自然がないといけないところ

マザーアースニューズ 自然 コミュニティ

カリフォルニア州の非営利団体が、都会の公立学校の校庭を子供たちの健康増進と教育に役立つ公園のネットワークへと変えようとしています。

文:トム・オダー (Tom Oder) 

翻訳:浅野 綾子

 

学区では、子供たちに素晴らしい教育を施していることを証明する統計を自慢したがります。生徒対先生の割合や、子供一人当たりに割り当てられるパソコンの数、ずば抜けたテスト成績、おそらく一度は耳にしたことがあるでしょう。ですが子供の学校の関係者のうち誰か一人でも、校庭をどれだけ有効に活用しているか、またはどのように利用しているかについて、一言でも触れたことがあったでしょうか。

 「おそらくないでしょう。これは恥ずべきことです」と、グリーン・スクールヤーズ・アメリカ (Green Schoolyards America) の設立者であり理事のシャロン・ダンクス (Sharon Danks) は言います。カリフォルニア州のバークレーに拠点をもつ全米に展開するこの非営利団体では、教育者が公立学校の校庭の使い方を決め、実際に使用し、管理する方法を変えようとしています。あまりにも多くの校庭が、ほとんど木も植えられていない住宅地の空き地のような場所、もしくは都会の中のアスファルトの海のような場所となっていて、校庭を生態系のデッドゾーンにしてしまっています。結果として校庭は手つかずの生態系および教育的資源であり続けているのです。

 校庭デザインの達人であるダンクスは、地域の公立学校の校庭を生態系ゆたかな公園につくり変えようという気運をコミュニティに起こし、実際にそれができるようにするために非営利団体を設立しました。校庭が生態系ゆたかな公園になることは、すべての教科の学習に、そしてすべての学年に、実践的な屋外での学びを提供することを意味します。ダンクスは、校庭を子供たちが日ごろ自然に触れられる場所である公園に変えることは、子供たちの健康と、学びや遊びの質を向上させて、同時に都市の生態系の繁栄とレジリエンスを押し上げると信じています。グリーン・スクールヤーズ・カリフォルニアでは、アラメダ、ロサンゼルス、オークランド、サンフランシスコ、サン・マテオ郡の学校と協働関係をつくり上げています。またこの団体はオレゴン州、バージニア州、ウィスコンシン州、それからワシントンD.C.の校庭緑化構想を支援し、アドバイスもしています。

 

 ダンクスは、カリフォルニア大学バークレー校の大学院で都市の緑化構想を研究して以来、都市の緑化を夢見ています。ダンクスは、3 つの理由で都市の緑化ビジョンを実現するはじまりとして学校を選びました。ひとつめは公立学校部門は、アメリカ中のほぼすべての都市や町において、最大の土地所有者の 1 つであること。ふたつめは子供たちは毎日学校に行くということ。最後に、学校は一般的に地域やコミュニティの中心であることです。グリーン・スクールヤーズ・アメリカのウェブサイト(www.GreenSchoolyards.org)によれば、全米で 9 8 千以上ある公立学校は、80 9400 ヘクタールの土地をもって 5 千万人以上の生徒たちに学習の場を提供しているそうです。

 教育者が管理する膨大な土地についての統計は、教室の使用や機能に関する統計と同じように重要です。ダンクスは、学校の指導者が自分たちを土地管理者として考えるべきだと考えており、その理由を挙げます。研究者の多くも、校庭を自然の景観に変えることは生徒の学力を向上させると主張するようにもなってきています。

 「自然のある場所は科学やその他の教育課程を助ける教材となるだけでなく、子供たちの心身の健康を向上させ、トラウマやストレスをいやし、子供たちの注意力を上げることにもなります。これによってテストの成績も上がります」とダンクスは言います。「学区において区内の校庭を緑化する際、この計画を周辺の都市につないで生態系回復の取り組みを組織化できます。これによって野生動物の生息地や回廊の場をつくりだすことができます。周辺地域の洪水をふせぐ、健全な都会の流域をそだてる助けにもなります。さらには都市の地下にある帯水層に水を溜め、コミュニティの温度を下げる木の天蓋を増やすことができます。このように気候や大気の質を向上させることになるのです」。こうした校庭は学校のない時間にはすべての人が利用できる活気のある公園となり、近隣の人々も恩恵を受けます。

 

