、キスラ(kisla)とも呼ばれ、バターや脂肪と一緒に熱いうちに食べたり、後には冷たいゼリーとして食べたりもしました。煮沸には長時間を要し、常に混ぜ合わせなければならず、酸味の基準に厳密にあわせる必要がありました。ライ麦、またはライ麦とジャガイモから同様のお粥(同じように名付けられたもの)が作られていました。ベラルーシでは、乳酸発酵させた薄がゆをキジェルと呼びましたが、オーツ麦の粉を使った半液体発酵の料理も同じ名前で呼ばれていました。ケシミルクや大麻ミルク(poppy or cannabis milk)と一緒に食べられていましたが、現在はエストニアと同様、歴史的な用途としてのみ認識されています。

 この記述に触発され、私は実験を開始しました。私の母方の祖父母であるソル&ベティ・エリックス夫妻はベラルーシからアメリカに渡ってきたので、私はこの酸っぱいオーツミルクとお粥にベラルーシの「キジェル」という名前を採用したのです。オーツミルクもお粥も、そのおいしさには説得力があります。。。

 

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