長いルーツから理解する

 「緑の校庭 (green schoolyards) 」に馴染みのない保護者もいるかもしれませんが、この考えは長い間ありました。校庭の緑化は 1 世紀以上も前にはじまった世界規模の運動です。この考えは第一次世界大戦後に廃れて、1990 年代に華々しく返り咲くまで何十年も眠っていました。1990 年代になって、自然に乏しい環境は都市によくある風景だと人々が気づいたのです。この 10 年間に、この考え方は都市規模で国際的に勢いを盛り返してきました。ダンクスはドイツを他国へのモデルとして挙げています。というのもベルリンは暴風雨の水を集めるのに校庭を利用する方法をとっているからです。

 最近までアメリカの学校における緑化の取り組みは小規模で発生することが多く、保護者や教師、子供たちのボランティアの作業を通して 1 回につき 1 つの学校に菜園や木を植えるという作業に絞られることがほとんどでした。そうではあっても、ダンクスはアメリカの学校についに転機が来たと考えています。「学区全体で緑化インフラの構築につながる都市規模での計画をたてており、『緑の校庭』活動はアメリカで著しく拡大してきている」と言います。

 バークレーで「緑の都市」計画について研究する間に、多くの都会の環境では自然が目にみえないという明快な理由だけで、アメリカには「緑の都市」がないのだという結論にダンクスは達しました。「人は見えないものを理解することができません。アメリカでは小川の水が自由に地表を流れるようにするのではなく、パイプに通して道路の下に埋めました。ですから都市のほとんどの人たちは川の流域がどのように機能するかということを肌身に感じることがなくなっています」

 「どうやって緑の都市をつくりだすのか」という問いに対する答えは、規模と何を優先にするのかということにあります。ダンクスは、始めるのに公立学校の校庭以上の適切な場所はないとの結論に達しました。「緑の校庭は、私たちがつくりだしたいと思っている健全な生態系をもつ都市の縮図なのです」

 教室のドアのすぐ外に生態系の仕組みを用意することができるなら、子供たちは雨が降った時にどこに流れていくのか、野生動物が生き延びるには何が必要なのかというような基本的な自然の過程をよく理解できるようになります。子供たちが成長した時、この理解は都市の繁栄に向けて賢い選択をするのに役立つでしょう。そして、今日学校で学ぶことを保護者に伝えることでしょう。保護者は今投票権をもっている人たちでもあります。

 

大規模な成長

 2014 年にグリーン・スクールヤーズ・アメリカを設立してはじめた時に、ダンクスはこの団体の活動の対象を都会の学校に絞ることを決めました。というのも保健や環境、空き地の利用の改善を一番必要としているのは都市だったからです。活動においては、地域レベルでの決定権に影響を与えるため、個々の学校よりも学区を相手として活動することがよくあります。「1 回の活動につき 1 つの学校とすることは、大規模な変化を求めている時、達成するのに効率的なやり方ではないとわかりました」

 資金調達源は地域や州であるため、グリーン・スクールヤーズ・アメリカでは州規模でも活動しています。目標は資金を調達するだけではなく、政策の変化に影響を与えることです。「1 つの都市または 1 つの州を通して公立学校の校庭の使い方を変えることはとても大きな活動で、それを自分だけでできる組織は存在しません。さまざまな専門分野の幅広いパートナーに参加してもらい、協働するのです。たとえば、水道局には暴風雨の管理についての知識を提供してもらい、先生方には屋外でどのように教えるのか同僚の方々に伝えてもらうのです」

 グリーン・スクールヤーズ・アメリカは主として広域を前提とした地域レベルでの手法で変化をつくりだしていますが、この団体では地域の学校いくつかをさまざまな方法で支援して賛同の声が上がるようにもしています。賛同の声が上がるように、ダンクスは専門家啓発プログラムの「プリンシパル・インスティテュート(Principals’ Institute:校長研修会)」をつくって、校長が自身の学区の学校で効果があったことを政策構想に結びつけられるようにしました。ダンクスは海外の実績のある方法を取り入れて、アメリカを基盤とする自身の活動の効果を高めています。ダンクスは「インターナショナル・スクール・グラウンズ・アライアンス(International School Grounds Alliance:国際校庭連盟[仮称])という別の団体の共同設立者でもあります。グリーン・スクールヤーズ・アメリカでは教師への職業訓練を提供する別の協議会も運営しており、時には校庭デザインの取り組みで「トラスト・フォー・パブリック・ランド(The Trust for Public Land (TPL):公用地信託[仮称])」と一緒に活動することもあります。現在、グリーン・スクールヤーズ・アメリカはオークランド・ユニファイド・スクール・ディストリクト(Oakland Unified School District (OUSD):オークランドの公立教育学区) の「リビング・スクールヤード・イニシアチブ(Living Schoolyard Initiative:生きた校庭計画[仮称]) を作成するために、TPL OUSD と提携しています。

 

 

屋外での学び

 グリーン・スクールヤーズ・アメリカのシャロン・ダンクスは、いくつかのシンプルな屋外での学校学習のアイデアを提供しています。その 1 つが、小学校の生徒が地質学の授業で勉強することもある火成岩・変成岩・堆積岩に関係するものです。「屋内の実験室では、生徒たちが触れるのは手に持てる小さな岩の見本かもしれません。ですが、緑の校庭では巨礫(直径が 256 より大きい石)サイズの岩を手にすることもあるでしょう。子供たちは岩の層紋を見ることができ、さらには自分で硬さをテストするのにハンマーを使うこともできるかもしれません。これは小さな岩を教室で手に持つよりも深いレベルで子供たちの胸に響く、わくわくするような印象的な授業なのです」

 自然の景観の中に木を植えることで、小さな子供たちが葉の状態を調べるのに葉をこすったり、年齢の上の生徒たちが地域の生態系の視点から木を研究することもできることになるでしょう。どちらの場合でも、暑い日にはみんなが木陰で休むことができるでしょう。

 「こうした活動は、生徒向けの本にあるような理論上の話ではありません」とダンクスは言います。「これは子供 たちが実際にできる体験なのです。今必要なのは子供たちが触れて、触って、一体になれる、子供たちの生活の中での現実の経験なのです」

 

 

地域レベルでの変化

 グリーン・スクールヤーズ・アメリカは都市での活動に専念していますが、この団体の手法は、あらゆる場所で保護者が自分の子供たちの校庭を変える提唱者になる枠組みとなるものです。ダンクスは、保護者が提唱者になるためには、教師や校長を巻き込んで一緒に校庭の新しいビジョンや計画をつくることをすすめます。

 根本的な課題について、ダンクスは「維持管理などの便宜を考えて設計されている校庭を、どのようにして子供たち全員が自然にふれられる場所に変えるのか」だと言います。

 提唱者になるのは、保護者が 1 人でできることではありません。「新しい未来の校庭を心に描いて一緒に活動できるように、学区、公共機関、地域の人たちの中から熱心な擁護者が必要です。熱心な擁護者を得てはじめてビジョンを現実にすることができるのです」とダンクスは言います。

 保護者がこの活動のプロセスに入った時、グリーン・スクールヤーズ・アメリカが新たな学区と活動する時に直面するのと同じ課題に突き当たることでしょう。最大のハードルの 1 つは、施設や教育というような一般的にたがいにやりとりしない学区内の部門をまとめることです。この隔たりを埋めるために、部の代表者に同席してもらい、校庭がどのように子供たちの学びや健康、学区の環境に貢献できるかについて話し合ってもらうことをダンクスはすすめます。このアイデアが意図するのは、学区の教育委員会が長期の政策目標として採用できるビジョン声明の作成と、考え出したビジョンを織り交ぜた学区・学校レベルでの運営・施設計画の作成です。

 資金調達は別の課題です。ダンクスは、校庭を公園に変えるために都市規模で活動することをすすめます。そうすれば地域の水道局を通じてや、州レベルでの気候変動助成金を通して得られる都市規模の財源を利用することができるからです。「時間がかかります。忍耐と、共同作業と、自由な発想がたくさん必要です。でも、地域や州の環境保護関連の財源から資金を見つけられますよ」とダンクスは言います。

 自分の地域で緑の校庭をつくりだすには強力なチームと多大な労力が必要になるでしょう。でも、得られる結果は見合ったものです。校庭を緑にすることで、地域がまとまり、子供たちのためになり、健康や環境面でも恩恵に浴することができます。さもなくば建物の中にいりびたって、窓をながめて外の世界を感じるだけになっただろう子供たちが、自然の世界に身を浸すことができるようになるのです。 

 

トム・オダー (Tom Oder) はジョージア州アトランタに住むフリーランスのジャーナリスト。ビジネス、持続可能性、環境について執筆している。

 

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Where the Wild Things Should Be

By Tom Oder|  April/May 2020